【インタビュー】夏アニメの注目作「かげきしょうじょ!!」からボリューム満点の音楽集が登場！　作曲者・斉藤恒芳がすべてを語る!!

DISC2には、TVアニメの世界を補完するボーカル曲がいくつも収録されています

── 人間ドラマとして本当に見応えがあります。今、名前があがった安道守と里美星にも、ソロのボーカル曲がありますね。DISC2の23曲目と24曲目に収録されている「愛を乞う歌」です。

斉藤　「愛を乞う歌」は紅華歌劇団が上演する「ファントム」の劇中歌という設定です。「ファントム」は現実の宝塚の演目にもありますが、この曲はそこで使われている曲ではなく、あくまで紅華版の「ファントム」という「かげきしょうじょ!!」の世界観の中での曲になっています。

── 里美を演じているのは元宝塚の七海ひろきさんなので、彼女がこの曲を歌うというのは胸アツですね。

斉藤　七海さんは当然、「ファントム」のストーリーをご存知なので、レコーディングはスムーズでしたね。主人公のファントムがどういう気持ちでこの曲を歌ったのか、特に説明することなくわかっていただけていました。「愛を乞う歌」というタイトル通り、一方通行の愛がテーマで、愛しすぎているあまり、想いが成就してもそこには満足感はないという歌ですね。Blu-ray 第2巻の特典CDに収録されている「スピンオフドラマ『ファントム』」で使われている曲で、ドラマでは七海さんと、安道役の諏訪部順一さんのアカペラデュエットとして流れます。


── それが音楽集では、それぞれのソロに分かれて、しかも伴奏付きのバージョンになっているわけですね。

斉藤　スピンオフドラマと音楽集では、「愛を乞う歌」の設定がまったく違うんです。スピンオフドラマのデュエットバージョンは、紅華歌劇音楽学校時代の里美が、指導講師の安道とデュエットしているという設定で、里美の声は女性のままなんですね。いっぽう、音楽集の里美ソロは、男役トップスターになった彼女が「ファントム」の劇中で歌う「愛を乞う歌」で、歌声も男役になっているんです。そして安道ソロは、劇団「颯」在籍時代の彼が「ファントム」の舞台で歌った「愛を乞う歌」で、歌詞も里美バージョンとは一部変わっています。


── 面白いです。つまり、2人がそれぞれ舞台上で披露した「愛を乞う歌」は、この音楽集でしか聴けないということなんですね。29曲目には、さらさと愛のデュエット曲「溢れる想い」が収録されていますが、これもアニメ本編では使われていないですよね。

斉藤　「溢れる想い」は、さらさと愛の紅華歌劇団における完成形の曲という設定で、男役になったさらさと娘役の愛のデュエットになっています。「愛を乞う歌」と同時に作っていたので、内容的にはアンサーソング的な意味合いがあって。どんなに愛してもむくわれない気持ちを歌った「愛を乞う歌」に対して、「溢れる想い」は愛しているという気持ちだけで十分で、相手の気持ちが自分に向いてないとしても幸せですという曲になっています。両方とも片想いの歌なんですけど、正反対なんですね。

── 「溢れる想い」は幸せ100%という感じなんですね。

斉藤　自分が想っていれば恋は成就しなくてもいいという曲なので、世間一般に言うハッピーエンドではないんですけど、本人にとっては幸せしかないという。それがアニメ本編を超えた、さらさと愛の到達点ということですね。

── 最後に総括として、「かげきしょうじょ!!」の音楽のお仕事はいかがでしたか？

斉藤　楽しかったですね。熱い人たちの集まりの中で自分も仕事ができているなという印象が強くあって、テンションが上がりました。舞台の音楽というのは、それだけで完結することはできないし、してはいけないんです。舞台上のスターと華麗な衣装、演出や振り付け、そしてきらびやかなセットとたくさんの要素がある中で、音楽というのは一部分でしかない。宝塚の音楽を担当してきたことで培ったものを、今回はアニメでも出そうと思ってやってきた感があります。

── 「かげきしょうじょ!!」のオフィシャルサイトでは、「映像につける音楽と、舞台演劇につける音楽がかなり違うことにずっと逡巡してきましたが、今回『かげきしょうじょ!! 』で、思いきって演劇風の音楽をたくさん作りました」というお言葉がありました。

斉藤　演劇とひと言で言っても、ドラマが主役のものと歌と踊りが主役のものがあって、歌劇団の舞台は後者です。「かげきしょうじょ!!」は、怒りを表現する曲にダンスのリズムを取り入れてレビュー風にしてみたり、同じフレーズをあえて繰り返して淡々とした曲を作ってみたりと、歌劇団の舞台音楽をかなり意識した作り方をしてみました。それからオーケストラの曲は、宝塚のオケピットと同じ21人編成にしています。音を重ねたりしていて、もう少し重厚にはなっているんですけど、基本はオケピットに収まる人数にしました。

斉藤恒芳プロフィール

さいとうつねよし／作曲家。1965年4月28日生まれ。静岡県出身。
7歳でピアノ、9歳で作曲を始め、地元の高校を卒業後、東京藝術大学音楽学部作曲科に入学。1990年、在学中に葉加瀬太郎、竹下欣伸と「クライズラー＆カンパニー」を結成し、国内外でのコンサート活動や、海外アーティストとの共演をおこなう。1996年の解散後は、舞台、TV番組、アニメの音楽、アーティストへの楽曲提供を手がける。1999年、宝塚歌劇団宙組公演「激情」で、文化庁芸術祭優秀賞を受賞。

CDデータ

■「かげきしょうじょ!!」音楽集

〈収録曲〉
DISC1
01. 紅華歌劇団
02. 夕暮れ
03. 星空にひとり
04. 予科生たち
05. 友情
06. その涙は？
07. 追いかけられて
08. さらさの故郷
09. 二次試験
10. 桜の下の邂逅
11. 講堂のさらさ
12. ぎこちない同室者
13. 自衛隊式訓練
14. 予科生本科生
15. お掃除指導
16. 安道先生と予科生
17. 未来のオトメ達
18. ほっとする時間
19. 可愛い子は我慢が大事
20. 怯える少女
21. 嘘を詰め込んだぬいぐるみ
22. 嘘を詰め込んだぬいぐるみ typeB
23. 奈良田 愛
24. 過去と未来
25. 詰問
26. 正義の味方見参!
27. 暁也
28. レビューの女王
29. 紅華乙女
30. 彩子
31. めまい
32. あなたの歌
33. 午後の講義
34. 煌三郎
35. 愛とさらさ
36. 予科室
37. 100年の紅華歌劇史
38. 思わぬ事実
39. あの夏の記憶
40. 花火大会
41. すれ違い
42. お風呂場の会話
43. 緊張の刻
44. 杉本紗和

DISC2
01. レビュー眩し恋せよ乙女
02. 発声練習
03. 校歌斉唱
04. ダンスの稽古場
05. 銀橋
06. 運動会
07. 4人のトップスター
08. 紅華版「風と共に去りぬ」
09. 校歌「桜吹雪舞うなかに」(予科生全員ver.)
10. 校歌「桜吹雪舞うなかに」(渡辺さらさver.)
11. 校歌「桜吹雪舞うなかに」奈良田 愛ver.)
12. 校歌「桜吹雪舞うなかに」(杉本紗和ver.)
13. 校歌「桜吹雪舞うなかに」(星野 薫ver.)
14. 校歌「桜吹雪舞うなかに」(山田彩子ver.)
15. 校歌「桜吹雪舞うなかに」(沢田千夏ver.)
16. 校歌「桜吹雪舞うなかに」(沢田千秋ver.)
17. 彼の地へ(渡辺さらさ×奈良田 愛ver.)
18. 彼の地へ(渡辺さらさver.)
19. 彼の地へ(奈良田 愛ver.)
20. My Sunset
21. My Sunset(TVsize ver.)
22. 試練の時
23. 愛を乞う歌(里美 星ver.)
24. 愛を乞う歌(安道 守ver.)
25. 星の旅人(TVsize ver.)
26. シナヤカナミライ(TVsize ver.)
27. 薔薇と私(星野 薫 TVsize ver.)
28. 薔薇と私(沢田千夏×沢田千秋 TVsize ver.)
29. 溢れる想い
30. 校歌「桜吹雪舞うなかに」(off vocal ver.)
31. 彼の地へ(off vocal ver.)
32. My Sunset(off vocal ver.)
33. 試錬の時(off vocal ver.)
34. 愛を乞う歌(里美 星 off vocal ver.)
35. 愛を乞う歌(安道 守off vocal ver.)
36. 星の旅人(TVsize off vocal ver.)
37. 溢れる想い(off vocal ver.)


■「かげきしょうじょ!!」エンディングテーマ集
星の旅人／シナヤカナミライ／薔薇と私

〈収録曲〉
01. 星の旅人／渡辺さらさ(CV.千本木彩花)×奈良田 愛(CV.花守ゆみり)
02. シナヤカナミライ／杉本紗和(CV.上坂すみれ)×山田彩子(CV.佐々木李子)
03. 薔薇と私／星野 薫（CV:大地 葉）×沢田千夏（CV:松田利冴）×沢田千秋（CV:松田颯水）
04. 星の旅人 off vocal version


（取材・文／鈴木隆詩）
(C) 斉木久美子・白泉社／「かげきしょうじょ!!」製作委員会