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礼子が富士山に登ったときの曲だけはギターがゴリゴリです
── では、いくつかの曲をピックアップして、具体的におうかがいしていきたいと思います。まずは1曲目の「時速20キロ」。石川さんの作曲で、ゆったりとしていて爽やかな曲ですね。 石川 小熊が初めてスーパーカブに乗ったときの姿をイメージした曲です。初めて乗るのでスピードが上げられず、時速20キロのテンポになりました。スーパーカブとの出会いによって、小熊の生活に張りが出てきたということで、ほかのシーンにもけっこう使われましたね。
ZAQ 「時速20キロ」を聴いて、「スーパーカブ」という作品には3拍子が合うなって思いました。
石川 逆に4曲目の「いつものように」は、小熊の孤独な朝をイメージした暗めの曲です。朝起きて、ひとりでトーストを焼いて食べているイメージですね。小熊はアニメでは描かれませんでしたが、実は原作では家庭環境が説明されているんですよね。それがけっこう深刻で、こんなことになっていたのかと。不穏な音がいっぱい入っているのは原作の印象が強かったからで、小熊の家庭環境が垣間見える曲になっています。
── 6曲目に入っている「スーパーカブ」はいかがでしょうか? ZAQ 私の作曲です。最初に作った曲で、もっとテンポを落としてほしいとリテイクが出たんですよね(笑)。
石川 この曲は、各話のAパートでよく使われているイメージがあります。この作品の劇伴には、メインテーマという扱いの曲はないんですけど、それにもっとも近い存在なのがこの曲だと私は思っています。
── 似たタイトルなんですけど、10曲目の「スーパーカブに乗って」はより活発で、動きがある曲になっています。 ZAQ この曲も私ですね。オーボエとピアノがからみ合う曲で、楽しい感じになっています。
── 毎回の定番みたいな曲をあげるとすれば、どれになりますか? 石川 そうですね。たとえば、13曲目の「夏の変わり」がラストに流れる話数が、わりと多かった気がします。逆に1回しか使われなかった曲もあって、ZAQが作った富士山の曲などがそうですね。
ZAQ 第5話で、礼子がスーパーカブで富士山を駆け上がった場面に流れた「高校2年、夏」「富士を制す」「もっと高く」の3曲です。ここだけはほかの劇伴とは雰囲気を変えて、ゴリゴリのギターが鳴るメタルっぽい曲を作ってほしいと言われました。得意分野なので、楽しく作れました(笑)。
石川 「青春だぜー!」って。
ZAQ そう(笑)。結局、礼子は山頂にたどり着くことはできなかったんだけど、音楽ではやり切った感を出しました。全部メタル調ですがグルーヴ感が違っていて、ちょっと古くさい感じでギターが鳴る曲があれば、ピアノが踊る曲もあります。第5話でこの3曲が流れたときは、「これ100%、ZAQやろ」という反応がネットにあって(笑)。
石川 確かに(笑)。
ZAQ 礼子はいたってマジメに富士登頂を目指したんですけど、こういう振り切った曲が流れると、ちょっとコミカルにも見えるんですよね。音楽が面白い効果を出していたシーンでした。
── 先ほど、「スーパーカブ」には3拍子が合うという話がありましたが、ZAQさんの曲にも3拍子の曲がありますね。 ZAQ 21曲目の「バール」ですね。タイトル通り、(恵庭)椎の実家の「BEURRE(ブール)」のシーンで使われた曲です。私が最初にイメージしたのは「魔女の宅急便」のキキが働いているようなパン屋さんで流れている曲で、初めてマンドリンを生で録音したんです。今まではずっとシンセで作っていたんですけど、生楽器を使うことでよりリラックス感が出て、楽器ひとつですごく雰囲気が変わるんだなあと、勉強になりました。
── オープニングテーマ「まほうのかぜ」とエンディングテーマ「春への伝言」のメロディを使った曲が、2曲ずつあります。これらはどのようにアレンジしていったのでしょう? ZAQ 私はエンディングの「春への伝言」に作詞として参加しているので、そちらは触らず、「まほうのかぜ」のアレンジをやらせていただきました。ひとつはしっとりした「まほうのかぜ 雲」で、もうひとつはアップテンポでポジティブな「まほうのかぜ 雪」です。こちらでは私の得意な口笛を入れて、ゴキゲン感を出しているんです。フジムラさんのアイデアで入れたんですけど、やっぱり特徴的だったみたいで、「これはZAQだろう」とネットで指摘されました(笑)。
── みんなよく聴いてますよね(笑)。「春への伝言」のアレンジ2曲は石川さんということになります。 石川 私のほうも同じ発注で、明るいアレンジの「春への伝言 晴」としっとりした「春への伝言 雨」を作りました。この曲はウチの事務所に所属しているAstroNotes(アストロノーツ)の作曲なんですけど、ちょっと変不思議なコードがひとつ入っているんですよ(笑)。歌モノとしては悪いわけではないんですけど、劇伴にするとちょっと目立ってしまって。それをいかに平坦化するかに気を配りました。
── ボーカル曲とは違う方法論が必要になってくるというわけですね。 石川 オープニングもエンディングもふわりとしたアレンジになっていて、主題歌らしく聞こえなくしているのが特徴ですね。