プロデューサー・前田俊博 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第50回)

2021年08月28日 10:000

オリジナル作品で大切にしている「4つの要素」


─オリジナル作品の製作で気を付けておられることは?


前田 MBSは、オリジナル作品をたくさんやらせていただいているように見えますが、企画のどの段階で参加するかによってまちまちなんです。企画の頭から参加する作品において僕個人が大事にしているのは、「シンプル」、「オリジナリティ(新鮮な印象)」、「キャッチー」、「サプライズ」の4点です。この4つの要素が、シナリオ打ちや宣伝上の会議の場で見えなくなるのは避けるようにしています。それがヒットの法則ということではなくて、あくまで指標です。


─前田さんがゼロから携わった作品を教えていただけますか? 


前田 「結城友奈は勇者である」(2014~)、「Classroom☆Crisis」(2015)、「91Days」(2016)、「RELEASE THE SPYCE」(2018)ですね。あとは声優×二次元芸人プロジェクト「GET UP! GET LIVE!」にも、企画の頭から関わっています。


─オリジナル作品を当てるのは難しいと言われますが、「結城友奈は勇者である」は大ヒットしましたね。今年の10月には、TVアニメ新シリーズ「大満開の章」が放送されます。企画経緯をうかがってもよろしいですか?


前田 「結城友奈」は、企画原案のタカヒロさんと2010年頃に飲んだのが最初でした。僕も当時アソシエイトプロデューサーからプロデューサーになったばかりで、自分でゼロから企画を立ち上げたことが1度もなかったんですよ。だから、「自分でゼロからオリジナルを作りたい!」という野望がすごくあって、そんな時にタカヒロさんに「一緒にオリジナルアニメでやりませんか?」と持ちかけたところ、タカヒロさんもそこに乗っかってきてくださいました。それから、「戦国BASARA」(2009~10)のつながりもあったので、ポニーキャニオンさんにも相談に行きました。制作会社は、ポニーキャニオンさんから「Studio五組さんはどうですか?」と紹介していただきました。その後で五組さんから、「監督は岸誠二さん、シリーズ構成は上江洲誠さんでどうですか?」というご提案をいただきました。


─ヒットのにおいは感じていましたか?


前田 主要メンバーがそろって2~3回目の打ち合わせで、「どういうところで企画のオリジナリティを持たせようか」という話になりました。そこで、確かタカヒロさんから「彼女たちは絶対に死ねないようにしましょう」という話が出てきたんです。それが、自分の中で「この作品はいけるんじゃないか?」と思った瞬間ですね。アニメ業界では変身ヒロインものは普遍的なジャンルで存在していますので、ジャンルとしての目新しさはなかったですけど、「どういう理由で彼女たちが苦しむのか」といったところでオリジナリティは持たせられたと思います。

 

 

キャラと声優の相性が抜群だった「RELEASE THE SPYCE」


─キャスティングでこだわっていることは?


前田 何か特別なことをすることはなくて、本当に純粋なオーディションを経て選ばせていただいています。


─個人的には、「アルスラーン戦記」(2015~16)のアルスラーン、「風夏」(2017)の榛名優、「キリングバイツ」(2018)の矢部正太、「炎炎ノ消防隊」(2019~20)のアーサー・ボイルを演じられた、小林裕介さんとご一緒されることが比較的多いと思ったのですが……。


前田 それらの役をつかまれたのは、小林さんの実力です。僕は参加していませんが、小林さんが「Re:ゼロから始める異世界生活」(2016、2021)で主演を張られるというのはうれしかったですし、「Re:ゼロ」が当たったのもうれしかったですね。


─「結城友奈は勇者である」のキャスティングで、何か印象的なエピソードはありますか?


前田 黒沢ともよさんのキャスティングですかね。犬吠埼樹というキャラクターは歌をうたわなければならなかったんですけど、黒沢さんはSound Horizonさんとのミュージカルに出た実績があって、実際に歌っておられました。当時最年少でしたけど、僕は自信を持った1票を、黒沢さんに入れさせていただきました。


─新人起用については、どうお考えでしょうか?


前田 それは作品で違いますね。新人を好まれる監督さんや音響監督さんはもちろんいらっしゃいますし、あえて新人に近い、ほかに主演をやられていない方のほうがこのキャラクターに合うんじゃないか、という考え方もあります。たとえば、「RELEASE THE SPYCE」の安齋由香里さんは、まさに源モモというキャラクターとご本人がすごく相まったキャスティングだったと思います。Lay-duce(レイ・デュース)の米内則智さんから安齋さんに1票があって、音響監督の藤田亜紀子さんも同意されていました。オーディション時に彼女のひたむきな一生懸命さが伝わってきたのは間違いないですね。そこが、「リリスパ」の主人公の成長物語とすごくマッチしていて、最終話のアフレコの安齋さんのお芝居を見ていて、僕も感動するものがありました。


─小原好美さんも、「月がきれい」(2017)の水野茜が初ヒロインでした。


前田 細かいキャスティングの理由は僕もわかりません。ただ、監督の岸さんは「リアルな中学生を作りたい」と考えておられたので、小原さんの生っぽいお芝居が抜擢につながったんじゃないかなと思います。

 

例外的な提案となった「結城友奈は勇者である」ボーカル曲


─スタッフィングはどうされていますか? 


前田 オリジナル作品でこちらから「このライターさんどうですか?」という提案をさせていただいたことはありますけど、監督やキャラクターデザインというのは、現場である制作会社のアニメーションプロデューサーの方が選定されることが多いですね。


─「Classroom☆Crisis」のスタッフは、どのようにして決まっていったのでしょうか?


前田 「クラ☆クラ」は、Lay-duce第1弾のオリジナルアニメでした。米内さんと別作品のV編の席で「何かオリジナルをやりませんか?」という話になって、キャラクターデザインは、米内さんが、かんざきひろさんとつながりが深いのでお任せしました。ライターのほうは、僕から「丸戸史明さんはどうですか?」と提案して、丸戸さんにも快く引き受けていただきました。


─作曲家選定についてはどうでしょうか? 拙連載では「ユリ熊嵐」(2015)や「刀使ノ巫女」(2018)の橋本由香利さんにもお話をうかがいました(編注:https://akiba-souken.com/article/31452/


前田 音楽については、僕から言うことはほとんどないです。ただ、「結城友奈は勇者である」に関しては、ひとつだけお願いをしました。シナリオ会議で「『NieR(ニーア)』の楽曲が合うかも」という話が出ていて、上江洲さんがMONACAの岡部啓一さんを推されていたんです。僕もそれを聞いて、「NieR」を改めてプレイしたんですけど、エミ・エヴァンスさんのボーカル曲が、すごく印象的だったんですよね。僕からは「エミ・エヴァンスさんのボーカル曲を、『結城友奈』でも入れてください!」とお願いしました。


─「ローリング☆ガールズ」(2015)、「月がきれい」、「荒ぶる季節の乙女どもよ。」などでは、過去のヒット曲が使用されていましたね。


前田 僕の発案じゃありません。「ローリング☆ガールズ」は、WIT STUDIOさんとポニーキャニオンさんの発案で、THE BLUE HEARTSを口説くという、難易度Sなことを成し遂げた作品ですね。「月がきれい」の挿入歌は、監督の岸さんが中心になって決めているんですけど、村下孝蔵さんの「初恋」は、フライングドッグの南健さんの発案だっととうかがいました。

 

「絶えずオリジナル作品」をやり、「熱量あるプロデューサー」と組む


─そのほかに、前田さんが必ず守っているお仕事のルールはありますか? 


前田 僕は必ずオリジナル作品を1本、切らさずにやるようにしています。2014年の「結城友奈は勇者である」からスタートして、翌年が「Classroom☆Crisis」、翌年が「91Days」、翌年が「結城友奈」の2期、翌年が「RELEASE THE SPYCE」、今は「GET UP! GET LIVE!」をやっています。オリジナル作品を育てながらほかの作品も担当しているというのが、僕が必ず続けていることですかね。


─オリジナル製作では、やはり組む相手となるプロデューサーを吟味されますか?


前田 そうですね……オリジナル作品は、熱量がないと絶対に無理です。皆さん、何かの仕事と並行しながらやっていますから。どこかでひとつのエンジンが燃料切れを起こしても、違うエンジンは稼働している、というのがすごく大事なんですよ。そういう人たちがたくさん集まっていると、本当に細かいところにまで目が行き届くんです。作品性でもシナリオ打ちでもそうしたこだわりが出てくるでしょうし、商品のライセンスをするという場面でも、監修に妥協がなくなります。だから、ヒットしている作品というのは、そういう熱量のある人が複数関わっているものだと思います。


─前田プロデュース作品を観ているとCパートにも特徴があって、「月がきれい」や「呪術廻戦」にはショートエピソードがありました。


前田 そこは現場の判断で、こちらからお願いしていることはないです。ただMBSは、テレビ局の中でもフォーマットが一番ゆるいんじゃないですかね。尺が足りないからある話数だけ特殊フォーマットにする、中CMの秒数を減らす、とか。たとえば、「結城友奈」1期の最終話は、むちゃくちゃAパートが短くて、Bパートが異常に長いんですよ。その辺は、現場の要望を極力お応えできるように努めています。


─「ゾイドワイルド」(2018~19)、「歌舞伎町シャーロック」(2019~20)、「炎炎ノ消防隊」(2019~20)などにあったアバンの決まり文句も、現場からの要望ですか?


前田 そうです。個人的にも定型アバンは、全国ネット作品のほうが合うと思っています。全国ネット作品は視聴者層が広く、普段アニメを観ていない方もご覧になることがあるので、入口がやさしい作りにしたほうがいいのかなと。「宇宙戦艦ヤマト2199」(2013)でも、「『古代進』とか『森雪』とか、全登場人物のその話数の初登場時には、名前テロップを入れてください」と、こちらからお願いしました。「ヤマト」は登場人物が多いので提案したのですが、出渕裕監督にもご理解いただき、「BBY-01 役職・階級 人物名」と戦艦識別番号も加えた、カッコいい名前テロップを演出してくださいました。

 

ソーシャルゲームで「射幸心」を研究?


─今ではソシャゲとのメディミックスも普通になりました。「結城友奈は勇者である」も、2017年から「花結いのきらめき」が配信されています。


前田 僕もソシャゲに課金する時は、「射幸心の研究、勉強のためだ」と思ってやっています。というか、そう言い聞かせています(笑)。「花結いのきらめき」は、KADOKAWAさんがランニングされているんですけど、立ち上げの時には僕も、ゲーム用のシナリオ打ち合わせに参加させていただきました。ただ、オルトプラスさんというゲーム開発のプロもいらっしゃいますし、タカヒロさんご自身もゲーム畑のご出身ですから、口出しはほとんどしていません。

 

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(C) 三浦建太郎(スタジオ我画)・白泉社/ベルセルク製作委員会

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