よりディープに、よりコアに！ 音楽的な聴きどころあふれる2021年夏アニメのアニソン10選！ 出口博之の「いいから黙ってアニソン聴け！ In 2021夏」

・終末のワルキューレ

ED「不可避/島爺」

2018年放送「爆釣バーハンター」のオープニング曲「爆釣ソウル」を当コラムでピックアップして以来、私とコラム担当編集はすっかり島爺のファンになっておりまして。新しいクールが始まるたびに島爺のクレジットを探す我々2人に、念願の島爺の楽曲が届き大変喜ばしい次第であります。

退廃的でクラシカルなサウンドが壮大なスケール感を生みだしていて、静と動を繰り返すアレンジによって破壊と創造をも思わせるドラマ性は、アニメ作品の世界観にもリンクしています。

楽曲のピークはサビへの展開、静寂から一気に色彩が豊かになる王道中の王道アレンジで、この先盛り上がるとわかっていても毎回背筋がゾクッとするドラマチックな聴き味。お約束とわかっていながらも破格のドラマ性を生むのは、島爺の歌によるところが大きい。クラシカルでゴシックな世界観を持つ楽曲は、ハードロック由来のハイトーンなボーカルが定番とされています。が、島爺の歌にはハードロックのほかに、ソウルやファンクといったブラックミュージックの要素（「少年アシベ GO! GO! ゴマちゃん」第3期エンディング曲「ゴマウェイ」ではファンクネスなボーカルを披露）もあり、そういった黒っぽさがゴシックな世界観と絶妙なマッチングを果たし、かくもドラマチックな楽曲になったわけです。

・迷宮ブラックカンパニー

OP「染み/HOWL BE QUIET」

こういう表現は身もふたもないかもしれませんが、ものすごく音楽への嗅覚の鋭さを感じさせる楽曲です。

今みんなが聞きたい音楽。今の時代に求められる音楽。そして、今自分たちが鳴らすべき音楽。そういったさまざまな角度から音楽シーンにアンテナを張って、常に情報をアップデートし続けているからHOWL BE QUIETのオリジナリティはほかのバンドよりも半歩先にあるわけで、そういった嗅覚の鋭さは言い換えれば、時代を読むセンスのよさ、ということでもあります。これまた身もふたもない表現で恐縮ですが、非常に「イケてる」んです。音楽、バンドにとってイケてることは絶対条件。

近い将来、時代の流れを一瞬で変えてしまう予感が、この楽曲から聴こえてくるように感じました。すごい曲に出会ってしまった。

・乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…Ｘ

OP「アンダンテに恋をして！/angela」

昨年4月に放送された「乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…」の第2期ということで、楽曲も引き続きangelaが担当。前作は作品のドタバタな世界観そのまま体現したかのような楽曲（乙女のルートはひとつじゃない！）でしたが、今回もテンションは変わらず。ではなく、あきらかに1.5倍増しのテンション。音楽的な部分での情報量の多さ、過密さも1.5倍増しのボリューム。

クラシカルな世界観は引き継ぎながら今回はケルト音楽を取り入れており、ケルト音楽特有の祝祭感が戯曲的な構成を得意とするangelaのにぎやかなお祭り感と見事にシンクロしています。

楽曲のタイプは違いますが、マインドとしては2017年放送「アホガール」の主題歌「全力☆Summer!」に近いハチャメチャさがあるように思います。「アホガール」も夏の作品だったので、もしかすると夏はangelaがもっとも輝く季節なのでは、と思うのですがいかがでしょうか。

クラシックの大ネタを入れ込むお約束の構成（今回はベートーベンの「第九」）も踏襲しています。これほどの大ネタも「お約束のネタ」として扱えるのは楽曲自体の強さはもちろん、幅広い音楽を縦横無尽に行き来できるangelaの深い音楽的素養があってこそ。

高い知性と教養を楽曲の「おもしろポイント」に思いっきり振り切る姿勢は、クリエイティブのお手本と言えるのではないでしょうか。

・うらみちお兄さん

OP「ABC体操/いけてるお兄さん(CV.宮野真守)うたのお姉さん(CV.⽔樹奈々)」

作品自体がいわゆる幼児向け教育番組（のパロディ）とあって、水樹奈々、宮野真守両氏はその役柄での歌唱となるわけですが、歌に関しては、本物のうたのお兄さん（および、うたのお姉さん）顔負けの高い歌唱力が際立つように聴こえます。

幼児向け教育番組の歌に求められるのは、子どもに聞き取りやすい発声発音と、子どもと一緒に歌うときにお手本となる正しいメロディです。

歌、あるいは音楽の根本であるリズム、メロディ、歌詞を子どもに楽しく正しく伝えることがうたのお兄さん（および、お姉さん）の役割であって、それを踏まえて改めて楽曲を聴くと、水樹、宮野両名の歌は完璧に近い形で教育番組の歌を踏襲しています。

聞き取りやすい発声発音、揺らぎがまったくない安定したピッチ感、正しい音感とリズム、といったところは、本物のうたのお兄さん方とも遜色のないどころか、もしかすると上回っているのではないか……と思います。

しかし、この曲の面白さはそういったアカデミックな部分ではありません。

歌手の個性よりも音楽、歌の正確性が一番に求められるのが幼児向け教育番組の歌、という前提をひっくり返す、水樹、宮野両名の個性の強さが楽曲のテーマになっているのが非常に痛快です。

どこを切り取っても水樹奈々節、宮野真守節、ということですが、そういった存在感はやはり「圧倒的なスキル」によるところであって、本物のうたのお兄さん（および、うたのお姉さん）と同等以上の歌唱力、表現力などの地力があってこそ。これこそ正しいパロディの形ではないでしょうか。

・魔法科高校の優等生

ED「ダブル・スタンダード/フィロソフィーのダンス」

90年代アシッドジャズ直系のサウンドなので、Brand New HeaviesやIncognitoを思い出す方も多いのではないでしょうか。私たちおじさんおばさん世代には聴きなじみがあるいっぽう、若い世代には新鮮な音楽として聴こえていたりと、世代間でうけとり方の差はありますが楽曲のよさは世代を超えて等しく伝わっているところに音楽の面白さがあります。

ダンスボーカルユニットとしては、最近主流のバキバキのEDMで歌って踊るアプローチとはまったく異なる地平で戦っているのが、楽曲からビシビシ伝わってきます。

80年代リバイバルブームの勢いがシティ・ポップリバイバルに集約する昨今の音楽業界、次に時代が求めるのは間違いなく90年代アシッドジャズだ！と、ここ数年勝手に予想しているんですが、もしそうなったら間違いなくフィロソフィーのダンスが時代を牽引する存在になるのは確実なので、これを機にフィロソフィーのダンスを知った方は引き続き注目するのが吉！

・月が導く異世界道中

ED「ビューティフル・ドリーマー/Ezoshika Gourmet Club」

最後に、今期のイチオシを私の趣味丸出しの主観で選ぶとするなら、Ezoshika Gourmet Clubのビューティフル・ドリーマーです。いい。素晴らしくいい。

とてもニューウェーブ心にあふれた、ヘンテコな音楽を心から愛するバンド、だと感じました。

私が以前活動していたバンド「モノブライト」もニューウェーブを標榜し、ヘンテコな音楽を真正面から鳴らしていたので、シンパシーというか、図鑑でいえば同じページに属するような親近感を勝手に持った次第です。全然違ってたらごめんなさい！

ちょっとヘンテコで中毒性の高いメロディを生み出すロックバンドが好きな方は、間違いなくハマると思いますので聴いてみて、いや、必ず聴いてください！

以上、今期の10曲選出でした！

今回選出できなかった多くの楽曲ももちろんいい曲揃いなので、ぜひご自身の手でディグってください！

それでは、次回秋クールにお会いしましょう！

（文／出口博之）