※本コンテンツはアキバ総研が制作した独自コンテンツです。また本コンテンツでは掲載するECサイト等から購入実績などに基づいて手数料をいただくことがあります。
フォウに身の上話をするカミーユは、モビルスーツのハッチから顔を出す
フォウはカミーユと街で知り合い、キスをかわすほど親密な間柄となる。その後、フォウはティターンズの巨大モビルスーツ、サイコガンダムに乗る。カミーユはガンダムMk- IIで発進して、「フォウ、わかるか? カミーユだ」と呼びかける。
苦悩するフォウの乗ったサイコガンダムは海へ逃れ、カミーユのMk- IIはサイコガンダムの巨体によじ登る。Mk-IIの胸部コクピットを開いて、カミーユはサイコガンダムのコクピットのある頭部へと走る。「フォウ、開けてくれ」とカミーユが呼びかけると、サイコガンダムのハッチが開く。「私は記憶がほしい。自分のことが、もっと知りたい」とフォウが苦しげに訴えると、カミーユは「なら、出てくるんだ」と手を広げる。
しかし、フォウはサイコガンダムのコクピットハッチを閉じ、カミーユはその振動で倒れてしまう。
翌日、再びサイコガンダムが現われたため、カミーユはガンダムMk-IIで出撃する。サイコガンダムは、Mk-IIを両手でつかむ。「僕は、両親が殺されるのを見たんだ」と、カミーユはコクピット内からフォウに話す。同一カット内でMk-IIのハッチが開いて、カミーユの姿が見える。カミーユは「でもね、そういうことも何もかも、フォウには知ってもらいたい」と話を続ける。フォウは、コクピット内でヘルメットを脱ぐ。
カミーユはガンダムMk-IIのコクピットから乗り出しながら「父も母も技術者なんだけど、バカだったんだよ」と叫ぶ。フォウはサイコガンダムのコクピットを開き、カミーユはそこまで歩いていく。このシーンで、カミーユはサイコガンダムのコクピットに入りこんで話を続け、フォウはカミーユの頭をやさしく抱く。しかし、突如としてフォウはカミーユに銃を向けて、彼をコクピットから追い出す。そして、カミーユのガンダムMk-IIを宇宙へ打ち上げるためティターンズを裏切り、我が身を犠牲にする。
コクピットハッチは「胸襟」であり、コクピットの内部は「腹蔵」である
「胸襟を開く」という言葉がある。相手に心の中を打ち明けて、何もかも素直に話すという意味だ。カミーユが、ガンダムMk-IIの胸部コクピットから出てきてフォウに呼びかけるさまは、まさに胸襟を開いている。モビルスーツという鎧を脱いで、自分の弱点をさらして、「何もかもフォウには知ってもらいたい」と訴えている。
しかし、フォウは2度とも自分からコクピットハッチを閉じる。1度目に閉じたときには、「カミーユは私のことを知った」と言っている。すなわち、モビルスーツのコクピットから出て生身で接してしまうと、必要以上に相手に自分のことを知られすぎてしまうわけだ。
「腹蔵なく話す」という言葉がある。「Zガンダム」において、モビルスーツのコクピットとは、本心を隠す「腹蔵」なのかもしれない。カミーユは、胸襟を開いてフォウに接した。フォウはコクピット内にカミーユを受け入れたものの、結局は自分の腹蔵に隠れてしまい、悲劇を招いた。
ここで、冒頭にあげたシーンを再び思い出してみよう。
ハマーンのガザCと対面したカミーユは、コクピットから出て身をさらした。それは、彼の誠実さのあらわれと受けとれそうだ。しかし、もともと知り合いであるシャアとハマーンはカットインさえなく、顔を隠したまま会話する。そして、最後に「……シャア」とつぶやくハマーンはコクピットの中にいる。
ガザCのコクピットの中、それはハマーンの「腹蔵」、すなわち「心の中」ではないだろうか。モビルスーツをまとったハマーンは、誰にも本音を告げていない。本心をコクピットの中に隠している。だから、「恋人たち」のラストシーンは不気味で、得体の知れない印象を残すのではないだろうか。
(文/廣田恵介)