アニメーター・中野裕紀 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第49回)

2021年08月14日 10:000

上京後、動画工房作品に参加


─アニメアールで約5年勤めた後、上京されました。


中野 もともと東京で仕事をしたかったんですけど、経済的に不安だったので、引っ越しやひとり暮らしの資金を貯めてからにしようと思っていました。お金も十分貯まったかなと思った頃、たまたま、「ガンダム Gのレコンギスタ」(2014~15)のWIT STUDIO制作協力回である10話の原画をやっていたんですけど、その時の原画がよかったみたいで、WITから拘束のお話をいただきました。その前に動画工房からも、「東京に来たら、席を用意しますよ」というお話をいただいていたので、上京後は動画工房に席を借りて、WITと行き来しながら仕事をしていました。


─上京後、初めて参加した動画工房作品は?


中野 「曇天に笑う」(2014)と「月刊少女野崎くん」(2014)です。「野崎くん」は、アニメアール時代から関わっていました。


─「PERSONA5 the Animation」(2018)には、どういった経緯で参加を?


中野 監督の石浜真史さんには「ガラスの花と壊す世界」(2016)で誘われたことがありまして、その時からずっとお付き合いをさせてもらっています。CloverWorksには知り合いの制作さんもいるので、動画工房やWIT以外の会社の空気も知りたいなと思って、ローテの作監で入らせていただきました。


─総作監のおひとりである小松原聖さんには、拙連載でもお話をうかがいました(編注:https://akiba-souken.com/article/29283/


中野 小松原さんと羽田浩二さんの回に参加することが多かったので、「PERSONA5」の中ではお2人が師匠みたいな感じですね。シャイなので、あまり話しかけられなかったんですけど……(苦笑)。


─「私に天使が舞い降りた!」の総作監もすばらしかったです。キャラクターデザインの中川洋未さんとはどのようなやり取りをしながら、作業されたのでしょうか?


中野 最初は3話をひとりでやっていたんですけど、途中から中川さんに講座をしていただき、「こういう仕組みなんだよ」というのを教えてもらって、それをほかの話数にも適用していった、という感じでした。


─第12話には「天使のまなざし」という劇中ミュージカルもありました。中野さんも作監のおひとりとして参加されています。


中野 12話はヘルプの作監なので、あまり関わっていないんです。それよりも、11話のほうをしっかりとやっていました。完成した映像を観て、もう少し関わりたかったなと強く感じた最終話で、とっても感動しましたね。


─「わたてん」作曲家、伊賀拓郎さんにもお話をうかがいました(編注:https://akiba-souken.com/article/50986/)。


中野 僕はお会いしたことはないですけど、すごくおもしろい方だと聞いています。特に12話のミュージカルは、仮歌を自分で歌っておられたみたいで、平牧大輔監督も伊賀さんの声でコンテ作業をやっていたというのを後から聞いて笑っちゃいましたし、実際のお歌も失礼ながら笑っちゃいました。

 

「NEW GAME!」の「サバゲーシーン」が転機


─キャリア上、転機になったお仕事は?


中野 「NEW GAME!」1期(2016)かな。かじってもいない程度なんですけど、サバゲー経験があるという理由で、「サバゲーシーンを原画から作監まで、全部やってください」と言われて、40~50カット、全部ひとりでやりました。その時はほかの仕事を全くせずにサバゲーシーンだけをやっていて、お金の面では苦労したんですけど、集中できて楽しかったですね。


─「ガヴリールドロップアウト」第1話も、ほぼひとりで作監をされたそうですね。


中野 アニメーションプロデューサーの本橋研一さんに、「ひとりでやれるならやりたいです」とお願いしてやらせてもらいました。ただスケジュールの関係で、「最後の30カットぐらいが危ない」となってしまったので、天﨑まなむさんや山野雅明さんにもヘルプをしていただきました。


─天﨑さんにはお話をうかがいました(編注:https://akiba-souken.com/article/28637/。中野さんは、天﨑さんがキャラクターデザインをされた「ミカグラ学園組曲」(2015)にも、作監で参加されていますね。


中野 たまたま、天﨑さんがデザインの作品の班になったのですが、本当によくしていただきました。その後も、他タイトルでもお世話になりまくっているので、本当に頭が上がらないですね。

 

EMTスクエアードの社員アニメーターとして


─EMTスクエアードに入社された理由をうかがってもよろしいでしょうか?


中野 「ぼくのとなりに暗黒破壊神がいます。」の作業後半に、社長の宮本秀晃さんからご提案をいただき、「くまクマ熊ベアー」から雇用していただいています。


─作画部長などの役職付きなのでしょうか?


中野 役職はないですけど、下に付いている子はいます。フリーではなく社員として後輩もできたので、会社を支えられるようがんばろうと思っています。


―今、「ぼくはか」を振り返ってみていかがですか?


中野 いろいろと詰め込まれていますし、声優さんも豪華なので、めちゃめちゃ楽しかったです。1話のアフレコにも行ったんですけど、ベテランの声優さんのかけ合いとか、芝居への向き合い方とか、すごい熱量を感じましたね。


─声優さんの芝居は、イメージ通りでしたか?


中野 僕の想像を超えていましたね。だいぶふくらませてもらって、助けていただきました。


─ファンの皆さんにもう一度観てもらいたい、「ぼくはか」のシーンは?


中野 オープニングは色合いを変えて作っているので、見比べてみてほしいですね。ちょっとダークな感じ、ロックのPVみたいに見えるように、僕と濁川敦監督とで相談していました。エンディングはわちゃわちゃした、「ぼくはか」っぽい感じになっています。


─「くまクマ熊ベアー」は、2期制作が決定しましたね。


中野 すごくうれしいですね! 僕もキャラクターデザイナーとして成長できた作品なので、2期も全力でがんばりたいと思います。


─中野さんが考える、1期のベストシーンは?


中野 2話のユナが、フードを脱ぐカットです。フィナが「私を食べますか?」というくだりあたりですね。あそこは制作上、「スペシャルカット」と名付けられていたので、僕がいちから描き直して、ボリュームのある感じに仕上げました。


─ユナはフードをかぶっていることが多いので、外した姿は貴重ですよね。第6話にも、ユナがお風呂で髪を上げているシーンがありました。これは原作準拠なのでしょうか?


中野 いや、なかったと思いますね。僕が設定を作りました。下着も作っていて、「お風呂シーンがあるので足してほしい」と言われて、湯船につかるのにじゃまにならないようにおだんごを上に付けました。

 

「絵の個性が強い人」は結果を出している


─アニメーターやキャラクターデザイナーに必要な資質能力とは何でしょうか?


中野 「観察力」ですね。「目がいいと、吸収力が違う」とよく言われますが、視力ということではなく、目の付けどころがいいということで、「ここってこうだよね」と言語化しなくても理解できる人は、上達するスピードも速いと思います。いろいろな人がいるので、「観察力のない人にはアニメーターになる資格はない」と言うつもりはないですが、ないよりはあったほうがいいと思います。


デザインに関しては、「やりたい!」という強い思いがあるかないかですね。キャラクターデザイン以外にも言えることですが、原案があってもなくても、チェックなしということはありません。売れる絵、いい絵にするためにはどうしたらいいのか、制作や委員会とコミュニケーションを取りながら作っていくものなので、そこをちゃんと乗り越えられる人じゃないと難しいと思います。


─現在のアニメ業界について、何か思うことはありますか?


中野 僕は業界に入った時から、「絵の個性が強い人」は表に立つ傾向があるなと感じています。アニメーターには技術も当然必要なんですけど、センスも、自分の武器としてちゃんと持っておくのが大事だと思います。ただ仕事をするだけじゃなくて、ラクガキとかイラストとかでも、いろんな絵を描き続けている人が、結果も出していると思います。


─今後挑戦してみたいことは?


中野 オリジナル企画はやってみたいですね。あと、演出にも興味があるので、いつかはチャレンジしてみたいですし、イラストレーターや漫画家さんのような仕事もあるならば挑戦したいな、という気持ちは常にありますね。


─演出……監督業に進まれる可能性もある、ということですか?


中野 今のところ、自分はずっとアニメーターだと思っているので、監督までやるかは正直わかりません。ただ、演出家さんの思想もわかったうえで原画を描くとまた違うのかなと思うので、演出もやってみたいんです。もちろん、大前提としてオファーがないと話にならないのですが(笑)。


─最後に、ファンの皆さんにメッセージをお願いいたします!


中野 僕なんかにファンがいるかはわからないですけど、「くまクマ熊ベアー」の2期も含めてこれからもがんばっていきますので、今後の活動を応援していただければうれしいです!


●中野裕紀 プロフィール
アニメーター、作画監督、総作画監督、キャラクターデザイナー。大阪府出身。株式会社EMTスクエアード所属。アミューズメントメディア総合学院・大阪校(現:大阪アミューズメントメディア専門学校)卒業後、有限会社アニメアールに入社。上京後は動画工房作品等で活躍、「ぼくのとなりに暗黒破壊神がいます。」(2020)でキャラクターデザインデビュー。作画監督作品には「ミカグラ学園組曲」(2015)、「干物妹!うまるちゃん」(2015)、「ラクエンロジック」(2016)、「NEW GAME!」(2016)、「刀剣乱舞-花丸-」(2016)、「ガヴリールドロップアウト」(2017)、「冴えない彼女の育てかた♭」(2017)、「PERSONA5 the Animation」(2018)等、総作画監督作品には「干物妹!うまるちゃんR」(2017)や「私に天使が舞い降りた!」(2019)がある。キャラクターデザイン・総作画監督を務めた「くまクマ熊ベアー」(2020~)は2期制作も決定し、続報が大いに待たれるところだ。これからの日本の萌えアニメを支える、注目の新鋭クリエイターである。


※TVアニメ「ぼくのとなりに暗黒破壊神がいます。」 公式サイト
https://bokuhaka-anime.com/

※TVアニメ「くまクマ熊ベアー」 公式サイト
https://kumakumakumabear.com/

※株式会社EMTスクエアード 公式HP
https://emt2.co.jp/

※中野裕紀 ツイッター
https://twitter.com/notinotti


(取材・文:crepuscular)

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