内田彩、和氣あず未、豊崎愛生──アーティストとしての個性が光る新譜3枚をレビュー!【月刊声優アーティスト速報 2021年6月】

2021年06月27日 16:000

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当月リリースの声優アーティスト作品を紹介する本連載。2021年6月号では、声優シンガーによる全3作品+αをピックアップ。春アニメが続々と最終話を迎えるなか、その主題歌に改めて耳を傾け、各作品と過ごした時間を振り返る機会としても、本稿がよいきっかけとなれば幸いだ。

◆内田彩 5thシングル「Pale Blue」(6月2日発売)

表題曲「Pale Blue」は、TVアニメ「やくならマグカップも」エンディングテーマ。アニメ本編は女子高生たちが陶芸と触れ合う様子を描いていることに寄せて、楽曲で歌われる“人の関係性が変化していく”様子などが、陶芸の粘土に描かれる滑らかな曲線になぞらえられた1曲だ。内田彩さんがサビで放つキャロっとした歌声が、楽曲の進行につれて徐々に大人びた表情に変わっていくところもポイントのひとつ。

 

 

楽曲プロデュースは、彼女の音楽活動における数々のターニングポイントを彩ってきたhisakuni氏によるもの。タイトル通り “淡く蒼い”透明感を大切にしたサウンドアレンジは、アニメキャラクターたちの青春群像劇を遠くから見守るような内田さんの等身大目線を意識して作り上げたとのことだ。彼女演じる真土泥右衛門(まっどでいえもん)も、アニメの次回予告で登場人物たちの行く末を遠くから眺め、時にツッコミを入れるといった役柄なだけに、奇しくも“俯瞰”という点で楽曲と担当キャラクターがぴったりとハマっている。

 

また歌詞の面でも、周囲に惑わされず、自身の“好き”を貫きたいと願う描写は、内田さんの人柄を忠実に代弁するかのよう。hisakuni氏の作詞術は、もはやエスパー的な所業に近い。楽曲を歌ううえでの“お姉さん”的な視座や、前述した歌詞のメッセージ性を踏まえるに、今の内田さんだからこそ声優アーティストとして歌唱する意味を持ち合わせた1曲といえる。

 

カップリング曲「Destiny」もまた必聴。同楽曲は、彼女が過去に歌ったTVアニメ「五等分の花嫁」第1期エンディングテーマ「Sign」へのアンサーソングとなっている。

「Sign」と同じく、作詞:金子麻友美氏、作編曲:松坂康司氏の布陣にて、アニメのヒロインたちが幸せに結ばれた先を描いた「Destiny」の歌詞やメロディラインには、「Sign」をサンプリングした部分を大いに見つけられるだろう。

 

◆和氣あず未 4thシングル「Viewtiful Days!/記憶に恋をした」(6月16日発売)

今年2月に自身初のフルアルバムを発表したばかりの和氣あず未さんから、早くも新作が到着。

 

何よりもまず語るべきは、100点満点で採点した際、オシャレ要素で1億点を余裕で差し出したくなるジャケット写真だろう。パステルカラーを基調に同様のトーンの小物を周囲に配し、着せ替え人形、ないしは女性向けファッション雑誌風に本人の全身カットを中央に置いたクリエイティブは、間違いなく女性ファンからも愛される1枚と言える。近年の声優アーティスト作品のジャケットで、ここまで女性ファンに寄り添った傑作は稀有なのでは。

 

もちろん、全4曲の収録楽曲もまた素晴らしい。

今作では“日常”をテーマに、コロナ禍を意識したものと思える歌詞が随所に見られる。表題曲「Viewtiful Days!」は、TVアニメ「スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました」エンディングテーマとして、何でもない毎日こそかけがえない時間だと歌う1曲に。これまでに内田彩さんが歌う「アップルミント」や「Blooming!」などを制作してきた持田裕輔氏らしいキャッチーなガールズロックナンバーだ。

 

ほかにも、もういっぽうの表題曲「記憶に恋をした」は、過去の出会いを懐かしむ爽やかでセンチメンタルなギターポップ。また、前作アルバム収録曲「恋する日常」にも通ずる、浮遊感あるコーラスワークを多用した「hopeless」で、和氣さんが空虚な雰囲気の歌声を披露し、エレクトロポップチューン「2030」では、〈この物語の始まりが/口元隠して恋をするなんてあたらしい世界だね〉〈いつか晴れた日にどこへ行こうか/何を着て行こうかな〉と、ニューノーマル下でもめげずに自分磨きをする胸キュンで健気な恋心を歌うなど、カップリング曲ももちろん聴き逃せない。

 

特に「2030」に当てはまるが、今回のシングル全体を通して、改めて和氣さんの音楽活動の主軸として、彼女の愛する少女漫画や“恋バナ”など、自身の“やりたいこと”が大切にされているのだと感じさせられた。それでいて、これまでのシングルに見られた無邪気な一面を経由し、前作アルバムで“B面”として据えられた大人びたモードへとグラデーション的に移行する過渡期にあるようにも思える。アーティストとしてまた一歩、前進を遂げた1枚になったのでは。

 

◆豊崎愛生 4thアルバム「caravan!」(6月30日発売)

声優アーティストデビュー10周年を経て、5年ぶりに発売するフルアルバムは、コロナ禍で感じたさまざまな“幸せ”を閉じ込めた1枚に。

豊崎愛生さんの、これまでの音楽活動を支えてきたクリエイターのほか、彼女がプライベートでも愛してやまないというシンガーソングライターらを迎え、さまざまな才能が新旧交わる本作は、2017年7月発売のベストアルバム「love your Best」に並ぶ、自己最高を更新する意味での“ベスト盤”と呼んでもよいだろう。彼女の音楽活動第2章が、いよいよ幕を開ける。

 

 

表題曲「それでも願ってしまうんだ」は、豊崎さんのライブ定番曲「music」をアップデートするものとして、田淵智也氏×ミト氏(クラムボン)の強力タッグが制作。砂漠を渡る一団(=キャラバン)をモチーフとした今回のアルバムだが、「それでも願ってしまうんだ」は、そこで基調とされるアースカラーが似合う温かなサウンドに。クラップやストンプをベースに、マットな耳触りのトランペットを重ねたミドルテンポのトラックは、終始平和なバイブスに包まれた印象だ。どこまでも地に足がついた、穏やかで朗らかな豊崎さんのボーカルにも、これまで以上にナチュラルさが光る。

 

そのほか、彼女の敬愛するアーティストの書き下ろし曲も。「薔薇とローズ」などを代表曲に持つシンガーソングライター・さかいゆうさんが作曲を手がけた「MORNING:GLORY」は、レトロや洋楽テイストの楽曲。元・Cymbalsのボーカルとしてシティポップに造詣の深い土岐麻子さんや、最近ではaikoさんの楽曲アレンジを数多く手がけるトオミヨウさんによるアーバンな1曲「Cheers!」なども収録される。本稿執筆時点では、表題曲以外の試聴音源は公開されていないものの、彼女の音楽観を形成するアーティストと作り上げる1枚に、早くも発売日当日が待ち遠しくなってしまう。

 

ここまで紹介した3作品以外にも、富田美憂さんが6月30日に活動1周年半を迎えての初アルバム「Prologue」を発売。同作には、楽曲が完成した瞬間を「子供が産まれた時のキモチ」と表現するまでの初作詞曲「Letter」などを収録。また6月23日には、小林愛香さんが1stアルバム「Gradation Collection」を、高橋李依さんがソロデビュー作として1st EP「透明な付箋」を発表するなど、各方面で勢力的なリリースが立て続けとなった。来月以降のリリース予定作品も確認するに、このポジティブな流れは夏に向けてさらに勢い付きそうである。


(文/一条皓太)

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