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EX Point「マツモトという存在」
――マツモトの話が出ましたので、メインストーリーからは少し離れてマツモトのことをさらにお聞きします。あんなに自由自在に形を変えられるのは、最初から考えていたのですか?
長月 ヴィヴィのサポートをするマツモトは、電脳戦も含めた“万能型”というイメージでした。万能型のAIってスーパースペック以外に何ができるのかと考えた時に、ありとあらゆる状況に対応できればすごいだろうと思ったんですね。形状も変えられたらいいんじゃないかと。といっても、スライムみたいに変えるわけにもいかないし……。そこで、小さいものが集まって用途に応じて形を変えられたら、万能の表現ができると考えたんです。ただ、その時はせいぜい大きな動物みたいな形とか、ヴィヴィを乗せて飛ぶ程度のイメージだったので、どのぐらい自由に変化するかまでは考えていなかったですね。
――なんかブロックのおもちゃのような感じもあって、心をくすぐられました。
長月 そうですね。かわいいクマからキューブ型のマツモトになっても、マスコット感を減らさないようにデザインをがんばっていただきました。これがマツモトだとなじんでくれたらいいなと。
――ちなみに、脚本を書いている段階からCVが福山潤さんであることは決まっていたのですか?
長月 その段階では決まっていなかったですけど、俺は福山さんのイメージで勝手に書いていました(笑)。福山さんが以前やっていた役で、AIっぽくてめっちゃ早口でしゃべるキャラクターがいるんですよ。そういう感じにしたいと思っていたので、頭の中では自然と福山さんの声でしゃべらせていました。で、いざオーディションをしたら福山さんも来てくださり、当たり前ですけど、やっぱり福山さんだなと(笑)。
梅原 ヴィヴィとマツモトが種﨑(敦美)さんと福山さんに決まったのは、脚本を書いている途中ぐらいですね。
――ヴィヴィもすごくイメージに合っていましたが、それ以上にマツモトは当て書きじゃないかというぐらい福山さんで。
長月 あれは俺の当て書きでした(笑)
梅原 アドリブも多かったですからね。
長月 アドリブ含めて、福山さんがとても上手なのでめちゃめちゃ助けられましたね。
――福山さんだったら、尺だけ伝えてアドリブでお願いしても完璧なマツモトになりそうですよね。
長月 実際、入れてもらったアドリブはかなり採用しています。特に切る必要ないですね、と。
梅原 そうですね。ほぼ採用だった気がします。
4th. Singularity Point「オフィーリアの自殺の阻止」
――次は、第7話〜第9話の3話構成で展開された、オフィーリアとアントニオのエピソードです。
長月 おわかりの人はいると思いますが、オフィーリアは「ハムレット」から、アントニオは「アントニオ・サリエリ」から(名前が)来ています。
梅原 「アマデウス」ですからね。
長月 そうですね。「アマデウス」の映画がすごく好きなので、宇宙モノだった時からAIで「アマデウス」をやりたい、AIがAIに対して“自分がそうなれない悲哀”を描きたいなと思っていたんです。それで、歌えるオフィーリアと、それを支えるサポートAIのアントニオというキャラクターが生まれました。ヴィヴィとマツモトの関係との対比をしようという考えもありましたし。ひょっとしたらマツモトがやったかもしれないことをやってしまったアントニオ。その両方のパートナー関係を描きつつ、俺の好きな“凡人の悲哀”を盛り込み、さらに垣谷との決着も含めようと。決着をつけなきゃいけないことが、「ディーヴァ」「垣谷」「オフィーリア&アントニオ」と3パターンあったので、3話でやることになりました。
梅原 2話には入らなかったですからね。
長月 エピソード的には、さっき話したように最初は第5話と第6話を小説と同じ形にするつもりだったんです。冴木は死なずに、メタルフロートの後日談もやろうと。ただ、その後にオフィーリアとのエピソードをやりたいと思った時に、(ヴィヴィが引きこもって)ディーヴァへの変遷のためにショックを与える必要があるから、俺が「冴木死ぬのがいいんじゃないですか?」と言ったんですよ(笑)。
梅原 それは長月さんが言いましたね。
長月 「冴木死なせます?」と。冴木を死なせて、そのショックでヴィヴィが引きこもってディーヴァになってしまったエピソードにしましょうと。それで、もともとやろうと思っていた第7話(メタルフロートの後日談)が消えて、その分を次のエピソードにつぎ込めるとなったんです。
梅原 そうですね。
長月 それとこの3話で、視聴者がディーヴァをどれだけ好きになれるかが勝負と思って作っていました。ディーヴァがいなくなったことをみんなが辛いと思えるようなキャラクターにしたかったんです。「この歌を聴いてもわからない?」と言ってディーヴァが消えたあと、みんなが拍手しているところで顔をあげたヴィヴィが「わからないよ、ディーヴァ」と答える。この締めは梅原さんがすごく褒めてくれました。
梅原 あの締めしかなかったですね。素晴らしいと思いました。
――内容的にはオフィーリアが豹変するのも衝撃的でした。視聴者の中には、かわいいだけじゃ終わらないんじゃないかと思っていた人もいたみたいですが。
長月 でも、さすがに小山(力也)さんになるとは思わなかったでしょうね(笑)。
梅原 アフレコ現場で、みんなニヤニヤしながら聴いていましたね。小山さんのあの顔と声色で言うわけですから。
長月 「私はアントニオだ」って、日高(里菜)さんの声からフェードしていって変化するのは完璧でした。
――演技に関してもアクションと同様、書いている時の想像以上のものになったのですね。
長月 本当にプロの皆さんが完璧な仕事をしてくれたと、特にこの作品では感じています。絵もそうですし、歌も演技もそうですし。これに関しては、脚本を事前にひと通り完成させてお渡しできたことが、キャラクターを深めることに役立ったかなと思っています。先に原案の小説を書いてから脚本に取りかかるのは時間がかかりますけど、全員でどういう話なのか共有できるという意味では、いい作り方なのかなと思いますね。
Last Point「シンギュラリティ計画の終了。そして――」
――そして、最終エピソードとなる第11話〜第13話。AI暴走の真実がついに明らかとなりました。
梅原 最終エピソードのプロットは、僕と長月さんが一番悩んだところですね。ラストに記憶をなくしながら歌うことは決まっていたんですが、「歌って状況が解決するって何だよ?」というのがどうしてもあって。
ライブものなら、最後にいいライブができたね、でオチますけど、戦争を回避するために100年間旅をしてきて、何をどうしたら歌ってオチるんだろう? 歌で全て解決するにはどうしたらいいのか? と2人で延々と話し合いましたね。
――第12話でもう一度タイムリープするわけですが、ラストの展開については別の案もあったのでしょうか?
長月 そこは、ラスボスどうするか問題があって。ラスボスは5パターン、「マツモト」「松本博士」「アーカイブ」「隠されたシスターズ」「新たなボディを手に入れたディーヴァ」のどれがいいか考えていました。
最初は、隠されたシスターズのパターンで進めていたんです。もう一体、“ラストナンバー”というヴィヴィそっくりの見た目で、松本博士が作ってしまった最後のシスターズがいると。ただ、全体を通して見た時に、やはりポッと出感があるなと思ったんですね。小説だったら、どうしてラストナンバーを作るに至ったのかを幕間とかでやればいいんですけど、(尺に限りのある)アニメではそうもいかないので、小説を書いてからいったん削除となりました。
次に、マツモトが裏切るパターン。これはみんな予想しているだろうし、マツモトを裏切るキャラとして作りたくなかったんです。ヴィヴィと純粋にパートナーシップを築いて、いいバディ関係になることを描きたかったので、やらないようにしました。松本博士パターンも浮かびましたが、マツモトが味方である以上は松本博士が敵のはずないですよね。最後まで揉めたのはディーヴァパターンですけど、第7話〜第9話であのような決着になり、自分の中でのディーヴァを出したい欲はそこで決着したので、それもなし。
そうなると、適切なのはアーカイブ。最初から顔を出していて、なおかつヴィヴィの100年間の旅にこっそり付き合っていた存在だと設定すればいいのではないかと考え、ラスボスはアーカイブに決まりました。そして、そのための伏線を第1話から張り巡らしていき、最終エピソードは「アーカイブが敵」「ヴィヴィが歌って決着する」ということで、改めてエピソードを揉んでいきました。
――なるほど。そして生まれたのが、この展開なわけですね。
長月 「ヴィヴィが歌えなくて1回失敗する」と考えた時に、もう一度最初からすべてやり直すのはどうか、ともなりました。でも、各エピソードでいい感じで締めてきたのを台なしにするのはよくないから、じゃあどうするか。もう一度タイムリープする案自体は捨てるのは惜しいし……と思った時に、「1回失敗して“最後のエピソードだけ”やり直す」という案が出て。それがブレイクスルーになりましたね。
梅原 そうですね。いわゆる「リゼロ」の死に戻りと同じ効果、「同じ状況をもう一度やる」を唯一やるのがこの話数なんです。前に得た経験で状況を変えていくわけですね。それができるのであれば、長月さんがこの作品に参加してくださった意義がより出ますし、確かにこれがブレイクスルーになったと思います。
長月 そして、「もう一度タイムリープする」と決まり、1回目は失敗したけど2回目に成功する要因を書き出していきました。たとえば、何度もタイムリープされたら困るので、「松本博士は消しておかないといけない」とか。
梅原 松本博士には死んでもらわないとね(笑)。
長月 松本博士を助けに行けない(死んでもらう)なら、代わりにヴィヴィは何をしなきゃいけないか。だったら、その時間にトァクのところに行って垣谷(ユイ)たちを助けて、戦力を確保しなきゃいけないことにしようと。そうやって、最後のタイムリープを考えていきました。
――タイムリープを考えていく時は、結構ロジカルに潰していくんですね。
梅原 そうらしいです。僕も同じ感想を抱いて、長月さんに「そうやってロジカルに潰していくんですね」と同じ会話をした記憶があります(笑)。
長月 内容的な齟齬をパワーで潰していける作品もあるんですけど、「Vivy」は作風的にそういう作品ではなかったので、引っかかるところはロジカルに潰していかないとダメなんですよ。
――先ほどアーカイブをラスボスにした話の中で「ヴィヴィの100年間の旅にこっそり付き合っていた」とありましたが、このあたりをもう少し詳しく教えてもらえますか?
長月 過去にマツモトを送った時に、アーカイブも一緒についてきているイメージです。ヴィヴィとマツモトがシンギュラリティポイントを修正して、次のシンギュラリティポイントに向けて休んでいる時に、アーカイブが正史と同じような状況になるようにこっそり悪さをしている。だから、毎回毎回、せっかくヴィヴィが修正しているのに治らないんですね。
ただ、そうやってアーカイブは最終戦争が起こる未来に導こうとしたけど、ヴィヴィはシンギュラリティ計画を行った結果として、曲を作る行動をした。その行動を見たことで、「いま最も人類に近い存在はヴィヴィだ」「それならば、我々AIが人類に成り代わるべきか、彼女に選択肢をもたせるべきではないのか」といった疑問が生じたんです。シンギュラリティ計画は最終戦争を阻止することはできなかった。でも、戦争を止めるための選択肢をヴィヴィに与える理由を作ったのなら、意味があったんだと。
――そして、クライマックスでついに自分で作った曲「Fluorite Eye’s Song」をヴィヴィ自身が歌い、100年の旅に幕が降ろされました。この曲を聴いた時の気持ちをお聞かせください。
長月 この曲も、本当に無茶な提案をしたんですよ。「旅の集大成」「最後に戦争を止めるために歌う曲」「AIが作った曲」といったことをグニュグニュっと混ぜて神前さんに投げて、何が返ってくるか。そういった作り方をしたんです。そして、何度も変遷を経ながら最後に戻ってきた曲を聴いたら、想定していたイメージ通りでした。戦いの中でヴィヴィがボロボロになりながら歌っていて、その周りに浮かび上がったこれまでのログがパリンパリンと割れては消えていく――そういう情景が浮かぶ曲だったので、大満足です。
梅原 歌詞の方も、全部の曲の中で一番やり取りをしたのがこの曲なんです。最後にヴィヴィが記憶を失って停止してしまうわけですけど、その場面にも沿った歌詞にしてくださって。聴いた時は、わけのわからない無茶なハードルを作詞・作曲チームが見事に乗り越えてくださったと思いましたね。本当にありがとうございます。
――エンディングでメロディだけ流れていた曲を、物語のラストでヴィヴィ自身が歌うのは感動でしたね。素敵な作品ありがとうございました!
(取材・文/千葉研一)
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