「映画大好きポンポさん」の色彩設計・千葉絵美さんに、アニメの色を考えることの面白さを聞いてみた【アニメ業界ウォッチング第77回】

2021年06月12日 18:000

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クリエイターの奮闘する映画を通じて、「映画監督」らしくなった


── 「映画大好きポンポさん」の原作漫画を読んだときの印象を聞かせてください。

千葉 私も映画好きですが、原作漫画ほど細かくは観ていませんでした。ですから、映画のディテールまでのめり込む感じが面白くて、「この漫画のアニメ化に関われるんだ」といううれしい気持ちが、まずありました。ただ、色彩設計の視点からすると、モノクロの漫画の中で急にカラーになるページではハッとしてしまいます。いきなりカラーになる演出をアニメではどう落とし込むのか、緊張してしまいましたね。「この通りの演出でないと、『ポンポさん』じゃない」と原作ファンの方たちに怒られそうな気がしましたが、完成した映画ではまったく違うアプローチになっていたので、ホッとしました。

── でき上がった映画については、どう思いますか?

千葉 単に見た目がよいだけのプロモーション的なものではなく、ちゃんと「映画になっている」と感じました。キャラクターのかわいい絵柄が気にならないぐらい中身がしっかり詰まっていて、よかったです。今回は、演出の居村健治さんと監督助手の三宅寛治さんが参加してくれたことが、とても大きいと思います。平尾監督は、これまで演出を立てて監督することは少なかったのですが、今回は本格的な演出家さんたちのいる環境で作品づくりができた。それは、とてもいいことだったと思います。

── 平尾監督が情熱的な方なので、居村さんと三宅さんの2人がセーブしてくれた感じですか?

千葉 居村さんと三宅さんも、それぞれ情熱的なんです。ただ、誰もがとりこぼしてしまうような小さなミスをお2人がフォローしてくれたり、しっかりと段取りを管理してくれたおかげで、安心して仕事できました。

── 平尾監督は、千葉さんのご主人でもありますよね。その点でやりづらさはありませんでしたか?

千葉 そこは、あまり気にしていません。他作品の監督より意見を言いやすいし、いつもならやらないような遊びもできたと思います。今回、平尾監督からは、どのセクションにも面倒な要求が多かったんです。だけど、平尾監督を劇中で必死に映画をつくるジーン君だと思えば、温かく支えられるんです。本来なら面倒な要求であっても、「この人、ジーン君そのものだから」と思えば「そうか、それなら仕方ないね」と対応できる。作業そのものは大変だけど、自分のセクションで精いっぱい仕事すればいい。そういう意味では、気持ちが楽だったとも言えるんじゃないでしょうか。平尾監督にとっては、「あの人は『ポンポさん』に出てくるジーン君みたいな監督」という、いいアイコンができたと思います。


松尾亮一郎(プロデューサー) 今までは周囲から「平尾さん」「平尾くん」と呼ばれていたけど、本作では「監督」と呼ばれるようになりましたからね。

── 原作者の杉谷庄吾さんは、「アニメ化には一切関わらない」とツイートしてらっしゃいましたね。


千葉 原作の杉谷さんが、平尾監督がどう出るか泳がせておく、「どんなアニメにしてくるか楽しみだ」と待っている部分も含めて、“ポンポさん感”がありました。平尾監督が私やほかのスタッフと話したたわいもない雑談が、映画の中にもそのまま使われていますし、ちゃんと周囲の声を聞いていました。マジョリティに対して、一矢むくいたい監督の気持ちも、よくわかりました。
最近のアニメ作品は、これまで見たことのないような表現でも受け入れられやすくなってきています。以前は原作に縛られることが多かったと思いますが、今はパターンから抜け出して、「とにかく俺はこれが好きだから」と自分のスタイルを押し出す人が多くなって、気持ちいいです。アニメを見てくれる方たちも、「カッコよければ原作と違ってもいい」と認めてくれている気がします。

── これから色彩設計の仕事に進みたい人に、アドバイスをいただけますか?

千葉 制作会社に入社すれば、チャンスは回ってくると思います。なぜなら、今は作品数が多いからです。Photoshopに触れてやる気さえあれば、誰でも取り組める仕事ではないでしょうか。「ポンポさん」はクリエイターについての映画なので、「もう20年も色彩設計の仕事をしているから、なかなかこういう気持ちになることはないな」という新鮮な気持ちを思い起こさせてくれました。



(取材・文/廣田恵介)
(C) 2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/映画大好きポンポさん製作委員会

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映画大好きポンポさん

映画大好きポンポさん

上映開始日: 2021年6月4日   制作会社: CLAP
キャスト: 清水尋也、小原好美、大谷凜香、加隈亜衣、大塚明夫
(C) 2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/ 映画大好きポンポさん製作委員会

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