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フィルム撮影、ハンドトレス、石膏模型……、先人たちの苦労と工夫の痕跡
── 50年以上アニメ制作をしていたなかで、制作上の転換点はありましたか? 中邨 まずは放送がハイビジョン化された時ですかね。当時は16ミリフィルムで撮影するのが主流でしたが、ハイビジョンの高画質に対応させるために35ミリフィルムで撮影することになりました。セルは静電気を帯びるため撮影の時は埃に気をつけながら作業していましたが、高画質になることで埃がより目立ってしまうため、さらに慎重な作業を要することになり、撮影にかかる時間は2倍になってしまいました。
三井 その次は、セル画を止めて完全デジタルになる時ですね。
中邨 今までハンドトレスだったものが、スキャンの荒い線になってしまうため、ハンドトレスの雰囲気が出るようにかなりの手間をかけるようになりました。また色合いも、絵の具の温かい雰囲気から、ギラギラしたデジタルの色にはしたくなかったので、テレビでの見え方を考えながら温かみが出るような工夫をしました。
── 今回開催される「アニメサザエさんとともに50年-エイケン制作アニメーションの世界-」について、聞かせてください。 三井 「エイケンクラシカル」と呼ばれる「サザエさん」以前の作品と、「サザエさん」以降とに大きく分けています。「サザエさん」は50年も放送しているので広く愛されていますが、「キャプテン」や「ガラスの仮面」(1984年)など、世代によって刺さる作品が違うと思うので、それぞれのファンのためにフォトスポットを用意しています。
また、「サザエさん」で最後までセル制作にこだわっていたおかげで、社内にセル画を補修できるスタッフがいて、セル絵の具も少しだけ残っていました。ですから、今回は最後のセル補修をして、セル画も展示します。トレスマシンを使ったセル画は、経年により主線(キャラクターなどの輪郭線)が薄くなってしまうんです 。
中邨 「サザエさん」は放送開始から、セルの使用を終了するまでハンドトレスをしていました。
── それはすごい話ですね、セルと言えば、鉛筆の線をカーボンで熱転写する方法が、何十年も前から普及しているのに……。 中邨 ハンドトレスで作成すると輪郭線に柔らかみが出て、それが作品の温かさにつながるので、大変でしたがずっと続けてきました。まだ社内に1名、ハンドトレスできるスタッフが残っています。「サザエさん」以外の作品のセル画もかなり傷んでいましたから、展示用にそのスタッフに修復してもらいました。
三井 セルは撮影が終わったら廃棄するものと決まっていたので、制作当時はまさか展示用に使うとは思ってもいなかったでしょうね。物持ちのいい会社ではあるのですが、セルの裏に塗った絵の具と背景画がくっついてしまったり、保存状態はよくありませんでした。今回の展示も視野に入れて、5年ぐらい時間をかけて修復していきました。ハンドトレスできる人材は減ってきているので、過去のすぐれた技術を守っていく必要もあります。
中邨 展示のために「サスケ」(1968年)や「忍風カムイ外伝」のセルを整理していたら、1つのセル画の中でトレスマシンとハンドトレスを使い分けていることが分かりました。死んだ人はトレスマシン、生きている人はハンドトレスで線を描いていたりと。今回、実物のセルを見て初めて判明したことです。先人たちは、いろいろ工夫しながら作品をつくっていたのだな、と感じ入りました。
三井 それと、「鉄人28号」では石膏模型というものを現場で使っていました。
中邨 かつての東映動画(現・東映アニメーション)さんも同じ手法を使っていたと思いますが、キャラクターを立体で作って、原画や動画を描く参考にするんです。いわば、立体によるキャラクター設定ですね。
三井 そうした立体の制作資料も残していきたいので、今回展示いたします。
中邨 「冒険ガボテン島」(1967年)のオープニングとエンディングでも、当時、TCJの大きなスタジオで実際に島の模型を作って撮影しています。「ガラスの仮面」のオープニングでのタイトル文字も、立体(アクリル)で作り光を当てて撮影し、独特の質感を出しています。
三井 そういう手法が出てくるのは、まだどこかにCMをつくっていた創成期のDNAが残っているためでしょうね。
インフォメーション
■アニメサザエさんとともに50年-エイケン制作アニメーションの世界-
■会期 2021年3月27日(土)~ 5月30日(日)
月曜休館日(5月3日[月]は開館)
※新型コロナウイルスの緊急事態宣言発出に伴い、2021年4月28日(水)~5月11日(火)まで臨時休館■時間 10:00~17:00(入館は16:30まで)
■会場 丹波市立植野記念美術館
兵庫県丹波市氷上町西中615-4
TEL: 0795-82-5945
FAX: 0795-82-5935
E-mail: ueno-kinen@city.tamba.lg.jp
■入場料 一般800円、大学・高校生400円、小・中学生200円
(20名以上の団体割引有り、小学生未満は無料)
■特別協力 長谷川町子美術館、フジテレビジョン、エイケン
■協力 コオプロ、光プロダクション、TBS、小学館集英社プロダクション、横山事務所、講談社、男組、ちばあきおプロダクション、ムツプロ、美内すずえ事務所、小学館、スタジオポケット、植田プロダクション、松竹、アイエムオー、竹書房(制作年順)
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