ぎりぎりまで手づくりにこだわったアニメ「サザエさん」の制作姿勢に、エイケン50年の歴史を垣間見る【アニメ業界ウォッチング第75回】

2021年04月25日 10:000

アニメ業界ウォッチング

企画記事

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── 「サザエさん」は東芝の1社提供ですが、家電製品をアピールする意味はあったのでしょうか？

中邨　1969年にシリーズが始まった時点で、東芝さんはテレビや洗濯機や冷蔵庫などの家電を販売していたので当然それはあったと思います。

三井　茶の間のテレビは、3回ほどモデルチェンジしています。

中邨　しかし、具体的に「この製品を売りたい」ということではなく、東芝さんは自社ブランドイメージとして「サザエさん」という番組の世界観を評価して頂いているのではないでしょうか。いまでも黒電話が登場しますが、そうした細部は作品の本質とは関係がないわけですね。

三井　例えば、磯野家の茶の間に最新のテレビを置くと、どうしても画面が冷たくなってしまうそうです。携帯電話を登場キャラクターに持たせてしまったら、すれ違いのドラマをつくれませんよね。物語や、家族の関係そのものを暖かく描くことのほうが、作品にとっては大事なんです。

中邨　季節感を出すために、夏は窓やふすまを開放し、冬は締め切っています。カーテンや座布団の色でも季節の違いを感じられるようにしています。布団も夏と冬で柄を変えています。

三井　茶の間の窓から見える庭の花は、季節によって変えています。

中邨　映像から季節感を読み取ってもらい、より作品に入り込んでいただくための工夫です。

── 「サザエさん」が人気を得るいっぽう、70年代のエイケン作品は「隆一まんが劇場おんぶおばけ」（1972年）、「冒険コロボックル」（1973年）、「ジムボタン」（1974年）など、児童向けのアニメが続きますね。

三井　どちらかと言うと、「サザエさん」以降はファミリー路線を意識するようになったのでしょう。

中邨　あえて言うなら、「UFO戦士ダイアポロン」（1976年）は、「マジンガーZ」に始まる巨大ロボットブームの中でつくられた作品です。弊社のロボット物は数少ないのですが、「ダイアポロン」は芦田豊雄さんが初めてキャラクターデザインした作品です。80年代に入ってからは、講談社さんほか集英社さんの漫画をアニメ化する機会にも恵まれました。

── ちばあきおさん原作の「キャプテン」（1980年）ですよね。「キャプテン」は、少年向けなのですか？

中邨　確かに中学校の野球部の話ではあるのですが、4人のキャプテンの姿を通じて、どのようにチームをまとめて何ができるのか、指導者の理想や葛藤を描いています。そこが、幅広い年齢層に支持されているのではないでしょうか。大人でも共感できると思います。

三井　「キャプテン」は昨年、「今、子どもに薦めたい、1980年放送のテレビアニメは？」の第1位に選ばれました（オーヴォ編集部調べ）。当時、「キャプテン」を見ていた子どもたちが、お父さん世代になったからでしょうね。去年は、「キャプテン」放送から40周年でした。

── いかにもエイケンさんらしいと思うのは、「ドタンバのマナー」（1984年）などのミニ知識アニメです。創業初期のころにCMをつくっていた名残りでしょうか？

中邨　おそらく、そうだろうとも思います。「ことわざハウス」（1987年）、「親子クラブ」（1994年）、「すてき！さくらママ」（2000年）など、5～10分ぐらいのミニ番組は、弊社の得意ジャンルです。本編の中に実写映像が入っていたり、確かにCM映像にルーツがあるのかもしれません。

三井　「親子クラブ」は18年続いて、ミニ番組としては現在放送中の「ぼのぼの」（2016年）が6年目に突入しました。

中邨　「ハーイあっこです」（1988年）や「コボちゃん」（1990年）もそうですが、新聞連載の4コマ漫画のエッセンスをアニメ番組にしていくノウハウが、「サザエさん」以降、ずっと続いているんだと思います。

三井　社長の村田英憲の理念は「子どもに向けて、良質なアニメを届けたい」です。ですから、深夜アニメよりは日常的な家庭向けアニメのほうが、社風に合っているのでしょう。