押井守 新作「ぶらどらぶ」製作 いちごアニメーション社長中西穣氏が語る 不動産会社がアニメ製作をする意味とは?

2021年02月13日 12:000
(C) 2020 押井守/いちごアニメーション

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「作りたいものを作ってくれ」 


── 本作のアニメーション制作を行なうスタジオのドライブはどのように選ばれたのでしょうか?

中西 押井さんにお任せしました。西村(純二監督)さん繋がりかな? 制作会社、スタッフの選定には関わっていないのです。どちらかというと、それが概ね決まっていなかったら、ビジネスが組み立てられないので出資を決めていないですね・・・。

── クリエイター側から見ると、そこまで信頼を置いてくれる出資者というのは、ある種、理想的のように思えますが、中西さんがそこまで任せることができたのはなぜでしょうか?

中西 我々が無知だからです(笑)。私も日頃から部下に言っているのですが、やっぱりモチベーションって大事なんですよね。言われてやることは「作業」なんですよ。でも、自分で考えてやることは「仕事」になるんですよね。ものづくり、特にアニメ制作なんて、まさにその最たるもので、現場のモチベーションを尊重すべきだと思います。なので、私からは「作りたいものを作ってくれ」と言うだけです。そして、これは押井さんから現場にも同じことが伝わっているはずなんですよね。彼がイメージを伝え、現場が自分たちで考えて作ってくれる。そして、これがまたいい効果を生み出している。ドライブのプロデューサーの宮腰さんから聞いてうれしかったのは、現場のアニメーターの方も「今回の作品制作が楽しかったので、次もぜひまたやりたい」と言っていたという報告でした。ほかの現場を知らないのですが、このやり方でよかったのだと思います。私のポリシーとしても、楽しくやらないと、楽しいものはできない。そこに尽きるのかなと思います。

── 制作費は想定以上にかかりましたか?

中西 トータルの制作コストについては、通常の作品より少しお金を掛けている!?と聞いていますが、無事にコストオーバーランなく、予算通りに完成しました。これも我々は一般の基準を正確に知らない中、アニメ制作は、予算からやれることが決まっていく仕組みと考えていたので、予算の中で弊社の作って欲しいものを作っていただきました。その意味では、ある意味「言い値」でお願いしています(笑)。唯一の物差しとしては、制作側を含め、双方がビジネスとして成立するのかどうかの判断でしか見ていません。第1話の最初のカットなんて、ヘリコプターをチャーターして空撮しているみたいなんですけど、私も知らないうちに飛ばしていましたからね。もちろん予算の範囲内のものではありますが、あれ、けっこうかかっているんじゃないかな(笑)。「すごい画が撮れました!」って聞いたとき、アニメなのに、実写映像の何がすごいのかわからないんだけど、、、っていう感想でした。(笑)なので、でき上がったものを見ていたという感覚に近かったですね。さすがにこれは、、、という部分は、脚本含め、実は、少し口を出しました(笑)。


── 自社でオフィシャルショップを立ち上げ、オリジナルグッズ展開などを行なっていますが、配信収入以外にビジネスモデルはどのように考えていますか?

中西 投資した分の回収が第一の目標であり、もちろんそれ以上に売上げ、利益を出していきたいと思っていますが、先ほどの話になぞらえて話せば、アニメの配信や物販のみでこれだけ稼ごうという算段はしていません。今回のプロジェクトは、ゼロから立ち上げるという、ほかにはないビジネスの経験を、私含めて社員への教育的な投資の意味がひとつありました。これは決して座学では身につかない経験ですから。もうひとつは先ほどの不動産価値を上昇させることに繋がる投資ができたととらえています。月並みですが、AKIBAカルチャーズZONEが聖地になって、お客さんと売上が増えれば、回り回って賃料収入になってきますから。その意味で、物販や配信以外の収益の仕組みを作れるのが不動産事業会社の強みでもあります。いちごはAKIBAカルチャーズZONE以外にも、電気街口の「セガ秋葉原4号館」とか、その隣の「ツクモ秋葉原駅前店」(※編注:昨年8月に閉店)とか、秋葉原に複数のビルを持っているので、秋葉原という街が盛り上がることで会社全体にも恩恵がありますから。

── この作品が何枚売れたというレベルではなく、もっと大きいビジネスモデルなんですね。

中西 はい。「秋葉原にお店を出したい」という相談を数多くいただいており、そうしたネットワークを日々広げるのも不動産事業会社の大きな役割です。そうしたお取引先に出向いたときに、自社のコンテンツを持っていれば「この作品とコラボしませんか?」と言うことができます。これは非常に大きな武器になります。同業者、異業種であっても「ぶらどらぶ」があれば、何かビジネスの繋がりが可能になる。そうした意味で、本業においてもコンテンツを持つことの価値は非常に大きいと思ってます。

── 「ぶらどらぶ」製作発表して以来、それを肌感覚として感じていますか?

中西 そうですね。特に集客やイベントにおいて、アニメのコンテンツを呼び込むことで成功した例は多々あります。そして追随したいと思っている事業者が大勢いることも知っていますが、ほとんどのところは、呼び方もわからなければ接点もなくて手をこまねいている状態です。さらに何かコラボをやろうとしても、製作委員会は権利の分担が複雑すぎて、手続きが非常に煩雑です。でも「ぶらどらぶ」は弊社がすべての権利を保有しているので、コラボ相手にも「作りたいものがあったらいつでも言ってください」と言うことができる。これは大きいですよ。

── 作品発表後もコラボのオファーを積極的に受けていく考えはありますか?

中西 もちろんです。むしろ、これまでは本編が世に出る前でしたら、興味はあっても実行はなかなかできないだろうなという感覚があったので、積極的に行ってはいませんでした。これから世に出していくタイミングでは、来るオファーは全部受けていきたいという感覚でいます。特に秋葉原にお店を持っている方とは、より多くの何かをしたいという気持ちはあります。


── エグゼクティブプロデューサーの中西さんから見た本作の魅力とは?

中西 変に深い話をする必要はなく、ただ単純にリラックスをして見ていただきたいですね。押井さんは「繋がっているようで、繋がっていない1話完結作品」という言い方をされていますが、私としては、作品としてやっぱりすべてが繋がっているんですよね。途中第9話で錯綜!?して、私も「大丈夫か?」と思ったのですが(笑)。でも第12話ではきちんと最終回としてまとまっていますし、それを見ると、もう一度最初から見たい、続きを見たいと思わせる内容になっています。それくらい、最終回にメッセージ性が高くすべての要素を詰め込んでいる作品になっているので、ぜひ全話を見たうえで、また最初から見てほしいですね。

── 配信ですと、そのあたりの繰り返しも容易ですね。

中西 もともと、テレビ放送を前提としていないので、A/Bパートを分けていないんです。それは最初から押井さんに伝えていました。これは実際にご覧になっていただくとわかるのですが、それゆえにとってもテンポがいいんですよ。1本見終えたときに、あっという間に終わったと感じられたら、それは楽しめた証拠だと思います。よくも悪くも、押井さんと西村さんが楽しんで作った作品ではありますが、やっぱり押井さんのメッセージ性が強いんですよね。映像作家なのでそれはもちろん映像で表現をされていますが、見た人はそれをどのように受け取るか。そこも楽しんでほしいアニメです。

── 今後、また新たにアニメ作品に携わりたいという思いは?

中西 ぜひ、やってみたいと思っています。実は「ぶらどらぶ」を発表してから、さまざまなお話をいただくのですが、製作委員会の1メンバーとして入ってほしいというものばかりで、それは現状私どもの描いているビジネスモデルとは紐付かないので、基本的には自社でやっていきたいと考えています。ただ、これはケースバイケースのことですので、双方のビジネスにとってよいお話であれば、積極的に関わっていきたいと考えております。

── 押井さんの次回作ということもあり得ますか?

中西 僕としてはあり得ると思ってます。片想いかもしれないですけど(笑)。でも、両想いかもしれないですからね。


(取材・構成/日詰明嘉)
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配信日: 2020年12月18日~2021年3月14日   制作会社: Drive
キャスト: 佐倉綾音、日高里菜、朴璐美、日笠陽子、早見沙織、小林ゆう、高槻かなこ、三宅健太、石川界人、綿貫竜之介、木内太郎、岩崎ひろし、中田譲治
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