グッスマ20年目の新生、その狙いは?オンラインイベント「WONDERFUL HOBBY LIFE FOR YOU!! 32」開催記念、取締役・秋山拓郎ロングインタビュー・後編!

2021年02月07日 17:000

フィギュア入門用にぴったり!「POP UP PARADE」登場

──そして2019年、「ねんどろいど」が1000番に到達しました。

 

秋山 リリース数がすごいことになっていて内部的にはもう1500番まで動いています。「ねんどろいど」を始めた頃は年に10~20体くらいしか作れなかったんですが、体制が整ってフォーマットができあがった時に、年間60体くらい作れるようになって、今はなんと1年間に200体以上作れるようになりました。

 

記念すべき「ねんどろいど」1000番の、「ねんどろいど 雪ミク Snow Princess Ver.」

──2019年は新フィギュアブランド「POP UP PARADE」がスタート。このクオリティのものが3900円で出るんだと衝撃的でした。

 

秋山 「POP UP PARADE」にはポイントは何個かあって、まずは買いやすい価格とそれに対して十分な品質だと思っています。僕の前職がバンプレストということもあって、プライズのフィギュア景品の凄さを経験していました。開発スピードとコスト管理がものすごい。

それに対して僕らはもう少しニッチな工場で、きれいなものだけど手間暇かけて作る。だから時間とコストがかかる。そんな中で中国の人件費の上昇や、いいものを作ろうとすると複雑な造形になることで、どんどん価格が上がっていく中で、20代の若い子とか、フィギュアに興味があるけどまだ買ったことのない海外の人にとって値段が参入障壁になりつつあった。

もちろんどの国にも富裕層はいますし、食べるものも節約してでもほしいものを買うという人もいて、そういう人にはあまり関係ないんですけど、もう少し幅広い層に対してフィギュアに興味を持ってもらいたい。そのためには買いやすい値段に設定する。

POP UP PARADE 竈門炭治郎

それから発売のリードタイムです。約4か月で届きますよと。忘れないうちに届くのって大事じゃないですか。

そして集めやすさです。僕はフィギュアを集める時に「主人公とヒロイン、あるいは主人公と敵キャラしか商品化されないのってつまらないな」と。ホビーだからいろんな人がいろんなキャラクターを好きで、それをできるだけたくさん商品化したいなと思ってて、それをやりたいシリーズとして「POP UP PARADE」を始めました。

清潔感のある製造とお顔を中心にしっかり見どころある造形にするのもポイントです。

グッスマがこのシリーズを始める時に「グッスマがどうして安いフィギュアを作るのか」という質問もあったわけですが、今は数量もついてきて、海外の認知度もどんどん上がっています。僕らとしては「ねんどろいど」に続いてフィギュア事業の軸になるといいなと思っています。

 

POP UP PARADE 中須かすみ

──エントリーモデルとして考えても、ちょうどいい値段ですよね。

 

秋山 ちょうどいいと思っています。あと「ねんどろいど」って、非常にかわいいし僕は大好きなんですけど、やっぱりキャラクターを好きになって最初に買うのが、いきなりディフォルメだというのはちょっと上級者向けかなとも思うんですよね。好きなキャラクターがそのままの姿で、数か月我慢すれば手元に届くという体験をしてもらいたかったんです。

そして注文すれば必ず買えると。そういうフィギュアがほしかったので、このシリーズをやっています。

 

コロナ禍におけるグッスマの取り組みとは

──そんな中、昨年の2020年はコロナ禍の1年で、中には倒産してしまうメーカーもありました。しかし、後半に入るとホビーに対する需要が急激に増してきました。

 

秋山 そうですね。すごもり需要の中にホビー、エンタメってしっかり入ってるなと思いました。このコロナ禍で、どうしても自分のスペース、机周りとか画面の周りで楽しむという必要性があるというかそうせざるを得ない。その中でエンタメ作品を楽しんだ後に、こういうフィギュアを中心とした関連商品を買って、それが届いて楽しむようなスタイルは非常に強いですね。

 

──グッドスマイルカンパニーとしてはどんな1年でしたか?

 

秋山 昨年は全体的には春過ぎから回復しました。1月、2月はそこまでコロナがひどくなかったんですが、2月下旬からコロナの影響がひどくなってきて、まず中国の工場がピタッと一定期間止まってしまいました。このまま止まり続けたら大変なことになると思っていたんですけど、中国の対応が早かったので5月には通常に近くなっていました。

地域によってはまだまだ流通や店舗が大変な状況ですがなんとか復調してくれるよいですね。

その中で僕らの会社もテレワークに移行せざるを得なかったのですが、ものづくりの仕事でテレワークって鬼門なんですよ。対面で実物を見て話していた人たちが、いきなり実物を見ないで話をすることになるわけです。

ただ、テレワークの始まる前の2月くらいから、社内のコミュニケーションを「Slack」のチャットベースに切り替えてて、すごくそこはラッキーでしたね。それまではメールと対面の打ち合わせが中心だったので、風通しのいい会社のつもりでしたけど、やっぱり情報はそれぞれ分断されていたんですね。それをSlackなどでできる限りオープンな状態にして、今、社内ではどんな案件が動いているかの情報を各々が見つけたり予測して動くように2020年の1年をかけて変わって来ているかなと思います。

どうしても制作であったり、商品を見るチームはテレワークに限界がありますし、新しい事業の起ち上げや、新人指導というのは対面でないと難しいところもあるので、必要最低限の出社はしてますがそれ以外の管理面とかはオンラインで完結できるようになっていますね。

でも2020年はその移行に慣れる時間も必要で、年間の商品展開ペースは例年よりもちょっと落ちてるんです。やっぱり最初からすぐにうまくいくわけではないので。ただ2020年の後半になるとそれにも徐々に慣れてきて、オンラインのミーティングとか、対面で誰かにいちいち聞かなくても情報が管理できるような方法論が身についてきたので、2021年はかなり例年に近いペースで商品が出せるかなと思います。

2020年は新しい体制、新しい世の中に慣れる時期であると同時に、改めてホビーの強さを感じることのできた1年だったので、今年も遠慮せずに「こういう商品もいいでしょ」というメッセージをどんどん打ち出していきたいです。

 

──ユーザーのホビー需要について、改めて感じたことを教えてください。

 

秋山 ホビーは強いと改めて感じました。コロナ禍の中において、ユーザーのホビー需要はむしろ上がっているのではないでしょうか。僕はときどきフィギュアのコストパフォーマンスを考えます。いわゆるコンソールゲームって8000円くらいで4~50時間は遊べますよね。それ対してフィギュアって15000円くらい払ってどれだけ遊べるんだろうって思うんですよ。新情報が出るまで待ってる時間とか、商品が届くまでにポイントポイントで遊べる要素はあるんですけど、フィギュアって実際に届いたあとは箱から出してひと通り眺めたらそこで終わることもある。もちろんその後、ずっとショーケースの一番いいところに置いてあるんですけど。

そう考えるとユーザーの作品への忠誠や愛着心は映画を見たりやゲームをすることで満たされるのかなと思ったりもするんですけど、こういう状況になって、イベントも無くなったり人と会ってなにかするという機会もだいぶ減ってしまいましたが、フィギュアなどの関連商品を買うことで作品への愛着が深まったり、それをきっかけにコミュニティとつながったりすることが増えているのかなと思います。

 

※「ワンホビ32」公式サイトより

新体制で臨む「ワンホビ32」! そこで見せたいものとは

──そして「ワンダーフェスティバル2021[冬]」が中止となり、「ウェブワンフェス」として開催されることが発表されましたが、グッドスマイルカンパニーは独自に「WONDERFUL HOBBY LIFE FOR YOU!! 32(ワンホビ32)」が開催されることになりました。

 

秋山 ワンフェス自体は僕らの会社でも重要な意味を持つイベントでした。大きな締め切りでもありましたし、お祭りの場でもあったし、新商品のお披露目会だし。そこで新しい刺激とエネルギーをもらえる場だったけれども、それがなくなると、業界も会社の中も肩透かしになる印象ですよね。

でも作っているものは披露したいし、ワンフェスが開催されなくてもホビー業界はまだまだ盛り上がれますよということを打ち出したくて、自分らで用意することを決めました。

また同じくして、コロナの影響を受けてリモートワークを始めたころから、オンラインのイベントというものを、また無邪気にやってみたりしていたので、その経験を活かしてみたい気持ちもあったんですよ。

こうしたらもっと楽しいんじゃないかということを試したかったし、みんなに見てもらいたかったんです。そうすると、やっぱり次のワンフェスまで待つという必要はないなと。

だからちょっと新しいこともやろうとしていまして、それを楽しみにしてもらえればなと思っています。

 

──今回ステージイベントは開催されるのでしょうか?

 

秋山 さすがに出演者の方のことを考えると、今回はステージイベントを開催できないのですが、業界関係者や僕らスタッフが出演する生配信番組を用意します。それとオンライン会場でより見やすくしたいので、そこも工夫していこうかなと思っています。1月に開催した「THE合体展」が良い手応えだったので、そこからさらに改善できればと思います。

情報出しにしてもちょっと工夫をします。ワンフェスの時って当日にどのメーカーも新商品をドカーン!と並べて、それが1日でほぼ過去情報になっちゃう。せっかく数か月かけて用意してきたものがたった1日で消費されるのはもったいないと思うので、それを何回も話題になるようにしたいし、何度も見れるような形にしたいと思っていたので「ワンホビ32」は新作情報出しを分けたり、オンラインで1週間以上見られるようにしようと思います。もちろん多言語対応して海外の人も見られるようにしています。

 

──オンラインイベントが増えて何がいいって、地方や海外の人もいながらにしてイベントに参加できるようになったことだと思います。その代わり、物販を楽しむというイベントならではの体験は再現しづらいとは思いますが。

 

秋山 モノを買う楽しみというのもしっかり作りたかったので、オンラインのキャンペーンも連携します。なので、オンラインで商品を見てもらって、いかにそのまま買ってもらえるかが重要な試みとなります。もう今後は会場で並んで買うという行為も少なくなるかもしれませんね。

そして、今回やりたかったことが「ねんどろいど」、「メカスマ」、「POP UP PARADE」、それからスケールフィギュアの各ブランドをそれぞれゾーニングして、各ブランドチームがやりたいことをしっかり形にするということです。

今までは商品ごとにどう見せるかにフォーカスして展示をしていたのですが、ブランドごとに演出を考えてもらいそれを形にすることが社内的なチャレンジとなります。結果的に、今までのワンフェスのワンホビブースよりもさらに特徴の出た展示になっていると思います。

 

──これまではあまりブランドごとに特徴を立たせなかったのはあえて、でしょうか?

 

秋山 あえてではないですね。やはり、まだまだ僕らは会社としては若いというか、役職の兼任も多いんです。少ない人数で効率的にすすめるために分業制というか、企画が考えたことを宣伝が受け取る。制作が作ったものを製造が受け取る。みたいな、形でやっていたんですが、今回はさまざまな部署から各ブランドチームに参加してもらい、一緒になって考えてもらいました。

例えば「ねんどろいど」のブランドチームの中には企画もいれば、宣伝もいるし営業もいる。各自に、自分のことのように「ねんどろいど」をどう見せるかということを考えてほしかったんです。営業からは売れ行きを踏まえた意見が出るでしょうし、宣伝からは話題になりやすい方法が提案されるかもしれない、企画からはこの後こんな商品がありますなどなど、それらを合わせて展示や演出を考えてもらいました。それがワンホビ32でみなさんに届けばいいと思ってます。

 

──グッスマの社内体制をがらりと変えて臨む最初のイベントになるわけですね。

 

秋山 そうですね。今までだと、極端に言えば制作チームは原型を間に合わせるのがゴール、宣伝チームはイベントが無事に終われば成功でした。でも今回のワンホビ32は、その結果ユーザーがどう反応したか。それが将来の各ブランドにどう影響するか、までを見ることになります。

 

──オンラインイベントになると、そのあたりの数字もシビアに出てきますよね。

 

秋山 いやー、そこは怖いです。あとは社内ではブランドチームがたくさんできて、かかわりがふえたことで業務が増えたともっぱらの評判です(苦笑)。

 

──ある意味、会社起ち上げのごった煮感を再び取り入れたような感じですね。

 

秋山 そうかもしれません。テレワークやコミュニケーションツールが変わったことで事実、社内はごった煮のようになっていると思います。部署ごとの縦割り感が減りました。今後はそこから何が生まれるか。それは、これから1~2年後に見えてくるのかなと。

 

──なるほど。2021年はグッドスマイルカンパニーが新生する、セカンドバースデーのような1年になりそうですね。でも創業から20年経って、また一から会社を作り直していくような施策は英断だと思います。

 

秋山 効率化を続けていくと、どうしても角が取れてくるじゃないですか。だから新しいことをやりたいって言う気持ちは定期的にわいてきますね。

この施策を始めたのが昨年の10月からで、その効果は少しずつ出ていると思います。最初からワンフェスを一つの目標にしていたんです。ブランドチームを始めました、集まりました。でもわかりやすい目標がないと、チームってなかなか動きづらいできないじゃないですか。だから10月から始めて2月のワンフェスで一つの形にする、いいタイミングだったんですよね。

今回、結果的にワンフェスはこういう形になりましたけど、ワンホビ32では各ブランドチームが数か月考えて仕込んできたことが形になって出てくるので、そこに注目してほしいと個人的には思っています。

 

創業から20年を経て、なおも変化し続けるグッドスマイルカンパニー。大きな変革を迎えたこの節目に開催される「ワンホビ32」では、どんな発見があるのだろうか?

アキバ総研では引き続き、新商品やイベントの様子をレポートしていく予定だ。引き続きお楽しみください!

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