グッドスマイルカンパニー20周年を振り返る! オンラインイベント「WONDERFUL HOBBY LIFE FOR YOU!! 32」開催記念、取締役・秋山拓郎ロングインタビュー・前編!

2021年02月06日 17:000

インターネットの隆盛による影響とミクの出現

──2008年に「ねんどろいど 初音ミク」が発売され、10万個以上の大ヒットとなります。

 

秋山 いまだに一番売れているキャラクターが初音ミクです。スタンダードな「初音ミク」「初音ミク2.0」だけでも非常に売れてますし、初音ミクのいろんなバージョンを含めると膨大な数が売れています。当時、うちの企画担当が「今めっちゃバズっていて面白いし、何よりかわいい!」と盛り上がっていたんですが、ちょうどこの時に版元のクリプトン・フューチャー・メディアのプロデューサーさんが札幌から東京に来られていて、「ねんどろいど」を知っているということでうちにも遊びに来られたんです。その時に「ねんどろいど」化の許可をいただいたんですが、ちょうどその後からめちゃくちゃ商品化の連絡が殺到したそうです。

 

ねんどろいど 初音ミク

──ミクのブレイク寸前に許諾を得られたんですね。

 

秋山 寸前か、直後か。いずれにせよすでに人気はブレイクしていたと思いますけど、超メジャーになる直前でした。その当時は、企画から発表まで3~4か月くらいかけていましたが、この時は2か月くらいで発表しました。

 

──「ねんどろいど」というと、各パーツの規格を統一することで生産効率をあげていると伺ったことがあります。そのおかげで生産のスピードがあがったり、以降のフィギュア製品に何かしらの影響を与えたと思いますか?

 

秋山 規格統一の恩恵としては、スピードというよりは作れる人を増やすという側面と、品質、プレイバリューを統一するという側面が強いと思います。そうすることで商品点数が増えます。またユーザー目線だと顔の差し替え、パーツの差し替えが共通化することで、シリーズをまたいで遊べるということ。買って飾るだけでなく、遊んで飾れるという要素が増えました。

そこにインターネットがあたりまえの時代になり、デジカメが安くなったり、ブログ、Twitterといったコミュニケーションツールが出てきた影響が大きいです。

今でこそ当たり前になりましたが、自分が買ってきたフィギュアを写真に撮ってシェアするみたいな動きが出てきて、ちょうどその最前線に「ねんどろいど」がいたような気がします。

インターネット、デジカメ、ブログやTwitterなどのSNSの普及は、フィギュアのクオリティをグワッと押し上げた要因の一つだと思います。当時はスマホはまだなく、PCで画像を見るのが主流で、僕らのフィギュア商品も発売されたら、それがものすごいアップでブログに掲載されるんですよ。つまり、嘘がつけないんです。

そのため、発売前の、いわゆるデコマス(デコレーションマスター、工場用の彩色見本)と、実際の製品のクオリティをほぼ同じにするメーカー努力がとても必要になりました。

 

──昔は実際の製品と、パッケージの写真がちょっと違うなんてのはよくありました。

 

秋山 そうですよね。今でもうちも各メーカーさんも、箱に「※商品は試作品です。実際の製品とは若干異なります。」というような文言を必ず入れてるんですが、それでもできるだけ同じ状態で出すようにがんばっています。

 

──グッドスマイルカンパニーがホビーメーカーとして成長していく時期は、ちょうどインターネットがメジャーになり、どんどん社会に浸透していく時期とシンクロしていますね。うまく時流に乗れたというか。

 

秋山 ただ、次にこういうものが来るだろうと読んでいたというよりは、ユーザーが何を思ってるか知りたいし、僕らがどんなことをするのか知ってほしいというような要望が最初にあって、その手段としてインターネットを使おうとしていた面があります。TwitterのようなSNSが出てきた時も、「これは面白そうだから使おう」とか、やっぱり伝えたいことがあったり「知りたい」という欲求が先にあって、そのための手段としていろんなものをうかつに、無邪気に利用していました。あまり深くは考えていません。

 

──その無邪気さの象徴のようなものが、個人的にはGTレース参戦じゃないかなと思います。

 

秋山 本当にうちの社長って面白くって、めちゃめちゃ車好きではあるのですが「好きが高じてレースに参加した」わけじゃなく、レースが好きなある方から、レースは金がかかるけど、どうしたらうまくいくかなっていう相談をもらったことがきっかけなんです。そこで、「レースのファンとオタクって近い熱量」だということで、キャラクターを応援するという行為とレースを一緒にしたら面白いじゃんということで、レースカーにキャラクターのイラストをラッピングして痛車にして、企業スポンサーと個人スポンサーを募ったんです。皆さんもチームの一員として15000円のスポンサードをお願いします。そしたら5~6000円相当の「ねんどろいど」をお渡ししますし、残ったお金はチームで使わせていただきますと。

 

 ※ワンホビ公式サイトより引用

 ※ワンホビ公式サイトより引用

──それって、今で言うクラウドファンディングですね。

 

秋山 ほぼ一緒ですね。それを12年くらい前からはじめました。ただひとつ違うのが、資金が集まろうが集まるまいがレース参戦は決まっていたので、ダイレクトコマースの要素も強いと思います。

面白いのが、上級者向けの高額なコースというのを設定して、この購入者の方にはレース中にピットに入れたり、チームのお手伝いができる。ようは雑用をやってもらうわけなんですけど(笑)、本当にチームの一員になれるという実感があるわけですから、それはすごく正しいし、こんな喜びはないと思います。

 

──グッドスマイルカンパニーさんの基本スタンスは、ファンも巻き込んでいくことなんですね。

 

秋山 そうです(笑)。巻き込みたいと思ってますし、ファンの動向がすごく気になります。原型や彩色見本を公開した後に修正要望のコメントが多いと再度修正して出し直したものもありました。

 

──やはりファンを裏切れないという責任感もありますよね。

 

秋山 ただ、何か言われたら絶対に対応するというわけではなくて、コメントの内容を精査して、確かにそうした方がよくなるよねとか、そっちの方がキャラクターの性が出るよねってなったら対応するようにしています。



新たな才能の発掘とホビー業界への貢献

──2010年にフィギュア原型師を発掘する「スカルプターズトライアウト」がはじまります。起業して10年経ち、そろそろ新たな才能を発掘、育てねば、という意識からでしょうか?

 

秋山 育てるというのもありますが、フィギュアを作れるキャパシティが全然足りてないという事情がありました。フィギュアを買う人は右肩あがりで増えていたんですが、作る人が全然増えてなかったんです。

ガレージキットと商業原型師、さらにメーカーで原型を作るのって、もう全然内容が違っていて、そこに対して「メーカーの原型師ってどんな職業で、どんな技術レベルが必要なのか、どう育てられるのか」ということが、全然業界で知られていなかったので、そこを開示しながら、やる気がある仲間を増やそうというところから始まりました。

トライアウトでは毎回、テーマに対しての制作物を応募してもらいます。まず一次選考にかけるんですが、1次選考から2次選考に進む時に、「こうしたらもっとよくなります」って修正指示を出すんですよ。そこで必ずコミュニケーションが発生し理解が深まります。本人にとっては「こうやったらもっとうまくなる」という技術の習得にもなるわけです。だから、1次で落ちた方にも「ここをこうしたらもっとよくなる」というコメントを全てにつけてお戻ししています。そうすることによって「次はこうしてみよう」とか「ここを改善できるよね」とやる気を出してもらってまた応募にチャレンジしてほしい、それが僕らの基本的な考え方です。

 


スカルプターズトライアウト&フィニッシャーズトライアウトのページ

──自分も編集者をやっているので、よくわかります。

 

秋山 もちろんすごい魅力的な作家性を持ってらっしゃって、すでにファンがいて、認知度も高い方もいらっしゃいます。そういう方にフリーランスとしてお仕事を依頼することも多いです。

 

──ちなみにフィギュアの原型を作るのと、ガレージキットを作るのって違うんですか?

 

秋山 違うと思います。ガレージキットは好きが高じて作っているもので、メーカーが作るフィギュアはあくまで商業品なわけです。

フィギュア原型において、キャラクターの特徴を出して、かつ美しい造形というのは当然なんですけど、そこに製造を考えた制作過程が必ず入ってきます。例えば今はそんなにないんですけど、ガレージキットだと首から下が一体となったパーツを作ったとしても、それだと脇の下をどうやって塗るのか、細かい模様をどうやって塗るのかという問題がありますが、個人が頑張って工夫して塗装しよう!となります。

一方メーカーの原型では、肌色は成型色を使って自然な色合いにしたいから分割、髪の毛の細かい房が大事だからそれぞれ分割、といった具合に、製造しやすさや製品の仕上がりを考えながら原型を仕上げていくということが、必要な技術になってきます。

 

──ユーザーとしては造形がすごい、ディテールがすごいというところに注目が集まりがちですが、製造で再現できるかという点にこそポイントがある。

 

秋山 そうですね。クオリティを出しやすいように作ります、ということですね。あとはフィギュアはユーザーの手元に届いた時に全部を観られると僕らは思っているので、360°破綻のない造形ときれいな製品であるということも大事にしているところです。写真のベストショット一発で勝負しようとは思っていません。高解像度な造形と製造は、フラッグシップとなるスケールフィギュアで僕らがテーマにしているところです。

ちなみにトライアウト企画は今も続いていて、今は塗装する「フィニッシャーズトライアウト」というものもやっています。

 

──継続的にやることで、作り手側の底上げもされている実感はありますか?

 

秋山 当初に比べてだいぶレベルが上がっています。業界全体の技術の底上げに貢献できているといいなと思っています。ちなみに、毎年一人から二人ほど、トライアウトから制作部の仲間に迎え入れています。

 

──2010年は『ブラック★ロックシューター』を展開しました。アニメDVDを雑誌付録にしたり、イベント会場で配布したりと、いろんなところで配ってましたね。

 

秋山 配りましたね! このころはまだあまりアニメ制作にかかわっていなかったのですが、当時、ニコニコ動画に現れたイラストレーターのhukeさんと、そして後にsupercellとして活動されるryoさんが作られた楽曲のPVがめちゃめちゃカッコよくて、とにかくバズっていました。ぜひ商品化をさせてほしいとお話をした時に、安藝がもっとこの作品を知ってもらうためにはどうしたらいいかと考え、コンテンツをフリーで配布しようとなりました。

無料だと、水が低いところに流れるように至る所にコンテンツが広まっていくと思うので、その広がりと一緒に僕らの商品も広がっていけば良いということで、まずは映像作品を無料配布しました。

 

 

──その発想はまさしく今、多くのキッズアニメが実践しているYouTubeで映像を無料配信して子供たちに知ってもらうという戦略と同じですよね。これまた10年早い取り組みですね。

 

秋山 フィギュア企画は大成功でした。そもそも『ブラック★ロックシューター』はデザインやキャラクター性が素晴らしいので、無料配布のアイデアがいいか悪いかは別として、たくさんのフィギュアを作らせていただきました。

そして何よりすごいのが、アメリカにも中国にも台湾にも、世界中のどこにでもファンがいるんです。いまでもファンは根強くて、10周年記念のフィギュアを発表したんですが、こちらもかなりご好評いただいております。

 

※ワンホビ公式サイトより引用 

※ワンホビ公式サイトより引用 

世界とつながるグッドスマイルカンパニー

──折り返しの2011年にたどり着きました。この年は東日本大震災が発生し、日本全土に大きな衝撃を与えました。

 

秋山 直後に安藝から話があがって、フィギュアを買っていただくことで被災地に送る義援金を募る「Cheerful JAPAN!」を起ち上げさせていただきました。これはとにかくスピードが必要だったので、版元さん、工場にも協力してもらい、「初音ミク」から始まりました。とにかく元気になってもらいたいので明るい表情や応援道具のパーツを新しくつけて、毎月1商品ずつ出すというのを1年間やろうということでスタートしました(本企画はその後も継続)。

 

ねんどろいど 初音ミク 応援Ver.
 

──震災が発生して2か月後には商品が発売されていました。

 

秋山 なかなかこういう企画は素早くはできないんですが、2008年の「初音ミクをいますぐやらなきゃ!」というスピード感に近い動きができました。3月11日の震災直後は社内もバタバタでしたが、3月中旬にはこの話をはじめて、すぐ版元に相談をして、そのタイミングですでに追加パ―ツの原型を作り始めて、4月中旬には塗装をして撮影して発表、5月に発売でした。そこには商品も義援金もすぐに形にとして届けられた方がいいという考えがありました。

 

──グッドスマイルカンパニーが10年間積み重ねてきたものが、ここで一つ結実した感はありますね。

 

秋山 そうですね。企画のスピード感と展開の範囲がすごく広くなった印象がありますね。

この時は海外からもかなり購入していただきました。海外の日本アニメのファンの方たちの間に日本を応援したいという気持ちが強く、そこに対して彼らに選択肢を示してあげられたのはよかったかなと思います。

あとはオタクの人やギークの人にとって、ただ募金をするよりも物を買う、オタクグッズを買うことで募金につながるという方が気持ちが動きやすいし、気恥ずかしくもなかったと思います。物として形に残るし。

 

──同年、ウルトラスーパーピクチャーズが設立されました。

 

秋山 この頃から本格的にアニメ制作に参加し始めました。うーさー(宇佐義大)が合流したのもこの頃でして、今はもうコンテンツ事業部の責任者として活躍されています。

 

──コンテンツそのものにかかわり始めたわけですね。

 

秋山 うちにとってはやはりコンテンツそのものが大事で、コンテンツの人気や寿命を固定化、長期化させる一つの手段がフィギュアを含むキャラクターマーチャンダイジング、キャラクター関連商品だと思っています。特に濃いファンにとってフィギュアというものが象徴というか、ある程度高いお金を払って買ったグッズに対して、なかなか自分でそれを否定することってできないじゃないですか。

それにずっと大事に眺めていたいし。そうすると、そのフィギュアを通して作品との接触時間ってものすごく増えてきます。

例えばコンビニで数百円のグッズを買って、開けて、眺めて終わりというものよりも、まず商品が発表されて、色がついてない試作を見て、数か月後に色がついたものを見て、予約を開始して、さらにそこから数か月待ってやっと家に現物が届く。この期間に、少なくとも何度かタッチポイントがあるので、お好きな方には思い入れがより深まる。

フィギュアには、ただ買うだけでなく、そこにたどり着くまでのストーリーがあるんですよね。僕も好きなことをする時は、その準備をしている時間すら楽しいのですが、そういう魅力がフィギュアにはあると思います。

 

──ワンフェスのようなイベントも、定期的に開催されることで原型から完成までを、追いかけていく感覚があります。

 

秋山 そうです。僕らとしては、プロセスを見せながらユーザーの反応もチェックできるとうメリットがあります。

 

──同年は中国・上海に「グッドスマイル上海」が設立されました。海外展開も本格化し始めたということでしょうか。

 

秋山 海外展開自体はずっとやっていたんですが、2000年代というのは海外の人からするとどこで買えばいいのかわからないというのと、海外のイベント会場で売ってるものって、たいていは海賊版という時代だったんですね。個人が並行輸入するフィギュアだと定価の2~3倍は当たり前でしたし、安いものを買うと偽物だったりしたので、ある程度の手間やコストはかかるけど、正規の商品を、ちゃんと流通させることを意識してやってきました。そこで、いよいよ中国の市場が勢いづいて、ユーザーがお金を使い始めているけど、海賊版が蔓延していて、どうやってビジネスをしていいかわからないというところに、「グッドスマイル上海」というグッドスマイルの名を冠した現地法人を作り、信用してお取引を始めましょうと。

ただ、10年前の中国での商売はかなり難しい状況でしたね。今でこそ携帯が普及して電子マネーとかありますけど、当時はそこまでではなく、お金の回収についても、国があれだけ広くて、いろんな人がいろんな事を言うので、いつ逃げられるかわからないし、明日はどうなるかわからない…。みたいな。当時はですよ!

 

「グッドスマイル上海」公式サイト

──わははは(笑)!

 

秋山 あと、どの街に行っても「この地域では私が一番の問屋だ」ってみんな言うんですよ。

 

──当時の中国って、まだまだ前時代の匂いが残っていたんですね。そんな中、グッドスマイルカンパニーはどう対峙していったのでしょうか?

 

秋山 やっぱり僕らの商品は高いんですよね。中国の経済事情も、富裕層は多かったんですが今ほどではなかったので、正規品の購入は簡単ではなかったし、海賊版を撲滅することも難しかったんです。工場とイタチごっこになるし、怖い人たちが絡んでいることもあるし、なにより海賊版のほうが取り扱っている店舗が多かった。

ならば、我々としてはやはり正規品のよさを伝えた方がいいと判断しました。塗りもきれいだし、ディテールもしっかりしてるので、こちらの方がいい製品ですよというのをきちんと伝えて、本人たちに選んでもらうという道を選びました。

そうすると皆さん正規品を買ってくれるようになって、今はかなり海賊品はなくなっていると思います。中国の方が、本物を欲しがるようになってきたこともあります。とはいえ買い慣れていないユーザーが、安い海賊版を買ってしまうことはまだまだあるんですが、ここ10年で海賊版に対する考え方についてはだいぶ啓蒙できたと思っています。

 

紆余曲折を経てホビーメーカーとして成長を果たしたグッドスマイルカンパニー。
10周年を経た2010年代はどのように変化していくのだろうか? 後編もお楽しみに!

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