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とある科学の超電磁砲
中国におけるオタク像、オタクの活動を模索する段階が終わり、次の段階に進む際に中心となったのが、「とある科学の超電磁砲」と、そのヒロインで中国では「炮姐」のあだ名で知られている御坂美琴です。
中国における御坂美琴の人気、アイコンとしての存在感はすさまじいものがあり、作品の人気が中国で爆発してから10年以上経った今もなお中国では二次元における代表的なヒロインとしての地位を保っているという話です。
そしてこの作品は、現在の中国の二次元文化の中心で毎シーズンもっとも多くの日本の新作アニメを配信している動画サイト「bilibili」が拡大する際の原動力となった作品でもあります。
まだ本格的な商業化路線への舵を切っていなかった頃のbilibiliは、ユーザーの投稿する動画(「権利的に明らかにアウト」なものも少なくありませんでしたが)でにぎわっていましたが、そこでこの「超電磁砲」のMAD動画が大人気のコンテンツとなっていたそうです。
中国のオタクな方の話によると、中国のオタク界隈では「超電磁砲」などのMAD動画から作品をただ見て消費するだけでなく、自分たちの手でいじって楽しむ、加工する素材としての面白さを求める動きが盛り上がっていったそうで、「超電磁砲」は中国のオタク層の拡大期における素材的な面も含めて、中心となるコンテンツ、活動のシンボルといった存在でもあったのだとか。
ちなみに「超電磁砲」の人気は現在の中国でも健在なようで、2020年に始まったアニメ第3期の「とある科学の超電磁砲T」は、正規配信が行われているbilibiliにおける再生数が1億を超えるなど、新型コロナの影響による中断が発生しながらも高い人気や話題性を発揮している模様です。
ソードアート・オンライン
中国でも、日本の「軽小説」(ラノベ)を原作にしたアニメは常に一定の需要があるようですが、
「ソードアート・オンライン」は、現在の中国で、もっとも知名度のあるラノベ原作アニメのひとつです。また日本の「軽小説」ジャンルにおいて、中国で最初に大人気になった日本のネット小説出身の作品で、現在も続く息の長い人気を獲得している作品でもあります。
「ソードアート・オンライン」のアニメは、当時の中国にイロイロな衝撃や影響を与えたそうですが、なかでもアニメで表現された「ゲームの世界に入る」という内容が、当時の中国では結構な驚きだったという話がありますし、日本的ないわゆる「俺TUEEEEE系」主人公の存在を知らしめたという話も聞きます。(中国のネット小説にも「龍傲天」といういわゆる「俺TUEEEEE」的な主人公を指す言葉はあるのですが、やはり細かいところで日本との違いがあるとのことです)
また、「ソードアート・オンライン」は、中国のネットできちんとした形で正規配信された初めての日本のアニメでもあります。「ソードアート・オンライン」以前にも、「Fate/Zero」などの中国で注目されていた作品に関する中国本土向け配信の動きはあったものの、現地の制度やシステム的な面などから安定した形で正規配信を行うのは難しかった模様です。
そして、この「ソードアート・オンライン」の配信の成功によって形成された配信フォーマットが、その後の中国本土における日本の新作アニメ配信に大きな影響を及ぼすことになりました。
現在の環境では、中国の制度やコンテンツに対する規制、視聴者の外国産コンテンツに対する態度などから、中国に進出する日本のコンテンツに関して日本側でコントロールするのは非常に難しく、コスト的にも割に合わないといった状態になっています。
そのため現在では、日本のコンテンツが中国に進出する際には、日本側はコンテンツの提供のみと割り切って、管理運営や内容に関する自主規制や修正、違法コンテンツ対策などに関しては、配信を行っている現地側に任せてしまうというのが、比較的低いリスクで安定する手法になっている模様です。
艦隊これくしょん -艦これ-
「艦隊これくしょん -艦これ-」は、中国に進出した作品ではありませんが、中国の業界に対する影響という点に関しては近年もっとも大きな影響を与えた作品かもしれません。現在も拡大が続き、国外への展開も行われている中国のソーシャルゲーム業界における有力なジャンルのひとつに「ミリタリー系擬人化」がありますが、このジャンルは実質的に日本の「艦これ」の影響から始まったジャンルと言えるそうです。
メカを装着する美少女という組み合わせに関して、中国では「艦これ」以前にもガンダムの「MS少女」などのファンがいたそうですが、「艦これ」以降は完全に別物な勢いで、瞬く間にジャンルが確立されていったそうです。
この辺りに関しては、「艦これ」から広がっていった、女の子が武装をきっちりと装着するのではなく、装備を載せる、装備を外せば普通の女の子になる、というデザインによるところも大きかったそうです。このデザイン手法は、中国のイラストレーターにとっても参入や模倣が容易で、さらに女の子の部分を強調しやすく、商業的な発注においても非常に使い勝手のよいものだったという話があります。
また上述したように、中国では軍事関連の話題が非常に身近なものとなっていることから、美少女とミリタリーの組み合わせは、さまざまな層にとって興味をひかれるものであり、遊ぶ際にミリタリー要素が美少女(と、お色気要素)目的というのをごまかす「口実」にもなる題材だったそうです。
元ネタの「艦これ」のほうではあまり目立たなくなっているお色気要素が、中国のミリタリー擬人化ジャンルでは強調され、ジャンルが発展する原動力になったという見方もあるのだとか。
中国ではポルノ系コンテンツは御法度ですし、ポルノ的な内容に関する判断基準も厳しいものがあります。日本でたとえるならば、青年向けになるようなコンテンツも基本的には存在しないことになっています。
そんな一般向けと違法に出回る成人向けコンテンツしかない、逆に言えばグレーゾーンが広く明確なガイドラインが存在しない中国において、ソーシャルゲームなどを始めとするさまざまな分野が、お色気要素という強力な武器も備えたミリタリー擬人化ジャンルによって成長を続けていった、後発のコンテンツもお色気要素を武器にするようになっていった……などという側面もあるとのことです。
Fateシリーズ
「Fate」シリーズは、
「Fate/Zero」と
「Fate/Grand Order」によって中国に対して2回大きな衝撃を与えていますが、単体の作品ではなくシリーズとしてまとめて扱わせていただきます。
まず
「Fate/Zero」は、2010年代前半の中国で大人気となり、中国のオタク界隈全体で男女問わず大人気になった作品です。当時の人気はすさまじいものがあり、中国の若者向けコンテンツやイベントなど、さまざまなところで「Fate/Zero」関連のネタが使われていたという話も聞きます。
そして
「Fate/Grand Order」は、中国版の現地運営も行われて大人気となり、Fateシリーズが日本系コンテンツの看板作品としてさらに強く意識されることとなりました。さらにFGOに関しては、中国経済が娯楽分野に限らずさまざまな分野で減速している昨今の環境において、中国版FGOを運営するbilibiliに大きな収益をもたらしたという点でも、中国のオタク業界に大きな影響を与えた作品となっているそうです。
Fateシリーズはキャラクターの人気が非常に高く、中国国内の作品に対してもさまざまな影響を与えているそうですが、それ以上に大きな影響を与えたのが、作品の舞台や背景の設定だったそうです。現代人のマスターが英傑を召喚してそれぞれの願いをかなえるために争う聖杯戦争というシステムや、マスターとサーヴァントのコンビで戦うというフォーマット、伝説や歴史ネタの活用、クロスオーバー展開などが、当時の中国にかなりの衝撃を与え、さまざまなアイデアや妄想に関する「原典」的な存在となっているそうです。
中国のオタクな方の話によると、中国では一時期Fateフォロワー的な作品がかなり目に付いたそうですし、現在もパクリ疑惑に関して、何かと「Fateのパクリ」というレッテルが貼られがちなのだとか。
「Fate」は、過去の日本のさまざまな作品のオマージュやパロディの集大成的な作品のひとつといった見方もできるかと思いますが、その「Fate」が、中国では人気と影響の大きさから原典的な存在になる、「Fate」がスタート地点になるという人がたくさん出てくるというのは、少し不思議な気分にもなりますね。
以上です。
ここであげた作品に関しては、私と今回のネタに付き合ってくれた古参の中国オタクの方による独断と偏見混じりで選んだものになっております。異論は多々あるかと思われますが、中国オタク的昔話のひとつ程度に受け取っていただければ幸いです。
(文/百元籠羊)