トークイベント「わたしたちのこれから -アニメのおしごと-」、コロナ禍でアニメ業界はどうなったのか? 緒方恵美・独占ロングインタビュー

2020年11月21日 14:000
トークイベント「わたしたちのこれから -アニメのおしごと-」、コロナ禍でアニメ業界はどうなったのか? 緒方恵美・独占ロングインタビュー

コロナ禍で大変な打撃を受けた今年のエンタメ業界。そんな中、声優・アーティストなど幅広く活動されている緒方恵美さんが、「ライブハウスを救え!」という想いのもと、みずからホストを務める配信トークライブを開催した。

「わたしたちのこれから -アニメのおしごと-」と題され、7月末~8月中旬までの3週間、全3回に分けて、渋谷ロフト9にて開催されたこのトークライブには、各回のテーマごとに、緒方さんみずからが声をかけたという、アニメ業界の第一線を走るクリエイターやプロデューサー陣が登壇し、それぞれの立場から、今のアニメ業界の状況や課題などを赤裸々に語った。アキバ総研では、このイベントを企画した緒方恵美さんご本人に、本イベントを企画するに至った経緯や、イベントを終えて想うこと、今のアニメ業界はどうなっているのかなど、ざっくばらんに直球で聞いてみた。

 

なお、本イベントの詳細については、下記の記事もあわせてお読みいただきたい。

 ⇒「緒方恵美とアニメ業界人が、アニメ業界の「今」と「これから」を語りあう配信トークライブ「わたしたちのこれから -アニメのおしごと-」を3週連続開催!」

 

 

「このままでは、ハコが潰れてしまう」という危機感から企画したトークライブ

 

──本日はお忙しいところ、ありがとうございます。先日のイベントは拝見させていただきましたが、このコロナ禍でアニメ業界の皆さんがどのように過ごしていたかをリアルに知ることができ、なかなか意義深い内容と思いました。まずは今回のイベントの企画に至った経緯からおうかがいできますか。

 

緒方恵美さん(以下、緒方) まず今年の3月以降、イベント関連が本当になくなってしまって。私自身も3月だけで7本イベントがなくなり、その後の4~6月も自分企画の無観客ライブ以外は全部なくなってしまったので、「さてどうするか・・・・・・」という感じになりました。今回のイベントの会場となったロフト9さんは、私が作った料理をゲストやお客さんにワンスプーンテイスティングしてもらいながら、ゲストのお話を聞くという「オガタメシ DE オモテナシ」というイベントを月イチでずっとやっていた会場だったんですが、そのロフトさんが今回ピンチという話で、なにか配信イベントでもやってもらえないだろうかというお話を受けたのが、今回のイベントを企画した理由のまずひとつです。

 

もうひとつ、私は声優ですが、クリエイター気質が強いタイプなので、これまでも、いろいろなスタッフの方とご飯などを食べながらざっくばらんに、アニメ業界全体が今後どうなっていくかとか、どうしていくといいかとか、いろんなアイデアを出し合ってきたという経緯がありました。でも、そういうのもパッタリとなくなってしまったので……どうせなら今一番気になっているコロナ禍での業界の話を、仕事としてステージで話しませんかと!(笑)

 

まずはこの話をそんなご飯仲間な皆さんにふったところ、作品単位でスタッフが集まってトークイベントを行うということは割とよくあるけれども、あまり同じ業種というくくりで集まって話をするという機会はないよねと。だったら、もし調整がついたら、出ていただけますか?と言ったら、それはもちろん出ます、と快諾いただいたので、そこを軸に、「この方にお話を聞きたい!」と思う皆様に、勇気を出してエイッとお声がけさせていただき、なんとか調整。最終的に、アニメ制作会社のプロデューサーさん、音響監督さん、アニメーション監督さんというくくりで3名ずつ集まってもらい、今の現場の状況を3回に分けて語っていただくことになりました。

 

──それにしても、出演者の皆さんがそうそうたるメンバーだったので、驚きました。さすが緒方さんがひと声かけると、こんなにも集まるのかと(笑)。

 

緒方 そんなことはないです! 圧は強かったかもしれないけど(笑)。でも、本当にありがたかった。たとえばP.A.Worksの堀川(憲司)さんは、そもそも富山に住んでるし、東京になかなか来られない時にお声がけはさすがにどうかと思いましたけど、会いたい欲が勝ってしまってエイッと思い切って(笑)。6月くらいに東京でも緊急宣言が解除されて、少し制限がゆるんだ、あのときに堀川さんには連絡させていただいたんですが、その後、7月後半になって東京でまた感染者数が増えてきたので、「堀川さん、リモート出演でも大丈夫ですよ」って言ったんですけど、出てきてくださって。本当に恐縮でした。

 

──毎回異なる立場の方が登壇されたことで、同じアニメ業界といえども、立場が違うと、今回のコロナ禍での過ごし方とかとらえ方が全然違うんだなというのが知れたのが、興味深かったです。プロデューサーの方々は、アニメ制作だけでなく、人材教育などの面を憂慮なさっていましたし、音響監督の方々は、まさに今の現場の問題を赤裸々に語ってくださいました。いっぽうアニメーション監督の方々は、存外前向きだったりと、三者三様という感じでした。緒方さんをはじめとする声優の皆さんも、もちろん違うコロナ禍での過ごし方をされていたんだと思いますが。

 

緒方 声優が一番ダメだったと思います。まず初めにイベントや舞台がバタバタとなくなりました。私自身も、それまでやっていたライブツアーが途中で止まってしまったり、舞台芝居も、初日だけお客さん入れて開けたのに、2日目から中止になったりと、大変でした。海外も、今年は、カナダ、中国(上海)、ドイツ、ロシア、そしてアメリカ(ニューヨーク)と5か国に行くはずが全部なくなりました。もちろん私自身もそうですが、私の身近な声優たちも同じ状況です。正直、アニメの声優のお仕事のギャランティーだけではなかなか生活できないので、みんなイベントなどをやることで生計を立てているわけですが、それが全部なくなったので、「どうしよう!」という状況ですよね。あと、個人も大変なのですが、声優事務所も仕事減に加えて養成所が開けられなかった分の返金などもあり、本当に大変なことになっています。

 

──声優さんも本当に今大変ですね。イベント関連で言うと、そもそもライブハウスが開いていないので、ミュージシャンの方々も仕事がなくなってしまって大変なようですし、なんとかして「ハコ」(ライブハウスや劇場など)を守ろうという緒方さんの姿勢には、本当に共感します。すでにいくつか閉店してしまったライブハウスなども出ていますし、本当に切実な問題だと思います。

 

緒方 本当にそうです・・・・・・。ハコもそうですけど、スタッフの皆さんも本当に大変で。今年の2月から3月にアコースティックライブツアーをやっていたのですが、26日の首相宣言を受け、3日後の29日の郡山公演ができなくなってしまいました。そのときは、仕方ない、こういうこともあるよね、とにかく元気を届けよう!と、無料配信でのスタジオライブをやったんですが、それも今は遠く。6月に私のバースデーライブが予定されていたんですが、やめるのは簡単だけど、単にやめるだけでは、スタッフもミュージシャンもハコも死んでしまう。かといってお客様は集められない。どうしたらやれるかと考え、クラウドファンディングで資金を集め、無料ライブ配信という形で実現することにしました。

 

ライブ自体は、一緒にやってきたメンバーなので不安はなかったんですが、PAなどのスタッフも含めて、全員2か月くらい「現場」を踏まない時間があった。リハーサルで集まって音出ししてみた瞬間、「何かが違う」と。おそらく非常に微妙な違いだとは思うのですが、そこにいた全員が「あれっ」という空気になったんです。レコーディングは各自でやっていた。でも生、特に生ドラムと合わせた時の感覚が……プロ中のプロだからこそ気づく微妙な「誤差」みたいなものがあって、そこにいた全員で驚いていました。リハーサル3日目くらいになって元の感覚に戻って安堵したんですが、「やらない期間」が半年とか続いたらどうなっていたんだろうと、ちょっと怖くなりました。

 

──やはり、生で実際に合わせるという時間がないと、そうなってしまうんですね。

 

緒方 でもすぐに戻ったし、やっぱりいつものみんなとライブができる喜びは格別で、もう大丈夫、と本番に臨んだわけなのですが。渋谷の「WWW X」という700人くらい入るハコだったんですが、ステージに立った途端、「そうか、お客さんがいないんだ」「え、私……今日は一体どこを見て歌えばいいの?」ってなってしまった。最初はテレビで歌うようなものだと思っていた。でもテレビの場合は今映っているカメラにランプが点くので、その向こうにお客さんがいると思えるんですが、ライブ配信用のカメラはそれがない。いつものライブでは、お客さんをガン見しながら、言霊をぶつけにかかる(笑)のですが、今日は、いったいどこに向けて……?と、わからなくなってしまったんです。

あと、無観客ライブといいつつ、実際には配信スタッフやマネージャー等含めいろんな関係者が50人くらい客席に来ていたんですが、配信だから音を立てないようにと、静かに見ているわけです。特に演奏が終わった時に、逆に身構えてシーンとされる。バーンと歌い終わって「やった!」と思った瞬間に、むしろ静寂が訪れる。普通だったら、「ワーッ!」とか歓声が上がったりするところに、空間中の音が「シュッ」と消えて閉じていくーーーこれが本当にキツくて。ライブというものはいかにお客様ありきでやっていたのか、お客様に乗せていただいて、私はここに立たせていただいていたんだということを、その日に痛感しました。もう、無観客配信は辛い、と。やるならせめて、そこにいる関係者の人たちにも、イエ-!とか声出してくれと(笑)。

 

そんなことがあったので、音楽配信ライブの開催は難しい部分があり、その後もどうしたらいいかずっと模索し続けているんですが、いっぽう、トークライブであれば、なんとかなるかもしれないと。3人いればクロストークが成立する。コストを考えれば、出演者は少ないほうがいいわけですが、ここはそれより、業界に精通していて、お話が上手なゲストに少なくとも3人お集まりいただき、MC兼アシスタントとして儀武(ゆう子)さんにいてもらえば、きっとすごく盛り上がる。見ている方も満足していただけると思ったので、この形でやらせてもらいました。

 

 

コロナ禍では現場で技術を盗めない。若手の育成が大きな課題

 

──今回トークライブをやってみて、緒方さんの印象に残った話やキーワードなどがあればお聞かせください。

 

緒方 今回私がお声がけさせていただいた皆さんは、もともとすごくポジティブで、仕事に対してもアグレッシブに向かわれていかれる方ばかりですが、そんな皆さんが、それぞれの立場で、今後どういうふうにやっていくのかをしっかり考えていらっしゃる様子がうかがえたのが、とてもよかったなと思いました。どなたも共通で言ってたのは、今の状態では、人を育てることができない、そしてプロモーションができないという、この二大問題のウェイトがかなり大きいということでしたね。

 

──「現場で先輩の仕事を見て、技術を盗む」ことができないと、皆さん同様におっしゃられてましたね。リモートワークでもアニメは作れるかもしれませんが、若手が育っていかない。これは確かに大きな問題であると思いました。

 

緒方 私たち声優の仕事もそうですが、絵を描かれる作画の皆さんも、自宅で絵を描くことはできますが、本来、若手のアニメーターの方々は、スタジオに行って、先輩方が描いている仕事をのぞき見するだけでも、勉強になるはずなんです。ラインがほんのちょっと違うだけでも全然仕上がりが違ってしまう。そういう感じを見て盗むことができる。そういうことがとても大事なんだということを、P.A.Worksの堀川さんなどはおっしゃっていまして、それは本当にそうだなと思いました。

 

音響制作会社さんでも、新人制作さんを育てる時、ぶっちゃけ現場に連れてさえ行けば、誰がどういう仕事をしていて、どういうときにどんな人に気を遣わなければいけないのか、うまく進めるためにどんなことをしたらいいのか、すぐに理解できるけれど、今は現場になるべく行ってはいけないという状況。なので新入社員の皆さんも現場に出ることができず、会社でひたすらパソコンに向かい合ってる日々を過ごしていると聞きました。早く現場を回してくれる人を育てたいのに、現場に連れて行けない。現場に行って人と会わないから、だんだんクサってくると。

 

──この点はどの業界も同じ悩みかもしれませんが、アニメ業界は特にそういう傾向が強いんでしょうね。声優さんたちはどうですか?

 

緒方 声優の仕事でも同じです。そもそも声優の仕事というのはアウトプットが多くて、仕事の中でインプットする機会はあんまり多くない。台本をもらったら、そこにひとりで向き合って、自分の持っている引き出しの中で、一発勝負で表現する仕事だから。そういう中で、数少ないインプットの機会が、アニメのアフレコ現場なんです。先輩が演っているのを後ろから見て、「あー、なるほど。こういうふうにするのか」とか、「この人は本当に心から動いてるな」とか、「ダメ出しされたときには、こうやると違ってくるのか」とか、そういうことを若手も、また私たちも若手を見て学べる貴重な機会なんですね。

 

人間というのは、人と会話しているときに、これをしゃべろうと思ってしゃべっている人はまずいない。自分の目の前の人が言ったことや、そのときの表情とか空気感とか、そういうものを受けて、何か応えようとしたら、たまたまその言葉になってしまった。そういうのが、本来の会話の言葉です。だいたいにおいて、これをしゃべろうとしてしゃべると失敗するんですよ。その代表例が「今日は彼女に告白しよう」。言おうとすることはわかっているのに、いろんなタイミングとか空気感でなかなか言うことができない。それでも一生懸命そのように言おうとすると、「好きです!」みたいに声が裏返っちゃったりして、たいてい失敗する(笑)。

 

──あるあるですね(笑)。

 

緒方 芝居もだいたいそうで、こう言おうと思ってやると、逆に硬くなることはよくある。本来は、相手の人の言葉や仕草や空気みたいなものに対してたまたま出てきた「言葉」が「セリフ」であるべきで。これはもちろん顔出しの役者でも同じ。そして、本来のアフレコって、そういう微妙な空気感のようなものが全部マイクに乗ってしまうんです。それが今は、声優が別々に台詞を録ってますから、その空気感を感じることができない。全部バラバラになって、先輩の仕事から学ぶこともできなくなって、ぶっちゃけて言うと、会話が成立しづらくなってる。これについては、音響監督さんに出演いただいた回でも皆さんおっしゃってましたが、ある音響監督の方などは、「文化がひとつ消失する」とまで。人の心を察知する能力って、人と会わなくなるとどんどん落ちていく。どんどん鈍い人みたいに……それが今、アフレコの現場で起こっていることなんです。

 

──声優さんたちもやっていることは結局お芝居ですからね。バラバラに録るとなると、それこそお芝居として成立しづらくなりますよね。

 

緒方 もちろん、慣れている声優たちは、そうではない現場を身体が覚えているし、「この人ならこんな感じで出てくれるだろう」的なこともある程度想像しながらできるので、大きな破綻はないんですが、新人の、たとえば高校生の子たちとなると、なかなかそうはいきません。言葉で説明するのがとても難しい。

 

実は私も、昨年の春から無料の私塾を始めていまして、約1000人の中から選んだ21人のメンバーがいます。その子たちを去年の夏から育てていたんですが、今年の2月くらいには、なかなかよくなったんじゃないの?という感じまで行ったんです。新作のオーディションで合格する子たちや、賞を取るメンバーも出てきたりして、よかった、って。それがコロナで、2か月のお休みの後、Zoomのリモート授業に切り替えざるを得なくなり、その後この7月から久々に顔を合わせての授業を再開できたんですが、「なぜこんなに下手に・・・・・・?」というくらい、如実に変わっていた。本当は5月に実験公演をやって世に出す予定だったのですが、そもそも公演も中止になったし、延期にしてもこのままではどうにもと、今、力わざで引っ張り上げようとしているところです。若いだけに、吸収も早いいっぽうで、下手になり方も早くて(笑)……でもそれが新人。「止まる」ということはそういうことなのだと、改めて私自身も実感しました。自分たちの感覚が鈍っていることを本人も自覚できないほど、まだ未熟だから仕方ないんですが。

 

声優の話ばかりになってしまいましたが、制作の方々も、作画の方々も、皆さん一様に言っているのは、「若い人を育てられなくなっている」ということ。そして、若い人のモチベーション自体も落ちてしまっている。単にモチベーションが落ちているというよりも、自分たちが何をしているのか、どうしたらいいのかわからなくなってしまっているという状況で、そんな中でやめてしまっていく人も出てきてます。でも、私たちもそれをどうしたらいいかわからない。いろいろな方から話を聞いていても、皆さん、どうしたらいいかわからないということをおっしゃってました。今は少しずつ、各現場、参加人数を増やす方向に動きつつはありますが、元通りにはまだ遠い。

 

あと、地味に寂しいのが、打ち上げがなくなってしまったことですね(笑)。この仕事、やり終わったら、みんなで「よかったね!」っていうのがないと、終わった感じがしないじゃないですか。

 

──バラバラに録ってると、そもそも顔も合わせないですし、共演感もなくなりますよね?

 

緒方 本当にそうなんですよ! 現場で全然会ってないので、共演しているはずの人とも「なんかあの作品一緒にやってるんだよね?」みたいな(笑)。秋クールの作品の中には、コロナ前とコロナ後にまたがって録っているものもあって、前半は顔を合わせて録っていたのに、後半はバラバラに録っているので、音響監督さんの「死ぬ~」という声があちこちから聞こえてきて(笑)。逆に、今年の1月クールに放送した「地縛少年 花子くん」はよかった。最後のアフレコが2月の終わりだったので、最終回まで本当にギリギリ全員が集まって録れた最後の作品になったので。

 

──でも、打ち上げはなしで?(笑)

 

緒方 そう。打ち上げはない(笑)。だから、まだそれほど深刻な状況ではなかった3月の頃に、数名の役者をうちに呼んでご飯食べたりしました。うちは窓を開けるとオープンエアーになるので。あれがコロナ禍初期の唯一の楽しい「みんなごはん」の記憶ですね(笑)。

 

──いろいろ聞いていると、本当に大変ですね。

 

緒方 はい。でも、こうなってくると、そもそものやり方自体が変わってくる。海外制作のアニメーションって、アフレコではなくってプレスコと言って、最初に役者さんが芝居して、それに後から絵を合わせる作品が多い。日本はそうではなくて、絵に合わせてみんなで芝居をしていくという方式なんですが、……海外では「神業」だと言われてたりしますが(笑)。この方法は確かに難しいですが、先ほど言ったように空気感が乗ってくるので、それが日本のアニメーションの美点のひとつになっていると思います。でも今のようにバラバラに録るような状況がずっと続くとなると、プレスコ的な作り方に変わってくるかもしれません。……まぁここ近年は役者のスケジュールの問題で、音響先行の作品が増えたので、すでにセミプレスコ化はしつつあったのですが。

 

──音響監督さんの回で、亀山俊樹さんがおっしゃってましたが、ドラマCDの制作がもう地獄だったと。アニメはまだ絵があるからいいけど、ドラマCDは何もないので、もうどうしたらいいのかわからないと言っていたのが印象的でした。

 

緒方 ドラマCDこそ、役者の上手い下手が顕著にわかってしまうので。

 

──ゲームは、録り方が違うんですか?

 

緒方 ゲームは元々バラバラに録ってますからね。でも、やはりゲームでも、元々そういう相手の空気感とかやり取りのイメージができる声優と、そうでない声優では、すごい差が出るんですよ。ゲームは画面がスイッチするので気づかれにくいだけで。それでも今はファイル数が増えたのでまだよいのですが、大昔、まだ 90年代半ばくらいの頃には、ゲーム音声収録も大変で……「ありがとう」という台詞があって、「これはどんな『ありがとう』なんですか?」と音響監督さんに聞いたところ、「ファイルの数に限りがあるので、汎用型で」とおっしゃられたことが。

 

──汎用型!(笑)

 

緒方 汎用型の「ありがとう」なんてないです! 泣きそうになりながらの「ありがとう」なのか怒りながらなのか、上司に対してなのか子供に対してなのかで全然違うのに……。でも、相手を想わないでしゃべる言葉で成立してしまうなら、それはもう、人がしゃべらなくてもいいことになってしまう。洋画の吹き替えで、大元の役者さんの声をサンプリングして日本語で喋らせるという技術がもう随分前からあるのですが、それを使わずにきたのは……もちろん予算の問題もあると思いますが、人間の生の会話が大事だからだった。平板なニュアンスでいいなら、それはもう……。

 

──AI。

 

緒方 本当にそのうちAIで済んでしまうかもしれません。「汎用人型AI」とかで(笑)。

 

 

大事なものは変わらない。日本アニメのよいところは継承しながらも、新たなやり方も取り入れていきたい

 

──今回のトークライブに対して、視聴者の方からの反応はどうでしたか?

 

緒方 視聴者の方からは、「難しいことはわからなかったけど、でも、大変なことになってしまっているというのはよくわかった」とか、「皆さんがおっしゃってることが、自分の仕事とか自分の学校でも同じことがあるなと思う」とか、そういうご意見が非常に多かったですね。

 

でも、そういう中でも、3週目の監督回では、「仕方ないよね。やんなきゃならないからね。アニメを作るのは俺たちの仕事だからね」みたいな感じで、今置かれている状況の中でなんとかやっていく方法をみんなで探るしかないと、岸(誠二)さんが言ってましたが、とてもポジティブで、元気をいただきました。皆さん、やり方をいろいろ考えてくださって。私たち声優は、以前からそうですけど、受注側の人間なので(笑)。今回のイベントに出てくださった皆さんたちが、今後悩みながらもいろいろ考えられ、その先の道を作ってくださると思います。

 

──そういう意味でも、登壇された方の人選が素晴らしかったと思います。こんな大変な中でも、皆さんすごいポジティブだな、と思いました。どの回もあまり暗い感じにならず、見ていて面白かったです。

 

緒方 今回ご出演くださった方々がそういてくださったというのもあります。特に岸さんとか(笑)。いろんなタイプの監督がこのコロナ禍でも一生懸命やられていますし、アニメーターさんに会えないために、なかなか指示が的確にいかないという点で悩まれている方もいらっしゃいますが、皆さん、今置かれた状況の中で、なんとかいいものを作ろうと思っていることは変わりないと思います。

 

──答えにくい質問かもしれませんが、今後、アニメ業界はどのようになっていくと思われますか?

 

緒方 難しいですね。でも必ず、道はあるし、開かれていくと信じます。今って、状況がすごく変わりやすくて、先の予測がしづらいじゃないですか。舞台なども徐々に規制が解除されようとしていたところに、クラスター感染が出て一気にキャンセル、ほかの舞台のお客さんまで1割になっちゃったりとかしましたから……。先週までは予約でいっぱいだったものが、何かあると一気に減っちゃう。そういうことが今後も起こらないとは限らない。

 

ただ、アニメはもっとロングスパンで作るものなので、それとは別の難しさも。ライブイベントで安藤(正臣)監督も言ってましたけど、今後作るアニメ作品の中で、いきなり高校生がマスクしだしたりするというのもどうかと。実写ドラマなどでは、脚本や演出を変更して臨機応変に対応することも可能かもですが、アニメの場合は、数年後に完成して世に出たときには、状況が変わっている可能性も十分にあるので、なぜ今さらマスク!?みたいなことにもなりかねない。トークライブでも冗談半分に言ってましたが、今後、リアルな時間軸で展開される日常学園ものは減って、SFものとか歴史ものとか、パラレルワールドものとかはその点大丈夫だから、増えちゃうかも!?(笑)

 

変わらないものは変わらない、変われないものは変われない。大事なものは変わらない。作り手としてのソウルとか、職人的なものとか。そのイズムはどこかで残しつつ、これを機会に、デジタル化、リモートワークなども含めて、新しいやり方を取り入れる。そういう変化のチャンスをもらえたんじゃないかと、私も、今回のイベントに参加いただいた皆さん方も、全員そう思っています。とりあえず、死なない程度の収入をなんとかしながら(笑)、その継承みたいなものだけは……と思っています。

 

──最後に、緒方さんのほうから何か今後のご活動のご予定などがあればお聞かせください。

 

緒方 最近いろんなものの決定が流動的なので告知も難しいのですが、多分そろそろ最後の「エヴァンゲリオン」の公開日がもう少ししたら発表されると思います(※編注:本取材は、10月初旬に行われました)。着々と進んではおりますので!

 

──お待ちしております!(笑)

 

緒方 あとは今、アルバムを制作しています。このコロナ禍の中で、「生きよう!」と叫び続けていた姿を刻み込んだアルバム(笑)。年明けくらいにリリースできるかなと思います。よろしくお願いします。それと、年末に久々にお客さんを少しだけ入れたフルバンドライブを行おうと思っていますので、そちらも決まりましたら、よろしくお願いします!

 

──無事にいろんなイベントが行われることをお祈りしております。今日は本当に長時間ありがとうございました!

 

(聞き手:「アキバ総研」編集長 鎌田 剛)

 

 

<イベント詳細>

■わたしたちのこれから -アニメのおしごと-

・日時:2020年7月31日・8月7日・8月14日(毎週金曜日)19:30-21:00

・場所:渋谷ロフト9より無観客有料配信

・MC:緒方恵美

・構成作家・アシスタント:儀武ゆう子

・ゲスト:

<第1夜>7/31 アニメーションプロデューサー

  「今までのアニメ、これからのアニメ。作り続けるために」

   堀川憲司(P.A.Works)、舛本和也(TRIGGER)、比嘉勇二(Larche)

 

<第2夜>8/7 アニメーション音響監督

  「音響スタジオの今、これから。声優・録音現場の未来」

   亀山俊樹(ビットグルーヴ)、山田陽(スタジオドンファン)、島居理恵(キングレコード・音楽プロデューサー)

 

<第3夜>8/14 アニメーション監督

  「制作現場の今、これから。アニメーションの未来」

   岸誠二、橋本裕之、安藤正臣

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