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「劇場版 鬼滅の刃」のトンデモナイ興収に困惑する中国のオタク
新型コロナによるさまざまな影響が続く中で公開された
「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」が、日本映画史上の記録を塗り替える勢いの興収を叩き出していますが、このニュースに関して中国のオタク界隈では困惑する人が少なからず出ているそうです。
もちろん中国で
「鬼滅の刃」の人気がないわけではなく、むしろここ数年の新作アニメの中では屈指の大人気作品となっています。これは正規配信を行っているbilibiliにおける再生数が単独で5億を超えていることなどからも明らかです。
しかし動画サイトでの人気や再生数などは比較的信用のおける指標ではあるものの、絶対的なものではありませんし、中国では原作マンガの絵柄のクセや作品の特徴となっている要素、アニメの序盤の回の印象などから早い段階で見切りをつけてしまった人もそれなりにいたそうです。
また中国のオタク界隈における本作の話題性も、過去の人気作品と比べて突出したものではなかったことなどから、「鬼滅の刃」に関する認識は「普通の良作」程度だったという人も少なくなかったという話です。
ですがそんなところに、「劇場版 鬼滅の刃」が最初の週末で46億円の興収を叩き出し、その後あっさり100億円を超えたという、具体的かつ絶対的(に見える)な人気に関する情報が突然飛び込んできました。
中国のオタク界隈には衝撃が走り、「鬼滅の刃」が歴史的なレベルで売れる理由を把握できていないことに、困惑と、ある種の焦りのようなものを感じる人も出ているとのことです。
中国のオタクな方々から聞いた話によると、過去にあった予想外な大人気作品に関しては、一応中国のオタク的に「理解しやすい人気の理由」があったそうです。
例えば「君の名は。」であれば新海誠監督とわかりやすくハッピーエンドなラブストーリー、スタジオジブリ作品であれば宮崎駿監督という存在、また中国で高い興収を叩き出したりもした「夏目友人帳」であれば、中国の幅広い女性層からの支持等々。
しかし「鬼滅の刃」に関しては一定の評価はあったものの、あくまで普通の良作といったイメージに留まっていたことから
「いったいなぜ日本市場でここまでの人気になったのか!?」
という困惑とともに、その理由を探し求める動きも出ているという話です。
私が見たり聞いたりした中国における本作の人気の分析は
・売れる要素を集めて高クオリティにすることを突き詰めたアニメにしたから
・日本人キャラを日本の伝統文化と民族的な舞台で活躍させたから。さらに背景の時代を大正という日本人が浪漫を感じる時代に設定しているから
・アニメのおかげ。良質な動画と音楽の作品がよい時期に放映されたから大人気になった
・主人公がひと回りして、素直で謙虚で努力家なキャラ、嫌なところがなくて応援できる主人公だから
・女性人気がとても高いから
・劇場版エヴァが延期したからアニメファンの客が流れてきた
・鬼滅の刃が新しい世代にとっての王道作品、みんなが見ている共通の作品という地位になっていたから
といったものや、果ては
・天地人すべてが揃った同じような成功を狙うのは不可能な類の大成功
・日本の市場は不思議で特殊だから……
などと、なかば分析の匙を投げてしまうようなものまでイロイロなものが出ていました。
もっとも日本でも「鬼滅の刃」の大ヒットに関する分析はまだ落ち着いていませんし、中国でも混乱するのは仕方がないのかもしれませんが……。
ちなみに現時点で出ていた見方と、日本で出ている鬼滅の刃人気に関する分析を比較してみると、中国のほうでは意識されていないと思われるものが2つありました。
ひとつは新型コロナによる生活スタイルの変化やステイホームの影響でネットのサブスクリプションによる視聴が増え、「鬼滅の刃」がそこでトップクラスの人気を獲得し続けていたということについて、もうひとつは日本では子どもやファミリー層からの支持も非常に強いということについてです。
このあたりの事情について、中国のオタクな方からは
「中国ではネットでアニメを見るのが一般的になってから長いので、日本のネット配信関連の変化はあまり意識されていないのかもしれません」
「昔よりは随分とマシになりましたが、中国のオタクには子ども向け作品、子どもの見る作品を軽蔑する人が少なくありません。オタクである自分と子どもが同じアニメを見ているというのを嫌がるような空気もいまだにあります」
「鬼滅の刃の人気に関しても自分たちの見ているようなアニメ(ジャンルや内容や関わっている制作会社などで判断)が子どもたちも見ていて人気が高いというのが想像し難く、それが作品の商業的な大成功につながっているというのも意識し難いのかもしれません……」
といった話も出てきました。
「鬼滅の刃」の大人気に関しては中国でもさまざまな興味深い反応が出ていますが、そこから日本と中国における日本産アニメの視聴環境やアニメ視聴者の意識などの違いも感じられます。
私も今回の記事を書いていて、中国で普段日本のアニメを追いかけて話題にしている層が意識している「日本のアニメやその周辺事情」と「日本の鬼滅の刃人気やその周辺事情」にはズレがあることや、中国では子どもの見るアニメとオタクの見るアニメの間に大きな壁があることについて、改めて考えさせられました。
(文/百元籠羊)