バーチャルアイドル発生論~時祭イヴ→Vtuberに至る道【中里キリの“2.5次元”アイドルヒストリア 第8回】

2020年10月09日 10:000
バーチャルアイドル発生論~時祭イヴ→Vtuberに至る道【中里キリの“2.5次元”アイドルヒストリア 第8回】

今や定番ジャンルとしてアニメ、ゲームなどで数多くの「アイドル作品」が作られ、またアイドルを演じるキャストによるCDリリースやリアルイベントもおなじみなっている昨今。今年に入ってからは、新型コロナウイルスの影響で軒並み開催が延期・中止となっていたが、徐々に再演、振替公演が発表され始めたのは嬉しいところ。

そんな2次元と3次元を自在に行き来する「2.5次元」なアイドルたちは、どのように生まれ、そしてどのようにシーンを形成していったのか。昭和、平成、令和と3つの時代の2.5次元アイドルを見つめ続けたライター・中里キリが、その歴史をまとめる人気連載、第8回がスタート!

 

バーチャルアイドル。そのまま訳すと“仮想のアイドル/偶像”となります。日本のコンテンツの歴史の中では、コンピューターグラフィックスを中心としたテクノロジーによって、仮想空間の中に“アイドル”を生み出そうとするさまざまな試みがなされてきました。今回はその歴史をひもといていきたいと思います。

 

作品世界内の概念としての「バーチャルアイドル」

 

バーチャルアイドルはまず、アニメなどの創作の中で近未来の創造物として描かれ、現実世界のテクノロジーの進化が創作を追いかける形で発展してきました。

 

作品世界内で「仮想アイドル」という概念を提示した、最初期の代表作といえるのがOVA(オリジナルビデオアニメ)「メガゾーン23」(1985)です。元祖仮想アイドルである時祭(ときまつり)イヴは、作品冒頭に新宿アルタのモニターに映し出されるアイドルとして登場します。音楽チャートを席捲し、テレビ番組でも人気を誇る時祭イヴですが、現実世界では一度もライブを行なったことがない謎めいた存在です。物語の進展とともに、実は時祭イヴは巨大コンピュータ「バハムート」が生み出した仮想のインターフェースであることが明らかになっていきます。

 

イヴの正体や目的については壮大かつ荒唐無稽な「メガゾーン23」の世界観やストーリーに直結するため詳述しませんが、リアルなアイドルとして描かれていた時祭イヴが映像収録中に“巻き戻し・再生”されて虚像であることが明らかになるシーンは、当時非常にショッキングでした。

 

余談ですが、作中に登場する時祭イヴ(とそれを創造したバハムート)は、ライブパフォーマンス中に曲や歌詞を自動生成し、振り付けもリアルタイムで行なうという便利でクリエイティブな能力を備えていました。面白いのはイヴがダンスの振りを間違える場面があったことです。これは一見不完全なようですが、イヴが生放送でライブを行なうようなシチュエーションを想像すると、歌唱がわずかにブレたり、ダンスに違いがあったりといったゆらぎは、圧倒的なリアリティにつながるのではないかと思います。

 

仮想アイドルを描く作品としての「メガゾーン23」が驚くほど先進的なのは、シリーズ第3作「MEGAZONE23 III」(1989)では、「仮想のアイドルであると一般人に広く認知されている」量産版とでもいうべき時祭イヴが登場することです。

 

「MEGAZONE23 III」は、「メガゾーン23」および「メガゾーン23 PART II 秘密く・だ・さ・い」(1986)で描かれた時代から数百年先の未来が舞台です。作品冒頭、数百年たっても髪型と衣装以外変わらない姿で登場した時祭イヴは、その時代の若者たちから「プログラムで動くCGアイドル」として認識されており、「時祭イヴ」のソフトウェアをコピーして入手したという若者も登場します。後世の視点で見ると、どこか初音ミクを連想する人も多いのではないでしょうか。

 

アニメにおける仮想アイドルの雛形は、ほぼ「メガゾーン23」にあると言ってもよいのではないかと思います。

 

90年代になると、「マクロス」シリーズからもバーチャルアイドルが登場します。OVA「マクロスプラス」(1994)のシャロン・アップルです。作中のシャロンは“コンピュータが作り出すバーチャロイドアイドル”と呼ばれ、街中の仮想ディスプレイがトップアイドル・シャロンの歌とビジュアルを映し出します。シャロンは民衆の感情を揺さぶり熱狂させるいっぽう、記者会見においては「コンピュータが作り出す感情のない歌声はまがい物ではないか」と提起する記者がいたりします。

 

シャロン・アップルのビジュアルは人類種の女性をベースとしていますが、その容姿や歌声は千変万化。ライブの演出に合わせて人魚や鳥のように姿を変え、時にはパワフルに、時にはコケティッシュに歌声も変化。演出、環境、楽曲と一体化したパフォーマンスを見せます。実は物語の前半ではシャロンの人工知能は未完成で、彼女の感情表現の部分はプロデューサーであるミュンの脳波をトレースすることで再現していることが判明します。バーチャルアイドルの感情のコアの部分を生身の人間が担っている構造は、現代のVTuberにも通じるのではないかと思います。

 

「マクロスプラス」の後半では、人工知能の進化と覚醒がもたらす事件に物語の中心が移っていきます。SFとしての「マクロス」の真骨頂はここからなわけですが、バーチャルアイドルと社会やファンとのつながりといった要素は、前半部にこそ見るべきものが多くありました。

 

「メガゾーン23」そして「マクロスプラス」という、バーチャルアイドルをモチーフとした作品が80年代半ばから90年代半ばにかけての10年間に生まれた理由を考えてみると、それは現実世界のアイドルの神秘性、別世界の住人としての存在感が徐々に薄れはじめた時代背景と密接に関わっているのではないかと思います。アイドルもまた感情を持った生身の人間であるという、今では当たり前の認識が広がったからこそ、作り出された仮想の中に理想の偶像=アイドルを求める流れが加速したのではないでしょうか。「MEGAZONE23 III」で時祭イヴが歌う「悲劇のアイドル」(歌唱は、「III」イヴ役を務めた高岡早紀さん)という楽曲の歌詞の中に、「ブラウン管に囚われた アイドルみたいに孤独よ」というフレーズがあったのが示唆的なのではないかと思います。

 

21世紀に入って、アニメ「LEMON ANGEL PROJECT」(2006)にもバーチャルアイドルが登場します。第1話冒頭、街頭モニターに映し出されていたトップアイドル「Lemon Angel」(第1期)の映像にノイズが入り、突然消失するところから物語がスタートします。

主人公たちが所属することになる第2期Lemon Angelは現実のアイドル。しかし人気の絶頂で突如活動を終了した第1期Lemon Angelは、実はプログラムされた仮想アイドルだったという構造になっています。

2006年という放送のタイミングは、2005年に「アイドルマスター」がアーケードゲームとして登場したアイドルコンテンツ黎明期であり、翌年の2007年には「VOCALOID2」初音ミクが登場するというボカロブーム前夜でもあります。注目したいのが本作の脚本陣で、クライマックスの脚本を手がけた坂本正吾さんは「アイドルマスター」や「アイドルマスター Dearly Stars」の中核メンバーとしてシリーズに関わっていますし、「プリティーリズム」シリーズの赤尾でこさんや伊福部崇さん、科学アドベンチャーシリーズの林直孝さんなどの名前が並んでいます。リアルタイムな現代を舞台とした作品にバーチャルアイドルが登場し、(人工知能ではなく)アイドルとしてのライブパフォーマンスのガワの部分にスポットが当たっているのは時代を反映していると思います。

 

「Wake Up, Girls! 新章」(2017)には、「Vドル」と呼ばれるバーチャルアイドル「マキナX」が登場します。マキナXはスマホアプリから登場したバーチャルアイドルとして設定されています。

Vドルという名称からはVTuberを連想しがちですが、マキナXの担当声優は三森すずこさんであり、持ち歌の「Glossy World」の作曲は「ラブライブ!」で「僕らのLIVE 君とのLIFE」や「Snow halation」を手がけた山田高弘さんが手がけています。Vドル・マキナXという存在は、「ラブライブ!」や「アイドルマスター シンデレラガールズ」といったゲーム発のアイドルコンテンツが現実のライブでも隆盛を誇る状況のメタファーだったのではないかと考えています。

 

「Wake Up, Girls!」という作品もまた、出演声優が現実のステージにユニットとして立ち、2次元と3次元を行き来する作品です。その作品中で「Vドルの登場に押されるリアルアイドル」という構図が描かれる二重性が面白いと思います。

 

いくつかの作品を紹介しましたかが、アニメに登場するバーチャルアイドルという存在にも、その作品が作られた時代が反映されている側面が大きいのではないでしょうか。

 

現実世界のバーチャルアイドル企画

 

ここまでアニメの作品世界におけるバーチャルアイドルについて語ってきましたが、現実の世界の技術、特にアイドルの外見を表現する映像技術に関しては急速に創作の世界に追いつきつつあります。ここからは現実世界のバーチャルアイドルの流れについても押さえておきたいと思います。

 

リアルには存在しないアイドルを創造するという試みの原点は、AMラジオというフィールドを舞台にしたおそろしくアナログないたずら、ネタからスタートしました。1989年、ニッポン放送で放送されていたラジオ番組「伊集院光のオールナイトニッポン」において、架空のアイドル「芳賀ゆい」の設定を考えるネタ企画がスタート。最初は架空の理想のアイドルの設定を考えるというネタ企画でしたが、そこから芳賀ゆいはイベントやラジオ番組を行なったり、CDや写真集をリリースしたりと、次第に現実に侵食していきました。芳賀ゆいは公には顔を見せることはなく、さまざまな活動ごとにラジオ担当、歌担当、写真集担当などの担当者を複数人用意することで、逆説的に匿名性を担保していました。1990年に伊集院光さんが番組を離れるとともに企画は終了しましたが、ラジオという顔が見えないメディアの特性を最大限に生かして、架空のアイドルをでっちあげるという壮大な実験でした。

 

現実においてバーチャルアイドルという単語を初めて用いたのは1993年頃、コナミによって企画された「ウインビー国民的アイドル化計画」だと言われています。ゲーム「ツインビー」に登場する(ウインビーのパイロットの)パステルをバーチャルアイドルとして売り出そうという企画でした。結果としてバーチャルアイドルとしての同プロジェクトはあまり発展せずに自然消滅したのですが、“バーチャルアイドル”という単語が正式に認知された瞬間でした。

 

バーチャルアイドル企画としては消化不良に終わったウインビー国民的アイドル化計画でしたが、コナミはバーチャルアイドルをあきらめませんでした。1994年に発売された恋愛シミュレーションゲーム「ときめきメモリアル」が大ヒットすると、そのヒロイン・藤崎詩織をバーチャルアイドルとして売り出したのです。1996年には藤崎詩織はシングル「教えてMr.Sky/風と一緒に行こう」でCDデビューを果たします。声を担当するアイドルや声優の名義ではなく、またキャラソンではない「アーティスト」としてキャラクターがCDをリリースするのは画期的なことでした。

 

3DCGを用いたリアル世界のバーチャルアイドルの嚆矢として語られることが多いのが、ホリプロが手がけたバーチャルアイドル・伊達杏子です。伊達杏子には、当時最新の3DCGやモーションキャプチャー技術が投じられ、その開発コストは数千万円とも言われています。残念ながら伊達杏子という早すぎた存在は、技術的な限界やランニングコストの高さ、現実の人気がついてこなかったことなどから、成功とはいえないプロジェクトでした。プロデュースを手がけたのはホリプロの堀義貴さん。ホリプロといえば伊集院光さんの所属事務所でもありますが、実は堀さんは「芳賀ゆい」プロジェクトにも途中から関わっていました。バーチャルアイドルの原形のひとつとなった悪ふざけに関わっていた人物が、後に本物の?バーチャルアイドルを手がけたというのは面白い流れだと思います。

 

その後のバーチャルアイドルの流れは、2005年の「アイドルマスター」、そして2007年の「初音ミク」の登場によって、大きく枝分かれしていくことになります。3DCGモデルという仮想の肉体に、生身の声優が息と感情を吹き込む道、そして音声合成ソフトにより仮想の声と歌声を創り出すという道です。その道は時に交わり、近年ではVTuberというハイブリッドも生まれました。

 

ライブでステージに立つのは声を担当する声優という状況は、バーチャルアイドルという観点からすると大いなる矛盾です。しかしキャラクターを背負った声優という存在には生身のアイドルともCGモデルのアイドルとも違う、不思議な魅力があるように思います。また技術の進歩により、3DCGモデルのアイドルがそのままの姿で現実のステージに立つことも可能になってきました。

 

時祭イヴから35年。私たちが今まさにバーチャルアイドルの新たな歴史が紡がれる現場に立ち会っているということは、後の時代になって初めてわかるのかもしれません。

 

(文:中里キリ)

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キャスト: 山崎たくみ、石塚運昇、深見梨加、内海賢二、速水奨、林原めぐみ、西村朋紘、銀河万丈、兵藤まこ
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キャスト: 山崎たくみ、石塚運昇、深見梨加、内海賢二、速水奨、林原めぐみ、西村朋紘、銀河万丈
(C) 1994ビックウエスト/マクロス製作委員会

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(C) 1994ビックウエスト/マクロス製作委員会

マクロスプラス Vol.3

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発売日: 1995年   制作会社: トライアングルスタッフ
キャスト: 山崎たくみ、石塚運昇、深見梨加、内海賢二、速水奨、林原めぐみ、西村朋紘、兵藤まこ
(C) 1994ビックウエスト/マクロス製作委員会

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発売日: 1995年   制作会社: トライアングルスタッフ
キャスト: 山崎たくみ、石塚運昇、深見梨加、兵藤まこ、西村朋紘、速水奨
(C) 1994ビックウエスト/マクロス製作委員会

Wake Up, Girls! 新章

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(C) 2005AMGエンタテインメント/れもんふぁーむ

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