世界最大のアニソンフェスはコロナにどう対峙したのか? 「Animelo Summer Live」統括プロデューサー・齋藤光二インタビュー

2020年08月24日 12:000

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新型コロナウイルス感染拡大の影響により、今年上半期はほとんどの大型イベント・ライブが中止となる厳しい状況であり、アニメソングや、そしてさまざまなアニメ・ゲーム系コンテンツもいまだその影響下にある。

このような正解のない状況において、ライブをクリエイトする側はどのように苦悩しながらこの状況に対峙したのか、「Animelo Summer Live(以下、アニサマ)」統括プロデューサーの齋藤光二さんにお話をうかがった。

当時の詳細な記憶とアニサマのこれからについて聞いていく。

アニサマ2020はいかに道を模索したのか?


──今年の上半期はライブエンターテインメントにとっては苦難の時期でした。また、膨大なスタッフ、アーティスト、企業が関わるアニサマという巨大な生命体にとって、非常に対応が難しい事態であったと思います。こうしたコロナ状況下で、アニサマがどのように考えて動いてきたのかをうかがえればと思います。

 

齋藤P 今年の「Animelo Summer Live 2020」は、3月21日に開催予定だったAnimeJapan内の開催発表会が基点となるはずでした。ですからまずはその前後のことからお話したいと思います。ご存知の通り、アニサマの準備自体は2019年からスタートしています。「COLORS」というコンセプトも、2019年9月の時点で決まっていて、すぐにテーマソングについてもオーイシマサヨシさんにお声がけをしていました。2019年のアニサマでは「放課後ティータイム」の一夜限りの復活しかり、さまざまなストーリー(2019年のアニサマのテーマは「STORY」)を紡がせていただいたので、そのお礼とともに、各レーベル、アーティストさんの今後の展開、どういったアニメタイアップが予定されているのか、といったヒアリングを開始していました。

 

 

──アニサマが終わった瞬間から約半年かけて下準備を行ない、3月の発表会を迎える時点ではブッキングレベルの話はほぼ終わっているわけですね。

 

齋藤P 全容が決まっていないことには第一弾の発表もできませんから。3月21日の時点で約30組が第一弾アーティストとして発表されましたが、その時点で(3日間で)60組ほどのアーティストの出演は決定していました。アニサマのシームレスなセットリストは3日間の高度なパズルを作っていくような作業なので、すべてのピースを揃えることが必要なんです。

 

──キャストのブッキング以外の作業も同時進行で進んでいる感じでしょうか。

 

齋藤P セットリストの構成や演出についても同時に進めています。年が明けてからはコラボの内容を詰めたり、アニメのアフレコ現場に行って本番で使う演出用ボイスを録らせてもらったりもしていました。ある曲のためだけにストリングスなどのオケを録ったりと、お金も時間もかけています。今回は特にチーム全体の気合が入っていて、普段よりも動き出しと制作も早かったんじゃないかと思います。

 

──着々と準備を進めている最中、新型コロナウイルスの影響が出てきたわけですね。

 

齋藤P そうですね。1月の時点では、中国の武漢を中心とした話として世間と同じように認識していたのですが……。

 

 

──当時私がイベント取材で滞在していた台湾の反応が早くて、2020年2月6日~7日の「台北ゲームショウ2020」延期(後に中止が決定)がアニメやゲームコンテンツ関連の大型イベントへの最初の影響だった気がします。

 

齋藤P 暗雲が立ち込めつつある流れを受けて、アニサマとしては3月末に発表会を行なう予定だったAnimeJapanが無事開催されるのか、が、まずは大きな問題でした。

 

──AnimeJapan2020の中止は、2020年2月27日付で一般社団法人アニメジャパンから発表されました。2月17日には中止リスクを明記したうえで開催を目指す告知をしていますから、短期間に状況が激動したことを感じます。齋藤P的に状況が変わったことをはっきり認識したのはどのあたりのタイミングでしたか?

 

齋藤P 自分個人の感覚では、2月23日にLINE CUBE SHIBUYAで開催された三森さんのライブ「Mimori Suzuko Live 2020“mimokokoromo”」が象徴的で、平和な時間というか、分岐点だった気がします。それほど大きな負の圧力を受けることなくライブを開催できた。そこから約1週間で全て闇に包まれたような、そんな感覚ですね。

 

──三森さんのライブの前週、2月15日・16日には「アイドルマスター シンデレラガールズ」のライブが超満員の京セラドーム大阪で開催されていました。

 

齋藤P ライブエンターテインメント業界全体で決定的だったのは、2月26日、Perfumeの東京ドーム公演(「Perfume 8th Tour 2020 “P Cubed” in Dome」。ドームツアーの千秋楽だった)が当日中止になったことだと思います。

 

──同日、京セラドーム大阪でのEXILEのライブも中止になりました。

 

齋藤P ほんの数日前までライブが行なわれていた状況で、東西のドームでのライブが当日中止になったのは本当に震撼する出来事だったんです。ドームを押さえるって本当に大変なことなんですよ。アニサマがドームという会場を選択できないのは、野球のスケジュールに大きく左右されることが大きいんです。場所を押さえる不確定な要素や苦労、お金も人もかかりますし、Perfumeのドームライブなら演出にも予算をかけています。用意していたチケット、物販の全てが当日キャンセルになるというのは、オンラインにすれば……といった簡単な話ではないんです。アーティストやお客さんの身を切られるような辛さもわかりますし、僕自身一緒にステージを作るスタッフ側の立場でもあるので。ちょうどその頃(公開は2月29日)に観た「劇場版SHIROBAKO」の作中にも作品がお蔵入りになってしまうくだりがあって、現実の状況と合わせていろいろと考えさせられました。

 

──2月29日と3月1日には、政府からの文化イベント自粛要請後にライブを行なった東京事変が大きな批判を集めることになりました。

 

齋藤P そうですね。あれについてもどちらの側の意見もわかるんですが、簡単な理屈でどちらが正しいと決められる話ではないと思うんですよ。全てのリスクを主催者が背負った上でした「開催」という決断について、あれほどの炎上、批判を受ける状況になるのは見ていて辛かったです。

 

──「Animelo Summer Live 2020」発表会が予定されていたAnimeJapanの開催断念は、まさにその2月下旬の大きなうねりの中でされたわけですね。アニサマとしての対応はどうだったのでしょうか。

 

齋藤P アニサマとしては先ほどお話した通り準備は進んでいますし、ライブ本番で使用するアニメ映像の許諾を取ったりもしていて、すでにアクセルを踏んでいる状態でした。ですから2月27日にAnimeJapan開催中止が発表された段階では、発表会を自前で開催するのか、やるとしたら場所をどうするか、オンラインでやるのか、といった検討を行ないました。そして一部アーティストからは、アニサマの出演発表のタイミングを変えたいという打診が直前でありました。

 

──イベントやライブの中止や延期を発表しているタイミングで、新しい出演情報を流せなかったりするのは想像できます。大型フェスの運営として見ると、政府や世の中の対コロナの流れを把握するのと同時に、各アーティストやコンテンツ運営の意図や動向にも個別に対応する必要があったわけですね。

 

齋藤P アニサマの出演アーティストを順次公開していく立ち上げ当初からのスタイルには、もちろん本番に向けた話題を継続して作って盛り上げていく意図もあるのですが、アーティストそれぞれのリリースや活動の流れに時期を合わせる意味も大きいんです。シンプルに、アニメの情報解禁のタイミングに合わせると、主題歌情報が出る6月以降でなければアニサマ出演が発表できない、といったパターンもあるんです。

 

──今年はライブやリリース、アニメの放送時期までが変わりました。アニサマの情報出しのパズルも大きな影響を受けるわけですね。

 

齋藤P ひとつ発表のタイミングがズレると、当然その後ろの発表にも影響が出ます。状況は毎日刻一刻と変わっていました。だから今回、45組の出演決定アーティストを発表するのにも調整に調整を重ねましたし、本番には60組147名のアーティストが出演する予定だったことを明言したのも異例のことでした。

 

 

 

 

──情報告知ですらそれだけ繊細なコントロールが必要なのですから、もし世の中が夏にはライブができそうだとなった時に、アニサマという巨大な場を動かすためには準備の歯車は動かし続ける必要があった、という理解でよいでしょうか。

 

齋藤P 出演者を公開したうえで、夏までに新型コロナウイルスを巡る状況がどう変わるか天命を待ちたかった気持ちもありました。これは世の中もそうだったと思いますが、夏までに状況が変わるのではないか、変わってほしい……という願いですね。今、答えを知っていると違和感があるかもしれませんが、春頃と今では状況が大きく違いましたから。

 

──しかし、その後もさまざまなライブの中止、延期の発表ばかりが続きます。なんとか開催の道を探る状況には大きな逆風だったと思います。

 

齋藤P 3月28日に水樹奈々さんの故郷での公演である「NANA MIZUKI LIVE RUNNER 2020 愛媛公演」が中止されたのは大きなショックでした。THE YELLOW MONKEYは、4月5日の東京ドーム公演をもって活動休止に入る、大きな節目のライブが延期になってしまいました。同じ日(4月5日)には星野源さんが「うちで踊ろう Dancing On The Inside」という動画を公開したりと、この状況が長引く予兆も出てきていました。でもそういう状況に対するはがゆさ、悔しさと、だからこそ世の中に元気を与えることはできないのだろうかという心の動きは世の中にもあったと思うんです。

 

──ライブを中止や延期すべきだという意見に一面の正当性があるからこそ、ライブへの渇望と、エンターテインメント業界が置かれた状況がまずいという危機感はファンサイドにもあったと思います。開催延期という判断についてはそうせざるを得なかった、以上のことは語りえないと思いますので、アニサマがこの状況下でどのように開催の道を探っていたかについて少しうかがえますか?

 

齋藤P 開催の道を探っていた時点では、たとえば来場者全員へのマスクの配布と会場の除菌対策など、それに必要な方法やコストを検討していました。その時は市場からマスクが消えていた頃なので莫大な金額になりますが、命と安全を守るためのコストですから。

 

──ライブの演出面の変更などは検討されたのでしょうか。

 

齋藤P アーティストの移動導線でも密な状況は作らないほうがいいだろうということで、センターステージなしのステージ設定なども検討していました。あとはダンサーやエンディングのテーマソングをなくす、といったことなどいろいろですね。

 

配信ならではの大人の「アニサマナイト」

 

──今年のアニサマは、「Animelo Summer Live 2021 -COLORS-」として翌年に繰り越し開催されることになりました。現時点で明かせる情報と、どういったスタンスで行なうのかを伺えますか。

 

齋藤P 「Animelo Summer Live 2021 -COLORS-」としてテーマと主題歌を継承して、2021年8月27~29日にさいたまスーパーアリーナで開催することを5月28日に発表しました。出演者に関しては今年お声がけしたアーティストには全員にお声がけすることを前提に動いています。すでに参加を表明してくださっている方もいますし、多くのアーティストの関係者が調整をかけてくれています。COLORSというテーマでやろうとしていたことをきっちりやることを基本姿勢に、全てのアーティストに出演を改めてお願いしているというのが現時点でお話しできることですね。

 

 

──ありがとうございます。そして今年の8月30日には、オンライン配信で「Animelo Summer Night in Billboard Live」が行なわれます。オンラインライブという新たな試みやコンセプトについて教えてください。

 

齋藤P まず前提として、(「Animelo Summer Live 2020 -COLORS-」を)さいたまスーパーアリーナから無観客ライブで配信を行なえなかったのか、とお考えの方もいると思うんです。でも、お客さんなしでのアニサマというものが楽しく成立するのか。そしてアニサマは出演者が膨大なこともあって、たとえ無観客でもリスクは避けられない。それで、なるべく完全な形で翌年に繰り越し開催という形をとることにしました。きちんとした延期の発表をするために会場との調整に時間はかかってしまいましたが。ただ、アニサマがあるはずだった日にカレンダーがただ白くなってしまう。それは仕方がないなという思いもありましたが、アーティストさんとのやりとりの中でやっぱり想いを届けたいよね、という話になりました。アニサマはさいたまスーパーアリーナという聖地はありつつも、そこに関わる人たちの想いや情熱が形作るものでもあるので、アニサマバンドでやることにはこだわりました。そして、スタジオ配信ではやっぱりアニサマという冠はふさわしくないのでBillboard Liveというきちんとした舞台を用意して開催することになりました。

 

──「大人のアニサマ」というワードが気になりました。

 

齋藤P ステイホームの状況で楽しめるライブ、ということがまずあったんです。アニサマとは違う環境で、アニサマではできないことを突き詰めると、たとえば、お酒を飲んで、くつろぎながらライブを楽しむのは配信ならではだと考えました。リアルのアニサマではコール&レスポンスが楽しみですが、本当に「歌がうまい!! 素晴らしい!」と感動した時の気持ちをコメントに乗せられるというのはオンラインならでは。そしてアニサマのような大がかりな演出に制約がある分、今回は歌の力だけでも十分に説得力のある、そういうアーティストを選びました。ビルボードに早見沙織さんとか、本当に似合うと思うんですよ。オーイシさんやTRUEさんといった、こういう状況だからこそファンに想いを届けたいという強い意志を持ったアーティストさんたちと話しながら、今回のコンセプトとブッキングを固めていきました。しっかりリハーサルもして作るので正直収支は大変ですし(苦笑)、チケットが高いと思うかもしれませんが、この記事を読んでいる方にはぜひ観ていただければ嬉しく思います。Billboard Liveって、本来バート・バカラックでこけら落としを予定していたような、格調高い大人のライブハウスなんです。アニサマがないと夏が終われないという方たちに、そこから届ける大人のアニサマを楽しんでもらえたらと思います。

 

──今回は大変な状況の中、質問に答えてくださりありがとうございました。

 

(取材・文:中里キリ)


【配信情報】

■Animelo Summer Night in Billboard Live
(アニメロサマーナイト イン ビルボードライブ)

・配信日時:8/30(日)19:00~22:00(終了予定)

 

・出演:オーイシマサヨシ/鈴木愛奈/鈴木雅之/鈴木愛理/TRUE/仲村宗悟/早見沙織/三森すずこ/森口博子

・チケット購入
ニコニコ生放送:5500 ニコニコポイント、プレミアム会員なら4900ニコニコポイントでご購入できます!

※生放送終了直後からタイムシフト視聴可能となり、2020/09/30(水) 23:59までご視聴いただけます。
※タイムシフト視聴を開始してから「放送時間+24時間」が経過すると、視聴できなくなります。
※2020/09/30(水) 23:59を過ぎると、タイムシフト視聴中でも視聴できなくなります。

LINE LIVE-VIEWING:

<販売期間>
[前売券] 2020/8/14(金)18:00~8/29(土)23:59

[当日券] 2020/8/30(日)00:00~8/30(日)18:59

<券種・料金>
[前売券] 5,500円(税込)

[当日券] 6,000円(税込)

※チケット購入後、チケット購入履歴より視聴ページへお進みいただけます。
※LINE LIVE-VIEWINGはリアルタイム視聴のみの配信となります。チケットは開演までにご購入ください。



(c)Animelo Summer Live 2020

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