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作家とのキャッチボールで、お互いに納得のいく商品をつくる
── 個人作家さんの作品をカプセルトイにしたのは、どれが最初だったのですか? 河上 だいきょ屋さんの「はんなり狐面根付」です。300円で発売したのですが、伏見稲荷でとてもよく売れます。半年間で20,000個程度の販売実績だと聞いています。外国人観光客にも人気なので、当社と直接取引のあるお客様から「奈良で売れるだろうから、鹿を作れば売れるはずだよ」と提案がありました。しかし、動物フィギュアがブームの頃だったので、普通の鹿のフィギュアでは他社商品に埋もれてしまいます。そこで、「空想生物図鑑I 古代甲冑魚」の作者であるムラマツアユミさんに声をかけて、「空想生物図鑑II 神鹿」をデザインしてもらいました。
── すると、奈良の観光みやげとして、こんな神秘的なデザインの鹿をカプセルトイにしたんですか? 河上 はい、当社はそういうパターンが多いんです(笑)。ムラマツアユミさんは彫刻の勉強をされてきた方で、「ワンコイン500円で身近なアート作品として世の中に発信できるのはうれしい」と、オモチャではなく、ご自身の作品として制作していただきました。
安藤 こちらからテーマは提示しますが、作家さんには作りたいものを自由に作ってもらいます。
河上 「古代甲冑魚」はムラマツアユミさんの個人作品を小型化した商品でしたが、「神鹿」の場合はテーマを伝えて、まずムラマツアユミさんに粘土で原型をつくってもらいました。その原型を当社で3Dスキャンして、私がモデリングしました。そのデータに対して、ムラマツアユミさんがチェックを入れて、モデルに反映させます。さらに3Dプリンターで出力してカプセルに入る大きさと、どこでパーツ分割するかを考えます。その段階で、工場から「お腹の穴は強度的に心配だから、埋めさせてほしい」と連絡がありました。
── だけど、お腹が格子状になっているのが、デザイン上の特徴ですよね。 河上 はい、ムラマツアユミさんからも「埋めるのはどうしても避けたい」と要望があったので、格子を少しだけ太くすることで対応しました。作家さんの中には、ご自分でモデリングデータを作る方もいらっしゃいます。「電脳大工 三頭身 狐武者 狐獣人×甲冑」の作者である電脳大工さん(ほか商品化多数)は、もともと個人作品としてデジタル造形していて、ご本人の作成したデータをお借りして、社内で分割を考えました。また、細すぎてカプセル内で変形してしまうような部分は、少し厚みを加えるなどの調整も行います。デコマス(彩色見本)は、電脳大工さんがご自身で塗りました。
── 作家さんは、どうやって見つけてくるんですか? 安藤 ワンダーフェスティバルはすでに各方面から注目されているので、デザインフェスタやTwitterでアーティスト寄りの方を探して、週に1度、社内会議で声をかける作家さんを決めることが多いです。
── 個人で作品をつくっているぐらいだから、さぞかしこだわりが強い方たちでは……。 安藤 はい、要求が高くて大変です(笑)。
河上 最初は細かく修正を入れてくる方でも、2~3個ほど一緒に商品をつくると成形や彩色のことを理解してくれて、「これは無理ですよね」「ここはお任せします」と、当社を信頼してもらえるようになります。今お付き合いしている作家さんたちは、みんなやさしいです。
安藤 やはりビジネスですから、商品としての量産化に対して理解がなかったり、フィーリングが合いそうにない方とは最初から組みません。
── 個人作家さんのカプセルトイは、どういう方が買うのでしょう? 安藤 作家さんの固定ファンだけではなく、当社がターゲットにしているのはライトユーザーです。もともとアート系のフィギュアに興味があって、そっち方面にアンテナを張っている人たちが、造形のよさを見て買ってくれます。
河上 他社の500円のカプセルトイは、人気の高いキャラクターものが多いですよね。1年ほど前、安藤から「キャラクターものでなくても、500円のカプセルトイが売れることを示したい」という話がありました。だったら作家さんと組んで、造形が確かなものを出したほうがいい。その第1弾が「電脳大工 三頭身 狐武者 狐獣人×甲冑」です。
本当に売れるのか不安でしたが、発売してみるとかなりの反響がありました。作家の電脳大工さんも協力的で、個人参加しているイベントでカプセルトイ用の台座を作ってくれたり、もともと売っていたガレージキットをカプセルトイ版の色で塗ってくれたり、当社と作家さんとの間でお互いに還元しあうような関係を築けました。それなら、500円でほかの作家さんの作品も商品化できるのではないか? 「造形さえ確かなら、500円でもエンドユーザーは受け入れてくれる」という手ごたえも感じていたし、今では月にひとつぐらいは、500円のアートフィギュアを発売するようになりました。