平尾隆之が、「映画大好きポンポさん」をアニメ化したい本当の理由【アニメ業界ウォッチング第67回】

2020年06月21日 12:000

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「誰に何を届けるのか」を、しっかりと見さだめる


── 「映画大好きポンポさん」の舞台は、ニャリウッドという架空の映画の都ですよね。その架空の世界でストーリーに説得力を持たせる、リアリティを持たせるのは難しいだろうと思いますが?

平尾 ニャリウッドはハリウッドをモデルにしていると思うのですが、リアリティよりはイメージを大事にしています。美術の方に話しているのは、レンズを通したリアルな世界ではなく、人間の肉眼で見た世界にしてほしい――ということ。気分がウキウキしているときって、何でもない風景がキラキラして見えたりするじゃないですか。それぐらい、人間の目というものはいい加減にできているし、同時にすごく優秀なレンズなんです。だから、キャラクターたちの心情に美術を近づけてもらいたいと話しています。ジーンやナタリーにとっては、ニャリウッドは夢をかなえる街ですから、彼らにはキラキラと輝いて見えてほしい。キャラクターの気持ちに寄り添った美術なら、見ている人が違和感なく、素直に画面に入ってくれるのではないでしょうか。

── 過去の作品でも、美術は重視していましたか?

平尾 「魔女っこ姉妹のヨヨとネネ」(2013年)の美術に、考え方が近いと思います。「ヨヨとネネ」では背景にアウトラインを入れて、情報量を上げました。実際の風景には輪郭線なんてありませんが、世界観をはっきりと立ち上げる狙いがありました。「GOD EATER」(2015年)では逆に、写実的な背景としました。作品によっては、背景にリアリティを加えることで、かえってウソに見えてしまう場合があるんです。アニメーションはキャラクターも背景も絵ですから、作品にあわせて調整する必要があります。

── すると、美術の役割は平尾監督の中では大きいですか?

平尾 よく、「アニメーションの画面の3分の2は美術で埋まる」と言われます。美術によって世界観を決めこむことで作品の個性が出ますから、僕の中では重要性は高いです。

── なぜ平尾監督は、そこまでして何かを強く伝えたい監督になったのでしょうか? アニメ業界には、淡々と仕事をさばくだけの人もいると思うのですが……。

平尾 故・今敏監督に、「お前は監督になりたいのか、演出になりたいのか、作家になりたいのか」と聞かれたことがあります。「妄想代理人」(2004年)に、各話演出として参加したときだったと思います。その当時は、その質問に答えられませんでした。自分は演出家だと思っていた時期もありますし、職業監督に徹してやっていくべきなのか……と、悩んだこともあります。ただ、今までキャリアを積んできて分かったことは、自分はどんな原作でもこなせるような監督には向いていない、ということです。それは「GOD EATER」で分かったことです。「GOD EATER」はゲームのOPから関わっている愛着のある作品です。それゆえに、スタッフと話し合いながら、方向性を僕のほうで決めさせていただきました。ですがその方向性というのは、自分の中から出そうと思って出したのではなく、自然と出てしまったものなんです。 漏れ出てしまう、というか。ですが、その結果「GOD EATER」で組んだスタッフたちの中に、もう一度、僕と組んでもいいという人たちが出てきてくれました。彼らがまた僕の作品を手伝ってくれるというなら、がんばれる。そういう意味でも、「GOD EATER」という作品は自分の中では大きいんでしょうね。
なので、質問の答えとしては「そうなった」というよりかは「元からそうだった、それしかできなかった」という感じです。それを自覚したとき、あまりに自分がやりたいことと離れた原作ですと、おそらく不幸な出会いにしかならないと分かったんです。だから、原作ものを引き受けるときは、自分の気持ちをちゃんと乗せられるものなのか、ズレはないか、ということをまず考えます。「ポンポさん」も引き受ける前にそこをじっくりと検討しました。原作と自分をすりあわせてちょうどいいところを探す、という感じでしょうか。
アニメーションは集団作業だし、チームワークでつくられるものです。しかし、「死んでもこれだけは離さないぞ」という何かがないと、どんなによくできたフィルムでも、大事なものがスポッと抜け落ちた作品になってしまう気がします。自分がアニメ業界に入って出会った監督たちも、どうしても伝えたいものを作品に込めていたとしか思えないんです。特にマッドハウス時代に出会った今さん、浜崎博嗣さん、同期の荒木(哲郎)くん。彼らは……まあ、いい意味で“ひどかった”ですから(笑)。とにかく彼らは、かたくなに主張を曲げないんですよ。彼らの奥底に何があったのかを考えると、見た人に届けたい“何か”が、確固として存在していたに違いないんです。

── いっぽうで、「とにかく売れさえすれば、それが正しい」という考え方もありますね。

平尾 もちろん、興行収入も大事ですし、商業作品として出来るだけのサービスはします。だけど僕自身は、全世界の人すべてにウケようとは思いません。誰に何を伝えたいのかしっかり決めて、そこに届けばいい。その伝えたいことが、間口の広いものなのか、それとも少数のものなのか? 違いは、それだけではないでしょうか。そこさえ決まってしまえばスッキリするし、その作品において「何が正しくて、どうなれば理想なのか」という事で悩まなくなりましたね。



(取材・文/廣田恵介)


劇場アニメ「映画大好きポンポさん」作品概要


【STAFF】
原作:杉谷庄吾【人間プラモ】(MFC ジーンピクシブシリーズ/KADOKAWA刊)
監督:平尾隆之
キャラクターデザイン:足立慎吾
アニメーション制作:CLAP
製作:映画大好きポンポさん製作委員会


(C)2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/映画大好きポンポさん製作委員会

画像一覧

  • (C) 2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/映画大好きポンポさん製作委員会

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(C) 2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/ 映画大好きポンポさん製作委員会

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(C) BNGI/PROJECT G.E.

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(C) 物語環境開発/徳間書店・魔女っこ姉妹のヨヨとネネ製作委員会

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(C) 諫山創・講談社/「進撃の巨人」製作委員会

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