Miliインタビュー 新作「攻殻機動隊 SAC_2045」コンセプトシングルに込められた思いとは? 「持続可能性」から「LGBTQ」まで、世界基準の音楽世界を聞く

2020年06月07日 12:000
Miliインタビュー 新作「攻殻機動隊 SAC_2045」コンセプトシングルに込められた思いとは? 「持続可能性」から「LGBTQ」まで、世界基準の音楽世界を聞く

世界基準で活動を行い、注目を集める音楽制作集団「Mili(ミリー)」が、2020年6月10日に人気アニメ3作品の主題歌を収録したシングルを2枚同時リリースする。1枚は「攻殻機動隊 SAC_2045」のエンディングテーマ「sustain++;」を含む「攻殻機動隊 SAC_2045」のコンセプトシングル。そしてもう1枚はTVアニメ「グレイプニル」エンディングテーマ「雨と体液と匂い」と、劇場作品「ゴブリンスレイヤー-GOBLIN’S CROWN-」テーマソング「Static」を収録したダブルタイアップシングルだ。
各作品ごとに深いアプローチで作られたこれらの楽曲からは、Miliの多彩な音楽性を感じることができ、また随所に入れ込まれた社会的なメッセージからも、彼らが世界を相手に表現していることが見て取れる。コンポーザーのYamato KasaiとボーカリストのCassie Weiに、楽曲作りから歌に込められたメッセージまでをたっぷりと語ってもらった。

「攻殻機動隊」の社会的な視線をモチーフに作り上げた3曲のコンセプトシングル


── Kasaiさんはかねてからお好きなアニメのタイトルとして「AKIRA」や「攻殻機動隊」をあげていましたので、今回「攻殻機動隊 SAC_2045」のエンディングテーマの話が届いたときには、さぞ喜ばれたのでは?

Yamato Kasai(以下、Kasai) まずは驚きました。ただ、あまりにも大きなタイトルですし、ほかにも候補がいると聞いたので、実現するかどうか、そこまで期待はしていなくて(笑)。それでも音楽プロデューサー経由で監督たちに、僕らはこういう音楽で「攻殻」を表現しますというデモを制作して提出したら、本当に選んでいただけて。まさかという思いで、とてもうれしかったですね。と、同時に「攻殻機動隊」は、やはり世界に大勢のファンがいますから、それ以上のプレッシャーが押し寄せて来ました。

── 今回の新譜は「Intrauterine Education」というタイトルのコンセプトシングルです。まずは「コンセプトシングル」という点について教えてください。

Kasai 1曲目がエンディングテーマの「sustain++;」で、2曲目「Petrolea」、3曲目「War of Shame」。いずれも、「攻殻機動隊」の世界をイメージして制作した楽曲です。


── 「sustain++;」のトラックはどのようなイメージから作っていきましたか?

Kasai やっぱりもともと「攻殻」のファンなので、歴代の楽曲を含めたシリーズ全体から感じられる「攻殻」像を描いていこうと思いました。音楽好きで耳が肥えたファンの方も多いので、その人たちが喜んでくれるのはどんな楽曲なんだろうということを考えて作りました。これまでもアルバムの中にはテクノっぽい曲やロックといった曲はあるので、僕が作れる曲のバリエーションではありますが、「sustain++;」では両方を混ぜているのが僕にとって新しい試みでしたね。楽曲としてはエンディング曲としてのメリハリを意識しています。リズムパートが重要なので、オケを詰めてからCassieにデータを渡してメロディを乗せてもらっています。

── 「sustain++;」のリズムパートは生音ですか?

Kasai アニメのエンディングで流れる90秒のエディット部分はメンバーの演奏による生音ですが、その後に打ち込みのパートが出てきます。そこはあくまで曲の展開によって臨機応変にですね。ベースのYukihito Mitomo も、ドラムの Shoto Yoshida も先輩なのですが、僕のやりたいことを尊重してくれて、いい意味で控えてくれるんです。

── お2人はライブのときはいかがですか?

Kasai ライブは逆なんです。ステージ上の立ち位置って、一般的には真ん中にボーカルがいて、サイドにギターとベース、ドラムは後ろという形ですが、僕らの場合はみんなが主役ということを大事にしたくて、横一列なんです。それぞれシンセベースやシンセドラムなども使っていろんな音を出して主張していきます。むしろ僕が一番引っ込んでいるかも(笑)。

── 作詞についてCassieさんにお伺いします。「sustain++;」のサステナビリティ(持続可能性)というテーマは、「攻殻機動隊 SAC_2045」の第1話「NO NOISE NO LIFE/持続可能戦争」からのインスパイアでしょうか?

Cassie そうですね。最初にいただいた資料の中にあった、あらすじを読んだときに、このワードを使いたいと思いました。まさに環境問題で世界的に繰り返されている言葉なので。ただ、作品の中で語っている「持続可能性」とは別のものを書こうと思って考えたのが、今回の歌詞で書いた人間関係の「持続可能性」でした。

── 「持続可能性」という、主に自然科学で使われる言葉を人間関係と結びつけるその発想がとても独特だなと思いました。

Cassie 実は私が好きなアニメの「サウスパーク」からもインスパイアされているんです。

── かわいらしいキャラクターで鋭い社会的なメッセージを描くあの「サウスパーク」?

Cassie はい。ちょっと意外かもしれませんが(笑)。この作品の中に同性カップルのキャラクターが登場して、その中でこの子たちの人間関係を持続するにはコミュニケーションが必要だというエピソードがあって、それを見たときに、人間関係の持続可能にはコミュニケーションが鍵になるのではと思いついたんです。

── 「攻殻」と「サウスパーク」と意外なタイトル同士がそう繋がるんですね。

Kasai でもどっちも人権を大切にしている作品ですよね。

Cassie 表現はぜんぜん違うけど(笑)。

Kasai 彼女の歌詞って、いつもテーマが興味を誘うんですよね。彼女がカナダで過ごしてきた時間というのが日本人である僕らからすると、他人を思いやる基準とかコミュニケーションの仕方ひとつ取ってもとても新鮮に映るんです。そうしたものを歌詞に落とし込んだときに、「こういうとらえ方なのか」とか、「たしかにそれもありだよなー」って思ったりするので、いつも面白いなと思います。

── Cassieさんの場合、歌詞は英語で書いていくのですか?

Cassie 私は先にタイトルを決めて、それから英語で歌詞を書いていきます。で、これは今までのMiliの曲もそうなのですが、私は元々プログラマーなので英語の歌詞を(プログラミングの)Javaコードにして書くんです。

── コードで書くとは?

Cassie コードもひとつの言語なので、翻訳みたいなものだと考えていただければ。たとえば「目の前に木があった」ということを表現する場合、コードでは「木の場所を目の前にする」という書き方をします。今回「攻殻機動隊」の曲だから、これこそコードで書くべきだと思って。

── YouTubeのプロモーションビデオで書かれているコードはそういう意図だったんですね。歌についてはウィスパーや無機質感など多彩な表現をされていましたね。

Cassie 歌詞の内容に合わせて歌い方を変えることは、ちょっとミュージカルっぽくもあるなと思います。「sustain++;」でも最初は無機質で、サビになるとハイトーンを出して強めに、真ん中にはちょっとかわいいところもあります。そういうときはロボットや小さい子をイメージして、いろんな役になりきることで歌詞の内容がより伝わりやすくなります。

Kasai 自然とそうなっていったね。曲調、Cassieの歌い方のどちらの影響でもあるんだけど、Miliではこれがもう当たり前になっていますね。


── つづいて、2曲目の「Petrolea」。このタイトルはどのような意味の言葉でしょうか?

Cassie これは架空の言葉です。「Petro」が石油という意味でそれを女の子の名前のようにアレンジしています。石油って、こぼしたときに太陽に当たると虹色になりますよね? つまりこの曲はLGBTQの権利を主張するために書いた曲なんです。
(※ 虹は多様性の象徴としてLGBTQの運動に用いられている)

── そういうたとえだったんですね。

Cassie それにもうひとつあって、「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」でバトーがタチコマたちにオイルを与えると、彼らは人間の感情を理解できるようになったというシーンがありました。つまりオイルは人間になるために大事なものの象徴なんです。と、同時に、人間がそのほかの生き物と異なるのは人権があるからなのだということを示しています。

── 社会問題をただ語るのではなく、きちんと「攻殻機動隊」からのモチーフと重ねてきたことでメッセージがよりよく伝わってきます。

Cassie 「攻殻」の素子は、男性が好きなのか女性が好きなのかわからないじゃないですか。たまに女の人との関係があるようなそぶりを見せるけれども、周りもそれに対して大げさにとらえていないシーンがあって、そこからインスパイアされて、こういう曲も「攻殻機動隊」には合うなと思って作りました。

── 原作のマンガにも性への多様性を思わせるシーンもありますし。

Kasai 「2045」の冒頭でも、アンドロイドのセックスワーカーが素子に反応していて、素子も悪くないなというような素振りを見せるけど結局仕事に戻る、みたいなというシーンがあるんです。そうしたところを敏感に拾ってくるのが、やっぱり「攻殻機動隊」なんですよね。

Cassie 素子というキャラクター自体が面白いですね。いろいろ観察しても次の行動が読めないし、性格もつかみづらい。そういうミステリアスなところが私は好きです。衣装のセンスもいいですし(笑)。

── 曲のほうはどういう風に作られましたか?

Kasai これは「攻殻機動隊」を彷彿とさせる曲という点を念頭に置いたうえで、感覚だけで作った曲という印象です。シンセベースでかなりテクノ寄りの曲で、近未来的な絵が想像できるサウンドを意識して作りました。ボーカルを抜いたインストゥルメンタルの状態で、アニメの後ろで流してもらっても成立するように作っています。

── そして3曲目の「War of Shame」はMiliのパブリックなイメージに近いクラシカルな楽曲です。

Kasai これはピアノとボーカルだけのシンプルなもので「攻殻機動隊」の世界を表したらどうなるのか、ということに挑戦した楽曲です。一見すると合わなそうなものに敢えてアプローチしてみようと。その意味で敢えてミスマッチ感を出した曲です。

── 敢えて違和感を出してきたという曲に対して「攻殻機動隊」の世界との橋渡しをするのが歌の役割かと思います。まず「War of Shame」というタイトルの意味を教えてください。

Cassie これは「Shame=“恥”」に対する闘争を語っています。人が怒りを覚えるときって、“恥じる”ことが根本のひとつにあると思うんです。たとえば「あなたは怒りっぽい」と言われたことにイラついたとしたら、それはその人がそれを自覚して恥だと思っているからなんですよね。つまり、恥さえなければみんな穏やかになるのでは。そして、人がどんなときに恥を感じるかというと、それは多くの場合、見た目についてだと思います。性差別や美しさに対するものとか。それを気にせず、自分のすべてを見せればいいと思って書きました。

Kasai そうだよね。恥がなければ、劣等感を感じないから、何を言われようと怒りが沸点に達しない。

Cassie イメージとしてはたくさんの人が戦場に並んで、服を脱いで「俺は男でこの体に誇りを持っている」という人もいれば、「俺は体は女だけど、この体に誇りを持っている」という人もいていい。そういう人たちが大勢並んで戦場にいる。そんな様子を想像しながら歌詞を書いていきました。敵軍は恥を感じさせようと、押さえつけてくる人たちなんです。

── その発想はご自身でも経験として受けたことに基づいていますか?

Cassie そうですね。女性がアーティストとしてやっていこうとするときに「30歳超えたらもう厳しいんじゃない?」とか、「もうちょっと痩せたら?」とか(笑)。そうするとエモーショナルにはなりますし。あとは周りの人から聞いたり、文章で読むトランスジェンダーへの差別などを知ると、そういう人たちの感情も自然と歌に乗りますね。

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