コロナ共生時代のアニメ制作はどうなる? 共同プロジェクト「モンスト×マッドハウス」を通して見えるものとは──砂村哲平(モンスト・クリエイティブディレクター)×福士裕一郎(アニメーションプロデューサー)×平澤直(プロデューサー)インタビュー

2020年05月28日 17:100

無垢さと剥き出し感がカネヨリマサルの魅力

──今回、ガールズバンド「カネヨリマサル」の楽曲を起用した決定打は何でしょうか?

 

砂村 楽曲のチョイスは悩んだところです。ショートフィルムでは、「思い出」というのがひとつのテーマになっています。「思い出」は人と人とで共有しているものだし、たとえば、クラスメイトとくだらないことでワイワイはしゃいだりする瞬間も時間が経つと輝きを持ち、瞬間、瞬間の輝きには、ある種の特別な力が宿るのかなと考えています。企画段階のある時期では、そういう瞬間を一発で喚起させるBGM、ある世代にとっての「懐かしの曲」みたいなものを使うことも検討していました。でもなかなかピンとはこなかったんですね。

そんな時に、かねてからお付き合いのあったビクターエンタテインメントさんから、カネヨリマサルさんを紹介してもらいました。今回の映像では、「思い出」のほかに10代の女の子特有の捨身の無敵感のようなものも大事にしたいと思っていたところ、彼女たちのようなガールズバンドの無垢さと剥き出し感が、映像に登場する女子高校生たちと合うんじゃないかと感じたんです。

そこで楽曲を使わせていただいたところ、映像と楽曲がお互いに高めあう、いい相乗効果を生んでいったように思いますね。映像ができあがっていく過程を見ているのが、楽しかったです。

 

 

──今回のプロジェクトのコンセプト「エンタメで世の中を元気にしたい!」はいつごろ決まりましたか?

 

平澤 ごく初期からありました。去年の秋ぐらいから、世の中のある種の変化の速さに取り残されている人たちがいて、しかもその人たちが可視化されていない、という話をずっとしてたんです。意外に「目に見えて不幸」という人たちばかりではなく、一見、ほかの人と変わらず楽しく生きているのに、実はシビアなものを抱えている人は多いのかもしれない。そういう人たちは、どのようにすればやさしい気持ちになってくれるのか?というのは初期段階から砂村さんの中にあったんじゃないかと思います。

 

福士 砂村さんは打ち合わせの時に、「エンタメやコミュニケーションの楽しさを大事にしたい」とおっしゃっていましたし、映像を見てくれた人に少しでも喜んでもらえること、を掲げてらっしゃったので、もともと作品の本質として狙って作っていました。

 

砂村 弊社社長の木村もよく「うちはコミュニケーションの場を作る会社である」ということは言っておりまして、人と人とのつながり、コミュニケーションを軸にエンターテインメントを提供していきたい、というのが「モンスト」やXFLAGのミッションだと思っています。もしかしたら「エンタメなど生きていくうえでは不要なもの」と考えることもできるかもしれませんが、それでも我々はエンタメの力を信じていますし、いいエンタメが世の中をよりよいものにすることで、生きていく力になると考えています。繰り返しとなりますが、そんな我々が大事にしている価値観や想いをキャラクターやメッセージに乗せて、今回のショートフィルムを制作しました。

予期せぬ状況での公開となりましたが、だからこそみなさんに……と言えば大げさかもしれませんが、届けるべき作品になってくれたのではないでしょうか。

 

コロナ共生時代のアニメ業界はどうなる?

──まさに予期せぬ新型コロナウイルスの流行に、エンタメ業界に限らず世界中が困惑している状況なのですが、その中でアニメ制作現場は今後どうなっていくと思いますか?

 

福士 この情勢によって、これまでやってきたアニメ制作のやり方ができなくなっていくとは思います。今回のショートフィルムでは制作工程の終盤に差しかかっていたこともあり乗り切ることができましたが、アニメの制作現場は人を相手にする仕事です。制作ツールや環境、技術的なものが変化していくだろうな、というのはわかりますが、どうするのが正解なのかはまだわかりません。

自分が大事にしているのは、人とのつながりや仕事を根底に、身の回りから考えていこうということです。いかに人に喜んでもらい、楽しんでもらえるかを考えながらアニメを制作しているので、今後もそこをベースに仕事をしていければと思います。

 

平澤 自分は現在、アーチでプロデューサーをやりつつ、ほとんどの時間はグラフィニカというCGでアニメを作る会社で代表取締役を務めています。マッドハウスさんと同じで、クリエイターさんも在籍して「どうやって熱量のあるものを作っていこうか」ということをいつも考えていますが、つくづく福士さんがおっしゃったことは本質的だと思っておりまして、外部環境としてのツールの変化とか、会議の仕方の変化、作り方の変化は避けられません。よく言われますように、音響──物理的に声優さんたちが集まるアフレコができないという事情も確かにあります。そうした外部環境の変化によるある種の作り方の変化はあると思うのですが、いっぽうでこれまでのアニメ制作が大事にしてきた、信頼関係の束で熱量を作っていくところはそう簡単に変えられないと思います。

その点からすると、「信頼関係は距離を越えられるか?」という課題は、これからずっと考えていかなければならないことでしょう。アニメに限らず、さまざまな仕事をしている人たちが最終的になにか特別なものを作る時は、特別なチームが特別な熱量を持つ必要があると思うので、物理的に距離が離れたところで、熱量をどうやって伝え、共有できるのか? 距離を超えて信頼を寄せあうにはどうすればいいか? 信頼の束や熱量をどうやって距離が離れた状態で保ち続けられるか? 発信する側の気持ちの強さと受け取る側の心の強さ、両方が問われている時代に入っているな、と思います。

信頼関係を築く新しい形がそれぞれに問われていて、不安に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、結果としては、たぶんこれまでと同じような熱量を持ったタイトルが作られるだろうし、もしかしたらこれまで以上に熱量を持ったものを発明できるかもしれない。

「コロナ禍をきっかけにこういう風に僕たちは変われたんだ」と言い張ることが大事なんだと思います。この状況を、より面白い映像を作れるように進化するきっかけにしてやるんだという気持ちみたいなものが、砂村さんにも福士さんにもあるでしょう。それはアニメもほかの業種も一緒なんじゃないかと思います。

 

 

──今回の取材もリモートで行われていますが、モニター越しのインタビューを通じて、よりコミュニケーション、人と人のつながりの重要性、価値を思い知らされています。人とのつながりを重視するミクシィが、こういう状況下に新たなプロジェクトを発表することに、何か象徴的なものを感じます。

 

砂村 本当に予期せず、という感じではありますが、改めて私たちのミッションやテーマが普遍的なものであることを再認識できたようにも思います。これからはダイレクトに人と人が会うという行為自体の価値がさらに高まると思うんです。先ほど平澤さんもおっしゃったように、離れていてもどうやってつながりを感じるのか? 今後、私たちミクシィのクリエイティブに携わる人間は(物理的に離れていてもしっかりと思いを伝えることができる)手法とメッセージを一層意識していくことになるかと思います。

 

──「モンスト×マッドハウス」に関して今後の構想はありますか?

 

砂村 今後も何かやりたいという気持ちはあります。が、現段階では残念ながら未定です。せっかくのご縁ですので、ぜひこれからもご一緒していきたいですね。

 

福士 今回こうしてつながることができたのが今後のきっかけにもなると思いますし、今回作った映像で、実際にお客さんに喜んでいただける流れができれば……。

原科監督と砂村さんは、音響の場などで世間話から作品の話までするほど関係性や親和性も高く、カネヨリマサルさんの楽曲を決めるときもすんなり決まりました。平澤さんがつないでくださった縁もありますし、制作をしている途中で現場を応援してくれるミクシィさんとの座組は、勇気をもって作品に取り組めるな、というのもありますし、今後もこの関係性は大事にしていきたいです。

 

砂村 そう言っていただけると本当にありがたいです!

 

 

──最後に、ユーザーの皆さんにコメントをお願いいたします。

 

福士 作った自分自身も「何回も見ちゃえるな」と楽しめる映像になっています。アニメ的にもすべてのカットが何回見ても満足できる内容になっていますので、ぜひ楽しんで見ていただけるとありがたいです。今回のプロジェクトではアニメ、ゲームも含めて、さらに楽しめるコンテンツになってもらいたいです。

 

平澤 自分もこれまでプロデューサーとして、ミクシィさんのような素晴らしい映像を作りたいと思っているところと、実際にクリエイターさんと一緒に作品を世に届けたいと思っているスタジオさんをつなげる試みをさせていただいてきました。結果として面白い試みをともなった作品が世に出せるということが、アニメ業界にいる人間として大変うれしく思います。

本作は見ごたえのある作品になっていますし、さらにキャラクターを好きになった時にモンストアプリの中で遊べるという、ある種の連動も楽しんでもらえるコンテンツになっています。

本作品ではゲームとアニメの世界が繋がりました。結果として人と人が繋がればさらに嬉しいです。

皆様の声がミクシィさんに届くと、ミクシィさんも「こういう試みには意味があるし、もっともっと届けたい」と思ってもらえるはずです。点が線になっていくかは、ファンのみなさんの声にかかっていると思います。福士さん、原科さんというクリエイターの映像をもっと見たいと思ったら、ミクシィさんにご連絡いただき、直接声を届けてください。砂村さんに「もっともっと作っていこう」と思ってもらえるよう(笑)、プロジェクトを後押ししてください。

 

砂村 今回のプロジェクトで生まれたアミダが、多くの皆様に愛されるキャラクターになってくれると嬉しいです。また、ショートフィルムの最後に「優しい思い出が私たちを強くするんだ」と言うセリフがあるのですが、アフレコの時まで原科さんとこれでよいのだろうか?と会話していたのですが、原科さんがアフレコを聞いて、「これでよかった」ということをおっしゃられて、私もそれで安心できました。

ともすると「優しい思い出って何だよ?」と思う方もいるかと思います。どうしても苦しみとかの表現のほうがリアリティがあるのだと思うのですが、今のご時世もそうですが、こういう苦しい時期を乗り越えていくことで、経験や思い出がいつかやさしさになっていく、という願いも込められていますので、楽しんで何度も見て元気になったりしていただけると幸いです。

今後も「モンスト」は、人のつながりはもちろんのこと、バカバカしいユーモアや常識にとらわれない価値観を、あの手この手とジタバタしながら、世の中に提供していけたらと思っています。

 

──ありがとうございました!

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