【平成後の世界のためのリ・アニメイト】第6回 ウイルス禍の時代に考える「十三機兵防衛圏」(中編)

2020年05月16日 17:000

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平成から令和へと時代が移り変わる中で、注目アニメへの時評を通じて現代の風景を切り取ろうという連載シリーズ「平成後の世界のためのリ・アニメイト」。

今回は前回から引き続き、昨年発売されたPlayStation 4用ゲーム「十三機兵防衛圏」を、徹底批評!

大きく時代が変わる中でリリースされた注目の1本を、中川大地が一刀両断する。

(ネタバレも多いので、あらかじめ了承のうえで読み進めていただきたい。)

1990~2000年代テイストの心理劇への変奏──薬師寺恵と関ヶ原瑛

このように「十三機兵防衛圏」の「追想編」では、それぞれのPCごとに異なる系列の20世紀フィクションのジャンル類型を踏襲したシナリオが割り当てられており、それが順次解放されていく。そのうえで、それらを複数の時代設定を往還する時間SFとして串刺しにしていくという基本的な作劇戦略が、最初期に解放される鞍部十郎、冬坂五百里、比治山隆俊、南奈津乃の4人の物語のトレースから見えてきたように思う。

続けて解放される薬師寺恵(CV:内田真礼)、網口愁(CV:鈴木達央)、関ヶ原瑛の3人のシナリオは、世界観の大枠が提示されたところで、ここまでのシナリオで脇役として登場していた人物に視点を移し、群像ドラマとしての複眼的なストーリーテリングを進めていく役回りだ。

 

とりわけ薬師寺と関ヶ原には、何も知らない「普通」の高校生として過ごしていた鞍部と冬坂の前に何らかの秘密を抱えたミステリアスな異性として出現し、それぞれの恋愛カップリング対象になっていくという立ち位置がある。

まず、隣のクラスの女生徒として現れた薬師寺は、どうやら鞍部の“前世”の人格らしい「和泉十郎」と特別な関係にあったことを匂わせながら、鞍部の家に押しかけ女房気味に居候してくる。この状況設定自体もまた、やはりというかきわめて1980年代的な願望充足型の同居ものラブコメの類型の踏襲なのだが、薬師寺自身がPCとなるシナリオが動き出すと、実は彼女が親友の如月兎美とともに2020年代に住んでいた未来人であったことが判明する。

そこで機兵パイロットとしてさらなる未来にあたる2060年代からやってきた和泉十郎と出会って恋愛関係になるものの、彼女の時代にも襲来したダイモスとの戦いで和泉は心身に重篤なダメージを負い、2020年代の世界も崩壊。前の世界から戦いを指揮していた指導者・森村千尋らの計らいで、如月らとともに1980年代の世界に脱出してくるが、和泉の治療のためには彼の肉体に新たな人格を上書きするほかなく、本来は1940年代の女性である鞍部玉緒の孫「鞍部十郎」ということにして彼女の留守宅に住まわせ、咲良高校での学園生活を送ることになった……というのが、鞍部と薬師寺の関係をめぐる真相だ。

 

こうした経緯から、養護教諭として学園に潜伏した森村らとともに、やがてこの時代にも襲来するダイモス来襲の秘密を共有する未来人グループのひとりというポジションでありつつ、薬師寺個人としては鞍部の身体に封印されているはずの和泉十郎の記憶と人格をなんとしても蘇らせたいという動機を抱いている女であることがわかる。そしてそこにつけ込むかたちで、人語をしゃべる謎の猫「しっぽ」が登場し、鞍部に和泉としての記憶を蘇らせる代わりに、「魔法使い」と呼ばれる機兵パイロット適合者(他PC)たちに魔法の銃を打ち込んで戦いの場に引きずり出すようにとの契約を持ちかけてくる。

ここにきて、より我々の現実に近い2020年代のキャラクターである薬師寺編のシナリオでは、牧歌的な1980年代ジュヴナイルというよりも、「エヴァ」から「魔法少女まどか☆マギカ」(2011年)に至る、不条理な状況やルール設定を強いられる中での思い詰めた心理ドラマを描く、1990~2000年代のポスト・エヴァ型の作劇類型へのシフトが企図されていると言えるだろう。

 

他方、冬坂がベタな出会い方でひと目惚れした関ヶ原のシナリオもまた、冬坂編の脳天気なラブコメ展開とは一転、なぜか森村の銃殺死体が転がった暗い路地で、すべての記憶を失った状態で目覚めるというサスペンスフルなシチュエーションから始まる。殺人者の嫌疑を帯びて特務機構の黒服集団に追われる状況下、身辺の手がかりや、クラウドシンクによる回想で断片的に思い出されていく他PCとの因縁の記憶をたどり、異常な状況の真相と自分自身が何者かを探っていく彼の物語は、やはり1990年代風のサイコミステリーを想起させる。

そうした自分探し劇を通じて、世界の崩壊が迫っているという大状況を前に、機兵や時代転移の秘密をめぐる情報の非対称がもたらす未来人グループ内の路線対立やPC間の狭い人間関係内での疑心暗鬼といったプロットが描かれ、「エヴァ」で言えばさしずめネルフ内の陰謀を探る加持リョウジといったポジションが関ヶ原には与えられている。

 

「メガゾーン23」オマージュの意味──網口愁

1990年代以降型のテイストを背負った前半解放組のPCたちの中にあって、特に本作のポイントとなる批評的特徴への誘導役になるのが、網口愁編のシナリオだろう。鞍部・冬坂とは別のクラスの咲良高1年である網口の初期状態は、特に世界についての情報を持たない無垢な1980年代人として始まり、夢で「井田鉄也」の名で呼ばれる“前世”の映像的記憶を見ることでみずからの正体と世界の真相に近づいていくというストーリーラインを歩む点では、最初の2人と同様だ。

その意味で、網口愁のポジションには鞍部十郎に並ぶ「もうひとりの男主人公」感があるが、フラットでおとなしい(その意味では2000年代以降的な草食感が強い)鞍部とは対照させ、あえて不良っぽい振る舞いをする好色な軟派者で、バイクを乗り回すというキャラクター造形には、より1980年代ならではの若者像が強調されている。

 

というより、彼の造形と物語には、本作ディレクターの神谷盛治がいくつかのメディアインタビューで話しているように、知る者にとってはそれを名指すだけで重大なネタバレになるほどの明確なインスパイア源が存在する。そう、「超時空要塞マクロス」(1982年)の主要スタッフ陣が再結集し、まさに劇中設定と同じ1985年にOVAとして発売されたSFロボットアニメ「メガゾーン23」だ。

同作は「マクロス」から美少女アイドルをからめたラブロマンスなどの要素を継承しつつ、バイク乗りの主人公・矢作省吾たちが1980年代の東京だと信じて暮らしていた街が、実は滅亡する地球から宇宙に逃れて500年も経った後の巨大宇宙船の中に再現された「人類が一番幸福だった時代」のイミテーションだったという設定でSF的な変奏を試み、当時のアニメファンに衝撃を与えた作品だった。

したがって、矢作省吾を踏襲した網口もまた、彼らが生きる1980年代の虚構性に直面する役割を果たすことになる。ある夜、テレビ越しに話しかけてくる新人アイドル・因幡深雪(こちらも「メガゾーン」での都市宇宙船の秘密を握る仮想アイドル・時祭イヴの踏襲だ)から網口は、この世界が実は直径30km程度しかない居住区だと告げられ、半信半疑のまま、モーションをかけているスケバン少女・鷹宮由貴(CV:小清水亜美)とのデートがてら県境を越えるはずのトンネルをバイクで走り抜けようとするも、案の定「世界の果て」の外壁に遮られてしまう。

 

こうした生活世界のリアリティをひっくり返す作劇類型は、「メガゾーン」に限らず「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」(1984年)なども含め、米ソの巨大な核戦力の暴発がいつ世界を最終戦争で焼き尽くすかもしれないという冷戦体制の緊張と裏腹に、そのエアポケット下で“かりそめの繁栄”を享受していた当時の日本の〈虚構の時代〉をアイロニカルにとらえ直すイマジネーションとして、同時多発的に勃興していたものでもある。

網口編のシナリオは、このように「メガゾーン」のオマージュを通じて、まさに舞台劇の書き割りじみた手法で表現されている「十三機兵」の世界そのものが、劇中においても何らかの意味で「作られた」空間であるという真相を開示する役割を与えられていたのである。

 

時空の錯綜から明らかにされる世界の構造──三浦慶太郎、鷹宮由貴、緒方稔二、如月兎美

かくして、1985年の鞍部十郎を起点にした「追想編」は、ここまでの7人に続いて、比治山と同じく1940年代の機兵パイロット候補で、時を越えてきた南と恋仲になる三浦慶太郎(CV:石川界人)、南の幼なじみで、機兵計画をめぐる特務機構の捜査員を不承不承にさせられる鷹宮由貴(明らかにドラマ版「スケバン刑事」(1985年)で斉藤由貴が演じた麻宮サキがモチーフである)、同じく昭和のツッパリだが実は敷島重工の重役の子息である緒方稔二(CV:関智一)、緒方とともに故郷の2020年代への時代転移に巻き込まれたことで深い仲になっていく未来人・如月兎美の各PCたちの物語が、時系列を複雑に前後しながらオムニバス形式で順次解放。

転移ゲートで各時代を行き来しながらザッピングされる彼らのシナリオを総合することで、次のようなさらなる真相が浮かび上がっていく。

 

まず、PCたちが、2100年代、2060年代、2020年代、1980年代、1940年代という40年ずつ離れた5つの年代を、怪獣の襲来を逃れて未来から過去へとタイムスリップして転戦していた(ただし、2025年の次は、ある事情でひとつ時代をスキップして1945年が先に襲われ、最後の防衛線が1985年になる)ように見えていた状況設定は実はフェイクで、網口編で明らかにされたように、それぞれ先の年代から順に「セクター1~5」と番号別に区分されて併存する、人口120万人程度の居住区に過ぎないという事実が判明する。

各セクターの地下300mには、宇宙人のUFOとも疑われた直径30kmほどの円盤状の中枢コンピューター施設「ターミナル」が存在し、居住者たちの生体IDを一括管理する「ユニバーサルコントロール」機能を担っているのだが、ここにアクセスしてハッキングすることで、転移ゲートでのセクター間移動も可能になる。主に比治山編を牽引する機兵の開発者・沖野司が発見し、率先して取り組んでいくこの謎解きが、「追想編」の第1のカタルシスになっている。

つまり、ゲートでの時代転移時にアナログ時計の針が高速で回る演出とは裏腹に、本作の世界観において「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(1985年)や「STEINS;GATE」(2009年)のように時間そのものが変動する操作をしてタイムパラドックスが起きたり世界線が分岐したりするようなことはない。本作のゲームシステムでストーリーが分岐しないのと同様、時間の流れはあくまで一本道で、「メガゾーン」のように仮想的に再現された各時代の書き割り世界が、5セクター分準備されていたということだ。

 

では、このセクター分割された世界とは何であり、誰が何のために用意したものなのか。

その第2の謎への手がかりは、崩壊後のセクター3(2025年)を緒方とともに探索してダイモスの残骸に敷島重工の痕跡を発見する如月編や、なぜか5つの年代よりもさらに未来の年号である「2188年」の地球軌道上での映像記録を保持していたBJをめぐる南編・三浦編などのシナリオで徐々に判明する。

すなわち、どうやらダイモスとは如月たちの時代よりもはるか未来の技術で製造された惑星開発のためのテラフォーミング用重機が暴走したものであることが示唆されているほか、2188年にはPCたちと同姓同名の(主に中高年世代の)大人たちが、自律航行する深宇宙探査船による異星への人類の播種を目的とする「箱舟計画」を推進していたことなどがほのめかされていく。

そう、つまりPCたちの暮らす5つのセクターとは、やはり「メガゾーン」同様に巨大な宇宙船内に築かれたコロニー居住区であり、ナノマシンを用いた戦争で地球が汚染され絶滅危機に瀕した人類の存続を期すため、かかる愚行を犯さずに済む「一番いい時代」から歴史をやり直すべくエミュレートされたかりそめの過去だった。そしてどの時代が「一番いい時代」なのかで生き残った人類で見解が分かれたために、結局5つの時代を併存させることになったというのが、各セクターの成り立ちだったというわけだ。

 

だから、最も未来の時代にあると思われた2188年こそが劇中では最も太古の時代にあたり、そこから新天地を求めて宇宙に放たれ、悠久の歳月を旅してきた数多くの箱舟のひとつに託された人類のわずかな生き残りの一部が、13人のPCたちだったのである。

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