【書評】「平成仮面ライダー」シリーズの脚本家・井上敏樹が語る「男」の世界! 初エッセイ集「男と遊び」から浮かぶ男の生きざま

2020年05月04日 16:000

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スーパー戦隊シリーズ「鳥人戦隊ジェットマン」(1991年)、平成仮面ライダーシリーズの「仮面ライダーアギト」(2001年)や「仮面ライダー555」(2003年)、「仮面ライダーキバ」(2008年)など、数々の東映特撮作品で手腕を振るった脚本家の井上敏樹が、初のエッセイ集「男と遊び」(PLANETS)を上梓した。

井上敏樹といえば、近年も「仮面ライダージオウ」(2019年)の第35&36話で、釈由美子演じる北島祐子の強烈なキャラクターが話題となったように、ひと癖もふた癖もある登場人物の描写に定評があるが、本人もまた自身が創出したキャラクターに引けを取らぬ、豪放磊落(ごうほうらいらく)な人物として知られている。ネット界隈では、ある種の親しみを込めて「ヤ〇ザ」などと称されることもあり、そうしたキャラは、既出媒体でのインタビューでうかがい知ることができるが、本書では、井上自身の言葉を通じ、人となりが浮き彫りにされているのが、読む側にとっての、ひとつの醍醐味といえよう。

 

 

収録されているのは、2014年8月29日~2019年11月27日まで、およそ5年に渡って「PLANETS」メールマガジンに連載された11題50本で、毎回「男と遊び」、「男と女」、「男と酒」、「男と食」といった具合に、さまざまなテーマを通じ、著者の男性観が綴られている。たとえば、かつて飼っていた愛犬との別れを回顧した「男とペット5」、ジムでダンベルを落として歯を折った失敗談「男と怪我」、また若き日の井上が出会った、プロデューサーSの破天荒な生き様を綴った全7回から成る「男と男」などといった、多彩なエピソードが並ぶ。なかでも、全体の半分を占めるのが「男と食」をテーマにしたエッセイで、7個のアワビを1時間ずつ異なる時間で蒸し、その味の違いを確かめてみる(※「男と食10」)など、食への飽くなき探求心には思わず舌を巻く。

 

また、単なるエッセイ集に留まらず、多分に自分史的な要素も含んでおり、さまざまなテーマとともに、幼少期の思い出を皮切りに、脚本家として駆け出しの頃のエピソードが綴られているほか、父、母、弟、祖母と、「家族」についても言及がなされている。井上自身も「井上敏樹『男と遊び』公式アカウント」上で、「エッセイというのは脚本や小説よりも生の自分が出るような気がする」と書いているように、その描写は実に生々しい。井上の父といえば、「隠密剣士」(1962年)や「仮面の忍者 赤影」(1967年)をはじめ、「仮面ライダー」(1971年)から「仮面ライダースーパー1」(1981年)までの、いわゆる昭和ライダーのTVシリーズ全作に参加した、脚本家の故・伊上勝であり、その暮らしぶりは、およそ一般家庭のそれとは異なるものである。そうした家庭で著者が見て来た父は、40代にして才能を枯渇させ、スランプに陥り、酒に溺れ、さらには愛人騒動に借金、絶えることのない夫婦喧嘩と、決して美しい思い出ばかりではなかった。だが、そんな中にも家族揃って食事をした時間や、小学生の頃、著者が車にはねられた際の心配する父の姿、料理好きであった母の「おふくろの味」を懐かしむなど、家族への思いをありのままに吐露しており、「私は書く力を父から、食好きを母から受け継いでいる」(「男と食17」)と、己のアイデンティティを受け止めている。本書は、これまで知り得なかった井上の一面が詳らかにされる、という意味でも大変貴重な1冊である。

 

現在、全国の書店及び、WebではAmazonで発売されているほか、PLANETS公式オンラインストアでは、「井上敏樹 男と男たち」と題し、平成仮面ライダーシリーズや、「超光戦士シャンゼリオン」(1996年)、「衝撃ゴウライガン!!」(2013年)など、井上がこれまでに手がけた、特撮作品について回顧した冊子が付属する。

 

(文:トヨタトモヒサ)

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