逆風吹き荒れる2020年春アニメ! そんな中でも力強く作品を盛り上げるアニソン10選! 出口博之の「いいから黙ってアニソン聴け! in 2020春」

2020年05月06日 10:000

「7SEEDS(第2期)」のオープニング「From The Seeds」は、60’sから70’sの匂いが漂うオールドスクールなロックなのに、どうしてこんなに新しいのか。

 

 

楽曲は男女二人組のユニット・GLIM SPANKYの提供とあって、ロック、ブルースの色が濃い’70年代前後の匂いが漂うロックな楽曲です。ロックな、というのも抽象的な表現ではありますが、このロックマナーの基本といえる曲を上白石萌音さんが歌うというのが組み合わせの妙。女優として、そして歌手としての活躍は今更ここで説明するまでもないので割愛しますが、どちらの活動にも上白石さんの持つ「透明感」が発揮されていると思います。楽曲もオーガニックな印象の楽曲を歌うことが多かったのに、ここにきてそのイメージを払拭するような挑戦的な強い姿勢が素晴らしくカッコいい。

清楚なイメージを脱却するため、ロックの力に任せてイメージチェンジを図る例はよく見られるが、そのほとんどが失敗に終わってしまいがちです。失敗の理由は、ただ単に行儀が悪くなっただけで終わるため。

上白石さんがイメージとは真逆の今回の曲を歌うにあたってすごみがあるのは、透明感を保ったままスモーキーなロックを飲み込んでいること。曲に影響されるのではなく、曲自体を自分に巻き込んでしまっているような、圧倒的な力でねじ伏せるような痛快さがあります。元からの図抜けた歌唱力もさることながら、芯の太い表現力があるから「自己表現としてのロック」を体現できているのです。

  

自己表現、自己解放というロックの本質を独特の立ち位置で体現しているのがBiSHであり、「キングダム(第3シリーズ)」のオープニング「TOMORROW」もそういった文脈の上にある楽曲です。

 

 

これまで一般的なアイドルらしい活動を拒絶し、カウンターを狙って常に仕掛けるのがBiSHの活動だったことを考えると、一時期のアイドル熱が落ち着いた今、アイドルシーンの最前線を走っているのが彼女たちなのは時代が追いついたのではなく、彼女たちが時代を手繰り寄せた、とする方が正しい気がします。

立ち止まることを振り切るような刹那を生きる疾走感、ラウドなのに清々しさも残るメロディラインは強烈にBiSHらしい楽曲。ラウドな楽曲を売りとするアイドルは他にいますが、振り返らずただ前だけ一点だけを見てストイックに突き進む姿勢は他のアイドルと一線を画すところであり、それが全身全霊のパフォーマンスの説得力につながっています。

「キングダム」の登場人物は皆、見果てぬ夢のため振り返らずただ前だけを見て命をかけて突き進む。命を燃やし輝きながら生きる彼らの姿に、全身全霊で歌うBiSHの姿が重なるような気がします。

   

今期、選ぶかどうか一番悩んだのは「新サクラ大戦 the Animation」「檄!帝国華撃団〈新章〉」です。

 

曲自体は昨年発売された原作ゲーム「新サクラ大戦」に使用されているので、完全なる新曲というわけではありませんが、この度のアニメ放送とあればバチは当たるまい、と思い選出しました。アニメソングの域を超えた圧倒的な知名度を誇る「檄!帝国華撃団」(通称・ゲキテイ)のリメイクバージョン(という表現が正しいのかわかりませんが便宜上こうしておきます)。

いわゆる「続き物の主題歌変えるの変えないの問題」に対して、思い切った角度の回答が提示された形になった一曲です。曲の構造はイントロ、サビはみんなが知っているゲキテイのまま、Aメロなど平歌を別ラインにすることでまとめた、新曲と旧曲のハイブリッドという形になっています。「シリーズの根幹に関わる楽曲を変えない選択」はアニメソングとして考えるとファンにとっては嬉しいことだと思います。

しかし、シリーズのアップデートを考えれば、作品世界の時間軸に合わせて楽曲も新しくなるべき、というのもわかる話。前作の曲調を踏襲してそれっぽい新しい曲を作るのが妥当な着地点ですが、「走れ 光速の 帝国華撃団」を外したらサクラ大戦ではなくなってしまう。「みんながここ聞きたいじゃん! ここ歌いたいじゃん!」「これがサクラ大戦じゃん!」の気持ちが、楽曲の骨子を半分以上残したまま一部を新造する離れ業を実現させているのです。

「ゲキテイ」だから許された禁断のハイブリッドアレンジ(リメイク)かもしれませんが、他のアニソンでも聞いてみたいと思うのは私だけはないはず。

  

「白猫プロジェクト ZERO CHRONICLE」のエンディング「through the dark」には、アニソンが邦楽と洋楽の垣根を飛び越えはじめた感を覚えます。

 

 

比較としてではなく印象として、宇多田ヒカルを彷彿とさせるスケール感の大きいグローバルなバランス感覚がある楽曲。邦楽や洋楽といったカテゴライズを軽々と飛び越えるボーダーレスなメロディライン、ブラックミュージック特有のバックビートに完璧にノる日本人離れしたリズム感、それでいて語感は完全に日本語。邦楽的であり邦楽ではない、洋楽的であり洋楽ではない、ある種のオリエンタルな空気感、無国籍感があります。

ジャンル的に音楽的素養が必要とされる音楽なので一般層に魅力を伝えるのが難しい曲ですが、アニメ作品の曲という入り口はとても有効に働くと思います。普段音楽を熱心に聴かない人でも、作品の余韻が橋渡しの役目を担えば楽曲のよさに必ずたどり着けるのです。そこには邦楽とか洋楽とか画一的なカテゴライズは必要なくて、いい曲はいい。これで十分なのです。

これからのアニソンは、今よりもさらに音楽的な懐の広さを見せてくると思うので、今から積極的にさまざまなジャンルの音楽を聞いておくと、今後もっと面白くなる、かもしれません。

  

「結局、今期一体どの曲が一番やねん」と言われたら、「攻殻機動隊 SAC_2045」オープニング「Fly with me」を選出します。カッコいい!

 

 

雑多で猥雑な夜の街のイメージがそのまま「攻殻機動隊」の世界観とシンクロしている完璧な楽曲です。

King Gnu・常田大希を主催として同世代のクリエイターを招聘した「millennium parade」も、そう思えば公安9課のようなスペシャリスト集団……とするのはさすがにこじ付けすぎかもしれませんが、そう思うくらい楽曲、ビジュアルイメージすべてにおいて作品との親和性が異常に高い。なにより「一般的なアニソンらしくないアニソン」という点も、日本を代表するアニメ作品でありながら、一般的なアニメ作品と並列で語られることがほとんどない「攻殻機動隊」の特異な立ち位置に共通しているように思います。

ジャズやヒップホップほか、さまざまな音楽のコアな部分をジャンルレスに取り込んでいるにも関わらず、マニアックに偏ることなく圧倒的なポピュラリティを伴っているのが恐ろしい。新しい時代の音楽が、ここで鳴らされている。

そう言い切っても過言ではないはずです。

  

以上、今期アニメ作品から選出した10曲でした。

冒頭でも述べた通り、現在多くのアニメ作品が放送休止、放送延期を余儀なくされている状況です。このコラムがみなさんのお目に触れる頃、もしかするとその数は増えているかもしれません。楽曲のリリースも影響を受ける可能性があり、リリース中止になることはないと思いますが、たとえばインストアイベントなど店頭での展開に関しては見送らざるを得ない状況にあると思います。

重ねて申し上げますが、先の見えない非常に難しい状況が続いている最中ですが、心が荒みがちになる今だからこそ「好きなことを考える時間」を少しでも持ってもらえればと思い、いつも通りのコラムを書きました。

来年か再来年、いずれにしても近い未来に「あの時は大変だったけど、あのアニメよかったよな!」みたいな会話ができるように、ひとりひとりできることを粛々と、寛容な心で取り組みましょう。

ここにいる全員で、生きるぞ!

(文/出口博之)

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