23歳以下のアニメーターで作った「大家さんは思春期!」
─初監督作品「大家さんは思春期!」は1人原画回が多く、アニメーターの見本市みたいになっていますね。この原画マンのスタッフィングも監督のお考えなのでしょうか?
小川 もともとセブン・アークス・ピクチャーズから来た依頼が「若くてやる気のある監督に作らせてみたい」だったので、「若い自分がやるんだったら、若い原画マンで1話数ずつやりたい」とお願いしたんです。自分と制作デスクの木下真一さんで声をかけて集めました。自分とキャラクターデザインの清水厚貴さんが当時23歳だったので、同い年かそれより若い原画マンを集めて作った作品になります。コンテ・演出を全話数自分ひとりで安く引き受ける代わりに作画枚数は無限にしてもらったので、90秒で1000枚とか普通に使っているんですよ(笑)。見本市かどうかはわかりませんが、1話数ごとにアニメーターの特色は出ていると思います。
─「みるタイツ」は、コンテマンの割り振りが興味深く、10話までは小川さんが奇数回、亀井幹太さんが偶数回を担当されていました。
小川 「みるタイツ」は、もともと亀井さんに監督の依頼が来ていたんですよ。だけど、亀井さんがスケジュール的にできなくて、横浜アニメーションラボに自分を推薦してもらった経緯があるんです。亀井さんも「少しなら手伝うよ」ということだったので、しれっと「交互に描いてほしい」とお願いしたら、最初は「こんなにやんの!?」とびっくりされた感じでしたけど、快く受けていただきました。同じ人がずっとコンテを描いていると、リズムやアングルが似てきて、観ている人も飽きちゃうと思うんですよね。
─第9話「こたつでタイツ」の原画を、「攻殻機動隊 ARISE」(2013~14)の総監督や「メイドインアビス」(2020)のキャラクターデザインで有名な、黄瀬和哉さんが描かれているのも驚きました。
小川 黄瀬さんは、横浜アニメーションラボのプロデューサーからの紹介になります。自分が9話のコンテを切った時に、「難しいですけど、誰が原画やるんですか?」と聞いたら、「ちょっと大御所に声かけてみます」みたいなことを言われて、1週間後に返ってきた答えが黄瀬さんでした。
─「フリクリ プログレ」第3話には拙連載でもお話をうかがった、イラストレーターの米山舞さんが服飾デザインで参加されています(編注:https://akiba-souken.com/article/35873/)。
小川 米山さんは自分がお声がけしたわけではありませんが、水着の設定をお願いしました。米山さんからも提案してくれたので、「上半身のデザインは自分の言ったこれで、下半身は米山さんの提案で行きましょう」といった感じで、水着のデザインが決まっていきました。こちらの意図を理解して上げてくれたので、とてもスムーズに仕事ができました。
「異種族レビュアーズ」声優には、「アドリブや応用力」が必要
─キャスティングはどのようにされているのですか?
小川 リストやオーディションで聴いたものの中から、自分の中でキャラクターに合うなと思う方を選んでいるので、多分、監督としては一般的なやり方だと思います。ただ、作品によって特別なオーダーを出すこともあって、「みるタイツ」だったら、顔を映さずひたすらタイツを映していて、タイツを映している時の表情や感情を声だけで判断するしかなくなるので、「新人さんよりもベテランで、ある程度役をこなしたことのある方」というお願いをしました。
─レン役に戸松遥さん、ユア役に日笠陽子さん、ホミ役に洲崎綾さんを選ばれたのは、そういった監督のご意向があったわけですね。
小川 そうですね。キャスト会議で、メーカーのプロデューサーとは意見が違っていたんですけど、原作のよむさんとはどのキャラも完全一致していたので、「じゃあこれで行きましょう」と決まりました。
─「異種族レビュアーズ」の配役はどのようにして決めたのでしょうか?
小川 「レビュアーズ」に関しては、オーディションはやっていないんですよ。オーディションをやっても声優さんが来てくださるかわからなかったので、事前にやっていただけそうな方のリストをいただいて、自分がひとりずつ声を聴いて決めました。「レビュアーズ」は台本にないせりふとか喘ぎ声とか、結構難易度の高い芝居を求められるので、アドリブとか応用がきく方を選ぶことが多かったですね。台本にはないけど、「後ろで客を呼びこむ演技をしてほしい」とか。逆に、新人っぽいサキュ嬢とかは新人さんにお願いしました。
─日笠さんは「異種族レビュアーズ」にも参加され、フェアリーサキュバス店の受付嬢・アロエを演じておられました。
小川 リストの中に日笠さんも入っていて、自分の中で「アロエに合うな」と思ったのでお願いしました。日笠さんは前回の「みるタイツ」で応用がきくこともよくわかっていましたし、安心してお任せできました。
─メイドリー役のM・A・Oさんやクリム役の富田美憂さんの演技もすばらしかったです。
小川 ありがとうございます。富田さんはアフレコの時まだ19歳で、「恥ずかしがられたら困るな……」と思ったんですけど、プロとして堂々と演じていただきました。女性声優は皆さん、原作を「おもしろい!」と言ってくれて、「もうちょっと行きますか?」みたいなノリで演じてくれていたので、やりやすかったですね。
─スタンク役の間島淳司さんやゼル役の小林裕介さんといった、レビュアーズの配役はいかがでしょうか?
小川 レビュアーズには、「レビュー表という文字をひたすら読むナレーション」があるんです。映像上はエロシーンなんですけど、淡々と読まれても困っちゃうというか、感情を込めたり、ちょっとテンションを上げたり下げたり、そういう演技が必要になってきて、そうなると主役を何回かやったことのある人、ということになって。スタンクの間島さんもゼルの小林さんも、本当にいろんな作品をやられている方ですし、スタンクの中年っぽいキャラとゼルの若いお兄ちゃんぽいキャラの演じ分けをちゃんとやってくれる方だと確信していたので、何の懸念もなくお願いできました。
─「大家さんは思春期!」のキャストはいかがでしょう? アニメーターは若手起用とのことでしたが。
小川 キャストは若手にこだわらなかったですね。それよりも、「90秒に収める」という大前提があって、「早口になる」というのが最初からわかっていたので、「滑舌がいい人をお願いします」、「独特な間を取る方とか、ゆっくりめにしゃべる方は厳しいです」と最初に伝えました。メインキャストはある程度やったことのある方に、チエのクラスメイトの女の子とかは、新人の方にお願いしました。生天目(なばため)仁美さんが演じられた麗子も、見た目はおっとりしているのに早口でしゃべらないといけないので、やっぱり経験豊富な生天目さんにお願いしてよかったと思います。
定時出勤し、「スケジュールを破らない」監督
─そのほかに、小川さんがお仕事で大事にされていることは? 必ず守っているルールみたいなものはございますか?
小川 自分は生活のリズムを大切にしていて、平日の朝10時から夜7時まで、毎日決まった時間にスタジオに入って作業しています。V編とかで納品直前の時は、どうしても深夜までとか朝までとかになっちゃうんですけど。なので、制作さんにも自分のリズムに合わせたスケジュールを組んでもらうようお願いしています。
あと、アニメーターの時からそうなんですけど、スケジュールは絶対に破らない、です。原画もコンテも監督チェックも、納期を破ったことは1度もありません。もし「1週間でやってほしい」と言われて無理な場合は、「1週間じゃ無理なので、10日欲しい」と事前にきちんと相談をして、決めたからには期日前に必ず上げます。仕事なので当たり前のことなんですけどね。
─息抜きでしていることは?
小川 自分は画を描くのが息抜きになっていて、クロッキー(編注:短時間で簡潔に描かれた画)などをしますね。監督でも画を描くことは多いので、アニメーターにイメージを伝えたり共有したりできるように、暇があれば何かしら描いています。