国民的グループアイドル「モーニング娘。」の誕生と「アイドルマスター(仮)」【中里キリの“2.5次元”アイドルヒストリア 第3回】

2020年04月25日 10:000

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今や定番ジャンルとしてアニメ、ゲームなどで数多くの「アイドル作品」が作られ、またアイドルを演じるキャストによるCDリリースやリアルイベントも毎月のように行われている昨今。

そんな2次元と3次元を自在に行き来する「2.5次元」なアイドルたちは、どのように生まれ、そしてどのようにシーンを形成していったのか。昭和、平成、令和と3つの時代の2.5次元アイドルを見つめ続けたライター・中里キリが、その歴史をまとめる人気連載、第3回がスタート!

 

1980年代の事情について語った第1回でも書いた通り、2.5次元アイドルという概念が誕生するより前、アイドルを描くコンテンツは現実世界のアイドルの存在と動向を追いかけるように制作されていました。それでは2000年代に誕生する「アイドルマスター」をはじめとするコンテンツ群が制作される土台には、何があったのでしょうか。

 

1990年代から2000年代初頭におけるリアルアイドル界最大の事件といえば、久々に芸能界に登場した国民的アイドルグループ「モーニング娘。」の誕生と大ブレイクです。

 

1992年~1995年頃、テレビ東京系で放送された「浅草橋ヤング洋品店」という番組がありました。その名の通り、放送開始直後はファッションやサブカル色が強い番組でしたが、日曜21時枠に移動してからは、テリー伊藤さんの演出のもと、独特のバラエティ色を強めていきます。番組では若き日のナインティナインや江頭2:50さん、ルー大柴さん、浅草キッドといった面々が存在感を発揮していました。

 

そんな「浅草橋ヤング洋品店」が1995年10月、「ASAYAN」としてリニューアルされます。放送初期の構成は、前半に浅草キッド主体の「浅草橋ヤング洋品店」の延長、後半にナインティナインがメインMCのオーディション番組「コムロギャルソン」というものでしたが、やがて番組全体が“夢のオーディションバラエティー”「ASAYAN」という構成に変化していきます。小室哲哉さんやシャ乱Qのつんく(現つんく♂)さんといった一流のクリエイターがオーディションを行ない、ユニットやアーティストとしてプロデュース。その過程の全てをバラエティとして放送するというコンセプトです。今隆盛を極めている「リアリティショー」というジャンルを国内でいち早く開拓したのが「ASAYAN」でした。

 

そして1997年4月、「ASAYAN」の番組内で行なわれた企画が「シャ乱Q女性ロックボーカリストオーディション」でした。シャ乱Qメンバーがプロデュースする女性ロックボースリストとしてのデビューを目指して、1万人近くが応募しました。スキルやスター性だけでなく、寺での合宿で共同生活を行ないながら歌やダンスの厳しいレッスンを行ない、過酷な環境での人間性やチームワークを見るという、これぞオーディションバラエティという内容でした。

 

激戦を勝ち抜いたのは、きらりと光る歌声を持った自称“凡人”、平家みちよさんでした。ですが、このオーディションにはもうひとつの目的がありました。平家みちよさんの勝利発表とほぼ同じタイミングで、決勝進出者から選抜された5人の敗者復活的な、言うなれば“おまけ”のようなプロジェクトが始動します。それが後の「モーニング娘。」でした。もっとも、参加者の協調性や性格を見る寺合宿や、コレオグラファー・夏まゆみさんが指導したグループでのダンスレッスンなどは、ソロのロックボーカリスト選出にはそぐわない課題です。かなり早い時点から、アイドルユニット・モーニング娘。というサブプロジェクトは想定されていたのでしょう。

 

「シャ乱Q女性ロックボーカリストオーディション」最終選考に残った11人の中から、安倍なつみさん、飯田圭織さん、石黒彩さん、中澤裕子さん、福田明日香さんの5人によりアイドルユニット「モーニング娘。」が結成されました。その後、5人はインディーズデビューシングル「愛の種」を5日間で5万枚手売りできればデビューできるという、ASAYANらしい企画ノルマを達成することでメジャーデビューを果たします。その後、モーニング娘。は矢口真里さんや後藤真希さん、辻希美さんといった新メンバーの加入や、福田明日香さんの早すぎる卒業といった物語を経ながら国民的アイドルグループへと成長していきました。

 

さて、モーニング娘。の成り立ちについて簡単に語りましたが、実はここで重要なのは、ユニットとしてのモーニング娘。よりも、その誕生と成長の過程で「ASAYAN」という番組が果たした役割です。

 

誰も知らないアイドルの原石を全国オーディションで見出し、合宿で厳しいレッスンを行ない、候補生たちが人生を決める運命の最終選考ライブに臨む。その中で敗れ去ったものたちが再起を目指し全国を巡るドラマ。その過程の全てをバラエティ番組としてパッケージし、ステージの向こう側にある努力や涙をも商品として電波に乗せる。ステージを形作る「プロデュース」の部分をエンターテインメントに昇華させたことが、モーニング娘。と「ASAYAN」の特異性でした。

 

「(仮称)アイドルゲーム。」

後藤真希さんという圧倒的なアイドルの加入を経て、モーニング娘。は1999年~2000年頃に絶頂期を迎えます。その、新しい大波のフォロワーとして、ひとつのゲームの試作品がひっそりと世に出ます。2002年9月に開催されたアーケードゲームを中心とした展示会「第40回アミューズメントマシンショー」内のナムコブースに参考出展された「(仮称)アイドルゲーム。」がそれでした。

 

第40回AMショーのナムコにおけるアーケード部門の目玉は、大型アーケード用筐体「リライタブルステージ」であり、その第1弾タイトル「ドラゴンクロニクル」でした。そう、メインはあくまでも「ドラゴンクロニクル」だったのです。リライタブルステージはその名の通り、磁気カードを上書き(リライト)できるのが特徴で、プレイヤーのキャラクターデータやプレイ履歴は磁気カードに保存できます。全国の各店舗にメインモニターとサテライト筐体で構成されるユニットを設置し、オンラインでつないでリアルタイム対戦を行なう先進的なシステムでした。リライタブルステージのもうひとつの大きな特徴が、家庭用ゲームのハードとソフトの関係のように、上物のゲームタイトルを換装できたことです。特定のゲームタイトルだけではなく、磁気カードをリライトできる筐体と対戦用のオンライン回線、その後のタイトル変更の発展性、携帯電話のiモードなどのシステム全体をパッケージで販売するビジネススタイルだったのです。

 

そういった、“「ドラゴンクロニクル」だけでなく、いろいろなタイトルに対応できるよ”という拡張性を示す例として参考出展されたタイトルが「(仮称)アイドルゲーム。」でした。内容は新人アイドル・天海春香をプロデュースするもの。そう、後の「アイドルマスター」がひっそりと歴史の舞台に上がったのです。AMショー版では新人時代の中村繪里子さんが声を担当していましたが、当時の担当マネージャーさんによれば音声収録からゲームが世に出るまでかなり長い期間があったようです。

 

歴史的に興味深いのは出展された筐体デコレーションです。「(仮称)アイドルゲーム。」の「(仮称)」や「。」の使い方、フォント、そして何より「出るんです。貴方がプロデューサーになってアイドルユニットを育成出来るんです!」から始まるあおりテキストは、「ASAYAN」のメインナレーション・川平慈英さんの口調を明確に意識したものでした。当時のスタッフさんからもモーニング娘。を意識した企画であったことは明言されています。

 

参考出展された「(仮称)アイドルゲーム。」には、天海春香以外にAMI、YAYOI、TAKANE、YUKIHO、AZUSA、HIBIKI、IORI、MAKOTO、RITSUKO、CHIHAYA、計11人のアイドルの画像が添えられていました。イラストのAMIの横には、謎の双子の少女(言うまでもなく後の双海真美=MAMIです)も描かれています。イラストは全て、キャラクターデザインの窪岡俊之さんが手がけていました。

 

ところがロケテストで稼働したアーケード版「アイドルマスター」からはTAKANEとHIBIKIが消えており、プロデュース可能アイドルは9人(正確には10人。初期「アイドルマスター」では双子の亜美と真美が入れ替わりながらアイドルをやっているという設定だった)になっていました。主に容量の関係だと思われますが、HIBIKIとTAKANEの2人の再登板は、2008年のPSP版「アイドルマスターSP」まで待たねばなりません。

 

ゲームとしてのアイマスや音楽の成り立ちについては次回に譲るとして、今回の流れで書いておきたいのはアーケード版「アイドルマスター」の正式リリースは結局2005年7月までずれこんだということです。モーニング娘。の絶頂期については諸説ありますが、1999年8月~2002年9月、後藤真希さんが在籍していた3年間が黄金時代であることに異論は少ないと思います。そして、2002年3月末をもって「ASAYAN」は放送終了。ひとつの時代の節目が訪れました。

 

アーケード版「アイドルマスター」の音声や楽曲の制作がスタートするのが2003年、本格的なプロモーションがスタートするのは2004年のことです。正式サービスインまで時間をかけた間に、モーニング娘。発のアイドルムーブメントはいったん落ち着きを見せました。これは短期的に見れば売り時を逃がしたように見えますが、長期的に見れば「アイマス」は爆発的なブームの過熱の中で消費されることなく、じっくりと時間をかけて独自の文化を醸成することができたとも言えるでしょう。

 

次回は嵐の中で船出する「アイドルマスター」の黎明について書きたいと思います。

 

(文/中里キリ)

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