【インタビュー】作曲家デビュー20周年。神前暁の仕事を一望できる、豪華な作品集「神前暁 20th Anniversary Selected Works “DAWN”」が登場！

2020年03月17日 12:000

アニソン

インタビュー

アーティストインタビュー

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〈物語〉シリーズの楽曲では、キャラクターを多面的に描けました

── 「かんなぎ」の後に来るのが、「化物語」です。このあたりは同時期にたくさんの作品を手がけられていますね。

神前　「かんなぎ」のあたりから爆発的に仕事量が増えたんです。「ハルヒ」「らき☆すた」で僕を認知していただいたのが実を結んで。「化物語」、「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」、「STAR DRIVER 輝きのタクト」はほぼ同時期です。それから「ハルヒ」の2期もありました。

── 「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」の劇伴は、ブラスが効いていて、ほかの作品の劇伴とはひと味違うグルーヴ感がありました。

神前　もともと吹奏楽部でトランペットをやっていたので、楽器としてはよくわかっているんです。なので、それをフィーチャーした劇伴を1度は作ってみたいなと思っていて。作品的に「俺妹」はハマッたんですよね。すごく楽しい仕事でした。

── スカやレゲエの裏打ちのリズムが多用されていて。

神前　劇伴のほとんどの曲がそうなんですよね。ひとつのジャンルに固定して、コンセプチュアルに作っていくというやり方なので、作りとしては実写ドラマのサントラに近いかもしれません。

── 「俺妹」の前段階と言っていいのかどうか、「らき☆すた」の「らっきー☆ちゃんねるのテーマ」もブラス曲でした。

神前　そうですね。あの流れの先に「俺妹」がありました。

── 〈物語〉シリーズの劇伴は、それとはまったく違う流れにあります。この作品はボーカル曲も劇伴も、非常にスタイリッシュでした。

神前　シャフトさんの作風にはスタイリッシュで無機質な印象があったので、「ハルヒ」「らき☆すた」「かんなぎ」でやっていたような、人間味のある劇伴は合わないなと。音響監督の鶴岡（陽太）さんから「ミニマルミュージック」というキーワードをいただきまして、その中でいろいろなアプローチをしてみました。作った僕自身、どういうふうに作品に使われていくのか想像ができなかったんですけど、とても相性がよかったです。「化物語」の第1話がとにかくかっこよかったんですよね。

── 小説を事前に読んでいたので、こんなふうに映像化されるのかと思いました。

神前　舞台のようでもありミュージックビデオのようでもあり、緊張感がすごくて不思議な作品でした。

── 「以下、回想」という曲が劇伴DISCに入ってますが、これは「エクソシスト」ですよね。

神前　「エクソシスト」です。曲の発注に「エクソシスト」と「サスペリア」の題名がはっきり書かれていたんです。ホラーの金字塔を参考にさせていただきました。同じフレーズが反復していく中で、じわっと変化が出るのが、ミニマルミュージックの特徴です。「化物語」から少しずつスタイルを変えつつ、10年にわたって〈物語〉シリーズの劇伴を作ってきました。

── ボーカル曲に関してはいかがですか？

神前　まず「化物語」で、オープニングテーマを5曲作ってほしいと言われ、びっくりしました。比較的作画カロリーが低いエンディングテーマならあり得る話なんですけど、オープニングは絵も動かさなきゃいけないので、大変だなと。

── シリーズが続くにつれ、同じキャラクターのボーカル曲も増えていきました。

神前　そこが面白いところで、キャラクターのある側面を切り出して作るのがキャラソンなので、数を作ると多面的になっていくんです。それから作品の中で成長するキャラもいて、楽曲のテイストが変わっていったり。より多面的になっていったのは羽川翼（CV:堀江由衣）で、1曲目の「sugar sweet nightmare」から始まり、「perfect slumbers」があり「chocolate insomnia」があり、翼というキャラクターのいろいろな面を出していきました。それに対して戦場ヶ原ひたぎ（CV:斎藤千和）は、クールな「staple stable」から最終的にはデレた「dreamy date drive」に至って、人間的な成長を追っているなあという印象で。

── 八九寺真宵（CV:加藤英美里）の曲も、シリーズが進むに従って大人っぽくなっていった印象があります。

神前　いえ、真宵ちゃんは最初から中身は大人でしたからね。それぞれの側面を楽しんで作らせていただきました。でも、〈物語〉シリーズのボーカル曲は毎回ハードルが高くて、しかも過去作を超えていかなければいけないので大変でした。

── アニメ制作サイドから、今回はこのジャンルでという指定はあるんですか？

神前　あったりなかったりですね。真宵の「happy bite」は、大人になった真宵が登場する展開からの着想だと思うんですけど、森高千里さんの「私がオバさんになっても」みたいな感じと。こちらから提案することもありますし、いろいろなところからアイデアが生まれますね。

── 関わる人が多くて、みんなが作品を愛していると、アイデアも自然に豊富になっていきますよね。

神前　さらに原作とのキャッチボールもあって、〈物語〉シリーズセカンドシーズン以降の撫子は、「恋愛サーキュレーション」のアンサー的な展開になっていると西尾（維新）先生がおっしゃっていました。それに対して、こちらは「もうそう♡えくすぷれす」を書いて、また球を投げ返したり。すごく面白い仕事でした。