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中国で炎上した「僕のヒーローアカデミア」に見る、日本国外展開の新たなリスク、国内への影響
中国の1月のシーズンは新型コロナウイルスに関する混乱のほかにも、
「僕のヒーローアカデミア」が大炎上して、中国でヒロアカのアニメを配信していた「iQIYI」「Youku」「テンセント」「bilibili」など主要動画サイトすべてで配信中止になるなどの騒動が発生しました。
この大炎上の発端は、作中に出てきたキャラクター「志賀丸太」の名前が731部隊のマルタを連想させるなどとして批判されたことだそうで、韓国や中国のネットを中心に大炎上となってしまった模様です。
その後集英社からは2月7日に「過去の歴史と重ね合わせる意図はまったくない」というお詫びが発表されましたが、公式の謝罪以降も炎上は収まらず、このコラムを書いている時点でも中国のオタク界隈では騒動の影響がくすぶっている状態が続いています。
この件は炎上が炎上を呼び、当初の731部隊関連だけではなく
「主要キャラの誕生日がヒトラーの誕生日、日本共産党の成立した日であるなど、ヒロアカはファシスト的な意図が込められた反人類的な作品」
というようなところまで行ってしまったりするなど、やや局地的ではありましたが一時期は非常に危険な状況にもなっていました。
さすがにここまでいくと中国のオタク界隈の一部からも「やり過ぎ」、「現代版文字の獄」などといった感想も出てくるようになりましたが、炎上の渦中にいて発言している人が落ち着くことは難しかったようです。
この件に関して、中国のオタクな方からは以下のような話も出てきました。
「この問題は中国近代史の政治領域の事情と関連してしまったので、たとえば過去のFGOの始皇帝に関する炎上と比べても別の次元の危なさがあります。こじつけ的ではあっても、なぜそういう解釈をされるような名前にしたのかと頭痛がするレベルです。中国では知らなかったでは済まない話です」
「編集部と作者の謝罪のタイミングがズレたことや、発表の場所も中国に伝わり難いところだったのも問題でしょうか。Twitterなどのわかりやすいところで日本語により発信されたものが、恣意的な感情の混じった翻訳やそれを使った動画などで拡散され、結果として複数の言語で行われた公式発表を押し流してしまいました」
「近頃の中国ではヒロアカという作品を嫌っている人、特定のキャラに対するアンチ層も多く、この作品なら叩いてもよいという空気があったのは否定できませんし、作品を叩くために騒いでいた人もそれなりにいるかと思われます。それに加えて中国の動画サイトでは有料会員向けの先行配信作品にヒロアカが入っていたので、客として叩く権利や謝罪を要求する権利があるという意識も出ていたかもしれません」
以上のような事情から判断すると、現在の中国の事情に加えて、集英社側の対応の混乱が恰好の燃料となってしまったところもあるようです。
炎上のリスクとなるような内容に関しては作品が発売、配信される前に止めるのが理想的ではありますが、炎上が起こった際のダメージコントロール、どういった釈明、あるいは謝罪の形にするのかや、誰がどのような形でどこを対象にして発信するかも重要となります。
さらに、この炎上に関しては騒動が日本にも伝わり、編集部が作品や作者を守っていない、中国ばかり大事にして日本のファンを軽視しているというイメージを生み出すことにつながってしまったのも難しいところでしょうか。
日本国外における炎上と抗議を受け入れて謝罪をする、作品を修正するというのは、実際の状況はさておき、現状の作品を楽しんでいる日本のファンからすれば不満を覚えるものです。それに加えて海外からの「勝利宣言」や「謝罪対応後も継続する批判」の情報も流れてくるわけですから、国内での作品とその周辺のイメージの悪化は避けられません。
この件に限らず、現在の環境では日本国外向けのアクションがそのまますぐに日本国内のファンや作品のイメージに対して影響します。
これは問題の対処だけでなくファンサービスでも変わりません。日本国外向けの展開を熱心にやった結果
「外国のファンには日本では体験できないものが提供されていて、日本のファンよりもよい待遇を受けている」
「外国のほうが大事にされている、日本のファンを軽んじている」
というイメージが広まってしまい、日本のファンからの抗議につながってしまうこともあります。
実際過去には日本のファンからの批判が集まり、中国での作品関連イベントを縮小したり中国限定グッズの制作を見合わせたりしたケースも存在します。
現在の状況に関しては極端な言い方をすれば、日本国外向けの対応を間違えれば「日本国外のファンのために、日本のファンを切り捨てた」などと受け止められてしまうようになってきているとも言えます。
この数年でまた日本のコンテンツの国外展開のリスク、チャイナリスクというものがどんどん新しい形で出てきていますし、本当に最近は「作品を売って終わり」という時代ではなくなっているのを感じてしまいますね。
(文/百元籠羊)