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ドリカムの「G」は、『G-レコ』という映画を解説してくれる曲
富野 何だかガヤガヤした作品、というのはポスターについても同じことが言えます。たくさんのキャラクターをバラして見せて、にぎやかにする。本当は企画展「富野由悠季の世界」のポスターのように、もっと漫画っぽくしたい。「ベルリ 撃進」のポスターは最後の土壇場まで粘りましたけど、まだ何となくシリアスさが残ってしまっています。
だけど第1部のポスターをつくった後にも関わらず、関係者は第2部では昔の「ガンダム」風にしたがるんです。それぐらい、周囲のスタッフには勘というかセンスがないんです。映画のポスターをつくるときには、作品が何を狙っているのか、構造が見えていなくてはならない。そうした感度を持ったうえでつくるなら、ポスターは映画の内容を雄弁に伝えてくれます。僕自身は、実はこういうデザインのポスターは好きではありません。ほかの作品だったら、絶対に採用しません。だけど、『G-レコ』のポスターとしては大好き。映画のポスターを1枚つくるとは、そういうことです。
── 映画の雰囲気に、ぴったりマッチしていると思います。 富野 そう、ガヤガヤしてるでしょ? だけど、主題歌「G」を「ガヤガヤした曲」というとドリカムさんに怒られてしまうから、「華やかな曲」と言うべきなんです(笑)。
本当は昨年秋の時点で、ドリカムさんは、今年は、新曲はつくらないと決心したんだそうです。ライブが続いてエネルギーを消耗しきってしまった事情は、よく理解できます。だけど、こちらから声をかけたところ、「えっ、新曲をつくらないといけないんだ?」と、ギアが入ってしまった。「G」はそう簡単にはできなくて、作詞作曲に1か月以上かかっています。年末の作業になってしまって、「どうしてこんなに時間がかかるんだろう」と、こちらも困ってしまいました。だけど、ようやく曲ができ上がってみると、中村正人さんも吉田美和さんも「気分が晴れた」と言ってくれました。つまり、そうした気分が『G-レコ』という作品に上乗せされたわけです。「『Gのレコンギスタ』って、実は、こういう気分の作品だったんですよね」と解説してくれる歌にもなっています。歌詞を読んでもらえれば、それはわかります。今回の劇場版で、初めて『G-レコ』を知ったはずの吉田美和という天才は、よくもここまで『G-レコ』を理解してくれているな……と、寒気がしたぐらいです。後から聞くと、ネット上にある僕の発言まで、徹底的に調べてくれていたそうです。あんなに短い歌詞なのに、作品の基本的なコンセプトを、しっかりとつかんでくれました。
── 「ベルリ 撃進」のラストで「G」が流れてくると、非常に納得感があります。 富野 映画を見るうえで気をつけてほしいのは、既存のカットを入れ替えたり、削ったりするだけで格段にわかりやすくなるということ。カットを削ると情報が減ると思いますか? 逆なんです。劇としてはふくらんで見えるんです。削っているのに、いろいろ付け足しているように見えるでしょう? そこが、映画のいちばん面白いところです。
── 前回のインタビューで「映画として見たときの手ごたえがある」とおっしゃっていた部分ですね。 富野 監督の意のままに編集した映画って、メッセージ性が強く出すぎて、やせ細ってしまう。監督の気持ちはわかるけど、映画としては楽しくなかったりする。だから監督は、でき上がってきたカットを自分の計画どおりに編集できるなんて思っていてはいけないんです。アニメは予定にしたがって作画するものだから、計画どおりにでき上がってくると思うでしょう? 実際には作画の調子によって、カットにバラつきが出るんです。だから、「本当にこのまま使っていいのか?」という疑いを、監督は常に持っていないといけないのです。頭からお尻まで見て、見終わったとき、ひとつの大きなかたまりとして記憶に残ってくれるかどうか、それが大事です。「あのシーンはよかったね」と言われてしまうのは、映画として最悪の評価です。観客はお金を出して見に行ったので、よかったところを探そうとしてしまう。そんな見られ方をされてしまうのは、ロクな映画ではないんです。
新海誠監督の作品でいい点は、いろいろなことをやっているように見えて、見終わったあとはひとつのかたまり感として印象に残るところ。だから、オジサンでも楽しめるわけです。『G-レコ』だっていろいろなシーンがあるけど、「みんなで地球1周して、月や金星あたりまで行って帰ってきました」という大きな印象しか残らない。「それを映画5本でやってるの? バカじゃない?」「うん、だけど5本とも見てしまったんだよね」、そういうかたまり感さえ残れば十分。逆を言うなら、それぐらい映画って素敵なものなんですよ。
(取材・文/廣田恵介)
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