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なぜ「お母さんに嫌われないアニメ」を目指したのか?
── タカラさんはスポンサーとして、番組内容に注文をつけてきたと思いますが? 谷田部 はい、いくつか細かい注文はありました。まず、新しいロボットを1年の間でいつごろ出したいのか、大まかな計画を聞かせてもらいました。僕らは、その計画にしたがって物語を考えます。予定変更があったとしても急には変えられません、最低3か月はかかりますという話を、最初からしつこく言いました。その代わり、いま言える注文があれば何でも言ってください。そこからスタートしました。
タカラさんからは、ロボットが登場したとき、名前をカタカナで画面に出してほしい、との注文がありました。だけど、対象年齢を幼稚園ぐらいまで下げるのだから、カタカナを一瞬で読める子は滅多にいないでしょう。だから「ロボットの名前はセリフで“エクスカイザー”と言わせてはどうですか?」と、提案するわけです。本当はロボットに口なんて必要ないんですけど、中身は宇宙人という設定だし、主人公と口で会話させたほうが小さい子にはわかりやすいでしょう。
それと、ロボットの色をオモチャとまったく同じにすると、合体したときに画面で見づらいんです。小さい子が見たら、あちこち視線が散ってしまう。だから、アップのときはオモチャのままの配色だけど、ロングでは配色を変えています。全体の印象を保ったまま、胸のマークと顔に目が行くよう、色については調整させてもらいました。タカラさんの担当者は「色がオモチャと違うのは困るんですけど……」と心配するけど、色がゴチャゴチャしていると、子どもにとってはヒーローっぽく見えないんです。
── 主役ロボたちのデザインは、大河原邦男さんですね。変形時に胸にライオンの顔が現れるのが印象的なのですが、なぜライオンなのでしょう? 谷田部 子どもたちにとって強いものと言えば、やはり百獣の王であるライオンでしょう。「太陽の勇者ファイバード」(1991年)では火の鳥をモチーフにしたりしましたけど、「小さい子の憧れる乗り物といえば新幹線」だとか、デザインの理由は割と単純なんです。合体の名前にしても、「巨大合体」だとか「左右合体」。タカラさんには「ええっ、そんな単純でいいんですか?」と驚かれましたけど、幼稚園の子どもたちはカッコ悪いなんて思いません。映像でカッコよく見せればいいんですから。「子どもたちにわかりやすくする、喜んでもらう」、これは僕らとタカラさんとの共通目的でした。よく「スポンサーのオモチャ会社は、アニメ制作会社にとっては敵だ」という人がいますが、僕はチームだと思っていましたね。
── ドラマについて、お話をうかがいたいと思います。「勇者エクスカイザー」の後、「太陽の勇者ファイバード」、「伝説の勇者ダ・ガーン」(1992年)と続きますが、いずれもお父さんとお母さんのいる家庭をベースにしていますね。 谷田部 子どもたちの目線をベースにしないと、ロボットの巨大さが出ないからです。巨大ロボットのいる非日常を描くためには、きちんと日常を描く必要がある。では、その日常の中でドラマをどう展開させていくのか。「エクスカイザー」では、敵の宇宙海賊たちの狙う宝物を、1年間のカレンダーに書き込んでいったんです。幼稚園の子どもたちには、その時期にどんなイベントがあるのか。花見のシーズンなら花の博覧会で話をつくろうとか、子どもたちにとって身近なイベントに宝物があるように考えました。さらに、なぜそれが宝物なのか、宝物に見えて宝物ではないとか、反対側から見た視点も必ず描くようにしました。クリスマスであれば、プレゼントはお父さんかお母さんが買ってくるわけでしょう? だけど、サンタクロースの存在を信じている子どももいる。だから、サンタクロースがいるのかいないのか、どっちとも受けとれるように描く。「日常の宝探し」をテーマにすると、かなり好き勝手に、バラエティに富んだお話づくりができます。
── SFロボットアニメというより、「ドラえもん」に近い世界観ですね。 谷田部 そう。だから最終回で、ロボットたちは少年のもとから去らないと駄目なんです。ビルドゥングスロマンというか、子どもたちが成長する物語であらねばならないからです。ヒーローが子どものもとに残ったまま日常が続いていく最終回は、僕は納得いきません。
── あと、大人たちが意外と頼りない存在として描かれますよね? 谷田部 はい、子どもたちにとっての大人は信用ならない存在だろうと思うからです。だけど、絶対に譲れないのが母親。なぜかと言うと、幼稚園児は曜日も時間もチャンネルもわからないからです。幼稚園児向けの番組が母親に嫌われたら、お家で見てもらえないんです。「お母さん、エクスカイザーは?」「えっ、知らなーい」と言われて終わり。だから、お母さんが「これなら子どもに見せてもいい、これなら一緒に子どもと楽しめる」と思える番組でなくてはいけないんです。
── それで、どの作品でもお母さんはやさしくて強い性格なんですね? 谷田部 そう、父親や男たちはどんなに情けなく描いてもいい。だって、番組を放送している夕方の時間帯、お父さんは家にいませんから(笑)。まずお母さんの心をつかまなくてはならないので、お母さんが嫌がる描写は一切しませんでした。僕は18禁アニメもやっていますけど、この作品に限っては、一切シモネタは入れません。この作品だけのルールをいくつか決めて、それ以外は何をやってもいい。日活ロマンポルノでエッチシーンを何分か出せば後は自由なように、ロボットの変形合体シーンさえ出せば、後はかなり時間が余っているんです。どんな仕事にも条件はあるし、プロなんだから条件をクリアするのは当たり前です。むしろ、条件を満たしたうえで何をするかが楽しみでしたね。