「エクスカイザー」から「ダ・ガーン」まで……谷田部勝義監督が、30年前の「勇者シリーズ」の始まりを振り返る【アニメ業界ウォッチング第62回】

2020年01月31日 12:000

※本コンテンツはアキバ総研が制作した独自コンテンツです。また本コンテンツでは掲載するECサイト等から購入実績などに基づいて手数料をいただくことがあります。

なぜ「お母さんに嫌われないアニメ」を目指したのか?


── タカラさんはスポンサーとして、番組内容に注文をつけてきたと思いますが?

谷田部 はい、いくつか細かい注文はありました。まず、新しいロボットを1年の間でいつごろ出したいのか、大まかな計画を聞かせてもらいました。僕らは、その計画にしたがって物語を考えます。予定変更があったとしても急には変えられません、最低3か月はかかりますという話を、最初からしつこく言いました。その代わり、いま言える注文があれば何でも言ってください。そこからスタートしました。
タカラさんからは、ロボットが登場したとき、名前をカタカナで画面に出してほしい、との注文がありました。だけど、対象年齢を幼稚園ぐらいまで下げるのだから、カタカナを一瞬で読める子は滅多にいないでしょう。だから「ロボットの名前はセリフで“エクスカイザー”と言わせてはどうですか?」と、提案するわけです。本当はロボットに口なんて必要ないんですけど、中身は宇宙人という設定だし、主人公と口で会話させたほうが小さい子にはわかりやすいでしょう。
それと、ロボットの色をオモチャとまったく同じにすると、合体したときに画面で見づらいんです。小さい子が見たら、あちこち視線が散ってしまう。だから、アップのときはオモチャのままの配色だけど、ロングでは配色を変えています。全体の印象を保ったまま、胸のマークと顔に目が行くよう、色については調整させてもらいました。タカラさんの担当者は「色がオモチャと違うのは困るんですけど……」と心配するけど、色がゴチャゴチャしていると、子どもにとってはヒーローっぽく見えないんです。

── 主役ロボたちのデザインは、大河原邦男さんですね。変形時に胸にライオンの顔が現れるのが印象的なのですが、なぜライオンなのでしょう?

谷田部 子どもたちにとって強いものと言えば、やはり百獣の王であるライオンでしょう。「太陽の勇者ファイバード」(1991年)では火の鳥をモチーフにしたりしましたけど、「小さい子の憧れる乗り物といえば新幹線」だとか、デザインの理由は割と単純なんです。合体の名前にしても、「巨大合体」だとか「左右合体」。タカラさんには「ええっ、そんな単純でいいんですか?」と驚かれましたけど、幼稚園の子どもたちはカッコ悪いなんて思いません。映像でカッコよく見せればいいんですから。「子どもたちにわかりやすくする、喜んでもらう」、これは僕らとタカラさんとの共通目的でした。よく「スポンサーのオモチャ会社は、アニメ制作会社にとっては敵だ」という人がいますが、僕はチームだと思っていましたね。

── ドラマについて、お話をうかがいたいと思います。「勇者エクスカイザー」の後、「太陽の勇者ファイバード」、「伝説の勇者ダ・ガーン」(1992年)と続きますが、いずれもお父さんとお母さんのいる家庭をベースにしていますね。

谷田部 子どもたちの目線をベースにしないと、ロボットの巨大さが出ないからです。巨大ロボットのいる非日常を描くためには、きちんと日常を描く必要がある。では、その日常の中でドラマをどう展開させていくのか。「エクスカイザー」では、敵の宇宙海賊たちの狙う宝物を、1年間のカレンダーに書き込んでいったんです。幼稚園の子どもたちには、その時期にどんなイベントがあるのか。花見のシーズンなら花の博覧会で話をつくろうとか、子どもたちにとって身近なイベントに宝物があるように考えました。さらに、なぜそれが宝物なのか、宝物に見えて宝物ではないとか、反対側から見た視点も必ず描くようにしました。クリスマスであれば、プレゼントはお父さんかお母さんが買ってくるわけでしょう? だけど、サンタクロースの存在を信じている子どももいる。だから、サンタクロースがいるのかいないのか、どっちとも受けとれるように描く。「日常の宝探し」をテーマにすると、かなり好き勝手に、バラエティに富んだお話づくりができます。


── SFロボットアニメというより、「ドラえもん」に近い世界観ですね。

谷田部 そう。だから最終回で、ロボットたちは少年のもとから去らないと駄目なんです。ビルドゥングスロマンというか、子どもたちが成長する物語であらねばならないからです。ヒーローが子どものもとに残ったまま日常が続いていく最終回は、僕は納得いきません。

── あと、大人たちが意外と頼りない存在として描かれますよね?

谷田部 はい、子どもたちにとっての大人は信用ならない存在だろうと思うからです。だけど、絶対に譲れないのが母親。なぜかと言うと、幼稚園児は曜日も時間もチャンネルもわからないからです。幼稚園児向けの番組が母親に嫌われたら、お家で見てもらえないんです。「お母さん、エクスカイザーは?」「えっ、知らなーい」と言われて終わり。だから、お母さんが「これなら子どもに見せてもいい、これなら一緒に子どもと楽しめる」と思える番組でなくてはいけないんです。

── それで、どの作品でもお母さんはやさしくて強い性格なんですね?

谷田部 そう、父親や男たちはどんなに情けなく描いてもいい。だって、番組を放送している夕方の時間帯、お父さんは家にいませんから(笑)。まずお母さんの心をつかまなくてはならないので、お母さんが嫌がる描写は一切しませんでした。僕は18禁アニメもやっていますけど、この作品に限っては、一切シモネタは入れません。この作品だけのルールをいくつか決めて、それ以外は何をやってもいい。日活ロマンポルノでエッチシーンを何分か出せば後は自由なように、ロボットの変形合体シーンさえ出せば、後はかなり時間が余っているんです。どんな仕事にも条件はあるし、プロなんだから条件をクリアするのは当たり前です。むしろ、条件を満たしたうえで何をするかが楽しみでしたね。

画像一覧

  • (C) サンライズ

関連作品

勇者エクスカイザー

勇者エクスカイザー

放送日: 1990年2月3日~1991年1月26日   制作会社: サンライズ
キャスト: 渡辺久美子、神代知衣、西村知道、さとうあい、横山智佐、森田樹優、山寺宏一、速水奨、菊池正美、草尾毅、中村大樹、星野充昭、塩屋浩三、飯塚昭三、小杉十郎太、郷里大輔、安西正弘、巻島直樹、二又一成
(C) サンライズ

太陽の勇者ファイバード

太陽の勇者ファイバード

放送日: 1991年2月2日~1992年2月1日   制作会社: サンライズ
キャスト: 松本保典、伊倉一恵、岩坪理江、永井一郎、勝生真沙子、笹岡繁蔵、神代知衣、坂東尚樹、巻島直樹、辻谷耕史、戸谷公次、塩屋浩三、滝口順平、郷里大輔、島香裕、梁田清之
(C) サンライズ

伝説の勇者ダ・ガーン

伝説の勇者ダ・ガーン

放送日: 1992年2月8日~1993年1月23日   制作会社: サンライズ
キャスト: 松本梨香、速水奨、高乃麗、子安武人、白鳥由里、紗ゆり、神奈延年、島田敏、沢木郁也、冬馬由美、塩屋浩三、梁田清之、笹岡繁蔵、千葉耕市
(C) サンライズ

機甲戦記ドラグナー

機甲戦記ドラグナー

放送日: 1987年2月7日~1988年1月30日   制作会社: サンライズ
キャスト: 菊池正美、大塚芳忠、堀内賢雄、藤井佳代子、平松晶子、勝生真沙子、小杉十郎太、島香裕、島田敏、竹村拓、カシワクラツトム、飯塚昭三、加藤治、島津冴子、郷里大輔、笹岡繁蔵
(C) 創通・サンライズ

サイボーグ009(第2作)

サイボーグ009(第2作)

放送日: 1979年3月6日~1980年3月25日   制作会社: サンライズ
キャスト: 井上和彦、杉山佳寿子、千々松幸子、野田圭一、キートン山田、銀河万丈、はせさん治、肝付兼太、戸谷公次、富田耕生、古川登志夫、中田浩二、大竹宏、渡部猛、永井一郎、笹岡繁蔵、田の中勇、柴田秀勝、吉田理保子
(C) 石森プロ・東映

伝説巨神イデオン

伝説巨神イデオン

放送日: 1980年5月8日~1981年1月30日   制作会社: サンライズ
キャスト: 塩屋翼、田中秀幸、白石冬美、井上瑤、戸田恵子、林一夫、松田辰也、塩沢兼人、井上和彦、佐々木秀樹、一龍斎春水、石森達幸
(C) サンライズ

太陽の牙ダグラム

太陽の牙ダグラム

放送日: 1981年10月23日~1983年3月25日   制作会社: サンライズ
キャスト: 井上和彦、田中亮一、銀河万丈、山田栄子、梨羽侑里、緒方賢一、鈴木清信、千葉繁、小宮山清、宮内幸平、仁内達之、蟹江栄司、屋良有作、高島雅羅、川浪葉子、山内雅人
(C) サンライズ

装甲騎兵ボトムズ

装甲騎兵ボトムズ

放送日: 1983年4月1日~1984年3月23日   制作会社: サンライズ
キャスト: 郷田ほづみ、弥永和子、富田耕生、千葉繁、川浪葉子、銀河万丈、戸谷公次、玄田哲章、広瀬正志、郷里大輔、速水奨、政宗一成、麦人、上恭ノ介、緒方賢一
(C) サンライズ

機甲界ガリアン

機甲界ガリアン

放送日: 1984年10月5日~1985年3月29日
キャスト: 菊池英博、渕崎ゆり子、平野文、千葉繁、小林修、筈見純、兼本新吾、屋良有作、泉晶子、井上和彦、速水奨、佐藤正治、石森達幸、坂口征平、加藤精三
(C) サンライズ

蒼き流星SPTレイズナー

蒼き流星SPTレイズナー

放送日: 1985年10月3日~1986年6月26日   制作会社: サンライズ
キャスト: 井上和彦、江森浩子、梅津秀行、鹿股裕司、鳥海勝美、平野文、戸田恵子、原えりこ、堀秀行、広瀬正志、横尾まり、塩沢兼人、渡部猛
(C) サンライズ

ダーティペア(劇場版)

ダーティペア(劇場版)

上映開始日: 1987年3月14日   制作会社: サンライズ
キャスト: 島津冴子、頓宮恭子、巻島直樹、森功至、大塚周夫
(C) 高千穂&スタジオぬえ・サンライズ

魔神英雄伝ワタル

魔神英雄伝ワタル

放送日: 1988年4月15日~1989年3月31日   制作会社: サンライズ
キャスト: 田中真弓、林原めぐみ、西村知道、玄田哲章、山寺宏一、緒方賢一、飯塚昭三、伊倉一恵
(C) サンライズ・R

ダーティペア(OVA)

ダーティペア(OVA)

発売日: 1987年12月27日   制作会社: サンライズ
キャスト: 頓宮恭子、島津冴子、巻島直樹、沢木郁也
(C) 高千穂&スタジオぬえ・サンライズ

ログイン/会員登録をしてこのニュースにコメントしよう!

関連リンク

※記事中に記載の税込価格については記事掲載時のものとなります。税率の変更にともない、変更される場合がありますのでご注意ください。

関連記事