紅白歌合戦から氷川きよし、如月千早まで、今年のアニソンシーンと「アニサマ」を語りつくす! アニサマゼネラルプロデューサー・齋藤光二「Animelo Summer Live 2019 –STORY-」振り返りインタビュー(前編)

2019年12月29日 12:000

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令和という新たな時代を迎えた2019年。世界最大のアニソンライブイベント「Animelo Summer Live」(アニサマ)は15年目を迎えてなお、さらなる進化と成長を続けている。

さまざまな出来事があった2019年のアニサマとアニメソングシーンについて、「さいとーP」の愛称でアーティスト・クリエイターのみならず、アニソンを愛するファンからも親しまれているアニサマゼネラルプロデューサー・齋藤光二さんに、去年に引き続き、2019年のアニソンシーン。そして「Animelo Summer Live 2019 -STORY-」について語ってもらった。
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──2019年も終わりを迎えようとしています。アニサマにとって、アニメソングにとって今年はどんな年だったと思いますか?

 

齋藤 アニサマは最新のアニソンのトレンドを取り入れる役割も担っていると思っています。その上で2019年を振り返るなら、そうですね、先日ロフトプラスワンで開催された「平成アニソン大賞」というイベントに参加して、そこで令和元年を象徴するアニソンも選んだんです。僕は迷わずLiSAさんの「紅蓮華」を推しました。今年は「鬼滅の刃」がものすごく話題になって、ufotableが作るアニメもすごいし、アニメのヒットにともなって原作もものすごく動きました。僕はやっぱりアニソンはアニメと連動するべきものだと思うので、その意味でも「紅蓮華」は今年を象徴する曲だと思います。アニメの「鬼滅の刃」は2クール放送したんですが、オープニングはずっと「紅蓮華」を引っ張ったんですね。最近(OP主題歌を固定するのは)なかなかないことなので、それも嬉しかったです。エンディングテーマの「from the edge」もFictionJunction feat. LiSAとして入っていて、両方ともLiSAさんが歌って、作詞もやって作品と寄り添っている。久々にアニソンとはこういうものだというど真ん中の直球を見た気がします。

 

──“このアニメといえばこの曲”があるのは、往年のジャンプアニメを思い出します。

 

齋藤 そういう意味でも特別な楽曲だし、「鬼滅の刃」の中で鬼が「年号が変わっている!!」と叫んだシーンが話題になっていましたが、まさに「鬼滅の刃」のアニメ、そして「紅蓮華」という楽曲は年号が平成から令和に移り変わる瞬間のものだったんですよね。ほかには、TVアニメ「ダンベル何キロ持てる?」でファイルーズあいさんと石川界人さんが歌った「お願いマッスル」も誰も予想していなかったところからあれだけの楽しいヒットが生まれたという点で、今年のアニソンの多様性を示す楽曲になったと思います。

 

──「平成アニソン大賞」内で選ばれた「令和元年アニソン大賞」では、茅原実里さんの「エイミー」が特別賞に選ばれていました。

 

齋藤 平成アニソン大賞ではベスト楽曲に「残酷な天使のテーゼ」と「Agape」を選んだんですが、令和のほうでも「Agape」(TVアニメ「円盤皇女ワるきゅーレ」挿入歌)にあたる楽曲がほしいという話になったんです。

 

──メロキュアの楽曲ですね。知る人ぞ知る、アニソンの歴史に残すべき楽曲という感じでしょうか。

 

齋藤 そうです。今年のそういう楽曲が何かを考えた時に自然に浮かんだのが、茅原さんの「エイミー」(劇場版「ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝 -永遠と自動手記人形-」エンディングテーマ)でした。編み続けた三つ編みに込められた想い。二つ編みだと解けてしまうけれど、三つ編みだと解けないという意味がありましたよね。令和という年号には平和を望む意味が込められていますが、我々の業界にとっては大きな喪失感のある事件とともに記憶される年にもなりました。京都の事件はアニサマが開催される直前の出来事でもありましたから。「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」や「エイミー」という作品は事件と関係なく素晴らしいものですが、よっぴー(ニッポン放送吉田尚記アナウンサー)が「あの曲を聴いて何も感じないアニメファン、アニソンファンはいないはずだ」と話してくださったんですね。僕も同感だし、今年を象徴する楽曲だと思い推薦したんです。

 

エイミー(茅原実里)

 

──LiSAさんが今年のNHK紅白歌合戦に出演するのも令和の大きなトピックなのではないかと思います。

 

齋藤 LiSAさんにとっては念願の紅白出演だと思います。令和の紅白の紅組として「紅蓮華」で出演するというのも面白いと思います。これまでも水樹奈々さんであったり、μ'sやAqoursであったり、アニサマに出演していただいたゆかりあるアーティストが紅白に出演してきました。そうやって世間全体のアニソンの存在が認められてきた中でLiSAさんがついに紅白に出演するというのも、今年を象徴する出来事のひとつだと思います。でも僕らの中ではLiSAさんが紅白出演と聞いて特別な事柄というよりは、当然そうあるべきだな、という感じなんです。「アニソン界から来ました」的な枕詞はそろそろいらないんじゃないかなと思います。

 

──逆に、氷川きよしさんや鈴木雅之さんといったビッグネームがアニサマに出演する機会も増えました。

 

齋藤 彼らはアニメソングのライブだから、という壁をそこまで意識していないと思うんですね。すごく熱いファンがいる、とてもいいステージとして場を楽しんでくれている感じがします。

 

限界突破×サバイバー(氷川きよし)

 

──氷川さんは2017年の初出演ではヴィジュアル系っぽいロックな見せ方をしたり、2019年は中性的というか、ドキッとするような表現をしたりと、新しい自分を見せる場としてアニサマを大切にしているように感じるのですがどうでしょうか。今年のアニサマを境に氷川さんが発信する氷川きよし像がちょっと変わった気もするんですよ。

 

齋藤 それは間違いなくあると思います。ロックな一面という部分は以前から表現する機会はあったと思いますが、さいたまスーパーアリーナという大きな箱で、超満員のファンに表現を認められて大歓声を浴びるというのは特別な経験だと思うんですよ。「限界突破×サバイバー」には“施錠(ロック)された可能性のドアをブチ破る”というようなフレーズがありますが、まさにその言葉通りなんじゃないかと思います。実は今年アニサマに出たいというオファーを氷川さんの側からいただいて、出演をお願いしたんです。氷川さんのやりたいこと、見せたいものを持ってきてくださいという形でお願いしました。アニサマのお客さんなら、なんでも受け入れてもらえると思うので。

 

──アニサマのファンの暖かさや懐の深さが、氷川さんの新しい表現の背中を押した部分もあるのでしょうか。

 

齋藤 間違いなくあると思います。2017年の時点では初出演で、“演歌の氷川きよし”がアニサマでロックな姿を見せるということがどう受けとめられるか不安もあったと思うんですが、それが大歓声で受け入れられたことで2019年の表現につながったんだと思います。鈴木雅之さんに大石昌良さんが楽曲提供することが発表されましたが(「たとえ世界がそっぽ向いても」)、これもアニサマという場がつないだ縁なんじゃないかと思います。アニサマが繋げる縁ってありますよね、ALTIMAもそうだし、田村ゆかりさんとMOTSUさんとかも。

 

ラブ・ドラマティック(鈴木雅之 feat. スフィア)

 

──鈴木雅之さんのステージはスフィアとの共演に驚きましたし、「違う、そうじゃない」「め組のひと」も大変な盛り上がりでした。

 

齋藤 鈴木雅之さんのライブを観に行ったら、MCが本当に面白くてすごい盛り上がりなんですよ。だから今回はMCの尺も絶対入れたいと思いました。曲に関しては当初、アニソンということで(アニメ主題歌である)「ラブ・ドラマティック」だけだったんですが、「違う、そうじゃない」を歌うとアニソンじゃないという意味で違う「そうじゃない」というネタにもなるので。「め組のひと」は、鈴木雅之さんのライブでものすごく盛り上がっているのを見てこれは入れないと、と思いました。リハーサルの時、鈴木さんに楽しんでもらいたくて、その場にいる全員がサングラスをかけてリハをやったんです。鈴木さんもサングラスをかけているからなかなか気づかれなかったんですけど(笑)。本番ではさすがにスフィアの皆さんはサングラスをかけてませんでしたが、特に話してなかったアニサマバンドの面々が揃ってサングラスで演奏していたんです。リハや準備の段階からアーティストさんに気持ちをアゲて楽しんでもらおうというのを実践しているので、こういうのもアニサマイズムかなと思いました。

 

──スフィアとのコラボはアニサマサイドから提案した感じですか?

 

齋藤 はい。鈴木さんサイドはアニソンのアーティストにあまり詳しくないので、歌唱力があってR&Bなコーラスにも対応できる、踊れる、バラエティ的な絡みもしっかりできるということで私からスフィアを推薦しました。スフィアとのコラボは、最初は「ラブ・ドラマティック」だけの予定だったんです。でも鈴木さんがスフィアともっとやりたいと言ってくれましたし、最初のリハの時、寿さんがダンスも歌も完璧にマスターしていたので、そこでいろんなアレンジの拡がりができましたね。

 

ようこそジャパリパークへ(けものフレンズ×i☆RiSphere)

 

──DAY1は、けものフレンズ×i☆RiSphereによる「ようこそジャパリパークへ」というハッピーでゴージャスなコラボユニットで幕を開けました。2019年のアニサマをこのコラボで始めようと思った理由を教えてください。

 

齋藤 「けものフレンズ」は2017年DAY1のオープニング、SOS団の「ハレ晴レユカイ」に続く形で出演いただきました。最初にSOS団がどーんと出てきて、その次に歌うというのは通常の人間には無理なので(笑)。それから2年がたって、今は「けものフレンズ2」、ゲームの「けものフレンズ3」と続いているわけですけども、その間いろいろなことがありました。炎上的なことがあったりね。でもまっさらな気持ちで見て「けものフレンズ」というのは楽しくて幸せで深みがある作品だし、音楽にも演じる皆さんにもなんの非もない。何より我々が提供するのはコンサートなので、「ようこそジャパリパークへ」が大名曲であることは変わらないんですよ。だからもう1回みんなで楽しくやろうぜということで、i☆Risとスフィア、トキ(金田朋子さん)まで一緒になって群れの力で歌ってもらいました。

 

乗ってけ!ジャパリビート~け・も・の・だ・も・の(オーイシマサヨシ×金田朋子)

 

──「乗ってけ!ジャパリビート」での金田さんのフリーダムさはすごかったですね。

 

齋藤 本当はもっと早く、「イッツショータイム」のタイミングで金田さんが叫ぶはずだったんですが、完全に(金田さんが)段取りを忘れてましたね(笑)。金田さんが走り始めたのでオーイシさんが「ヤバイ……」と追いかけて行って、完全にズレたところで奇声を上げるというね。だからオーイシさんは、けっこう本気で取り押さえてました(笑)。

 

きみは帰る場所(fhana feat. Gothic×Luck)

 

──fhānaとGothic×Luckがコラボして、「けものフレンズ2」の「きみは帰る場所」を歌うステージもありました。

 

齋藤 「けものフレンズ」に登場する人間とフレンズは相容れない隔てられた存在で、でも仲良くしている。彼らが生きる時間が隔てられていることも暗示されていますよね。だから「きみは帰る場所」ではGothic×Luckが前振れなくシュッと現れて、歌い終わったらMCもなしにシュッと消えるんですよ。一緒にハーモニーを取って歌っているのに、彼女たちとtowanaさんが目を合わせることもないんです。フウチョウコンビは哲学的な存在で、人間の正体や運命も知っているのかもしれない。彼女たちと人間の象徴であるtowanaさんは同じステージに立っているけど、その間は数千年の断絶があるのかもしれない。ただ落ちサビで1か所だけ、彼女たちとtowanaさんの振り付けがシンクロするところを作りました。

 

青空のラプソディ(fhana with あにさまフレンズ)

 

──断絶していても伝わる何かがあるのかもしれない。

 

齋藤 そういったことをfhānaの佐藤純一さんたちと何度も話し合いを重ねながら作っていきました。今回はテーマソングの「CROSSING STORIES」を手がけていただいたこともあって、佐藤さんの気合の入り方がすごくて。本当にfhānaのソロライブを作り上げるぐらいの密度で今回のステージを作っていきました。

 

──コラボといえば初日の三森すずこさんの、次々とパートナーが変わるコラボ主体の構成は面白かったです。

 

齋藤 今回はこの曲を必ず歌わなきゃいけない、というアニソンがないタイミングだったので、三森さんという、アニサマにとっても、アニソンシーンにとっても欠かすことのできない重要な存在そのものに焦点を当てた感じですね。ミルキィホームズなどのユニットを含めて10年連続のアニサマ出演という節目ですから。今回の構成は「三森すずこ人徳メドレー」と呼んでるんですが、コラボってやっぱり準備も練習も一番カロリーが高くなるんですよ。でも、三森さんと一緒ならやるやる!とみんなが言ってくれて、それはやっぱり彼女の人徳ですよね。

 

ファッとして桃源郷(三森すずこ×石原夏織)

 

ドキドキトキドキトキメキス▽(芹澤優▽→三森すずこ←▽大坪由佳)


──そしてDAY1のセットリストで特異なのは、なんと言っても“如月千早”の「蒼い鳥」だったと思います。

 

齋藤 今年は「アイドルマスター」の15周年イヤーも始まって、節目の年ですよね。今はアイドル作品やユニットが全盛の時代ですが、やはりそういう流れの始まりに「アイドルマスター」、無印の765プロという存在があって。それを引っ張ってきた今井麻美さんや中村繪里子さんの存在はとても大きいという認識があります。今回はピアニート公爵にピアノ演奏をお願いしたんですが、実は私、ピアニート公爵がニコニコ動画に投稿していた演奏動画を見て「蒼い鳥」を知ったんです。そして、ネットの世界にいた彼に最初に連絡したのも私で、ニコニコ大会議に出演していただいたり、アルバムデビューのお手伝いをしたことがありました。(「蒼い鳥」作曲者の)椎名豪さんや今井麻美さんのライブにピアニート公爵──森下唯さんが出演したことはあったんですが、「アイドルマスター」の楽曲である「蒼い鳥」を彼の演奏で今井さんが歌う機会はなかったと思うので、観てみたいなという強い気持ちがありました。

 

──完全サプライズだったこともあり、当日の空気は独特なものがありました。

 

齋藤 最初は気づいていないお客さんも多くて、イントロが始まって、今井さんが現れて、という流れの中でだんだんざわめきが広がっていきましたね。正式な事前告知はしていなかったので、会場にプロデューサーさんはいるのか、受け入れてくれるのかに今井さん自身とてもナーバスになっていました。印象的だったのはMCが完全に如月千早だったことで、台詞も完璧でした。ステージが終わった後は今井さんに戻って、「私、噛まなかった!」って話してましたが(笑)。中里P的に、千早としての所作とか笑い方とか、どうでしたか?

 

──アニメ以降、仲間とのつながりを得て安定した千早がステージに立っていたらあんな感じかな、と思いました。

 

齋藤 それって重要で、今の如月千早がアニサマのステージに立ったらどうなるのか、というイメージなんだと思います。

 

蒼い鳥(M@STER VERSION)(如月千早 feat. ピアニート公爵)

 

──如月千早の衣装はなんと今井麻美さんの自費で制作したそうですね。

 

齋藤 僕もその話をイベントの後で知って驚きました。今回はあくまでアーティスト・如月千早としての出演なので、そのイメージに合わせた青いドレスっぽい衣装で出ると聞いていたんです。それが自分の出演ギャラを全部衣装に使ってくれと今井さんが発注したそうで、本当に驚きました。

 

──ピアニート公爵の演奏はどうでしたか?

 

齋藤 彼の普段の超絶技巧を基準にした話ですが、序盤は演奏からも緊張が伝わってきました。元動画では、主旋律と伴奏のアルペジオ、中間部を全て弾いているので、10本の指でどうしているのか不思議なぐらいの演奏になっています。今回は、如月千早のボーカルが入るので主旋律の部分を開けて、その代わりに原曲ではストリングスが担っているようなカウンターメロディなどを入れてアレンジし直してくださいました。ピアノ1本なのにオーケストラのように響く、匠の仕事だったと思いました。

 

後編では、引き続き齋藤光二さんに、「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」楽曲や、放課後ティータイムの出演などについてうかがっていくのでチェックしてほしい。

 

【後編に続く】

 

(取材・文:中里キリ)

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