原作者もがんばった「三ツ星カラーズ」
─最近だと「三ツ星カラーズ」も、大変すばらしい作品でした。振り返ってみていかがですか?
横田 自分が関わった作品は何年か経たないと客観的に見られないんですけど、監督の河村智之さんがすごくこだわっておられましたし、いまだに好きだと言ってくれる方もいらっしゃるので、やれてよかったと思います。
─オープニングも好評でしたね。横田さんは原画でも参加されていますが、具体的にどこを描かれたのですか?
横田 サビで3人が飛んでいるところです。あそこは3Dがぐるぐる回るんですが、3Dは先行で出さなきゃいけないので急いで描きました。
─芝居や動きも、とてもていねいに作られていた印象があります。
横田 遠くから見てもわかりやすいように、ポージングひとつとってもすごい気を遣って作りました。たとえば「手を組む」でも、前に組むか後ろに組むかとかいろいろやっています。
─背景がリアルでしたが作画の際、何か特別な配慮はありましたか?
横田 背景は写真なんですよ。写真の上にキャラを乗っけているので、ウソがつけないんです。キャラを置いた時にキャラがデカかったりちっちゃかったりすると、一気にウソがバレちゃうので、そこはすごく気を遣って直していましたね。
─原作者のカツヲさんが原画で入っておられるのも、印象的でした。これはどういった理由で?
横田 カツヲさんが「描いてみたい」とおっしゃったからですね。自分も「ぜひぜひ」と。アニメのおもしろいところで、「名探偵コナン」(1996~)も、原作の青山剛昌先生が原画を描かれているじゃないですか。自分はそういうのがもっと増えたらいいな、と思っています。
─総作画監督としてカツヲさんの原画に触れた感想は?
横田 カツヲさんご本人がやられているカットが一番かわいかったので、それが悔しかったです(笑)。もし2期があるとしたら、もっとカツヲさんに近づけるよう頑張ります。
─最終回のカラーズの寝顔もかわいかったです。
横田 そこもカツヲさんカットですね。カツヲカットはすばらしい!
─最終回のエンドカードはカラーズの後姿でしたが、これは横田さんご希望の構図ですか?
横田 そうなんですけど、最初は違ったんですよ。特に指定がなかったので「高校生になった3人を描きたい」と言ったら、「頼むから、それだけはやめてくれ」と言われて(苦笑)。それで後姿を提案しました。表情を見せないほうが、いろいろ想像できていいんじゃないかと。
─吉田ヨシツギさんと連名になっておりますが、どういった分業を?
横田 吉田さんには背景や塗りとフィニッシュをお願いしました。超高級感のある絵にしてくれたので、感謝感謝です。
「ストレスなく24時間、絵のことを考えられる人」が向いている
─アニメーターに必要な資質能力とは何でしょうか?
横田 資質というか、自分は遊んでいても頭のどこかで24時間絵のことを考えているので、それを自然に、苦痛なくストレスなくできるなら、アニメーターになれると思います。あと自分には、「絵がうまくなりたい!」というのが根本にあるんですよね。うまい人の絵を見たら「自分もこうなりたい!」、「もっとうまくなりたい!」と思うし。多分それがいまだに残っているから、アニメターターをやり続けているのだと思います。
─現在のアニメ業界、特に作画セクションについて思うことはありますか?
横田 今はデジタル作画にしても、iPadだけで完成まで持っていくことが可能なんですけど、ソフトがバラバラ過ぎるんですよね。たとえば「CLIP STUDIO」を使ったり、「Adobe Photoshop」を使ったり、「Adobe Animate」を使ったり、「Blender」を使ったり。だから、そこら辺で統一基準を作ったら、ひとつの目的に向かって全員が一丸となる環境づくりができたら、よりよくなるんじゃないかなという気がしますね。
監督挑戦でパラメーターが変わるかもしれない
─今後挑戦してみたいことは? 横田さんは「マジでオタクなイングリッシュ!りぼんちゃん」(2012)第7話で、原画・作画監督だけでなく、絵コンテ・演出までされています。監督挑戦も考えておられますか?
横田 依頼が来たら、受ける可能性はあります。力の限りやれることは全部、できたらいいなと。やってみたら何か自分のパラメーターが変わるかもしれないし、おもしろそうですよね。デザイナーだけやりたい、というわけではないです。マンガも描きたいですし。
─画集出版はどうでしょう?
横田 うーん……画集というより、ボツになった絵を供養したいですね。実は、企画的に表に出せなくなった絵というのが、山のようにあってですね。設定まで描いて出せなかった絵とかが結構あるので……もったいない。表に出ないのが一番もったいないので、そこら辺を供養できるんだったらやりたいな。
─2020年4月放送予定の「波よ聞いてくれ」について、ひと言お願いいたします。
横田 比較的大人のドラマですが、題材的にラジオを扱うというのもおもしろいと思うので、ぜひ観ていただきたいですね!
─最後に、ファンの皆さんにメッセージをお願いします!
横田 まず自分の絵を好きになってくれた皆さんに、「ありがとうございます」と言いたいです。それから、アニメーターになろうとこのインタビューを見てる人もいると思うんですが、アニメーターはある程度絵がうまければ、簡単になれます。結構おもしろい業界ですよ。もし合わなければ、辞めて別の業界に行くのもアリだと自分は思います。なので、なりたいと思って二の足を踏んでいる人は、1回なっちゃうというのはどうでしょうか?
●横田拓己 プロフィール
アニメーター、作画監督、総作画監督、キャラクターデザイナー。大学法学部卒業後、制作進行でユーフォーテーブル(ufotable)有限会社に入社。アニメーター転身後は、株式会社アニメインターナショナルカンパニー(AIC)に。現在はフリー。美少女もの等を得意としており、オープニングやエンディングの作画でも定評がある。作画監督作品は「R-15」(2011)、「えびてん 公立海老栖川高校天悶部」(2012)、「マジでオタクなイングリッシュ!りぼんちゃん」(2012、絵コンテ・演出も)、「ニセコイ」(2015)、「幸腹グラフィティ」(2015、総作画監督も)、「3月のライオン」(2016)など多数。「プピポー!」(2013)、「三ツ星カラーズ」(2018)、「波よ聞いてくれ」(2020)では原作ファン納得の魅力的なキャラクターデザインを披露、デザイン面でも技術力の高さを証明した。今後一層の活躍が期待される、要注目のクリエイターである。
※TVアニメ「プピポー!」 公式サイト
https://www.tv-tokyo.co.jp/anime/pupipo/index2.html
※TVアニメ「幸腹グラフィティ」 公式サイト
https://www.tbs.co.jp/anime/koufuku_g/
※TVアニメ「三ツ星カラーズ」 公式サイト
http://mitsuboshi-anime.com/
※TVアニメ「波よ聞いてくれ」 公式サイト
https://namiyo-anime.com/
※横田拓己 ツイッター
https://twitter.com/ohkowai
(取材・文:crepuscular)