「もっと上に」ウェイバーは自分自身の思いが乗ったキャラクター アニメ「ロード・エルメロイⅡ世の事件簿 -魔眼蒐集列車 Grace note-」加藤誠監督インタビュー

2019年12月01日 12:000
(C) 三田誠・TYPE-MOON / LEMPC

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制作当初から見えていた最終話の感動的なシーン


── 最終話ではエピローグをじっくりと描きましたね。

加藤 最後をどうやって締めるか、かなり悩みました。魔眼蒐集列車編も結構なボリュームだったので、当初は13話のAパートまで魔眼蒐集列車編(本編)に使って、Bパートを魔眼蒐集列車編(エピローグ)にしようというアイデアもあったんですが、“Ⅱ世とグレイの成長”にちゃんと尺を使ったほうがいいと判断して、最終的にAパートが12.5話的な魔眼蒐集列車編(エピローグ)、BパートがⅡ世とグレイのエピローグ(最終回)としました。Bパートは最終回と云うこともあり、僕のほうでコンテ・演出を担当しました。

── Bパートに登場したライダーにファンは大喜びでした。

加藤 その後のウェイバーとライダーのやり取りが映像になるのはおそらくあれが初めてですよね。ウェイバーを好きだった人からすると、ずっと見たかったシーンだったのではないでしょうか。それは自分も同じでした。責任重大でしたが、描くからには“ずっと残るもの”にしたいと云う想いがありました。最終話だからかわかりませんが、スケジュールも体力もない中、あのシーンは120%頭の中にイメージが湧いて、スッと描けました。実は第1話のBパートラストに登場した“オケアノス”のシーンは第13話に繋がるように見越して絵コンテを設計して作っていたくらいですから。


── それまでシリーズの中でライダーが出そうで出てこないカットがいくつかあって焦らされていただけに、最後に会話をすると感動が一層増します。

加藤 第1話から第12話まで頑なに表情を見せず、声も出さないライダー。最後までこれで終わりかと思わせて「どうした坊主?」というひと声を発し、表情を露わにする。これはあおきさんからのアドバイスもあったかと思います。このシーンの音楽も、「オケアノスのテーマ曲を新たに欲しいです」と梶浦由記さんにお願いして作っていただきました。小ネタとしてはライダーのもとへⅡ世が歩み寄るカット、よく見てもらうと「Fate/Zero」の第1話、尻もちついたウェイバーのもとへライダーが歩み寄るカットと対になっていたりします。ほかにも「Fate/Zero」のリスペクトがありますので、是非もう一度探してみて下さいね! シーンの最後のカットは、あおきさん直伝の“ウユニ塩湖演出”です。「アルドノア・ゼロ」の第2クールのオープニングでは上から下のカメラワークで伊奈帆とアセイラムを描きましたが、今回は下から上のカメラワークでライダーとⅡ世を描いています。

── ライダー役の大塚明夫さんの収録の様子はいかがでしたか?

加藤 当初は抜き録りになるかもしれないと云う話だったんですが、あのシーンは浪川大輔さんと大塚明夫さんの“直接の掛け合い”なくしては完成しないと感じていました。アフレコ当日は幸運な事に大塚さんが来ていただける運びとになりました。僕も大塚さんとお仕事をするのは今回が初めてだったので緊張はしましたが、大塚さんの生の声が聞こえてきたときは喜びのほうが勝った気がします。収録本番、マイクの前に浪川さんと大塚さんが立つと10年前の2人に戻るんです。あれは不思議な光景でしたね。ほかの役者の方も同じような感想を言っていました。あの空気感あっての浪川さんの泣きの芝居が出たんじゃないかなと思います。あのシーンは僕からは何も指示をせず、浪川さんに託したという感じです。本当に素敵に演じてもらって、僕もお気に入りのシーンになりました。


── 加藤監督はオープニング・エンディング映像づくりにも強い意欲をお持ちです。今作ではエンディングのコンテ・演出を担当されました。

加藤 見せ方の手法としては「やがて君になる」のオープニングに近い感じですね。あれで自分の表現のスタイルの断片が見えた気がしたので、それを引き継いだ流れです。今回はグレイという女の子を90秒でいかに描くかということを念頭において構成し、“彼女の成長”を四季折々の風景とともに映し出しました。Ⅱ世をずっと待っているグレイ。その間にメルヴィン、フラット、スヴィン、ライネスが登場します。このとき、各キャラクターの位置関係にはちゃんと意味合いが込められています。それは“グレイとの距離感”です。メルヴィン、フラット・スヴィン、ライネスの順で徐々にグレイとの距離感が縮まっていきます。ラスト彼女の隣に一番近づいているのはもちろんⅡ世。彼女の見ている風景の移り変わり、時間の流れと、人との距離の縮め方、接し方をイメージして表現してみました。改めて見返していただくと新しい発見があるかもしれません。


── この作品全般にわたって高品質な印象を受けました。本日のお話でもカロリーコントロールについてのお話が出てきて、それについて意識を強くお持ちだったことも関係してそうですが、このフィルムづくりが実現できた秘訣は何だと思いますか?

加藤 今回、主にスケジュール面では現場のスタッフにはかなり苦しい思いさせてしまったので、監督としてはいろいろと反省しないといけません。そんな過酷な現場の中、ラストまでスタッフ全員の熱量が下がらなかった、むしろ上がって行ったことが救いで、それがクオリティを最後まで保てた一番の理由なのかなと思います。その中でも僕と中井さんの熱量が一番高かったんですが、それはちょっと間違えると「やっぱり付いていけないよね……」とマイナスに転がる危険性もあります。実際は紙一重だったと思っています。みんなでスゴいものを作ろうという諦めない精神のもと、付いて来てくれたすべてのスタッフに今は感謝しかありません。動画の若いスタッフも本当に頑張ってくれたと思います。僕と中井さんが出す本当に細かいリテイクを、社内の動画・動画検査さんがちゃんと拾って直してくれました。仕上げスタッフが直接絵を直してくれていたりもしています。あれでどれだけキャラクターが蘇った事か……。トロイカ社内に編集や撮影があるのもスタジオの強みだと思いますし、ラッシュを毎回スタッフみんなでチェックする環境なのも幸せな事だと感じますね。みんなでラッシュに立ち会えば、リテイク内容の共有も人伝にならずミスも減ります。僕は“チームで創り上げる事”に監督としての重きを置いています。現場は縦社会ではなく、横社会であると云うこと。監督には責任も決定権もありますが、それがイコール“偉い”ことだとは微塵も思っていません。僕はあくまで歯車のひとつであって、監督と云う名の部署の1人。どの部署が下だとか上だとかもありません。みんなが同じ立場で、誰ひとり欠けてはいけない。責任は僕が負います。そう云う思いが自然とスタッフに伝わり、よい方向に導けていたのなら、僕はそれで満足です。


── 先ほど30代前半の総決算とおっしゃいましたが、どんな経験になりましたか?

加藤 今作、「ロード・エルメロイⅡ世の事件簿」は前作、「やがて君になる」と同時並行で取り組んだ作品となりましたが、妥協せず、最後までやり遂げたということが大きかったと思います。いつもの3倍はあろうかという仕事量の中で、時間の使い方もシビアになりました。その中でいかに淡白なものにならないか。監督として拾う部分と逃がす部分、人に任せる部分の仕事のすみ分けが付くようになって来たので、そこは大きな経験であり、それが成長した部分なのかなと感じます。30代前半の総まとめとして、今あるものすべてを今作で出し切ったと自信を持って今は言えます!

── 2作品続けて大変な中でも熱意を持って行なうことができたのは、ご自身ではなぜだと思いますか?

加藤 そうですね……。やっぱり上に行きたいって思っているからじゃないですかね。

── いいフィルムを作って。

加藤 そうですね。生意気ですけど、加藤誠と云う監督が上の人たちを脅かすくらいの存在になっていかないといけない。そのくらいの意識を持ってアニメ業界を盛り上げて行きたいと思っています。“まだまだ上に行きたい”と云う熱が消えない限り、これからも“変わり続ける人生”を作品とともに歩んで行きたいと思います。ありがとうございました!


(取材・構成/日詰明嘉)
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