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参考にしたトレインミステリーは、あの国民的作品
── 第4,5話は連続の話数になって少しは時間の余裕がありましたか。 加藤 いえ、第4、5話はシナリオ、コンテ共にけっこう削りましたね。シナリオの段階で刈り込んだだろうと判断してコンテ発注させて頂いたのですが、いざコンテを起こしてもらったときに、説明しなくてもよかった事柄や面白いシーンにならなかったことなどが発生するんです。これはあおきさんともよく話した「クリエイターあるある話」なんですけれども。不思議でしたね。
── コンテに起こしてから切るのは無用な作業に見えて、実は必要だったというわけですね。 加藤 そうですね。そこがコンテの面白さ、醍醐味だとも思うんです。コンテマンさまに申し訳ないと思いつつも、監督として心を鬼にしてバッサリと切らせてもらいました。もちろんその中にはオーバーワークになり過ぎない様、カロリー計算もちゃんと含まれています。
── あおきさんとのお話し合いが話題に上りましたが、スーパーバイザーとしてはどのようなことをされていたのでしょうか? 加藤 基本的には僕に任せてくれていた感じです。作品の経緯を俯瞰で見て、絶妙なポイントで的確なアドバイスをくれる。僕の「こういうことをやりたい」に対して、「どうやったらそこに行けるのか」ということを一緒になって考えてくれました。本当にサポートしてくれたという感じですね。あおきさんの指摘はどれもこれも、「ホントその通りです」という内容ばかりで、監督としての凄みを感じるばかりでした。
── 何か具体的なエピソードでありますか? 加藤 後半戦で登場するドクター・ハートレスについてです。事件の真犯人であり、物語の最重要人物なのですが、第12話で突然現れます。原作通りではあるのですが、突然の登場に対して、「視聴者が困惑するんじゃないか?」と指摘をされました。その指摘を踏まえ、彼のバックボーンがしっかりわかる様に、原作エピソードにアニメオリジナル要素を加えさせて頂き、再構築しました。それによって生まれたシーンやキャラクターの動きもあったので、そこは本当に助かりました。
── トレインミステリーものは映画など過去にさまざまな名作がありますが、そこからヒントを得たことはありましたか? 加藤 それは「オリエント急行」ですね! …と、格好いいことを言いたいのですが、実は「大長編ドラえもんのび太と銀河超特急(エクスプレス)」なんです! 魔眼蒐集列車の中は、いわゆる別空間になっていて、外から見ると普通の列車、中に入ると豪華で広い客室、外観、内観の造りが全然違うんです。そう云ったファンタジー要素の驚きは僕の中では「ドラえもん」が最初だったと思います。「オリエント急行」ももちろん参考としては見てはいましたが、実は僕の中に眠る“「ドラえもん」”が魔眼蒐集列車の設定を考えるうえで、かなり役立ったんじゃないかなと思っています。
── ロケハンに行かれたそうですが、どんな滞在でしたか? 加藤 約1週間くらい、ロンドンからイギリス郊外までさまざまな地方を回らせてもらいました。海外旅行自体が初めてだったんですが、現地に行って一番よかったのは、“色合いの感覚”をつかめたことでした。やっぱりイギリスの空は曇っていて、グレーがかっている。そこで暮らしている人々の服装や建物の色も全体的に彩度が抜けた色に感じて、色彩設計の篠原(真理子)さんと「今回はどちらかといえば櫻子さん寄りの色だよね」という話をした記憶があります。
── ちなみに第6話で出てきたデパートは実在するものですか? 加藤 あれもモデルになったところがあるんですが、怒られない範囲で写真を撮らせてもらいました。もちろんそのままでは使えないので映像ではアレンジをしています。建物の中は2分割されていて、スフィンクスがあるほうは一般的なお客さんが買い物をするところ。反対側は高級感がある、いわゆるお金持ちが行くようなところ。その両側で作りがまったく違ったのが面白かったです。建物の情報量が多く、そのまま作ってしまっては美術のカロリーがとんでもないことになってしまうので、そこは絵コンテを担当されたあおきさんが同ポ(同ポジション)を多用して美術の負担を減らしてくれました。それでも大変な回だったと思いますが……(汗)。
── 第6話はコメディ回でしたが、シリーズ全般に渡ってもシリアス一辺倒ではなくコメディを入れてくるところが、この作品の原点である2000年代前半のPCゲーム的な空気感を感じさせました。それをフィルムに落としこむために、監督としてはどのように考えて入れていきましたか? 加藤 TYPE-MOON作品の世界観はしっかり踏襲しつつ、それでも今までとは違うことをするという考えは僕の中で最初からありました。歴史もある中で、お堅い作品なのかなと思われて視聴者に敬遠され過ぎない様、キャラクターを少しでも愛してもらえる様、Ⅱ世も含めて、各キャラクターには隙を作ってあげることが必要でした。コミカルな仕草や表情などを物語の間にふんわりと盛り込むことで、「Fate/Zero」のウェイバーは今も生きているんだということを提示できましたし、親しみが生まれ、それによってエンターテインメント性が広がったのではないかなと思います。
── 間口を広げるという意味でグレイの存在は大きかったかと思います。彼女を描くうえで心がけたことは? 加藤 彼女はシリーズを通して一番描くのが難しかったですね。もちろん原作を読んでいるので彼女のバックボーンはわかるのですが、パッと見では、ひ弱な女の子に見えがちなんです。でも実はそうではなくて、田舎から都会にやって来て、少しずつ人と世界と触れ合い、だんだん自分を作っていく、“グレイと云うキャンバス”に色を塗り始めた発展途上の女の子なんです。それをいかに表現するか、表情も口数もそう多くはないので、そこが本当に最後まで苦労しました。何がきっかけで彼女は成長するのかと云う事を深く考え続けました。グレイを演じる上田麗奈さんとも密に話し合った記憶があります。
── シリーズ前半の推理回では、彼女のアクションがクライマックスになってきますが、アクションシーンについてはどのように考えられて作られましたか? 加藤 アクションについては総作画監督の中井(準)さん、メインアニメーターの牧野(竜一)さんに全体の方向性はお任せして、僕のほうでは戦闘時のビジュアルやテンポといった演出側に注力させてもらいました。たとえばグレイのフードが脱げたときに目の色が変わっているといった、細かいところのアイデアを出したり、ロンゴミニアドを撃つときの周りの蛍みたいな光は「Fate」シリーズから踏襲したりといった部分ですね。
── アクションシーン以外の部分で演出してこだわられたところは? 加藤 やっぱり推理が終わった後の余韻の部分ですね。最終的に事件というものは人が起こすもので、終わった後スッキリはしないですよね。それに対して、Ⅱ世が犯人のキャラクターと向き合うとき、魔術師らしからぬ表情を見せたりします。魔術師というのは基本的に合理的なサイコパスが多くて、感情移入することはあまりないのですが、Ⅱ世は魔術師にも関わらず“人の痛みがわかる”珍しい人物なんです。魔術師としては三流でも、それが彼のよさというかこの作品の魅力だと思うんです。“これからも続いていくし、変わっていく”今作が持つこのテーマは前作「やがて君になる」と重なる部分でもあるので、特に大事にしました。