※本コンテンツはアキバ総研が制作した独自コンテンツです。また本コンテンツでは掲載するECサイト等から購入実績などに基づいて手数料をいただくことがあります。
“懐古的なロボット物をつくっている富野”にならないために
── 『キングゲイナー』では、安田朗さんがキャラではなくメカをデザインしていますね。 富野 あのデザインを採用したのは、単純に、安田朗さんに媚びていたからです。媚びていたというのは悪いことではなくて、安田さんのおかげで自分の不得手なものを描くことができました。オーバーマンを演出することは嫌なことではなかったし、安田世代の持っているセンスはガンダム系のものとは違って、かなり気持ちよかったという記憶があります。
── 『キングゲイナー』の次が『G-レコ』ですが、安田さんが主役の『G-セルフ』のデザインで続投していますね。安田さんから上がってきたデザインを見て、採用・不採用を決めていたのですか? 富野 安田朗さんの才能を認めていたから、僕から意見を出すという気持ちになれませんでした。ですから、上がってきたデザインを丸ごと採用したんです。そういう意味でも安田さんに媚びていたのかもしれないけど、G-セルフのようなデザインを採用していかないと、従来のガンダム系の流れを遮断した新しいコンセプトは出てこないと思います。『G-レコ』以降、安田さんを継承したデザイナーが出てくることを期待しています。
『G-レコ』のデザインには異議申し立てはなくて、形部一平さんという別の体質の人がメカデザインに参加してくれことで安心した部分もあります。だけど、本当はそこで安心してはいけないんです。最後まで「このデザインは気に入らない」と言いながら、「それでも何とか俺が使って、しっかり形にしてみせる」と思っていないといけない。メカデザインひとつとっても、作品に大きく影響するからです。
── ガンダムシリーズで育った世代が、モビルスーツを好きでスタッフに参加しているということはなかったのでしょうか? 富野 その感覚は、どうしても僕にはわからないんです。ガンダムシリーズを40年やってきたからこそ、ガンダム好きにシンパシーを持てないんです。過去のガンダムとは違うものを求めていたから、シド・ミードさんや安田朗さんを起用したわけです。このたとえで伝わるかわからないけど、ジェット戦闘機の時代にゼロ戦の図面を持ってこられても困るんだよね、という気持ちが強くあります。
── 今回の劇場版『G-レコ』では、メカ演出もテレビ版とは変えたのでしょうか? 富野 劇場版は2年近く前に5本分の絵コンテがすべてできていますから、現時点での加筆修正は絶対にできません。ただ、映画として見たときの手ごたえはかなりあって、テレビ版に比べて見やすくなっていて、子どもが見て楽しめる力強さがある。映画として、出資者に損をさせないだけの自信があります。映画としてはそれでいいのですが、メカが一番のアイコンになっている作品ではないので、そこに期待してもらっては困ります。『G-レコ』の企画を考えはじめた10年前、先ほど言ったような技術信仰ができなくなってしまったので、あまりメカに比重を置いた作品をつくる気になれなかったんです。
かつて後進国と呼ばれていたアジアの国が経済大国になって、ガンプラのグローバルマーケットは、あと10年ぐらいは拡大しつづけていくでしょう。しかし、作品や世界観から考えると、今の時代が10年以降も続くとは思えない。新しいビジネス論やエンターテインメントを考えなくてはいけない時期に来ているので、『G-レコ』は20~30年後に向けてつくっています。そういう未来志向がないと、単に懐古的なロボット物をつくり続けている富野でしかありませんよね。そこは、なめてもらっては困ります。
── ロボット物を嫌がりながらも、こんなに真剣に、かつ長くつくり続けている作家は富野監督だけだと思います。 富野 僕がどうしてこの歳になってまでロボット物をつくっているかというと、一般の方も制作者も、ガンダム系の作品の持っている恐ろしさに気がついていないからです。ガンダムのおかげで科学技術と生活を一緒に考えられたわけだけど、技術信仰によって人類全体が首をしめられていることを見抜いている人がほとんどいない。40年もロボット物をつくっていると、これに気がつくことができます。
これ以上、科学技術を進歩させても自滅する方向にしか進まない、それが『G-レコ』の企画を考えはじめたときの一番の眼目です。禁煙までして百億もの人間を延命させている世界で、この国では「人口減だから危機だ」などと言っている。日本列島で自給自足できる経済論も技術論も何もないのに生きのびられると思っている政治家は、めでたくすらありますよね。人類全体が、そういう思考回路に陥っている……という問題をリアルで口にすると角が立つので、アニメで言っているのが『G-レコ』という作品なんです。今さら新型のゼロ戦なんて、見たくもありませんからね。
(取材・文/廣田恵介)
(C) 創通・サンライズ