半世紀にわたり巨大ロボットを演出しつづけた先に、何が見えるのか? 富野由悠季監督インタビュー【アニメ業界ウォッチング第60回】

2019年11月23日 11:001

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『∀ガンダム』には何が足りなかったのか? (1)


── かつてのロボットアニメは玩具会社が強力なスポンサーでしたが、『G-レコ』は玩具を売らねば打ち切りになる作品ではありません。そうした作品の座組みと富野監督の今の気分とは、関係ありませんか?

富野 それは、あまり関係ありません。そのような論法とは違うところで、『G-レコ』にジット団(前出のジーラッハやジロッドを開発した組織)の素っ頓狂なメカを出すことには、「メカオタクの連中は、こんな変なメカでも平気で造っちゃうんだよね」という意図がありました。その意図を目に見える形で示しておくべきだったのに、実際にはできなかったんです。
たとえば、今のガンダムシリーズのマーケットには曖昧な部分があって、ちょっと形が変わっただけのガンダムを「新型」として次々に出してしまえるわけです。自動車も同様で、たかが30~40センチぐらい全長が違うだけで「新型」だと言い切ってしまう。そうした数寄者(すきもの)の世界は、どうしてもそういうレベルに陥ってしまうものなんです。ガンダムの中だけで変形だ、新型だと変えてみたところで、それはデコレーション過多になっていくだけであって、根本的なデザインの部分では何も新しくない。『G-レコ』の企画を始めたときの自分もその渦中の中にいたわけです。だから、ジット団をメカオタク、アナログオタクの真骨頂として描きたかったんだけど、アニメとして弾んでない。よく言えば“シリアス志向”なんだけど、慣れ仕事ですね。くやしいことはくやしいんだけど……、まあ、「40年も持った富野さんだから勘弁してよ」っていうのが正直なところです(笑)。

── 昔の富野監督のインタビューを読んでいると、「本物のメカ好き」という言葉が出てきます。「本物のメカ好き」とは、つまり「ロボットオタクではない」という意味だと思うのですが?

富野 はい、当時はそういう意味で使っていました。だけど、そのインタビューは30年ぐらい前のものでしょう? その頃は、戦後復興の中で自動車産業や家電メーカーが経済を底支えしてきた空気感が日本全体に残っていて、技術信仰というものが厳然としてあったんです。その延長線上で物を語っている時期が、自分にもありました。当時は自分自身も発展途上だったので、技術信仰を善だと思っていました。だけどアマゾンやグーグルが普及した21世紀になってから、技術論の立ち位置が根本的に違ってきてしまった。それで技術信仰できなくなり、『イデオン』の3本足のメカも含めた素っ頓狂な形もイヤになって、メカ離れが始まったのかも知れません。『G-レコ』の場合は、そういう感覚が端的にあります。だからこそ、デザインワークだけで何とかしのいでいこうと思いました。『キングゲイナー』も『G-レコ』も安田朗さんのような、ある意味、天才的なデザイナーの助けを借りてきたんだけど、それもそろそろ限界なのかも知れない。メカデザインは袋小路に入ってしまって、これ以上、新しい何かが出てくる状況ではないのかな、という気がします。


── 『∀(ターンエー)ガンダム』(1999年)でシド・ミードさんを起用しましたよね。ミードさんに依頼することでブレイクスルーを試みたのでしょうか?

富野 今だから言えるけど、ブレイクスルーするとは思っていませんでした。シド・ミードさんは僕の世代のエースなので、特に新しいものを提供してくれるとは期待していませんでした。ただ重要なのは、デザイナーとして頂点を極めた人の技を日本という場所で花開かせておきたかった。あのままフェードアウトするシド・ミードさんを見たくはなかったんです。ガンダムファンからは叱られるだろうけど、あのヒゲガンダムには嫌いなところがないんです。かなり好きなんです。なのに、なぜ作品の中でパッとしなかったのかというと、僕がミードさんのファンであったがために、あのデザインを画面に出しておきさえすればいいと思ってしまったからです。ヒゲガンダムに関して、劇としての絡め手や演出論を、ほとんど考えてなかったんです。ミードさんに申し訳ないし、好きという気持ちだけで作品をつくってはいけないのだと、『∀』で身にしみてわかりました。身にしみながらも、安田朗さんがキャラクターをデザインしてくれたおかげで、僕の好きなシド・ミードさんのタッチとビビッドな安田さんのキャラクターさえいれば、もう僕には考える必要はなかった(笑)。あのメカとあのキャラがいてくれるだけで、ずーっとニコニコしてました。それが、『∀』の一番の落とし穴。つまり、僕の我を出せなかったんです。富野ガンダムなんだったら、あんな甘っちょろい話で終わらせず、本当はもうちょっと……の部分を出し切れなかった。キエルとディアナの設定も気に入っちゃったんだけど、ガンダム系の力強い作品にするんだったら、キエルとディアナがひとりはヒゲガンダム、もうひとりは別のマシンに乗って戦闘シーンを繰り広げるぐらいのあざとさがないと、作品として形にならない。それをすっかり忘れていたんです。
『∀』最終回のエンディングは、今でも大好きですよ。でもだから、まさにガンダム物で、あれをやっちゃいけないんです! ロランみたいないいキャラクターをつくったから、キエルとディアナがいてくれるから……で気がすんでしまうのではなく、その気持ちと戦って見せる構造が、本当はあるべきでしょう?

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コメント(1)
ガーンガーン2020/12/03 15:06

ターンAメカに特に思い入れ湧かない理由がこのインタでやっと解った

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