【気になる! 旬なアニメレビュー!】話題騒然の映画「すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ」が描いた弱者たちの処世術

2019年11月14日 10:180
【気になる! 旬なアニメレビュー!】話題騒然の映画「すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ」が描いた弱者たちの処世術

エンディングテーマが終わり、照明がついた後の、一瞬の静寂。その後のざわめきは、おそらく当分忘れることはないだろう。

このとまどいと感動。そして「誰かに感想を語りたい」という衝動は、きっと映画「すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ」を観た誰もが共有した感情だったと思う。そのくらい強く心を揺さぶる映画だった。

「『すみっコぐらし』の映画がヤバい!」という声は、公開直後からSNSを中心に拡散。その後、あまりの反響の大きさに急遽上映館が拡大するという事態に至り、「これは何かすごいことが起きているのでは!」と思ったアニメファンは少なくなかったはずだ。

かくいう自分もそのひとりで、「そんなに話題になってるなら、いっちょ視聴レビューでも書いてみっか!」くらいのライトなノリで映画館のチケット予約サイトを開いたのである。ところがびっくり! 正午くらいの時点で、新宿ピカデリーの当日券はほぼ完売。駆け込みで、なんとか最前列の座席をキープすることができたのである。

 

いざ劇場につくと、ロビーには開場を待ち構えるアニメファンでごった返しており、この熱気は1997年の「新世紀エヴァンゲリオン シト新生」公開日の雰囲気を彷彿とさせた……と言ったらアラフォー以上の方には共感していただけるだろうか。1分、1秒でも早く劇場に駆け込みたいという観客の熱気は、それくらい前のめりだった。

 

 

さて自分が観たのは、平日19時からの上映。時間的にも土地柄的にも、仕事帰りのサラリーマンや社会人カップル、大学生ばかり。本来のターゲットであるはずの子どもはほぼいない。よく考えるとすごい状況である。彼らのうち、何人が「すみっコぐらし」というコンテンツを知っているのだろうか。勉強不足で申し訳ないが、自分はサンエックスのファンシーキャラで、部屋のすみっこでひっそりと暮らしている連中……くらいの、本当に雑な知識しかなかったし、おそらく劇場内にいる人たちの多くも大なり小なり似たようなものだろう。

「俺たち『すみっコぐらし』見ちゃってるよ」「これSNSのネタになるかも」的な、ある種の冷やかしのようなノリも少なからずあったはずである。

ところが、だ。

上映開始前後の、そういった空気はいつしか鳴りを潜め、中盤に差しかかる頃には誰もが息をのみ、そしてクライマックスが近づくと会場のあちらこちらから鼻をすする音が聞こえるではないか。

そして上映が終わった後の状況は、冒頭の通り。茫然自失。誰もが圧倒的な感動と衝撃に身動きひとつとれない状況に陥ったのである。

まだ映画公開中ということもあり、ネタバレは極力避ける形で、本作の何が我々の心をこうまで揺さぶったのか。それを考えてみたい。

 

弱き者、持たざる者たちのドラマ

本作のあらすじは、以下の通り。

「すみっコ」と呼ばれる、ちょっぴりネガティブだけど個性的な存在は、ある日、一冊の古い飛び出す絵本を見つける。その本を眺めていると、すみっコたちは突然本の世界に吸い込まれてしまった。

絵本の世界ですみっコたちは、自分が何者なのかわからない、ひとりぼっちのひよこと出会い、みんなでひよこのおうちを探してあげることに……。

 

 

というもの。今流行りの言い方をするならば「異世界転生もの」だろうか。すみっコたちとひよこの面白くも心温まる冒険が本作のメインストーリーとなる。

ポイントは、出てくるキャラクターたちが皆、「弱者」であるということだ。

本作に登場するすみっコたちは、寒さから逃げてきた「しろくま」、自分が本当にペンギンなのか自信がなくて自分探し中の「ぺんぎん?」、脂身ばかりで誰からも食べてもらえず残っている「とんかつのはじっこ」と仲よしの「えびふらいのしっぽ」、実は恐竜の生き残りだけど平穏に生きるために正体を隠して日々を過ごす「とかげ」、いつかあこがれの花屋さんでぶーけにしたもらいたい「ざっそう」、ミルクティーだけ先に飲まれて残ってしまった「たぴおか」、こわがられたくないのでひっそりしている「おばけ」といった具合に、誰もが恵まれぬ境遇にあったり、何かしらコンプレックスやかなわぬ夢、うしろめたさを抱いている者たちである。

決して世の主流派にはなりえない彼らだが、部屋のすみっこで申し訳なさそうに寄り添いながら、それでもそれなりに楽しく生きている。その姿は、まさに激安シェアハウスやスクールカースト底辺で身を寄せ合う「弱者」のそれとダブる。

 

 

そんな彼らが絵本の中で出会うのが、自分が何者なのかわからない──アイデンティティを確立することのできない「ひよこ」である。

たまたま絵本の世界を訪れたすみっコたちは、自分たちと同じく「弱者」であるひよことともに彼の「おうち」──自身のルーツを探すべく、「桃太郎」「アラビアンナイト」などいろいろな絵本の世界を冒険するわけだが、その様子は基本的にコミカルに、かわいらしく描かれる。それまで天涯孤独の身だったひよこが、すみっコたちとたわいもない交流を積み重ねることで、友情を深めていく姿には自然と笑みがこぼれてくる。

だからこそ、やがてたどり着いたとある物語の世界で「自分はこの世界の主人公だったんだ!」と喜んだ直後、別のキャラクターが登場。そちらが実は主人公で、ひよこはやっぱり何者でもなかった。という残酷な「現実」に落胆するシーンの無力感、絶望感は計り知れないものがあった。

何も持たざるまま生まれた者は、やはり何者になることはできないのか。そんな諦念が観客の胸中に去来する。

 

 

本作はこのように、すみっコたちが身を寄せ合っている間はある種のユートピア的な描き方をしながらも、少しでも彼らが外界と接点を持つと、有無を言わせぬ「現実」が立ちはだかるという非常にシビアな構造を持っている。

この揺さぶりの連続が我々の心も揺るがし、やがてすみっコたちへの共感を高め、他人事ではなくなってくる。

 

この構造が頂点に達する瞬間こそが、すみっコたちが大きな決断を迫られるクライマックスである。二者択一の(そしていっぽうの選択肢しか選びようのない)現実は、やはり我々に救いようのない絶望をもたらす。

 

具体的に何が起きて、どんな選択がなされたのか。それは実際に映画館で確かめていただきたいが、その選択後、冒険を終えたすみっコたちが取ったあまりにも「やさしい」行動は、もういっぽうの選択肢を選べなかった彼らの──そして我々観客にとって、ひとつの希望、そして慰めとなる。

その行動は、結果に対する最適解とは言い切れないかもしれない。もしかすると、もうひとつの選択肢を選べなかったことに対する贖罪であり、ただの自己満足という可能性すらある。

それでも選ばれなかった彼が少しでも救われると思えるなら。そして選ぶことのできなかった自分たちの気持ちが救われるなら、その「やさしさ」には意味があるのではないだろうか。

 

 

令和の時代に入り、数多くの悲しい事件が我々の心をむしばんでいく日々である。決して他人ごとにはできない事件も少なくはない。だが、そんな中でもすみっコたちが示した「やさしさ」を我々も持てたなら。そしてその気持ちをみんなで共有できたなら、きっと辛く、抗いようのない「現実」に立ち向かうのではなく、手を取り合い、ぐっと耐えていけるのではないだろうか。

それは消極的な生き方のように見えて、その実、けっこうタフな生き方だと思うのである。
そして、「自分にもそんな生き方ができたら」「自分にも寄り添ってくれる誰かがいてくれたら」……そんな本作の持つ「強さ」と「やさしさ」に共感した人たちの感動が、本作の大きな盛り上がりの根底にある……といったら深読みしすぎだろうか。

 

 

本作のような物語を、実写ドラマやいわゆる深夜アニメ的な絵柄で描いたとしたら、同じような感想を抱けただろうか、と思う。

また、本作は基本的に井ノ原快彦さん、本上まなみさんによるナレーションで物語が進行し、キャラクターのセリフや感情は断片的な書き文字やアクションで表現されるのみ。これがひとつひとつていねいな会話になっていたら、果たしてここまでキャラクターの感情に我々は寄り添えただろうか、とも思う。

老若男女問わず愛されるファンシーなキャラクターだからこそ、そして言語を介さないキャラの動きと想像力を喚起するナレーションで語られる物語だからこそ、ある種の寓話として多くの観客の共感を呼んだのではないだろうか。それは突き詰めれば「なぜ、ファンシーなキャラでドラマを描くのか?」「実写では不可能な、アニメだからこそ描けるドラマとは?」といった問いかけのひとつの答えにもつながるはずだ。

 

なんていろんなことを考えさせられる「映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ」は、今年一番のアニメ映画!とまでは言わないけれど、アニメという表現の持つ豊かな想像力について改めて考えさせられる、けっこう重要な作品なんじゃないかな、と思うわけである。

 

 

最後に、個人的にはぺんぎん?とひよこのカップリングが、ほのぼの&萌え指数高めだと思ったわけだが、視聴済みの皆さんはいかがだろうか? そんな視点で、気軽に楽しむこともできるので、ひとまずフラッと映画館に立ち寄ってみて、予想外のカウンターパンチを食らっていただきたい!

 

(編集部・有田)

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映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ

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上映開始日: 2019年11月8日   制作会社: ファンワークス
(C) 2019日本すみっコぐらし協会映画部

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