空中戦や重要シーンを任された「幼女戦記」
─「幼女戦記」(2018~19)には、キーアニメーターとして参加されています。1980年代から現在まで最前線で活躍し続けるというのは、お世辞抜きにすごいことだと思います。
堀内 「幼女戦記」は、NUT(ナット)代表でプロデューサーの角木卓哉さんに誘ってもらいました。角木さんは「デス・ビリヤード」(2013)のプロデューサーでもあった人で、マッドハウスの時からのお付き合いです。空中戦とか、爆発がちょっと多めのカットとか、話数内の重要シーンやほかの原画さんには振れない大変なカットを頼まれてやっていました。でも、カット数自体はそんなに多くないんですよ。
─ミリタリーものも久しぶりだったのでは?
堀内 あんまりやってないですね。「銃を使って撃ち合いする」というのは、好きな人がやればいいと思っているので、最初は「自分の出る幕はないんじゃないの?」って思っていました。ただ、アクション的に空中戦といっても、飛んで、回転して、攻撃して……といった一連のプランをしっかり立てないといけないので、そこは頼まれてやっていました。
最大の転機は「AKIRA」、20年来の「名探偵コナン」
─40年近くアニメーターをされていますが、キャリア上、転機になったと思うお仕事は?
堀内 「AKIRA」が一番大きい転機だったかもしれないですね。偶然とはいえ、「AKIRA」を一緒にやった人たちとは今もやり取りをしていますし、「関わらなかったら、どうなったんだろうな……」とは今でも思いますね。
─「名探偵コナン」シリーズもずっと関わっておられますね。2019年は、劇場版「紺青の拳(フィスト)」が大ヒットしました。
堀内 「コナン」も偶然といえば偶然で、トムスからテレビの1、2話の原画の話が来て、2話をやったのが最初です。1、2話は1時間スペシャルでやっていて、2話に蘭が犯人をやっつけるシーンがあるんですけど、そこの原画を担当しました。アクションだったのは偶然なんですけど、なぜかそれ以降、「コナン」はアクション系の仕事が多くなりました。それからしばらく経って、劇場の2本目「14番目の標的(ターゲット)」(1998)からはずっと関わっているので、23~4年ぐらい付き合っていますね。
─「コナン」はテレビシリーズのオープニングやエンディングの原画も描かれています。エンディングですと、2本目の「迷宮のラヴァーズ」、13本目の「青い青いこの地球に」、14本目の「夢みたあとで」、19本目の「眠る君の横顔に微笑みを」、20本目の「忘れ咲き」でひとり原画をされました。オープニングですと、コナンがパラパラを踊っている「恋はスリル、ショック、サスペンス」が、話題になりましたね。
堀内 「ひとりでやりたい」と言ったことはないんですけど、制作さんに「全部できるんじゃないの?」と言われて、結果的に全部やらせてもらいました。パラパラのオープニングは、オンエア当時はいろいろ言われて辛くなったこともあったんですけど、今はそれなりに評価されているみたいなので、やってよかったと思っています。
アニメーターも制作会社も、意識改革が必要
─アニメーターに必要な資質能力とは何でしょうか?
堀内 観察力かな。自分みたいに理屈を考えてやれる人もいれば、感覚で描ける人もいると思うんですけど、それってどちらも観察したり体感したりしてやれることだと思うので、そういうのが好きな人はアニメーターになる条件としてはいいんじゃないかなと思います。
─現在のアニメ業界、特に作画セクションについて思うことはありますか?
堀内 よく仕事の依頼で、「描ける人がいないので、描いてください」と来ることがあるんですよ。動物とか自然現象とか複雑なアクションとか。でも、描ける人にばっかり仕事が来ると、描ける人が辞めちゃったら、仕事が回らなくなっちゃうじゃないですか。若手の人も「苦手だからやらない」じゃなくて、何でもやってみたほうがいいんじゃないかなって思います。今はネットで何でも情報が得られるので描けるはずなのに、「描けない」んじゃなくて、「描こうとしない」人が多いんでしょうね。
制作会社側も「描ける人がいないので、描いてください」と言って依頼してくることで、挑戦したいと思うアニメーターをどんどん減らしちゃっていると思います。だから、そういう意識を変えていくしかないのかな、と。そうしないと本当に中国やほかの海外のアニメーターだったり、そういう人たちと渡り合えなくなるんじゃないかなと思います。日本のアニメを真似て作っていた海外の人たちが、今はすごいアニメをたくさん作り出しているじゃないですか。
─堀内さんは「デス・ビリヤード」と「風の又三郎」で、文化庁の若手アニメーター等人材育成事業に参加されていますが、やはりそうした危機意識があるために参加されたのでしょうか?
堀内 ある程度年を取ってくると、「何かしら継承しないといけないんじゃないか」という思いはあります。でも自分はフリーなので、取り立てて「若手を育成しなきゃ!」と、志高くやっているわけではありません。自分が入ったスタジオの制作さんに「何かあったら手伝うよ」と言っているぐらいで、「デス・ビリヤード」と「風の又三郎」も、頼まれて参加したに過ぎません。
演出と3Dの間でできること
─今後挑戦してみたいことは?
堀内 「絵を描いて生活したい」というのが夢だったので、そういう意味では、動画になった時に目標は達成しているんですよね……。そういえば、挑戦というわけではないんですが、「風の又三郎」を作った武右ェ門という3Dアニメ制作会社で、3Dアニメーターをちょこっとだけやらせてもらったんですよ。「Maya(マヤ)」もちょっとだけですけど、いじれるようになってきました。最近は3Dと2Dが混在するアニメが増えてきているのに、3Dをどうやって使いこなせばいいのか、ちゃんとわかっている人が意外と少ないんですよね。
「ここまでだったら3Dでできます。ここまでだったらちょっと無理です」と判断をする人があまりいないので、演出と3Dのちょうど中間的な立場にいる自分が両方覚えると、両方に対して提案ができるわけじゃないですか。3Dの人にもアニメーションを考える時に、「こうやって考えたらいいんじゃない?」とか、「自然な動きを見せたいなら、こういった段取りで考えていくとわかりやすいんじゃない?」とか、いろいろアドバイスできるんじゃないかなと思っています。「風の又三郎」の時に入ってきて自分がアドバイスをした新人さんたちが、今も「OBSOLETE(オブソリート)」(2019)をやっていたりするので、続けてきてよかったなと思っています。
─3Dのお仕事は、増やしていきたいですか?
堀内 何かしら手伝えることがあればいいなと思っています。2Dも3Dもどっちもやれるのであれば、それに越したことはないと思うので。ただ、テレビアニメで毎週3Dアニメをやるのは、すごい大変なんですよ。2Dアニメを作るよりも時間がかかります。
─最後に、ファンの皆さんにメッセージをお願いします!
堀内 今まで「何のためにアニメをやっているんだろう?」とか考えたこともなかったんですけど、インタビューのお話をもらって、自分を見つめ直すことができました。自分みたいに色覚多様性があっても、一生懸命やり続けていたら光明みたいなものがあって、今もアニメーターで食べさせてもらっています。本当に、やらせてもらっているだけでうれしいんですよ。もし自分と同じような障害をお持ちの方がいらっしゃったら、たとえ絵で食べることができなくても、何かしら希望や楽しいことはあると思うので、諦めずに探し続けてほしいなと思います。
●堀内博之 プロフィール
アニメーター、作画監督、総作画監督、キャラクターデザイナー。青森県出身。県立弘前南高等学校卒業後、スタジオぽっけ入社。株式会社アニメインターナショナルカンパニー(AIC)社員を経て、「AKIRA」(1988)以降フリーに。「理屈で考えれば何でも描ける」を信条に、あらゆる作品で辣腕を振るう。筆絵の巧手でもある。作画参加作品は枚挙に暇がなく、「名探偵コナン」(1996~)、「NARUTO-ナルト-」(2002~17)、「スチームボーイ」(2004)、「D.Gray-man」(2006~08)、「true tears」(2008)、「戦う司書 The Book of Bantorra」(2009~10)、「機動戦士ガンダムUC」(2010~14)、「弱虫ペダル」(2013~18)、「クロスアンジュ 天使と竜の輪舞」(2014~15)、「クラシカロイド」(2016~17)、「幼女戦記」(2018~19)、「どろろ」(2019)、「女子高生の無駄づかい」(2019)など多数。キャラクターデザインには「天地無用!」(1995~98)、「しにがみのバラッド。」(2006)、「吉宗」(2006)、「神曲奏界ポリフォニカ」(2007)、「風の又三郎」(2016)などがある。40年近いキャリアに決して胡坐をかくことなく、感謝の気持ちと最新技術のキャッチアップを忘れない、ある種の理想像と言えるクリエイターである。
※TVアニメ「弱虫ペダル」 公式サイト
http://yowapeda.com/
※TVアニメ「女子高生の無駄づかい」 公式サイト
http://jyoshimuda.com/
※TVアニメ/劇場アニメ「幼女戦記」 公式サイト
http://youjo-senki.jp/
※劇場アニメ「名探偵コナン 紺青の拳(フィスト)」 公式サイト
https://www.conan-movie.jp/
※堀内博之 個人HP
http://horidesk.m78.com/
※堀内博之 ツイッター
https://twitter.com/Horidesk
(取材・文:crepuscular)