片渕須直監督の「マイマイ新子と千年の魔法」を救った小さな映画館「ラピュタ阿佐ヶ谷」の支配人が10年前を振り返る【アニメ業界ウォッチング第59回】

2019年10月27日 12:000

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ちょっとでもやる気のない人がいたら、作品がかわいそう


── 「大人のためのマイマイ・ナイト」の最終日は、朝からチケットを求める列が劇場入り口から住宅街まで伸びていて壮観だったのですが……。

石井 私は上映を決めてから1日も休みがとれず、連日夜の舞台挨拶に付き合っていましたので、最終日だけ昼出勤にさせてもらいました。ですから、その現場には立ち会っていませんが、「すごいことになっている」とスタッフから連絡が入りました。

── その日のうちに、アンコール上映が発表され、2010年1月9日から2度目のレイトショーが始まりましたね。

石井 アンコール上映は、週の真ん中ぐらいから話が出ていました。その段階で、赤字にはならないことがわかっていたからです。

── レイトショーの期間が2度も延長され、さらに2010年5月30日から「おかえりなさい! マイマイ新子」と題して、再びレイトショーが行われます。やはり「マイマイ新子と千年の魔法」のホームグラウンドはラピュタ阿佐ヶ谷だ、という意識があったのでしょうか?

石井 いえ、そういう気持ちではなくて、アンコール上映の頃は朝早くから並ばないとチケットを買えない状況だったので、それを解消したかったのです。ラピュタはハードな映画ファンが常連で、ジャンルを問わずにどんな映画でも見る方が多いんです。ですから、「そんなに何度も上映するなら、『マイマイ新子』って面白いんでしょ?」と興味を持ってくださる常連さんも結構いらっしゃいました。だけど、最初のころは早い時間帯にチケットが完売してしまったので、なかなかご覧いただくことができなかったんです。

── ロビーに、ファンの人たちが作ったグッズが、どんどん増えていきましたよね。

石井 ええ、あれにはビックリしました。普段上映している日本映画のお客様にはコレクターの方もいらっしゃるので、貴重なポスターやプレスシートを提供してくださることはあるのですが、アニメーションのファンの方は自分でグッズを作ることがあるのか、こういう応援のしかたもあるのか……と、新鮮に感じました。

── 結局、2010年7月17日の「大人のためのマイマイナイト・ファイナル」まで、レイト上映は続きました。今年1月にも、ひさびさにラピュタさんで「マイマイ新子~」が上映され、恒例の片渕監督の舞台挨拶もありましたね。

石井 結局、片渕監督は毎日いらっしゃいました(笑)。でもラピュタではそれほど珍しいことではなくて、監督が見にいらしたとか、スタッフや俳優さんが客席に座っていることが頻繁にあって、即席の舞台挨拶が行われることは日常的な風景なんです。「ちょっと、お客様にご紹介してもいいですか」とお願いすると、撮影当時のエピソードなどを話してくださいます。小さな映画館なので、それほど構えて挨拶しなくてもいいですし、マイクも使わないですみます。お客様との距離感が近いんでしょうね。

── 「マイマイ新子~」のレイトショーで驚いたのは、映写技師さんがロビーで話したことです。

石井 関係者の方がいらっしゃるときは、可能な限り映写技師を紹介します。特に、古い映画を上映する場合、きれいなプリントばかりではありません。スイッチを押して終わりではありませんから、そういう意味で映写技師は映画館のキモであると思います。それと、10年前の「マイマイ新子~」はフィルム上映でしたが、それ以降の作品は(DCPの普及でフィルムに焼くことがなくなったため)素材として上映できないんです。ラピュタは旧作の日本映画の上映がメインですから、音響もドルビーSRで止まっているんです。

── 今年は、「マイマイ新子~」は上映しないんですか?

石井 すみません、それは考えてなかったです(笑)。一応、いつも年末はレイトの枠は空けてあるのですが、10周年であることはそれほど意識していないので……。
「マイマイ新子~」を上映することになったのは、本当に、たまたま枠が空いていたからです。おそらく今だったら、お話があっても受けないと思います。年末はスタッフの数が少ないですし、今は体力的にも難しいです。当時は私自身が若かったこと、あと作り手の熱気に当てられたんですね。やっぱり、みんながやる気じゃないと、何もできないんですよ。ちょっとでもやる気がないというか、サボる人がいたら、作品がかわいそうじゃないですか。



(取材・文/廣田恵介)

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マイマイ新子と千年の魔法

マイマイ新子と千年の魔法

上映開始日: 2009年11月21日   制作会社: マッドハウス
キャスト: 福田麻由子、水沢奈子、森迫永依、本上まなみ
(C) 2009 原作:髙樹のぶ子・マガジンハウス/「マイマイ新子」製作委員会

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