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「キャロル&チューズデイ」は、何気ないシーンで泣けるアニメ
── 「キャロル&チューズデイ」のなかで、お2人からご覧になって「渡辺信一郎らしさ」が特に現れているところはどんなところでしょうか? 南 音楽の使い方、映像作りという点に関してはもはや言うまでもないでしょう。そのうえで述べるとすると、周りのキャラクターの息づかいだと思います。彼自身、それを大事に描こうとしているし、描き方もうまい。この作品はキャロルとチューズデイがメインのキャラクターですが、舞台である火星に住んでいる一般の人たちも当然いて、その人たちが街を歩いたり音楽を聴いたりするという日常の生活の描写をきちんと描いている。コインランドリーのシーン(第3話)で、キャロルとチューズデイがリズムを取り出して、その間に挟まれた兄ちゃんが一緒に膝を叩き出してセッションが始まるといったシーン。こういうのが非常にうまくて、ちゃんと視聴者の心に届く作品作りをされているなと思います。
佐々木 僕もランドリーの話はすごく印象的でした。洗濯機が回っている所から始まって、歌詞が「Round and round」となって、そのあとコーヒーの中ミルクも回っていたりとか、グルグル回るつながりでいろんな点描が展開されていって、そこに市井の人々の生活感が入っているところがすごくいい。
南 あと、この作品って意外と泣くんですよね。自分が年取ったせいもあるとは思うんだけど(笑)。第2話で2人が初めて作った音楽がネットに上がってさまざまな人々がそれを見ている描写を見ると、「あの子たちの作った音楽がちゃんと伝わっていってる! よかった~」って、お父さんか! (笑)。そういうところを多分、彼は演出家・監督としてすごく大事にしてる部分だと思うんですよね。この作品って、単に彼女たちがミュージシャンとして成功するというよりも、彼女たちの歌が少しずつみんなに届いていくことを描くアニメじゃないですか。その描き方がホントにうまい。
佐々木 僕もスーツケースが戻ってきたとき(第5話)、「よくぞ戻ってきた~」って(笑)。あと、2人の最初の曲である「The Loneliest Girl」ができていくシーン(第1話)もやっぱりよかった。キャロルが歌っている側でチューズデイがコードを拾いつつ、探り探りちょっとずつハモっていく。こういう風な形で音楽が生まれるところを描く人ってこれまでいなかったんじゃないかな。作画のスゴさも含めて大きく印象に残りましたね。
南 弾くときのアニメーションも、実写を撮影したのをそのままトレスするのではなく、作劇の中に載るようなアニメーションで表現していくし、楽器の正確な形をCGで作ってそれに演技を合わせていく。単純に手間はかかるし、最初は試行錯誤も多くて大変ではありました。でも、そこまでやらないとあのシーンが成立しないとスタッフもわかっていたので頑張って作ってくれたし、それは映像にきちんと表れていると思います。総監督はギターの運指にまでこだわっていましたからね。
佐々木 ここでこんなふうに弦がしなるんだよ、とか言ってたし(笑)。
南 そこは無理!(笑)。でも、第1話ができあがったときはそういう話が出るくらい、みんなの気持ちがひとつになった現場でした。現場は堀(元宣)くんが監督を務めてくれたことも本当によかった。もともとアニメーター出身なのですが、音楽にも強くて渡辺総監督が表現したいものを絵としてどう組み立てればいいかという縁の下の力持ち的なことを非常に一生懸命やってくれました。それに総監督も最初から「奇跡の7分間」というところに向かっていくことがハッキリと見えていたんじゃないかな。それをアニメーションとしてすごくうまく落とし込んでいったんだと思います。
── 「キャロル&チューズデイ」はボンズ創立20周年、フライングドッグ創設10周年の記念作品になりました。社長としてはどのような思いでしょうか? 佐々木 まぁ、偶然なんですけど(笑)。
南 それはシーッ!(笑)。ただ、渡辺総監督はもともと世界で人気のある監督ですから、Netflixを通じて世界中で見てもらえる環境ができあがったタイミングで世の中にこの作品を発信することができたことは大きいと思います。
佐々木 もともと僕らはパッケージビジネスを中心としてやっていたのですが、そのビジネスが変わりつつある現状です。もちろん、パッケージをたくさん買ってくれるお客さんに支持される作品もまだまだありますが、渡辺監督の作品って以前からそういうタイプではない支持層を広く世界中に持っていたと思うんです。この作品もそういう人たちに向けて作られたという点で意味のあるものになったのではないかなと思います。今回ラッキーだったのが、国内外問わずいろんなミュージシャンが渡辺監督のファンで、「シンイチロウ・ワタナベのフィルムなら喜んで参加するよ」と言ってくれた人ばかりだったこと。とくに海外の場合は契約の合意が非常に大変なのですが、そこが実現できたのも監督に対するリスペクトがあったからだと思います。
南 これまでの作品も海外で人気なのですが、それがいわゆるアニメのファンだけではなくて、映画や音楽のカルチャーに深い人に好かれているんですね。そういう監督ってなかなかいないんです。それが何故なのか、自分でも分析しきれていませんが、もしかしたら人間を描くという彼の表現の特性が、世界中の人たちの琴線に触れているのかもしれない。
── 今の時代のポピュラリティの分析についてうかがいたいのですが、以前のように視聴率やパッケージソフトの売上も人気を計る指標になりづらくなっていて、さらにNetflixは製作会社にも数字を開示しないという状況の中でどのように判断をされていますか? 南 ほかの作品であれば国内の配信会社さんから数字が上がってきますが、この作品はNetflixの独占配信だから視聴数が開示されないので、正直に言うと、わからない。まだ新しいビジネスの形なので我々が追いついていない部分があるのかもしれない。ただそれでも吹替えが7言語で、字幕が28言語で世界中で見られるという環境は非常に魅力的です。配信があってそれを見てくれたお客さんたちが、その作品をどんどん広げていってくれる中でもっと面白い形になるんじゃないかなと思っています。
佐々木 8月の末に日本以外の地域でも前半の1クールが配信されたんですけど、その日からSpotifyを始めとした音楽配信で「VOCAL COLLECTION Vol.1」や主題歌の数字が目に見えて伸びているんです。そうした影響力など、本格的に世界を市場とした場合まだまださまざまな可能性を秘めているのではないかと思いますね。
── 10月6日には品川ステラボールで2回目のライブがありますし、海外でのライブなども求められているかもしれません。 佐々木 そうですね。もちろん海外のアニメコンベンションに出演するということもあり得る話ですが、海外でもライブをやりたいというのは企画段階から思っていたことなので、実現できるといいなと思っています。やっぱり夢は語っておくとかないますからね(笑)。
(取材・構成/日詰明嘉)