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この10年間、ずーっと細く長く、話題にのぼり続けた作品
── 公開当時、DVDすら発売できないと言われていましたよね。 岩瀬 パッケージメーカーは、実績をもとに売り上げ数を予測して、採算としてこれだけプラスになるからDVDを作ろう……と考えるわけです。ところが、製造原価すら回収できないとなると、「この作品をDVD化する意味はどこにあるんだ? 損するばかりじゃないか」という話になるんです。それぐらい、公開した直後はひどい興行成績だったんです。
最初の(シネコンでの)公開だけだったら、DVDは出せませんでした。しかし、ラピュタ阿佐ヶ谷でのレイトショーが満席になって以降、全国各地の小さな映画館で上映が続いたことが武器になりました。「これは、全国にDVD化を待っている人がいますよ」と会社の決済をとりつけることができたんです(2010年7月23日発売)。
それで、吉祥寺バウスシアターでの上映時、DVD化決定記念イベントを行わせていただきました。DVD化なんてほかのアニメなら普通なんでしょうけど(笑)、主演の福田麻由子さんをお招きして、その様子をウェブ配信までして盛り上げました。
── DVDの特典に、フィルムが付きましたよね。 岩瀬 そう、10年前は35mmフィルムでの上映でしたからね。みんなで白い手袋をして、実際に上映されたフィルムを手で切りました。その地味な作業にまた、片渕須直監督が参加してくださるんですよ。舞台挨拶のような晴れの場だけでなく、バックヤードにもちゃんと付き合ってくださる。……魂がこもってますよね。だけど、DVDを出したときにくやしかったのは「Blu-ray化はいつですか?」と、お客さんに聞かれてしまうことでした。
── 片渕監督の「この世界の片隅に」公開(2016年11月12日)の直前、Blu-rayを発売できましたね(2016年10月28日)。 岩瀬 ええ、Blu-rayを出すのであれば、このタイミングしかないと思いました。「この世界の片隅に」への応援もしたかったので、特典映像として短いフッテージを入れさせてもらいました。お返しに、のんさんから「マイマイ新子と千年の魔法」の推薦メッセージをいただいたりもしました。「この世界の片隅に」がヒットすれば、「マイマイ新子~」も、片渕監督のフィルモグラフィーとして新しいお客さんに見ていただけるわけですからね。
── この10年は、どんな10年間でしたか? 岩瀬 「マイマイ新子~」はとにかく、問い合わせが絶えないんですよ。あちこちから上映したいとか、イベントで流したいとか、年に少なくとも1回か2回、多い年には3~4回ぐらい問い合わせが来ました。「この世界の片隅に」のヒットで、急に注目されたわけではないんです。全国のどこかで上映されて、もちろん片渕監督が舞台挨拶に行って、僕らも同行して、また新しいお客さんたちとお会いして、感想をお聞きして。だから忘れることができないというか、常に心の隅に「マイマイ新子~」がありました。
この10年の間、弊社にも新入社員が入ってきます。すると、「『マイマイ新子~』が大好きです」という社員が、たまにいるんです。あるいは別作品で知り合ったスタッフと「マイマイ新子~」の話題になり、「あの作品、すごいですよね」なんて話も聞きました。この10年間、ずーっと細く長く、途切れず話題にのぼっていました。
片渕監督の次回作にも、もちろん興味津々です。だけど、片渕作品はていねいにやらないといけないんです。通りいっぺんの方法論でヒットするような、そんな生半可なものではないと、僕は身に沁みて感じましたから。普通の理屈では終わらないというか、パーンと打ち上げて焼き畑みたいに消費して終わりではない。片渕作品はマスターピースとして長く残るので、じっくり、じっくりと取り組まないといけないんですね。
(取材・文/廣田恵介)