初上映から10周年を迎えた「マイマイ新子と千年の魔法」、苦難の道のりをプロデューサーが振り返る【アニメ業界ウォッチング第58回】

2019年09月29日 13:000

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逃げることを許さない監督、そして各社の“戦友”たち


岩瀬 シネコンというシステムのおかげで、当初はそれなりの館数(全国37館)で上映できました。今になってみると、単にスクリーン数の多いことがよかったのか悪かったのか、考えてしまいます。たとえ少ない館数であっても、そこが満席になれば広がっていく……という期待を持てますよね。だけど最初に大きく公開してしまうと、後はしぼんでいくしかない。僕たちの戦略は逆をやってしまったのだと、公開後に気がつきました。しかし宣伝予算も尽きてしまって、後はもう手弁当で、ゲリラ戦を続けていくしかない。そこから、ラピュタ阿佐ヶ谷での8日間のレイトショー(「大人のためのマイマイ・ナイト」)へ繋がるんです。

── 公開前の宣伝会議では、どういう話をしていたのですか?

岩瀬 当時、会社はマーケティングに注力していた時期でした。試写を行って観客の感想を聞いて、その結果からターゲットはどの層なのか仮説を立てて、定量的なリサーチをしてデータを集めて。それを続けていくと、本当に自分たちが求めているお客さんが誰なのか、見えてくるんです。確かに子どもたち、ファミリー層に見せたいわけだけど、それを実現するには資金力やメディア力が足りないと気がつきました。ですから公開後は、作品を見て応援してくれるお客さんに届ける方法を考えよう、と方向転換しました。マーケティング段階でリサーチした方たちは「よかったです」「絵がきれいでした」「子どもにも見せられます」といった反応でした。ところが、舞台挨拶のときに劇場の出口で見送ったお客さんたちが口にする言葉は「こんな繋がりを発見しました」など、作品の深いところを感じてくださっている。片渕須直監督は何度見ても新しい発見があるようにフィルムをつくりこんでいますから、そこまで深く感じてくださる“本当のお客さん”が見られる環境をつくらねばならない、と考えました。


── ラピュタ阿佐ヶ谷の「大人のためのマイマイ・ナイト」は、早い時期から決まっていたのですか?

岩瀬 いえ、公開後です。たまたま劇場で「マイマイ新子と千年の魔法」を見てくださったラピュタの映写技師の方が、「ぜひラピュタで上映させてほしい」と声をかけてくださって、松尾亮一郎プロデューサーと片渕監督の「大人が見られる時間帯に上映したい」という意向と合致して実現したんです。しかし、それでも「本当にお客さんは来てくれるのだろうか?」と、不安でした。ですから、入場者特典として毎日違う絵柄の「アートカード」を作ったり、舞台挨拶も毎日違うゲストを招いて、Webラジオなども始めました。上映が始まってからお客さんと接する機会が増え、「この作品がどうやってできたのか」を、もっと知ってもらいたいと思うようになりました。それで、美術の上原伸一さんやスタッフの方々に舞台挨拶に来ていただきました。お客さんは関心を持って話を聞いてくださり、片渕監督もお客さんの反応を楽しみにしていました。

── 「大人のためのマイマイ・ナイト」は連日満席で、アンコール上映されるほど大成功しましたが、公開直後が、いちばん辛かったのではありませんか?

岩瀬 制作にも宣伝にもお金がかかっていますので、プロデューサーの使命は制作してくれた方、出資した側にしっかり還元することです。ベストを尽くしてくれた片渕監督にも申し訳が立たないので、公開直後の不入りには青ざめました。この段階で作品に見切りをつけて、次の企画をとっとと走らせることも出来たと思います。それを僕らに躊躇させたのは片渕監督なんです。監督が旗を掲げて、いちばん先頭に立って突撃していくんです。それでも普通なら、「もう僕らの仕事は終わりです、後は勝手にしてください」と監督をほったらかすんじゃないかと思います。だけど、そうはさせなかった仲間たちがいたんです。僕らは互いに“戦友”と呼んでいるんですけど、松尾プロデューサー、松竹の飯塚寿雄さん、誰もがもう次の自分の仕事に入っていました。それでも、「マイマイ新子~」の上映時だけは何とか時間をつくって出てくるんです。役職なんて関係なく、とにかく集まる。出張費が出なくても遠くの映画館まで行ったし、経費で落ちない領収書を何度も切ったし……。映画館で「ありがとう」と目の前で言っていただけるのに、どうしてヒットに結びつけられないんだろうと、僕は本当に悩んでいました。宣伝費を投下して、メディアに大量に露出すればいいってものではないんですよね。

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(C) 2009 原作:髙樹のぶ子・マガジンハウス/「マイマイ新子」製作委員会

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