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中国で上映の日本アニメ映画、一般向けの大ヒットとオタク向けの限界
6月下旬から7月中旬にかけて、中国では日本のアニメ映画、それも中国でも極めて知名度の高いIPとなっているジブリ、ガンダム、Fateの映画が公開され、作品の内容だけでなく作品を取り巻くもろもろや興収という結果も含めて大きな話題になりました。
作品の内容に関する反応は現在の日本とあまり大きな違いはないようですが、興収やそれに関する見方については中国の独特な部分もあるので、今回はそのあたりの事情について紹介させていただきます。
まず6月21日から中国での上映が始まった「千と千尋の神隠し」ですが、こちらは7日連続でデイリー興収1位、上映8日で興収3億元超え、上映12日で4億元超えなどの記録を作り、中国で上映された日本の映画としては「君の名は。」、「STAND BY ME ドラえもん」に次ぐ約4.86億元(約74億円)の興収を叩き出しました。
スタジオジブリの映画は昨年12月に中国で上映された「となりのトトロ」が約1.74億元(約26億円)と中国でも多くの人が驚く興収を叩き出しましたが、「千と千尋の神隠し」は現在の中国の若者の間でもっとも評価が高く思い入れのある人も多いとされている作品だったことから、「となりのトトロ」以上の数字になる可能性が高いとされていました。
しかしここまでの数字になるというのはさすがに中国でも予想外だったそうで、さらに夏休み前の時期に上映され、古い作品で内容が知れ渡っているといった事情まで考えると驚異的な数字だと認識されているそうです。
「千と千尋の神隠し」が中国で大ヒットした理由としては、
・懐かしさと安心感があり使い勝手のよい話題性のある作品で、中国の映画市場で成功する際に重要となる一般層に対して強い訴求力のある作品だった
・過去にすでに見たことのある人にとっても現在の感覚でもう一度見ることができ、大人になってからもう一度楽しめる作品だった
などといった見方も出ていますが、それでもここまでの大ヒットは説明しきれないということで、中国のオタクな人たちも喜ぶと同時に少々困惑しているそうです。
私のほうにも中国のオタクな方々からは
「今回の『千と千尋』の動きや反応、数字を見て、中国の映画市場で当たる日本のアニメや、当てるための手法というのがまたわからなくなりました」
という話が聞こえてきました。
それに対してやや難しいのがオタク向けの話題作とされ、7月12日から上映の始まった「Fate/stay night [Heaven's Feel] II.lost butterfly」と「機動戦士ガンダムNT(ナラティブ)」です。
Fateとガンダムに関しては現在の中国でも人気シリーズとして関連作品が盛り上がっていますが、この劇場版2作品は、中国ではともにファン向け、しかもシリーズファンの中でもコアな層向けだと言われており、興収はFateが約2950万元(約4.5億円)、ガンダムが約860万元(約1.3億円)という数字になった模様です。
以前のコラムでも書いたかと思いますが、現在の中国の映画市場のイメージでは興収が1億元に達してようやく当たったと見做されるようなところもあり、中国ではこの2作品はどちらもパッとしない結果だと受け止められているそうです。
ただ近頃の中国では日本のアニメ系映画の上映が続いていることもあってか、中国のオタク層のほうでは数字に対しては比較的落ち着いた見方になっているようで、Fateに関しては想定の範囲内、ガンダムに関しては不調に終わった程度の認識でいる人も少なくないそうです。
上述の通り中国におけるFate人気は「Fate/Zero」のアニメから本格的に始まったもので、それ以前のFate作品に関してはファンの絶対数が少なく、さらに劇場版の元になった「Heaven's Feel」は熱心なファンがいて評価は高いもの、「今の中国の一般的なFateファン向けとしては厳しい」とされていたそうです。
それに加えて続編ということもあり、ファンの間では
「第一章とほぼ同じ興収になったので上々のデキ」
「ファンしか見に行かない作品ならこんなもの」
といった見方も出ているのだとか。
また「ガンダムNT」は日本での上映から時間が空いたことにより作品の内容や方向性といったものがネタバレ込みで把握されているという事情が、「千と千尋」や「Fate」と違って悪い方向に影響してしまい、上映前から中国のガンダムファンにそっぽを向かれてしまっていたという事情もあるそうです。そのため、
「ガンダムNTの中国での興収は、中国のオタク的な感覚で考えたらある意味、予想の範囲内」
とも言えるそうです。
ここしばらくの間でさまざまな日本の有名アニメIPの劇場版が中国で上映されましたが、それによって出てきた作品の話題性や興収の数字などから、そろそろ日本のアニメ映画の中国市場における当たり外れや成功の規模といったものが見えてきた感もあります。
それが中国における今後の日本のアニメ映画の輸入に対してどう影響していくのかも気になるところですね。
(文/百元籠羊)