音楽プロデューサーの紹介で、アニメの世界へ
─キャリアについてうかがいます。アニメの劇伴は、「魔探偵ロキ RAGNAROK」(2003)が最初でしょうか?
羽岡 アニメの劇伴はそうですね。その前は歌もののお仕事等が多かったのですが、音楽プロデューサーの西部敏彦さんが声をかけてくださって、「魔探偵ロキ」の劇伴やキャラソンの作曲をやらせていただきました。「魔探偵ロキ」は、わたなべひろし監督の作品なんですが、その後西部さんから、わたなべ監督の「tactics」(2004〜05)のお話もいただきました。
─コンペではなく、プロデューサーからのご紹介だったのですね。どういった理由で抜擢されたのでしょうか?
羽岡 理由はよくわかりませんが、うれしかったです。ちなみに、西部さんを紹介してくれたのは、アニメ「狐狸之声-Voice of Fox-」(2018)の劇伴を担当した、野崎美波さんです。
─初めての劇伴のお仕事はいかがでしたか?
羽岡 2クールで100曲を軽く超えていたので、この時は劇伴どうこうというよりも、曲を作るだけで精一杯でした。コンピューターもまだまだの時代だったので、スタジオに車で大量のシンセを持ち込んでレコーディングをしたりして、今よりも大変でしたが、楽しかったですね。
─アニメーターさんからはよく聞く話ですが、スタジオに寝泊りされていたのですか?
羽岡 自宅以外の場所に自分専用の作曲スタジオがあった時期は、そういうこともよくありました。
─師匠的な方はいらっしゃいますか?
羽岡 師匠と言ってしまってよいのかどうかわかりませんが、大学卒業後、作曲活動をしながら、日音という音楽の会社で音楽制作業務などのバイトをやらせてもらっていた時期がありまして、そこでアシスタントということで、千住明さんのレコーディング現場に行かせてもらったりしたことが、とても勉強になりました。ほかにも日音では、当時の社長だった村上司さんをはじめ、たくさんの方々からいろいろなことを学びました。
そのほか親の仕事の関係で、幼少の頃からたくさんのミュージシャンや音楽業界の方々と出会い、いろいろと貴重な体験をしました。あえて言えば、その全員の方々が師匠と言えるかもしれません。
─羽岡さんも作曲家の三澤康広さん(https://akiba-souken.com/article/35387/)も、日本大学芸術学部音楽学科のご出身ですね。
羽岡 三澤さんは大学の先輩です。
─そうだったのですね!
羽岡 三澤さんはピアノやドラムが上手で、大学時代は何度か聴かせてもらいました。作曲も当時からすごかったです。日大芸術学部音楽学科は定員がそれほど多くなく、特に当時の作曲専攻は毎年5〜10人くらいでした。その中で、実際に劇伴の仕事をする人は限られているので、三澤さんは本当に貴重な先輩のひとりです。
─音響監督の亀山俊樹さん(https://akiba-souken.com/article/32339/)とのお付き合いも、長いようですね。
羽岡 「ぱにぽにだっしゅ!」(2005)で初めてお会いしました。この時は、新房監督と亀山さんからいろいろなアイデアを出していただきました。監督からは「スキャット的な歌詞のない歌を何曲か作ってください」というご依頼をいただき、河井英里さんや妹尾武さんに歌っていただきました。亀山さんからは、洋画のサントラなども例に出しながら、音楽的イメージをいただきました。「ぱにぽにだっしゅ!」はコメディだったので、そういうアイデアを、おもしろい形で生きるように試行錯誤して作った記憶があります。
─「歌詞のない歌」といえば、「ネギま!?」(2006~07)のポルカ調の女性コーラス曲「平和な刻」も印象的でした。
羽岡 この時の音響監督は鶴岡さんだったんですけども、「平和な刻」も、新房監督から「歌詞のない歌」というオーダーがあったと思います。
─「UQ HOLDER! 〜魔法先生ネギま!2〜」(2017)は、石毛駿平さんと共同で作曲されています。石毛さんは羽岡さんと同じ、クリークのご所属ですね。
羽岡 石毛さんとは同じ事務所ということで出会ったんですけども、海外に留学されて作曲知識と技術を豊富にお持ちの方で、尊敬しています。「UQ HOLDER!」でご一緒した時には、格調高いオーケストラ曲をたくさん作っていただきました。
─石毛さんとお仕事をご一緒することは、よくあるのでしょうか?
羽岡 時々ご一緒しています。「この音とまれ!」では、演奏者として参加してもらっていて、チェレスタを弾いてもらっています。先ほどお話したメインテーマ曲にはチェレスタのソロバージョンがあって、その曲はアレンジも石毛さんにしていただきました。
転機は、「魔探偵ロキ」と脚本家・金巻兼一さんとの出会い
─アニメのキャリア上、転機になったお仕事は?
羽岡 いろいろ今につながっているなと思うのは、やっぱり「魔探偵ロキ」で100曲以上、全曲作りきったことですね。あとは、脚本家の金巻兼一さんとお会いしたことも大きいと思います。「ぱにぽにだっしゅ!」に参加できたのも、金巻さんと「魔探偵ロキ」や「tactics」でご一緒して、その後推薦してくださったからだと思っています。それで新房監督と出会い、「ネギま!?」につながって、今は「物語」シリーズをご一緒させていただいています。「魔探偵ロキ」からいろいろなご縁がつながって、今でもアニメのお仕事をさせていただけていることに感謝しています。
─脚本家と作曲家がそのような形でつながっているのは、非常に珍しいですね。
羽岡 金巻さんは音楽家でもあって、バンドや作曲もされているので、音楽というものにとてもお詳しいんですよね。
─アニメの劇伴作曲家に必要な資質能力とは何でしょうか?
羽岡 あまりよくわからないというか、逆に教えていただきたいくらいです(苦笑)。一般的なことかもしれないですけど、時間が限られていることが多いので、それが制約にはなりますね。時間がない中でオーダーはいろいろありますし、うまくいかなければ、リテイクもたくさんあります。なので、いろんな人にいろんなことを言われても、あまり一喜一憂しないで、楽しめるような性格が必要なのかなと思います。
─現在のアニメ業界、特に劇伴部門について、何か思うことはありますか? 作画部門では人材不足や低賃金が問題になっていますが。
羽岡 音楽大学などから優秀な作曲家が毎年輩出されていますので、これからもどんどん新しい、魅力的な音楽が作られていくのだろうな、と思っています。
─今後挑戦したいことは?
羽岡 いろんな作品に参加させていただいて、本当におもしろいなと思っていますし、今後もチャンスがあれば、まだまだやらせていただきたいと思っています。同じようなジャンルをたくさんやることも好きですし、もし違うものがきたら、それもやってみたいですね。
─ゲーム音楽はいかがでしょうか?
羽岡 ゲームは、音楽だけじゃなくて、ゲーム全体のプロジェクトを知っている専門の方たちがたくさんいらっしゃるので、そういう方たちがやるものだと思っています。それでもお話をいただける機会があった時には、もちろんやってみたいです。
─「この音とまれ!」は本年10月から、第2クールが始まります。劇伴の聴きどころをお願いします。
羽岡 とっても贅沢に作らせていただいています。オーケストラもそうですし、石毛さんのチェレスタもそうですし、パーカッションやハープも、クラシックの有名な方に演奏していただいています。生楽器のよさが出て、心情に寄り添うような曲がたくさん作れたので、その辺りも聴いていただければうれしく思います。
─最後に、ファンの皆さんにメッセージをお願いします!
羽岡 これからも、作品を楽しんでいただくことはもちろん、劇伴にも注目していただければうれしいです。業界を目指されている方は、アニメのサントラは本当におもしろい仕事ですので、ぜひ挑戦してもらいたいなと思います。
●羽岡佳 プロフィール
作曲家。東京都出身。日本大学芸術学部音楽学科作曲コース卒業。クリーク所属。相愛大学非常勤講師。歌もの等の作曲を手がけた後、「魔探偵ロキ RAGNAROK」(2003)でアニメの劇伴デビューを果たす。参加作品は「tactics」(2004)、「ぱにぽにだっしゅ」(2005)、「To Heart 2」(2005)、「魔法先生ネギま!」(2006)、「ネギま!?」(2006~07)、「今日の5の2」(2008)、「れでぃ×ばと!」(2010)、「花物語」(2014)、「憑物語」(2014)、「終物語」(2015、2017)、「UQ HOLDER! 〜魔法先生ネギま!2〜」(2017、ただし石毛駿平さんと共作)など多数。2019年も、「かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜」、「続・終物語」、「この音とまれ!」などで、作品のテンポやテンションにマッチした、洗練された楽曲を提供している。アニメだけでなく実写でも重用されており、日本劇伴界を牽引する作曲家のひとりと言えよう。
※TVアニメ「UQ HOLDER! 〜魔法先生ネギま!2〜」 公式サイト
http://uqholder.jp/
※TVアニメ「かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜」 公式サイト
https://kaguya.love/
※TVアニメ「続・終物語」 公式サイト
https://www.monogatari-series.com/zokuowarimonogatari/
※TVアニメ「この音とまれ!」 公式サイト
http://www.konooto-anime.jp/
※羽岡佳 プロフィール(有限会社クリーク 公式HPより)
http://www.creekltd.com/haneoka.html
※羽岡佳 プロフィール(相愛大学音楽学部 公式HPより)
https://www.soai.ac.jp/dep/music/musicdep/composition.html
(取材・文:crepuscular)