「イデオン」のメカニック・デザイナー、樋口雄一さんが教える“敵をつくらず生きる自由放埓な創作人生”【アニメ業界ウォッチング第56回】

2019年07月14日 15:000

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人に話すと広がっていく「平和のOS」のこれから


樋口 クライアントと交渉するのと、自分で描きたい絵を描くのとは、まったくストレスが違います。今の僕の描き方は、海外の漫画家に似てるのかもしれません。スウェーデンから来た漫画家で、オーサ・イェークストロムさんという女性がいるでしょ? 彼女がスウェーデン大使館でトークショーやるからいらっしゃいよ、と呼んでくれたので、聞きに行ったんです。スウェーデンの漫画は、日本みたいに「絵が下手でモノクロでもお話が伝わればいい」というものではなくて、ちゃんと色を塗って1枚の絵として納得するまで何か月も何年もかけるんですって。いま僕の描いている絵は、それに近いのかもしれない。

── すると、ちばてつやさんに弟子入りしたかった頃と、いま作家として絵を描いている気持ちは、かなり違っていますか?

樋口 違っていますね。そのことは割と、早い時期に気がついていたかもしれません。

── すると、仕事として手がけた玩具やアニメのデザインは、それなりに楽しかったんですね?

樋口 ええ、確か「ミクロマン」の仕事が最初だと思いましたが、“機構試作”というものが上がってくるんです。絵に描いた餅でしかない僕のデザインを、立体としてちゃんと変形したり合体したりするように作ってもらえる、それが面白かったですね。

── 樋口さんがアニメ業界に関わった1979年ごろから、ロボットアニメが大量につくられますよね。ほかのデザイナーに対してライバル心はありましたか?

樋口 いえ、ライバル心はあまりありませんでした。ほかの人がどんな仕事をしているのか、気にしている余裕がなかったせいもあります。大河原邦男さんも同じ時期に活躍してらして、ブームだったからアニメ雑誌も出ていましたよね。そういうものを目にすると「上手い人がいるなあ」とは思いますけど、やっぱり自分は自分(笑)。

── J9シリーズは女性にも人気が出ましたよね。樋口さんのところにファンレターが来たりしませんでしたか?

樋口 僕のところには来ませんでした。今でも思いますけど、J9シリーズの人気はロボットではなく、キャラクターでありストーリーですよね。

── アニメもオモチャも、表面だけ見ていると夢のある世界です。だけど樋口さんは政治というか、夢の裏側にある複雑な事情も見てこられたわけですよね。

樋口 見てきたけど、そのことで、ひるんだわけじゃないんです。よかったのは、クライアントと直接仕事できたこと。臆せずに、素直にやりとりできました。担当者の人柄がよかったんでしょうね。だから今でも、かつての仕事相手とは、友だちのような付き合いができているのかなあ、と思って。僕は、あまり敵をつくらないタイプなんです(笑)。

── 仕事で、ストレスが溜まらなかったわけですね?

樋口 そうかもしれません。……うーん、ストレスはゼロではなかったけれど、悪い人?とか敵には巡り会わなかったですね。だから、ずっと性善説のままです。人はみんな、いい人ばかりと思ってます。

── 個展で、樋口さんの構築しているSF世界「平和のOS」の連作を見ていると、とても伸びやかなタッチで描いてありますね。

樋口 「平和のOS」は、これからです。秋に地元で“アートラインかしわ”というイベントがあって、僕は「平和のOS」のコンセプトアート展をやると決めました。

── 「平和のOS」は、アニメ業界の方たちからの反響もあるし、一般のお客さんも展開を楽しみにしているのでは?

樋口 5月に「Hideharu Fukasaku Gallery Roppongi」でやった個展に、仕事を持っていない40代の方が見えたんです。AIガールをじっと見ているので、「この絵のAIガールは、ハローワークの女性だと思ってほしい。この子は君の話をすべて聞いてくれて、どういう仕事が向いているか、君と会社の相性を考えて選んでくれる。君が働いてみると、生きがいにもなって成果も上がり給料も上がるんだ」と説明しました。その話を聞いた彼は、目を輝かして「いいですねえ」と言って、自分の今の状況と夢を語ってくれました。そのとき「平和のOS」には人を引き込む力がある、と確信しました。
ほかにも40代の男性とは、少し政治的な話をしました。「これからの世の中は善と悪に分けられない、ヤジロベエのような考え方をしないといけない。相手を全否定しても世の中は成り立たないから、北朝鮮やアメリカなどの状況もすべてOSが判断して、それぞれが“この条件なら呑める”と納得できるようなベストな妥協案を算出してくれる。僕の描いている“平和のOS”って、そういう世界観なんですよ」という話をしました。彼は賛同してくれたけど、思ったのは絵だけ並べても、「平和のOS」の概念は伝わらない。だったらコンセプトアート展をやろうと思いました。やってみないと、わからないじゃないですか。やってみて人と話しながら、反応を見ながらでないと。

── 「平和のOS」は、人に話すたびに内容が変わるとおっしゃってましたね。

樋口 そう、話すたびに少しずつ話が広がっていきます。最初はうっすらとしたイメージでしかないけど、人に話すと輪郭がハッキリしてきて、絵が描けるようになるんです。だから、僕にとって人と話すことは、とっても大事なんです。だから、僕はおしゃべりなんです(笑)。



(取材・文/廣田恵介)

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