海を感じる快感! 「きみと、波にのれたら」「海獣の子供」【犬も歩けばアニメに当たる。第47回】

2019年06月29日 13:000

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今回は、公開中の「きみと、波にのれたら」と「海獣の子供」の2本です。

湯浅政明監督作品の「きみと、波にのれたら」、五十嵐大介のコミックのアニメ化「海獣の子供」は、どちらも「海」が舞台。気温と湿度が上がるこの時期、映画館に足を運んで、水の爽やかさを感じませんか?

公開を楽しみに待っていた筆者が、作品の魅力をご紹介します。

浮遊感はアニメの極上の快感


映画館で体感できるアニメで感じる快感のひとつは、浮遊感だ。空を飛ぶ、空に浮かぶ、空に投げ出される。ジェットコースターに乗っているような疾走感、爽快感をともなうこともある。またしばしば、身体が重力から解放されるのと同時に、登場人物の心もくびきから解き放たれ、幸福感で満たされる。浮遊シーンがクライマックスに多用されるゆえんだ。

これに近い感覚を味わうことができるのが、水だ。水に支えられ、浮力を受けることで、人は重力からつかの間自由になれる。

できれば海がいい。水平線が少し弧を描いて感じられる果てのない広がり、自然のエネルギーを感じることのできる風と波。重い塩水は、淡水よりも軽々と人の身体を支えて浮かばせてくれる。浜辺でレジャーを楽しむのもいいし、船で沖に出れば別の楽しみもある。水の下をのぞきこめば、無数の命の営みを観察することができる。

海に行きたい、しかしなかなか行けない。そんな筆者が公開を楽しみにしていたのが、6月公開の「きみと、波にのれたら」、そして「海獣の子供」だった。

どちらも、「海が好きな人」には超おすすめしたい素敵な作品だった。


サーフィンを満喫できる「きみと、波にのれたら」



「きみと、波にのれたら」は、2017年「夜は短し歩けよ乙女」「夜明け告げるルーのうた」に続く、湯浅政明監督、アニメーション制作/サイエンスSARUの劇場作品だ。

主人公の向水(むかいみず)ひな子は、サーフィンが大得意の大学生。消防士の雛罌粟港(ひなげし みなと)と恋に落ち、関係を育む。だが港は海の事故で命を落とし、ひな子は大好きな海が見られなくなるほど憔悴してしまう。ひな子が2人が好きだった曲を口ずさんだとき、水の中に港が現れ、2人は再会する。奇跡を喜ぶひな子だが、果たして2人の想いの行方は……?

「夜明け告げるルーのうた」では、水が長方体のかたちに伸び上がり、ところてんのようにゆらゆらするような変幻自在の水表現が楽しかったが、同様のファンタジックな表現は今作でもたっぷり楽しめる。

しかし、今回の水の一番の見どころは、タイトルにもあるとおり、リアルな海でも見ることのできる「波」であり、「波のり」=「サーフィン」だ。ひな子がしなやかに身体を使って自由自在に波にのる様子を、あらゆる角度から、そしてひな子の視点からも堪能できる。

見終わったら、「自分もサーフィンがしたい!」と思うだろう。むしろ、もうできるような気分になっているかも!?

「波にのる」とは、空と海の接する境界線、人間が生きられる空気のある水上と、生きていけない死の世界である水中が接するところで、風と波という自然のエネルギーを受けながし、勢いをつかみ、自分が進む力に変えるということだ。

海の事故で命を落とした港は、水中にしか現れることができない。水に入ったひな子とたわむれることはできても、触れあうことができない。水は2人の絆と奇跡の象徴であり、同時に2人を分かつ壁なのだ。

結構重いこのテーマを、今作は少女マンガに近い絵柄で爽やかに、甘酸っぱく、そして切なく描く。

設定もテーマも極めて直球の、ファンタジックでありつつ等身大のラブストーリー。このストレートさは昨今、ほかのアニメでもドラマでもちょっとないのでは?……と思える。


「リア充」注意! 甘くてくすぐったくて切なく愛しい


この作品にはひとつのモンダイ点がある。「大切な人と見よう」と公式からも呼びかけられているが、うっかり“ぼっち”で見にいくと、甘酸っぱさに耐えかねて、「リア充爆発しろ!」的な気分になるかもしれない。

港とひな子がつきあって関係を深めていく仲良し幸せなシーンが、たっぷりとていねいに描かれ、見ていて途中で「これ、なんの映画だったっけ?」となる。公式パンフレットで、キャストもスタッフも「照れ臭い」「見せつけてくれる(笑)」とコメントしているのには少々笑った。

別の見方をすれば、リア充でない人も、人を愛して失う人生を体験できるといえるかもしれない。出会って、関係を深めて、愛して、幸せを感じて。そうして失うことの悲しみと絶望。

「人を助けられる人になりたい」ということが、この作品のもうひとつのテーマにもなっている。誠実に生きて、大切な人を得て、等身大のヒーローになるというのがどういうことかを、4人の登場人物を通して感じることができる。



海に生きる命を体感できる「海獣の子供」



「海獣の子供」は、五十嵐大介のコミックの映画化。「鉄コン筋クリート」(2006年)のSTUDIO4℃が制作している。

海辺の町で暮らす中学生の琉花(るか)は、父親が働く水族館で、明るく純真な海(うみ)と名乗る少年と出会う。海と、もうひとりの少年の空(そら)は、「ジュゴンに育てられた子ども」で、海中で自在に動き回り、水がなければ生きていけないのだという。琉花は海と空とともに、光り輝く彗星、クジラたちの「ソング」と言った不思議な世界に触れていく。やがて海の「祭り」に向けて、ありとあらゆる海の生命が動き出す……。

筆者は、原作未見で映画で初めてこの作品に触れたが、始まりから最後までを楽しみ、原作をぜひ読んでみたいと思った。すべてを理解できたとはいえないけれど、圧倒的で美しく生命に満ちた映像を身体いっぱいに受け止めて、心地よい満足感を感じた。

海と空は、海洋哺乳類と同等の身体能力を持っていて、海中で2人が泳ぐシーンはスピード感と爽快感に満ちている。この作品では、水の中にこそ生命が生きる世界がある。地上の世界で生きづらさを感じていた琉花は、海の中で、最初こそぎごちないが、やがて生き生きとした心身を取り戻す。

見ていると、自分自身がイルカになって海中で生きているような感覚が味わえる。水族館で巨大水槽を見るのが好きな人、クジラ、イルカ、アザラシなどの海洋哺乳類が好きな人、ダイビングやシュノーケリングがやってみたい人、ネイチャー好きの人には、特に強くおすすめしたい。


宇宙からミクロまで、生命の不思議に圧倒される


まつげの1本1本が見えるほど細かく描きこまれたキャラクター、人物と同等かそれ以上に語りかけてくる存在感の背景。画面の密度は非常に濃く、同時に光にあふれて美しい。

クジラなどの巨大生物から、小さな虫にいたるまでが丹念に描写され、全編を自然への畏怖、生命の賛歌が貫いている。イマジネーションが刺激される。

地球上の生命は海で生まれ、進化して地上に進出した。人の胎児が羊水の中で育つのは、その進化の流れをたどっているのに似ているともいう。

また、その生命の種はそもそも、宇宙から飛来した隕石の中に含まれてきた有機物だったという説もある。

壮大な宇宙から、受精と細胞分裂といったミクロの世界までのイメージが、現代の日本の琉花というひとりの少女の体験につまっている。原作の力だと思うが、それを1本の映画として映像化しまとめあげたスタッフも見事だ。

「鉄コン筋クリート」などの木村真二美術監督による美術、「かぐや姫の物語」以来6年ぶりのアニメーション映画となる久石譲の音楽が、世界観の柱となり、見応えがあった。



スクリーンいっぱいの「海」で涼を感じよう


生きていく力を感じられる「きみが、波にのれたら」。
圧倒的な生命のイマジネーション「海獣の子供」。

リアル海に行きたい夏が目前だが、映画館で感じる海も心地いい。ぜひ大きいスクリーンで体感してほしい。


(文・やまゆー)

(C) 2019「きみと、波にのれたら」製作委員会
(C) 2019 五十嵐大介・小学館/『海獣の子供』製作委員会

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(C) 2006松本大洋/小学館、アニプレックス、アスミック・エース、Beyond C、電通、TOKYO MIX

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