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「自分が一番」と思っていれば、趣味の世界は平和
山田 司馬遼太郎さんは、資料を読みこんで読みこんで、そこから立ちのぼる蒸気みたいものを小説にするんだと聞いたことがあります。なるほどな、と思いました。司馬さんの小説を読むと「空が青々として、風が吹いて……」とか書いてあるけど、まさか過去の出来事を自分の目で見てきたわけではないですよね。だけど、読んでいると大変な説得力がある。調べつくして考察したうえで、ああだったのかな、こうだったのかな……と、思いをめぐらせることのできるジオラマ作品をつくりたい。
ただね、僕は戦車や飛行機の現物には興味がなくて、手の中の模型が好きなんです。
── プラモデルという製品が好き、ということですか? 山田 僕がジオラマを作ろうと思った動機のひとつは、オーロラの古いキットなんです。
── オーロラ社の、クラシカルなモンスターシリーズですね? 山田 そう、トカゲとかコウモリとか、グロいものがいっぱい、わざわざプラスチックのパーツになっていて……。クモの巣なんかがていねいに成型してあるところがバカっぽいんだけど、キット自体がひとつのジオラマになっていて、製品としてすごく楽しい。オーロラは、僕の原点のひとつです。
── すると、オーロラのモンスターシリーズから人形改造コンテストへ移行したのですか? 山田 それが、僕は田舎育ちだったので、オーロラのプラモデルを実際に買ってもらえたわけじゃないんです。小学校時代、雑誌の広告でオーロラの存在を知って、「ケネディ大統領までプラモデルになってるのか~」と憧れていて、そのあとでミリタリーブームが起きたんです。だから、人形改造へいたるまでにミリタリーモデルというワンクッションが入ったわけだけど、ベースは飽くまでもオーロラのキットなんです。
── オーロラのほかに、好きなメーカーはありますか? 山田 イマイですね。50円のマスコットシリーズから「サンダーバード」まで……。僕はひとりっ子だったので、親にねだれば何でも買ってもらえたとは思います。だけど、「秘密基地」や「ゼロX号」のような大型アイテムは我慢しました。家庭に対して、変な遠慮があったんです。あとは、レベルのサターンVロケットに憧れていました。当時、6,600円だったのを覚えています。ずっと幻のプラモデルでしたが、最近、手に入れました。サターンVは、僕にとっての玉手箱です。中にはプラペーパーが入っていて、それを巻いて円筒部分を作るんだとか、すごい噂がある(笑)。開けると夢が壊れるので、ずっと開けないで置いてあります。
── 山田さんはTVチャンピオンで何度かグランプリに輝きましたが、他人より模型をうまくなるコツって何でしょう? 山田 TVチャンピオンに出たのは興味本位であって、チャンピオンになりたかったわけじゃないんです。渡辺誠君が誘ってくれたのと、スタッフが乗せるのがうまいんですよ。「チャンピオンになるぞ」と仕向けてくるんです。だから、「優勝していかがですか?」なんて聞かれても話すことなんかないわけです。そもそも、模型の世界って、あまり人と競うものではありませんよね。他人に勝とうなんて思うから、ややこしいことになる。みんな、自分が一番だと思っているのが平和なんじゃないかって気がします。僕は他人より秀でているなんて自覚はないけど、キットの紹介については、プロとしてしっかりやらなくちゃいけない。キットのよい部分を誉めるにしても、タミヤニュースに書いてあるようなことではなく、長いこと自分の手でプラモデルに接してきた視点から誉めてあげたいんです。普通にプラモデルを好きな一般人の視点だけは、忘れたくないと思っています。
(取材・文/廣田恵介)