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気をつけたポイントは“スタイルよくナチュラルな服の着こなし”
── 「きみと、波にのれたら」のキャラクターデザインについて、湯浅政明監督からは、どんなオーダーがあったのですか? 小島 打ち合わせの段階では「ある程度、少女マンガ寄りの絵を描いてほしい」と言われました。湯浅監督はいろいろな人たち、特に、一般の女子高生や女子大生が喜んでくれる作品にしたいと話していました。湯浅監督の固定ファンは多くいますが、よりお客さんの幅を広げるためには、固定ファンに向けて作品をつくるだけではいけない……と、考えたんじゃないでしょうか。それは僕の勝手な推測ですけど、ターゲットを決めこんだ作品ではないので、僕としても新しいことにトライできました。
── その新しいこととは、キャラクターの造形についてですか? 小島 あと、作風ですね。女の子らしい“キャッキャウフフ”といった、いかにもアニメっぽい演技づけを避けるようなところが、湯浅監督の過去作からうかがえます。ですから、記号的でオーバーな芝居は避けました。僕の場合、しっかり意識していないと、これまでの手癖だけで芝居を描いてしまいがちな気がします。そうしたありがちな芝居を抑制して、いい意味で引っかかりのない、万人が見られるアニメーションにしたつもりです。
── キャラデにあたって、少女マンガを参考にしたりはしましたか? 小島 漫画よりも、最近の俳優さん・女優さんを積極的に見るようにしました。湯浅さんが細かく言っていたのは、服の着こなし方です。一般の女性客が見て「ダサい」と思わないような、ナチュラルな着こなし。それを最初に指示されたので、現実に生きている女優さんたちを参考にしました。
── 影やハイライトは、ほとんど塗られていないんですよね。 小島 湯浅監督の作品は、影なしハイライトなしがほとんどなんです。それだと今までのテイストと変わらない気がしたので、ハイライトだけ入れさせてもらいました。あと「きみ波」は、湯浅監督の作品の中ではしっかりと撮影効果が入っているので、ベタ塗りな印象はないはずです。
── 太陽光のフレアや波のキラキラした反射など、撮影効果は細かく使われていますね。 小島 そうですね。これまでの湯浅作品とは違う新しいものをつくろう、という意気込みを感じました。ある意味、攻めた作品になっているんじゃないでしょうか。
── それは撮影処理やエフェクトの面で? 小島 そう、特に水ですね。水の動きは、湯浅監督みずから原画に修正を入れていましたから、執着のあるモチーフなんでしょう。テンプレートな表現の水にならないように、キャラクターが腕を振って落ちる水なども、すべて落ちたところに波紋を描いていたりします。TVアニメでは、多分そこまでやりません。
── 制作会社のサイエンスSARUは、Flashアニメを使っていますよね。やはり手描き作画とは違うのでしょうか? 小島 作業自体は手描きとそれほど変わりませんが、精度が高まるのは確かです。たとえば、作画でキャラに寄っていくとか、あるいは顔のアップからどんどん引いていく場合、手描きだとどうしてもゆがんでしまいます。だけど、Flashを使うと滑らかに動くので、長回しのトラックアップやトラックバックには非常に向いています。また、じわっとした動き、ロング時の動きなどが崩れないところも利点です。
── 湯浅監督はアニメーター出身なので、本当はすべて自分で原画を描いてしまいたいのでは? 小島 僕はあまりそういう印象は抱いていないのですが、絵を描くのが本当に好きな方ですね。ご本人は「きみ波」より、「カイバ」(2008年)のように、もっとデフォルメされた絵が得意なのだと思います。今回は従来の湯浅作品とは路線が違うので、それで僕がキャラデと作監に選ばれたのかも知れません。「きみ波」には上手なアニメーターさんが多数参加されていますが、湯浅監督はもう1枚上手というか、どんなにラフでも、とても自然な絵を描きます。
── 線は少ないけど、リアルな絵という感じですか? 小島 ただ座っている絵でも、ちょっと体を崩して、ナチュラルな雰囲気を出すんです。ひょっとしたら、今でもクロッキーをしているんじゃないかと思うぐらい自然な絵なんです。そこは見習わないといけませんね。